短い時間で雇うと、社会保険はどうなるか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
従業員51人未満の会社では、社会保険に入るかどうかは4分の3基準だけで決まります。1週の所定労働時間と1月の所定労働日数の両方が通常の労働者の4分の3未満なら入りません。雇用保険は週20時間が分かれ目です。企業規模要件が2035年10月までに撤廃される日程も表にしました。
結論(先に要点):従業員51人未満の会社では、社会保険に入るかどうかは「4分の3基準」だけで決まります。1週の所定労働時間と1月の所定労働日数の両方が通常の労働者の4分の3未満なら入りません。雇用保険は別で、週20時間以上が分かれ目です。
パートを雇うときに「何時間までなら保険に入らずに済むか」というご質問をよくいただきます。答えは会社の規模で変わり、しかもこれから10年かけて変わり続けます。いま決めた基準が、数年後にはそのまま使えなくなるという性格の話です。
何時間から社会保険に入るのか?
健康保険と厚生年金保険には、短時間労働者を被保険者から外す規定があります(健康保険法第3条第1項第9号、厚生年金保険法第12条第5号)。ここで使われるのが4分の3基準です。
通常の労働者が週40時間・月20日の会社なら、週30時間・月15日が境目になります。両方とも4分の3未満なら被保険者になりません。片方でも4分の3以上なら被保険者です。
この4分の3基準だけで決まるのは、特定適用事業所ではない会社、つまり厚生年金保険の被保険者が常時50人以下の会社です。根拠は、平成24年法律第62号の附則第17条第1項(厚生年金保険)と附則第46条第1項(健康保険)で、「当分の間、特定適用事業所以外の適用事業所に使用される特定4分の3未満短時間労働者については…被保険者としない」と定められています。
被保険者が常時50人を超える会社では、4分の3未満でも、次のすべてに当たれば被保険者になります。
| 要件 | |
|---|---|
| ① | 1週の所定労働時間が20時間以上 |
| ② | 所定内賃金が月額8.8万円以上 |
| ③ | 学生でないこと |
②については、あとで述べるとおり撤廃が予定されています。
雇用保険は、社会保険と同じ基準なのか?
違います。雇用保険は週20時間です。雇用保険法は「1週間の所定労働時間が20時間未満である者」を適用除外としています(同法第6条第1号)。
労災保険はさらに別で、時間の要件がありません。労働者を1人でも使えば適用事業になり、週1時間でも対象です。3つを並べると次のようになります。
| 1週の所定労働時間 | 労災保険 | 雇用保険 | 健康保険・厚生年金保険(51人未満の会社) |
|---|---|---|---|
| 20時間未満 | 入る | 入らない | 入らない |
| 20時間以上30時間未満 | 入る | 入る | 入らない |
| 30時間以上 | 入る | 入る | 入る(週40時間の会社の場合) |
20時間から30時間の帯が、いちばん誤解されます。 雇用保険には入るが社会保険には入らない、という状態です。「保険に入っていないはず」と思っていた方が離職票を求めてきて、そこで初めて気づく、ということが起こります。
なお、社会保険の欄の「30時間以上」は、通常の労働者が週40時間の会社での話です。通常の労働者の所定労働時間が短い会社では、境目も下がります。 週35時間の会社なら26.25時間です。自社の就業規則の所定労働時間から計算してください。
「106万円の壁」は、どこへ行ったのか?
なくなる方向で動いています。 上に挙げた②の賃金要件(月額8.8万円以上。年収に直すと約106万円)が、いわゆる「106万円の壁」の正体でした。
厚生労働省は、この賃金要件を令和8年(2026年)10月に撤廃する予定としています。理由は、全都道府県の令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことです。時給1,016円で週20時間働けば月額8.8万円に届くため、①の時間要件を満たせば②は自動的に満たされる。だから要件として意味をなさなくなった、という整理です。
ただし「予定」です。 令和7年法律第74号は撤廃の時期を「公布から3年以内の政令で定める日」としており、その施行期日を定める政令は、本記事の執筆時点(2026年8月13日)では確認できていません。厚生労働省・日本年金機構とも「撤廃予定」という表現を使っています。日付を前提に人員計画を立てる場合は、直前に確認してください。
撤廃されると、加入するかどうかは**「週20時間以上か」と「学生でないか」の2つ**に絞られます。賃金による線引きが消えるので、時給を上げても加入の有無は変わりません。「106万円を超えないように働く」という調整が、意味を持たなくなるということです。
なお、いわゆる「130万円の壁」(扶養に入れるかどうかの基準)は、この改正では撤廃されていません。 106万円の話と130万円の話は別の制度なので、混ざらないようご注意ください。
この基準は、いつまで続くのか?
