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2026.09.01労働保険

社長には労災が出ない。そして1人だと特別加入もできない

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

役員は労災保険の給付を受けられません。中小事業主等の特別加入という制度がありますが、労働者を1人も雇っていない会社は加入できません。労働者について労災保険の保険関係が成立していることが条件だからです。業種別の規模要件と、加入までの順序をまとめました。

結論(先に要点):役員は労災保険の給付を受けられません。中小事業主等の特別加入という制度がありますが、労働者を1人も雇っていない会社は加入できません。労働者について労災保険の保険関係が成立していることが、加入の条件だからです。

現場に出る社長ほど、この話を知らないままでいることがあります。従業員のけがには労災が出るのに、同じ現場で同じ作業をしていた社長本人には出ない。しかも、備えようとして調べると「1人だから入れない」という答えに行き当たります。順を追って整理します。

社長が仕事中にけがをしたら、労災は出るのか?

出ません。労災保険は労働者のための制度で、労働者災害補償保険法は「労働者を使用する事業を適用事業とする」と定めています(同法第3条第1項)。会社の代表者は、その会社に使用される労働者ではないため、保険給付の対象から外れます。

現場で従業員と並んで同じ作業をしていても、この結論は変わりません。実務で厳しいのはここで、危険の度合いは同じなのに、補償の有無だけが立場で分かれます。

なお、健康保険は使えます。ただし業務上のけがや病気は、原則として健康保険の給付の対象になりません。労災でも健保でもない、という状態が起こりうる、というのがこの話の核心です。

特別加入とは、何ができる制度なのか?

この隙間を埋めるために置かれているのが特別加入です。労働者ではない人を、申請と政府の承認によって「労働者とみなす」しくみで、労働者災害補償保険法第33条以下に定めがあります。

対象は立場ごとに分かれています。会社の代表者が使うのは、原則として中小事業主等の枠です。

誰が根拠
中小事業主等規模要件を満たす事業の事業主(法人なら代表者)労災保険法第33条第1号
同上その事業主が行う事業に従事する者(役員・家族従事者など。労働者である者を除く)同第33条第2号
一人親方等省令で定める種類の事業を、労働者を使用しないで行うことを常態とする者同第33条第3号
海外派遣者国内の事業主が海外の事業に従事させるため派遣する者同第33条第7号

「中小」の線引きは、業種によって違います。

主たる事業常時使用する労働者数
金融業・保険業、不動産業、小売業50人以下
卸売業、サービス業100人以下
上記以外300人以下

(労働者災害補償保険法施行規則第46条の16)

数え方には行政の運用があります。工場や支店がいくつかあるときはそれぞれの労働者数を合計して企業単位で見ること、業種の区分は原則として日本標準産業分類によること、そして通年で雇っていない場合も1年間に100日以上労働者を使用していれば「常時使用している」として扱われること。いずれも厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」に示されています。

従業員がいない会社は、なぜ入れないのか?

条文が2つの要件でできているためです。

要件根拠
その事業について労災保険の保険関係が成立していること労災保険法第34条第1項(「当該事業について成立する保険関係に基づき」)
労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していること労災保険法第33条第1号

①でつまずきます。労災保険の保険関係は、労働者を使用する事業の事業主について、その事業が開始された日に成立します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第3条)。労働者が1人もいなければ適用事業に当たらず、成立する保険関係そのものがありません。特別加入は、成立している保険関係に乗る制度なので、乗る土台がない状態では申請できないわけです。

同じ理由から、あとで労働者がいなくなれば、特別加入者としての地位も消えます。 厚生労働省のしおりも「この保険関係が消滅したときは、その消滅の日に特別加入者としての地位も消滅します」と明記しています。②の委託を解除したときも同様です。

つまり、最初の1人を雇った日が、社長自身が守られる最初の日になります。

ただし、すべての1人社長が入れないわけではありません。 建設業など省令で定められた種類の事業を、労働者を使用しないで行うことを常態としている場合は、一人親方等(第33条第3号)として加入できる場合があります。厚生労働省のしおりも、1年間に労働者を使用する日数が100日未満で中小事業主等として加入できない場合について、一人親方等の要件を満たせばそちらで加入できると案内しています。ご自身の事業がどの枠に当たるかは、業種と働き方の両方を見ないと決まりません。

入るには、何から手をつけるのか?

労働者を雇っている(または雇う予定がある)場合、順番は次のようになります。

  1. 労働者について労働保険の保険関係を成立させる(保険関係成立届の提出)
  2. 労働保険事務組合を選び、労働保険事務の処理を委託する
  3. 事務組合を通じて特別加入の申請を行い、政府の承認を受ける

2の事務組合は、商工会・商工会議所・事業協同組合などが厚生労働大臣の認可を受けて運営しています。特別加入は事務組合への委託が要件になっているため、委託しないという選択肢がありません。 委託料が別途かかることも、先に見込んでおいてください。

会社をつくったばかりで、労働保険の手続がまだの場合は会社をつくったら、いつまでに何を出すのかに期限をまとめています。従業員を海外に出す場合は労災の扱いが変わるので、海外出張と海外派遣は、労災でまったく違うをご覧ください。

よくある質問

Q. 役員が2人いて、どちらも現場に出ています。両方入れますか?
A. 中小事業主等の特別加入では、事業主(法人なら代表者)に加えて「その事業主が行う事業に従事する者」も対象とされています(労働者災害補償保険法第33条第2号)。代表者以外の役員も、この枠で申請の対象になりえます。ただし承認は申請ごとの判断になりますので、実際の従事状況を整理したうえでの手続になります。

Q. 従業員はアルバイト1人だけです。それでも保険関係は成立しますか?
A. 労働者を使用していれば、労働時間や雇用形態にかかわらず労災保険の適用事業になります。アルバイトでも保険関係は成立します。なお労災保険は、雇用保険と違って週20時間未満でも適用されます。この点は混同されやすいところです。

Q. 給付の額はどう決まりますか?
A. 特別加入者には実際の賃金がないため、あらかじめ申請して承認された給付基礎日額をもとに給付額が決まります(労働者災害補償保険法第34条第1項第3号)。日額をいくらに設定するかで保険料も給付額も変わるため、加入時に決める必要があります。

Q. 加入していれば、どんなけがでも給付されますか?
A. いいえ。特別加入者の場合、業務として承認された範囲の作業に伴うものが対象です。事業主としての経営の仕事や、私的な行為の最中の事故は対象になりません。この範囲の線引きは加入時に確認しておくべきところで、加入だけして中身を確認しないままにすると、いざというときに食い違いが出ます。ご相談は報酬額表の料金でお受けしています。

この記事の根拠

  • 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第3条第1項、第33条第1号・第2号・第3号・第7号、第34条第1項、第36条第1項
  • 労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)第46条の16、第46条の17、第46条の19
  • 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第3条、第33条第1項
  • 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)第62条第2項
  • 厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」(常時使用する労働者数の数え方、100日基準、保険関係消滅時の取扱い)
  • 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です。規則第46条の16の規模要件(50人・100人・300人)は、e-Govで遡れる2017年4月1日施行版以降、変更されていないことを確認しました
  • 業種区分の日本標準産業分類による運用および企業単位での合算は、厚生労働省・都道府県労働局の公表資料により確認しています。これらを定めた通達の原文は確認していません(未検証

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 特別加入の可否の見立て、労働保険の成立手続、事務組合への委託の段取りは社会保険労務士の業務です。役員の報酬や退職金の税務の扱いは税理士、役員変更の登記は司法書士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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