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2026.09.01手続と期限

年5日の有給休暇、なぜ取りきれないのか。会社の義務と2年の時効

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、使用者が年5日を時季指定して取得させる義務があります(労働基準法第39条第7項、2019年4月施行)。取得させないと30万円以下の罰金(第120条)。ただ、全社員への年5日徹底は意外に難しく、取得権は2年で時効消滅します(第115条)。

結論(先に要点):年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、使用者が毎年5日を時季指定して取得させる義務があります(労働基準法第39条第7項、2019年4月施行)。取得させないと30万円以下の罰金(同法第120条)の対象です。ただ、実務では「全社員に年5日を徹底するのは意外に難しい」というのが本音です。背景には「いざという時に使いたいから、早い段階で消化するのが不安」という労働者の心理があります。そして、年次有給休暇の取得権は2年で時効消滅します(同法第115条)。権利を失わせないためにも、会社側の仕組みと、双方の意識の改革が必要です。この記事では、義務の中身と、取りきれない理由、会社ができることを整理します。

「有給はあるのに、なかなか取ってくれない」「気づいたら未消化がたまっている」——そういうご相談を多くいただきます。このページは、中小企業の経営者・総務担当の方に向けて、年5日取得義務の正確な中身、なぜ徹底が難しいのか、時効で失われるもの、そして会社として何を整えればよいかを整理します。個別の労使トラブルへの判断はこの記事の範囲外です。

年5日の取得義務とは、誰に・いつから・何が義務なのか?

年次有給休暇は、雇入れから6か月継続勤務し、その間の出勤率が8割以上の労働者に、原則として10日が付与されます(労働基準法第39条第1項)。以後、勤続年数に応じて増え、最大20日になります。

このうち、年10日以上付与される労働者については、使用者が毎年5日について時季を指定して取得させることが義務です(労働基準法第39条第7項)。労働者が自ら請求して取得した分はこの5日に数えられますが、取得が5日に届かない分は、会社が時季を指定してでも取得させる必要があります。

義務化は2019年4月1日からです。取得させなかった場合は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金の対象になります。「本人が休まないから」という理由では免れません。

なぜ「年5日の徹底」は意外に難しいのか?

制度上はシンプルでも、現場では全社員に年5日を徹底するのが意外に難しいというのが実情です。多くの職場で、人事担当が取得状況を全体と、該当する個人の両方に常に通知しているのは、その難しさの裏返しです。

背景にあるのは、労働者の心理です。有給は「いざという時に使いたい」もの。病気や家族の用事、突発的な事情に備えて温存したいという思いがあり、早い段階で消化してしまうと、万一の時に使えなくなるのではという不安がある、といわれています。

ところが、この「温存」がかえって権利を危うくします。年次有給休暇の取得権は2年で時効消滅するからです。ため込んだ有給は、いざという時を迎える前に、権利そのものが失われることがあります。ここに、「有給はためておくもの」から「使うことで権利を失わないもの」への意識の改革が必要になります。

放置すると、何が失われるのか?

年次有給休暇の請求権は、付与された日から2年で時効により消滅します(労働基準法第115条)。翌年度に繰り越せるとはいっても、繰り越した分も含めて2年の期限は動きません。未消化のまま2年を経過した有給は、もはや取得できなくなります

ここで「では、使わなかった有給を会社が買い取ればよいのでは」という話が出ますが、法定の年次有給休暇を金銭で買い上げることは原則として認められません。年休の趣旨は「休んで心身を回復すること」にあり、買取りを認めると取得を促す趣旨に反するからです。例外的に、時効で消滅した分や退職時の未消化分については、一定の範囲で買取りが差し支えないとされています。

つまり、未消化の有給は「休めないまま消える」のが基本です。だからこそ、消える前に取得できる仕組みが要ります。

会社は、どうやって「意識の改革」を仕組みにするのか?

