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2026.09.01採用と雇用

家族を社員にするとき、つまずく3つのところ

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

家族を社員にするときは、同居しているか、取締役にするか、助成金を考えているか——の3つを確かめてください。同居の親族は原則として雇用保険の被保険者になりませんが、要件を示せば被保険者として取り扱われます。立場ごとの雇用保険・社会保険の可否を表にしました。

結論(先に要点):家族を社員にするときは、3つ確かめてください。同居しているか取締役にするか助成金を考えているか。この3つは、別々の制度が別々の理由で効いてくるもので、いずれも入社の日より前に決めておく必要があります。

子や配偶者に会社を手伝ってもらう。同族会社では自然な話ですが、手続の側から見ると、他人を雇うのとは違う分岐がいくつも出てきます。しかも分岐の多くは、入社してからでは戻せません

同居している家族は、雇用保険に入れるのか?

原則は入りません。ただし、入る場合があります。 ここは「入れない」と断定できないところです。

厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(適用関係)」は、個人事業の事業主と同居している親族について「原則として被保険者としない」としています。法人の代表者と同居している親族についても、形式は法人でも実質的には代表者の個人事業と同様と認められる場合——株式や出資の全部または大部分を代表者やその親族のみで保有し、取締役会や株主総会がほとんど開催されていないような場合——は、同様に原則として被保険者としない、とされています。

そのうえで要領は、次の3つを満たすものは被保険者として取り扱うとしています。

条件
(イ)業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
(ロ)就業の実態が他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇と、賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること
(ハ)事業主と利益を一にする地位(取締役等)にないこと

(ロ)が実務の要です。「就業規則その他これに準ずるもの」が求められているため、従業員10人未満で就業規則の作成義務がない会社でも、家族を雇用保険に入れたいのであれば、これに準ずる書面が必要になります。人数の義務の話は就業規則は何人から義務か。義務でないものは何かにまとめました。

手続の際は、要領の(イ)から(ハ)までの事項を記載した事業主の証明書、登記事項証明書、他の労働者の出勤簿などの提出が求められます。「実態がそうなっている」ことを、書類で示す作業になります。

なお、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は考え方が違います。 適用事業所に使用されていれば被保険者となるため、同居の親族であることを理由に外れることはありません。雇用保険とは別の判断です。

取締役にすると、何が変わるのか?

雇用保険から外れます。業務取扱要領は「株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない」「代表取締役は被保険者とならない」としています。雇用保険法が被保険者を「適用事業に雇用される労働者」と定めているため(同法第4条第1項)、雇用される立場にない役員は対象外になる、という筋道です。

例外は使用人兼務役員です。取締役でありながら同時に部長・支店長・工場長などの従業員としての身分を持つ場合、報酬の支払などから見て労働者的性格が強く、雇用関係があると認められるものに限って被保険者になります。ただしこの場合も、失業給付の算定の基礎となる賃金に役員報酬は含まれません

一方、社会保険は逆方向に働きます。取締役になると、労働者かどうかを問わず適用事業所に使用される者として被保険者になります。整理すると次のとおりです。

立場雇用保険健康保険・厚生年金保険
使用人(同居していない親族)入る入る
使用人(同居の親族)原則入らない。上記(イ)〜(ハ)を満たせば入る入る
使用人兼務役員労働者的性格が強く雇用関係が認められる場合に限り入る入る
取締役入らない入る
代表取締役入らない入る

(社会保険は、いずれも所定労働時間などの適用要件を満たす場合です)

役員にするかどうかは、報酬の決め方や責任の所在の話として検討されることが多いのですが、雇用保険と、次に述べる助成金の両方に効いてきます。 手続の側からも一度見ておいてください。

家族の入社で、助成金は使えるのか?

多くの場合、使えません。 二重の壁があります。

1つめは、いま見た雇用保険の壁です。 雇用関係助成金は、雇用保険適用事業所の事業主であることを前提としており、対象となるのも雇用保険の被保険者です。同居の親族が原則として被保険者にならない以上、そもそも土俵に上がりません。

2つめは、助成金そのものの除外規定です。 キャリアアップ助成金の支給要領は、正社員化コースの対象労働者の要件として「転換又は直接雇用を行った適用事業所の事業主又は取締役の3親等以内の親族(民法第725条第1号に規定する血族のうち3親等以内の者、同条第2号に規定する配偶者及び同条第3号に規定する姻族をいう)以外の者であること」と定めています。

