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2026.09.01労働法の基本

就業規則は何人から義務か。義務でないものは何か

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

就業規則の作成と届出が義務になるのは常時10人以上からです。ただしハラスメント防止の措置と育児・介護休業法上の措置は人数に関係なく義務で、労働条件の明示も1人目から必要です。令和8年10月からはカスタマーハラスメントへの対応も義務になります。

結論(先に要点):就業規則の作成と届出が義務になるのは常時10人以上からです。ただし、ハラスメント防止の措置育児・介護休業法上の措置は、人数に関係なく義務です。労働条件の明示も、1人目から必要です。「10人未満だから何も要らない」ではありません。

「うちはまだ5人なので、就業規則は要りませんよね」というご質問をよくいただきます。就業規則については、そのとおりです。 ただし就業規則が要らないことと、何も要らないことは違います。人数と無関係に効いてくる義務が、いくつもあります。

就業規則は、何人から義務になるのか?

労働基準法第89条が「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定めています。変更したときも同じです。

数え方には注意点があります。「常時10人以上」は事業場ごとです。 会社全体で15人でも、本社8人・支店7人なら、どちらの事業場も10人未満になります。逆に本社12人・支店3人なら、本社だけが義務の対象です。

パート・アルバイトも数に入ります。 雇用形態を問わず、常態として使用している労働者の数です。日雇いや臨時のように、常態といえない人は除きます。

届出の期限は「◯日以内」ではありません。 労働基準法施行規則第49条第1項は「常時十人以上の労働者を使用するに至つた場合においては、遅滞なく」、所轄労働基準監督署長に届け出るとしています。10人目を採用した時点で、猶予日数はありません。

記載する事項は、必ず書かなければならないもの(絶対的必要記載事項)と、制度を設けるなら書かなければならないもの(相対的必要記載事項)に分かれます。

中身
必ず書く①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換 ②賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期、昇給 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む
定めるなら書く退職手当/臨時の賃金等・最低賃金額/食費・作業用品等の負担/安全衛生/職業訓練/災害補償・業務外の傷病扶助/表彰・制裁/その他全労働者に適用される定め

③の「解雇の事由を含む」は、実務で抜けやすいところです。

10人未満なら、本当に何も要らないのか?

要ります。人数と無関係な義務を並べると次のようになります。

何が何人から根拠
労働条件の明示1人目から労働基準法第15条、同施行規則第5条
ハラスメント防止措置(パワーハラスメント)人数を問わず労働施策総合推進法第30条の2第1項。中小企業は令和4年4月1日から義務
相談等を理由とする不利益取扱いの禁止人数を問わず(令和2年6月1日から)同条第2項
育児休業・介護休業等に関する措置人数を問わず育児・介護休業法(第22条の2を除く)
育児休業等に関するハラスメント防止措置人数を問わず育児・介護休業法第25条
36協定(時間外・休日労働をさせるなら)人数を問わず労働基準法第36条
就業規則の作成・届出常時10人以上労働基準法第89条
育児休業取得状況の公表常時300人超育児・介護休業法第22条の2

育児・介護休業法で規模要件が付いているのは第22条の2(取得状況の公表)だけです。 育児休業・介護休業の申出への対応、子の看護等休暇、介護休暇、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限、3歳未満の短時間勤務、妊娠・出産等の申出があった場合の個別周知と意向確認、雇用環境の整備——これらはすべて、従業員1人の会社でも義務です。

ハラスメント防止措置についても、誤解が2つあります。

1つめ。中小企業の義務化は令和4年4月1日からで、すでに4年以上前です。「中小企業は努力義務」という説明が残っていることがありますが、現在は義務です。

2つめ。努力義務にとどめられていたのは第30条の2の第1項だけでした。第2項(相談したことを理由に不利益な取扱いをしてはならない)は、中小企業も令和2年6月1日から適用されています。

そして36協定。時間外労働または休日労働をさせるには、労働者の過半数代表者等との書面による協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります(労働基準法第36条第1項)。届け出ずに残業をさせている状態は、人数にかかわらず違法です。限度時間は原則として1か月45時間・1年360時間(同条第4項)です。

令和8年10月から、何が増えるのか?

カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)への対応が義務になります。

令和7年法律第63号による労働施策総合推進法等の改正で、令和8年10月1日から、事業主に次の措置が義務づけられます。

  • カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)による就業環境の害を防止するための雇用管理上の措置
  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置

これも規模を問いません。 そして、この記事が公開される2026年9月1日の翌月からです。

パワーハラスメントの防止措置と同じく、相談窓口の設置、方針の明確化と周知、事後の対応といった内容が求められます。すでにパワハラの体制がある会社は、その枠を広げる形で対応できます。 逆に、パワハラの措置自体が未整備の会社は、10月までに2つ分をまとめて整えることになります。

何から手をつければいいのか?

人数にかかわらず必要なものから順に、次の順序をおすすめしています。

  1. 労働条件通知書(労働基準法第15条)——1人目から必要で、いちばん頻度が高い
  2. 36協定(残業をさせるなら)——届出をしていなければ、いま残業させていること自体が問題
  3. ハラスメント防止の体制——令和8年10月にカスハラが加わる。いま整えれば一度で済む
  4. 育児・介護休業関係の規程と個別周知の手順——申出があってからでは間に合わない
  5. 就業規則(10人が見えてきたら)

1の労働条件の明示は、令和6年4月から項目が増えています。 就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲、有期契約の更新上限、無期転換申込権が発生する契約における無期転換の申出に関する事項と転換後の労働条件。書式を数年前のまま使っていると、この3つが抜けています。

明示は書面の交付が原則で、本人が希望した場合に限りファクシミリや電子メール等でも可能です(労働基準法施行規則第5条第4項)。「口頭で伝えた」では足りません。

なお、同居の親族を雇用保険に入れる場合、要件の一つとして「就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること」が求められます。10人未満でも書面が要る場面として、家族を社員にするとき、つまずく3つのところもあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 常時10人未満ですが、就業規則を作ってもいいですか?
A. 作れます。義務がないだけで、禁じられているわけではありません。作成すれば、労働条件を個別に説明する手間が減り、懲戒処分の根拠も明確になります。なお、義務のない事業場が任意に作成した場合、届出の義務も生じませんが、届け出ておくと内容の確認を受けられるという実務上の利点があります。

Q. 10人を超えたのに就業規則がありません。すぐ罰せられますか?
A. 労働基準法第89条違反には罰則がありますが、実務では監督署の指導を経るのが通例です。ただし「指導されるまで放っておいてよい」という意味ではありません。就業規則がないこと自体より、就業規則がないために労働条件が曖昧なままになっていることのほうが、実際には問題を招きます。退職や解雇をめぐる争いになったときに、拠って立つものがない状態になります。

Q. 支店ごとに違う就業規則にしてもいいですか?
A. できます。就業規則は事業場ごとに作成・届出をするものなので、事業場ごとに内容が異なること自体は差し支えありません。ただし合理的な理由なく待遇に差を設けると、別の問題(不利益取扱い、同一労働同一賃金)が生じます。なぜ違うのかを説明できる形にしておくことが必要です。

Q. ハラスメント防止措置は、具体的に何をすればよいのですか?
A. 方針の明確化と周知・啓発、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の周知、といった内容が指針で示されています。小規模な会社では、相談窓口を誰にするかが実際の悩みどころになります。社内に置けない場合の選択肢も含めてご相談ください。費用は報酬額表をご覧ください。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条、第36条第1項・第4項、第89条
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条第1項・第3項・第4項・第5項、第16条第1項、第49条第1項
  • 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第30条の2第1項・第2項
  • 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号)附則第3条(中小事業主に関する経過措置)。中小企業への義務化は令和4年4月1日。日付は厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(令和4年1月作成)および複数の都道府県労働局の公表資料により確認しました。当該経過措置の「政令で定める日」を定めた政令の条文は確認できていません(未検証)
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第5条、第9条の2、第10条、第16条の2、第16条の5、第16条の8、第17条、第19条、第21条、第22条、第23条第1項、第23条の3、第25条(いずれも企業規模を問わない)、第22条の2(常時300人超
  • 労働施策総合推進法等の改正(令和7年法律第63号)によるカスタマーハラスメント防止措置および求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置の義務化は、令和8年10月1日施行。厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」により確認
  • 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 就業規則・賃金規程の作成と届出、36協定の締結と届出、労働条件通知書の整備、ハラスメント防止体制の構築は社会保険労務士の業務です。すでに紛争になっている事案は弁護士、賃金規程に伴う源泉徴収や年末調整の扱いは税理士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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