「取ってください」と呼びかけるだけでは、温存の心理は変わりません。取得しやすい環境を、仕組みとして作ることが必要です。

やること中身
取得状況の見える化誰が何日残っているかを、全体・個人別に定期的に把握し、通知する
計画年休労使協定で計画的に取得日を割り振る(年5日のうち時季指定分を計画的に消化する方法)
時季指定の運用取得が少ない人には、会社が時季を指定して取得を促す
取得しやすい空気づくり「休んでも業務が回る」体制(引継ぎ、担当の分散)を整え、心理的なハードルを下げる

重要なのは、通知や時季指定を**「催促」ではなく「権利を守る仕組み」**として伝えることです。有給は2年で消えること、そのためには早めに計画的に取得するほうが本人のためであることを、継続的に説明する——これが意識の改革の入口になります。

誰に、何を頼むのか?

すること誰の業務か
就業規則・年次有給休暇規程の整備、計画年休の労使協定の締結、取得状況の管理・通知の仕組みづくり社会保険労務士(当事務所)
年休をめぐる紛争、未取得分の請求、解雇・退職に絡む争い弁護士
年休取得に伴う給与計算、源泉徴収・年末調整社会保険労務士(当事務所)/税理士

年次有給休暇の管理・計画年休・就業規則の整備は、社会保険労務士の業務です。当事務所は、「義務を守る」だけでなく「取得しやすい職場」までを、仕組みとして整えるお手伝いをします。すでに紛争になっている事案は弁護士の領域です。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、年次有給休暇規程・就業規則の整備、計画年休の労使協定、取得状況の管理表づくりと通知の仕組み、取得しやすい業務分担の整理をお受けします。ご相談は無料です。 費用は報酬額表をご覧ください。

なお、未取得分の請求や紛争がすでに起きている場合は、弁護士へ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。

よくある質問

Q. 年5日を取らせなかったら、すぐに罰則になりますか?
A. 取得させない場合は労働基準法第120条により30万円以下の罰金の対象になります。実務では監督署の指導を経ることが多いですが、義務違反の状態を放置してよいわけではありません。まず取得状況を把握し、時季指定を含めて是正することが必要です。

Q. 使わなかった有給を、会社が買い取ることはできますか?
A. 原則としてできません。法定の年次有給休暇を金銭で買い上げることは、取得を促す制度の趣旨に反します。例外的に、時効で消滅した分や退職時の未消化分は、一定の範囲で買取りが差し支えないとされています。就業規則等で整理したうえで進めてください。

Q. 年次有給休暇の時効は何年ですか?
A. 2年です(労働基準法第115条)。付与された日から2年を経過した分は時効で消滅し、以後は取得できなくなります。繰り越した分も含めて、2年の期限で管理する必要があります。

Q. 従業員が「有給を取らなくていい」と言っても、時季指定は必要ですか?
A. 年5日の取得義務は使用者側の義務です。本人が取得を希望しない場合でも、取得が5日に届かない分は会社が時季を指定して取得させる必要があります。計画年休の枠組みで計画的に進めるのが現実的です。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第39条第1項・第7項(年次有給休暇および年5日の時季指定義務)、第120条(30万円以下の罰金)、第115条(請求権の時効2年)
  • 年5日取得義務の施行は2019年4月1日(改正労働基準法。厚生労働省・都道府県労働局の公表資料により確認)
  • 年次有給休暇の買上げは、法定年休については取得促進の趣旨に反し原則不可、時効消滅分・退職時の未消化分は一定の範囲で可とする行政解釈による一般論です
  • 条文番号・時効期間・罰則は、厚生労働省・都道府県労働局等の公表資料により確認しています(2026年8月時点)

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。年次有給休暇規程・就業規則の整備、計画年休の労使協定、取得状況の管理・通知の仕組みづくりは社会保険労務士の業務です。未取得分の請求や年休をめぐる紛争は弁護士の業務です。年休取得に伴う給与計算・源泉徴収・年末調整は、給与計算は社会保険労務士、税務は税理士の業務です。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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