判定される期間まで決まっています。 厚生労働省のQ&Aは、正社員化コースについて「転換又は直接雇用日の前日から起算して6か月前の日を始期とし、支給申請時点まで」としています。入社の直前に親族関係が変わっても、6か月さかのぼって見られるということです。

この除外は正社員化コースだけでなく、賃金規定等改定・共通化・賞与退職金・短時間労働者労働時間延長支援の各コースにも同趣旨で置かれています。「家族だから使えないコースがある」ではなく、「キャリアアップ助成金は全体として家族を外している」と理解しておくほうが実態に近いです。

なお、この3親等以内の親族の除外はキャリアアップ助成金固有の要件です。雇用関係助成金に共通の要領には親族に関する規定がありません。他の助成金については、それぞれの要領を個別に確認する必要があります。取り扱っている助成金の範囲は助成金の申請サポートをご覧ください。

いつまでに決めておけばいいのか?

入社の日より前です。 3つとも、あとから変えることが難しいか、変えても遡らないためです。

決めることいつまでに遅れるとどうなるか
同居か別居か(住民票上の世帯)入社前実態が伴わない転居は、かえって説明が難しくなります
取締役にするかどうか入社前就任後に外しても、雇用保険の被保険者資格が遡って生じるわけではありません
助成金を狙うかどうか転換等を実施する日の前日まで(キャリアアップ計画の提出期限)計画を出していないと、要件を満たしていても不支給になります

3つめは特に注意が必要です。キャリアアップ助成金は、計画の提出が転換の実施より前でなければなりません。入り口の契約の形で額まで変わるので、助成金を狙うなら、最初の契約形態で決まるを先にお読みください。

よくある質問

Q. 別居している息子を雇う場合は、普通の従業員と同じですか?
A. 雇用保険については、同居していなければ「同居の親族」の取扱いには当たらず、通常の判断になります。ただしキャリアアップ助成金の3親等以内の親族の除外は同居・別居を問いません。雇用保険には入れるが助成金の対象にはならない、という組み合わせが生じます。

Q. 同居していますが、他の従業員とまったく同じ勤務です。雇用保険に入れますか?
A. 業務取扱要領の(イ)から(ハ)を満たすと示せれば、被保険者として取り扱われます。ただし「同じ勤務です」という説明だけでは足りず、就業規則またはこれに準ずるもの、出勤簿、賃金台帳といった書類で、他の労働者と同様に管理されていることを示す必要があります。最終的な判断はハローワークが行いますので、当方で「入れます」と保証することはできません。

Q. 妻を取締役にしていますが、実際は事務のパートに近い働き方です。雇用保険に入れませんか?
A. 使用人兼務役員として認められる余地はありますが、要領は「報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り」としています。役員報酬と給与の区分、就業実態、他の従業員との比較といった材料を揃えたうえでの判断になります。なお認められた場合でも、失業給付の基礎となる賃金に役員報酬は含まれません。

Q. 3つとも当てはまってしまいました。どうすればいいですか?
A. 助成金を優先するのか、手続の簡便さを優先するのかで、選ぶ形が変わります。助成金を取りに行くなら、別居の親族を雇用保険に入れて、かつキャリアアップ助成金以外の制度を探す形になりますが、そこまでして合わせるだけの額かどうかは別の検討です。実際の金額と手間を並べてご相談いただくのが早いと思います。費用は報酬額表をご覧ください。

この記事の根拠

  • 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条第1項
  • 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(適用関係)」20351(1)イ(取締役及び社員、監査役等)、同リ(同居の親族)。通達ではなく業務取扱要領が出典です。 要領は改訂が頻繁なため、参照は厚生労働省の掲載ページから最新版をご確認ください
  • 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第1項、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第9条
  • キャリアアップ助成金支給要領 1003ニ(令和8年4月8日付け)。3親等以内の親族の定義は民法(明治29年法律第89号)第725条第1号・第2号・第3号
  • キャリアアップ助成金Q&A(令和8年7月29日)Q-8(判定される期間)
  • 雇用関係助成金に共通の支給要領(令和8年4月8日付け)0301
  • 助成金の支給要領・支給額は年度ごとに、また年度の途中でも改定されます。 申請の際は、必ず厚生労働省の最新の支給要領でご確認ください
  • 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 同居の親族を被保険者として取り扱えるかの見立て、必要な書類の整え方、助成金の計画づくりは社会保険労務士の業務です。役員報酬の決め方や税務の扱いは税理士、役員変更の登記は司法書士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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