内定を出したあと、取り消せるのか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
内定は単なる約束ではなく、最高裁判例上、始期付き・解約権留保付きの労働契約が成立したと扱われる場合があります。取消しは内定当時知り得なかった事実で、客観的に合理的・社会通念上相当なものに限られます。争いを避けるための内定通知書の設計まで整理します。
結論(先に要点):内定は、単なる約束ではありません。最高裁の判例上、採用内定の通知により始期付き・解約権留保付きの労働契約が成立したと認められる場合があり、その場合の取消しは解雇に近い制約を受けます。取り消せるのは、内定当時知ることができなかった事実で、客観的に合理的・社会通念上相当と認められるものに限られます。
このページは、内定を出したあとに事情が変わった会社の経営者・人事担当の方に向けたものです。内定取消しは判例法理の領域で、個別の可否は事情によって判断が分かれます。本記事は一般的な取り扱いと、考慮される要素の整理にとどめ、可否の断定はしません。紛争性が生じた事案は弁護士の業務です。
内定は、いつから契約になるのか?
最高裁は、大日本印刷事件(最高裁第二小法廷昭和54年7月20日判決・民集33巻5号582頁)で、採用内定通知と誓約書の提出という経過のもとで、就労の始期を付し、内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと認めました。
大事なのは、「内定=常に契約成立」ではなく、募集から内定までの経過——通知の文面、誓約書の有無、他社への就職活動をやめさせたか——によって判断されるという点です。とはいえ新卒採用の典型的な流れは、この判例の事案とよく似ています。「まだ入社前だから自由に取り消せる」という前提は、判例上成り立たない——ここが出発点です。
どんなときなら、取り消せるのか?
同判決は、取消しが許される事由をこう限定しています。
採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる
一般に考慮される要素としては、卒業できなかった・所定の資格を取得できなかったなど内定書面に明記された事由に当たるか、その事実が内定時に分かり得たものか、取消し以外の手段(入社日の繰下げ等)を尽くしたか、説明と手続が誠実か——が挙げられます。逆に、内定時に既に分かっていた事情や、抽象的な印象を後から理由にすることは、この基準に照らして厳しく見られます。個別の可否はここでは判断しません。 迷う状況は、動く前にご相談ください。
在留資格が下りなかったときは、どうなるのか?
外国人の内定では、在留資格の変更・取得が許可されないという、日本人の採用にはない事情が加わります。許可がなければそもそも就労させられない(不法就労助長罪の側からも塞がれている)ため、内定書面に**「在留資格の変更等の許可を入社の条件とする」旨と、許可が遅れた場合の入社日繰下げの手続**を定めておくのが実務です。
定めがあれば、条件と手続に沿って処理できます。定めがないまま不許可が確定した場合の扱いは、個別の事情によって判断が分かれる領域に入ります。予防のすべては、内定書面に書いてあるかどうかに懸かっています。
内定通知書には、何を書いておくのか?
争いを避ける設計は、事前の書面整備です。ここは社会保険労務士の仕事です。
| 書いておくこと | 中身 |
|---|---|
| 入社日 | 日付と、繰下げの手続(誰が・いつまでに・どう合意するか) |
| 取消事由の明示 | 卒業できなかった場合、所定の免許・資格を取得できなかった場合、提出書類に重大な虚偽があった場合、健康状態により就労が著しく困難になった場合 など、具体的に列挙 |
| (外国人の場合)在留資格の条件 | 変更・取得の許可を入社の条件とする旨、不許可・遅延時の取り扱い |
| 提出書類と期限 | 誓約書・卒業証明書・(外国人は)在留カードの提示 |
| 労働条件 | 求人票の明示と食い違いのない労働条件通知書を内定時に交付 |
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、募集・採用の労務サポートとして、内定通知書・誓約書・労働条件通知書の整備と、入社日繰下げなど手続の設計をお受けします。料金は報酬額表の「募集・採用コンサルタント」(一式・お見積り)です。ご相談は無料です。 すでに具体的な取消しを検討している状況では、後述のとおり弁護士への相談を先にご案内することがあります。
誰に相談するか
すでに紛争になっている・なりそうな内定取消しの可否判断は、弁護士の業務です(当事務所から直接ご依頼いただく形をご案内し、紹介料の授受はありません)。在留資格の申請は四葉行政書士事務所(当事務所とは別の事業体で、別々にご契約いただきます)、給与課税は税理士の業務です。当事務所が担うのは、争いを生まないための事前の書面と手続の整備です。
よくある質問
Q. 入社前なら、理由を問わず取り消せるのではないですか?
A. その前提は判例上成り立ちません。採用内定の通知により始期付き・解約権留保付きの労働契約が成立したと認められる場合があり(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)、取消しは内定当時知り得なかった事実で、客観的に合理的・社会通念上相当なものに限られます。
Q. 業績が悪化しました。内定を取り消せますか?
A. 可否はここでは判断できません。経営上の理由による取消しは、整理解雇に準じた厳しい目で見られるのが一般的な理解で、取消し以外の手段の検討や説明の誠実さも問われます。動く前に、紛争性を見据えて弁護士にご相談ください。
Q. 内定者が卒業できませんでした。
A. 卒業を入社の条件とし、取消事由として内定書面に明記してあるのが典型的な設計で、この場合は書面の定めに沿って処理します。書面に定めがない場合は個別の判断になります。まず内定通知書の記載をご確認ください。
Q. 内定通知書のひな形だけ整備してもらえますか?
A. お受けできます。取消事由の列挙、入社日と繰下げ手続、外国人の場合の在留資格の条件まで含めて、会社の実態に合わせて整備します。ご相談は無料です。
この記事の根拠
- 大日本印刷事件・最高裁第二小法廷昭和54年7月20日判決(民集33巻5号582頁)――採用内定により始期付解約権留保付労働契約の成立を認め、取消事由を「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」に限定(判示の引用は公刊物・複数の公開解説により2026年8月14日に確認)
- 内定の法的性質・取消しの可否は、募集から内定までの経過と個別の事情によって判断が分かれます。本記事は一般的な取り扱いの紹介であり、個別事案の可否判断を示すものではありません
本記事は一般的な情報提供です。紛争性が生じた・生じそうな事案の判断は弁護士の業務です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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