企業規模の要件そのものが、10年かけて段階的になくなります。
| 時期 | 特定適用事業所になる規模 |
|---|---|
| 現行 | 厚生年金保険の被保険者 51人以上 |
| 2027年10月 | 36人以上 |
| 2029年10月 | 21人以上 |
| 2032年10月 | 11人以上 |
| 2035年10月 | 10人以下も対象(規模要件の撤廃完了) |
(令和7年法律第74号。厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」令和8年1月作成)
最終的に、企業規模による線引きはなくなります。 いま50人以下だから関係ない、という状態は続きません。従業員が20人の会社なら2032年10月から、10人の会社でも2035年10月から対象になります。
あわせて予定されている変更も挙げておきます。
- 新たに加入対象となる方への保険料の調整支援(3年間)——2026年10月
- 標準報酬月額の上限引上げ——2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円
- 個人事業所の適用対象の拡大(全業種・常時5人以上)——2029年10月(同時点で既にある事業所は当分の間対象外)
短い時間で雇う人を増やすか、人数を絞って1人あたりの時間を長くするか。どちらの設計も、数年後には同じ結論に収束します。 その前提で人員計画を立てるほうが、あとで組み直す手間が減ります。
家族を短時間で雇う場合は、雇用保険の扱いが別に問題になります。家族を社員にするとき、つまずく3つのところをご覧ください。パートを正社員にしていく予定がある場合は、助成金を狙うなら、最初の契約形態で決まるを先にお読みいただくと、入り口の契約の決め方が変わります。
よくある質問
Q. 週の所定労働時間が28時間ですが、繁忙期は実際に32時間働いています。どちらで判断されますか?
A. 判断の基礎は所定労働時間です。ただし、実際の労働時間が恒常的に所定を上回っている場合、実態に合わせて所定労働時間を見直すべき状態と評価されることがあります。「一時的に超えた」のか「実質的にそれが所定になっている」のかで扱いが変わりますので、繁忙期の残業が毎年同じ時期に同じだけ発生している、というような場合はご相談ください。
Q. 従業員数の51人は、パートも含めて数えるのですか?
A. 特定適用事業所の判定に使うのは、厚生年金保険の被保険者の数です。パートでも被保険者になっていれば数に入り、被保険者になっていない短時間の方は入りません。また事業主が同一である複数の適用事業所は合算して数えます。「従業員数」という言い方をしますが、在籍者の頭数ではない点にご注意ください。
Q. 賃金要件が撤廃されると、いまパートの方は全員加入になりますか?
A. 51人以上の会社であれば、週20時間以上で学生でない方は加入対象になります。ただし最低賃金法の減額特例の対象となる方で月額8.8万円未満の場合は、撤廃後も原則として対象外とされています(申出による任意加入は可能)。50人以下の会社では、賃金要件の撤廃だけでは変わりません。企業規模要件が下がる時期に影響を受けます。
Q. 保険料の負担が増える分、時給を下げることはできますか?
A. 賃金の引下げは労働条件の不利益変更にあたるため、本人の同意なく一方的に行うことはできません。就業規則の変更による場合も、変更の合理性が問われます。加入拡大を理由とした引下げは、合理性の説明が難しい部類に入ります。この判断は個別の事情によりますので、実施を検討される場合は事前にご相談ください。 費用は報酬額表をご覧ください。
この記事の根拠
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第1項第9号
- 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第9条、第12条第5号
- 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年法律第62号)附則第1条第5号(平成28年10月1日施行)、附則第17条第1項(厚生年金保険)、附則第46条第1項(健康保険)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条第1項、第6条第1号。第6条は項を持たない条文のため、引用は「第6条第1号」です
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号。2025年6月13日成立、6月20日公布)
- 厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(令和8年1月作成)——企業規模要件のスケジュール、賃金要件の撤廃予定、最低賃金1,016円の記述
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(2026年4月17日更新)
- 賃金要件の撤廃時期を定める施行期日政令は、2026年8月13日時点で確認できていません(未検証)。 厚生労働省・日本年金機構とも「令和8年10月に撤廃予定」という表現を用いています
- 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 所定労働時間の設計、加入の要否の判定、資格取得届の手続、就業規則の見直しは社会保険労務士の業務です。配偶者控除など所得税の扱いは税理士へ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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