メインコンテンツにスキップ
2026.09.01社会保険

年金をもらいながら働く人を雇うとき

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

老齢厚生年金は、給与と合わせて一定額を超えると一部が止まります。令和8年4月以降の支給停止調整額は65万円です。65万円までは、いくら払っても年金は減りません。繰下げ待機中に在職老齢年金で止まった額は増額の対象にならない点も、あわせて整理します。

結論(先に要点):老齢厚生年金は、給与と合わせて一定額を超えると一部が止まります。令和8年4月以降の基準額は65万円です。超えた分の2分の1が止まる計算なので、65万円までは、いくら払っても年金は減りません

60代・70代の方を迎えるときに、「年金が止まるから給与は抑えてほしい」と本人から言われることがあります。以前はその通りでしたが、令和8年4月から基準額が大きく上がり、中小企業の給与水準ではほとんど止まらなくなりました。古い前提のまま賃金を決めていると、払えるはずの給与を払わずに済ませてしまいます。

働くと、年金はいくら止まるのか?

厚生年金保険法第46条第1項が、次のように定めています。基本月額(老齢厚生年金の額を12で割った額)と総報酬月額相当額(標準報酬月額+直近1年間の賞与の12分の1)の合計が支給停止調整額を超えると、超えた額の2分の1が止まります。

式にすると次のとおりです。

支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2

支給停止調整額は、年度ごとに改定されます。

年度支給停止調整額
令和6年度50万円
令和7年度51万円
令和8年度(2026年4月〜)65万円

(厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」令和8年1月23日)

51万円から65万円へ、一度に14万円上がりました。 令和7年法律第74号による引上げが令和8年4月に施行されたものです。

なお、厚生労働省の法案説明資料には「50万円→62万円」という記載があります。これは令和6年度価格の法定額で、条文(厚生年金保険法第46条第3項)に書かれている数字です。同項ただし書により毎年度改定されるため、令和8年度の実額が65万円になります。62万円と65万円は矛盾ではありません。

止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象になりません。

何歳まで、どの保険に入るのか?

制度ごとに上限が違います。ここは表で押さえてください。

制度加入の上限根拠
労災保険上限なし労働者であれば年齢を問わない
雇用保険上限なし。65歳以上は高年齢被保険者雇用保険法第37条の2第1項
厚生年金保険70歳未満厚生年金保険法第9条、第14条第5号
健康保険75歳(後期高齢者医療へ移行)健康保険法第3条第1項第7号、高齢者の医療の確保に関する法律第50条第1号
介護保険(第2号被保険者)65歳で第1号被保険者へ

健康保険に70歳の上限はありません。 70歳で抜けるのは厚生年金保険だけで、健康保険は75歳まで続きます。ここは混同されやすいところです。

資格喪失の日付にもくせがあります。 厚生年金保険は「70歳に達したとき」にその日に資格を喪失します(厚生年金保険法第14条第5号)。「70歳に達したとき」は誕生日の前日なので、喪失日も誕生日の前日です。健康保険の75歳到達による喪失は誕生日の当日です。1日ずれます。

70歳以上被用者該当届

70歳を過ぎても働き続ける方については、70歳以上被用者該当届が必要になる場合があります。厚生年金保険の被保険者ではなくなっても、在職老齢年金の計算に給与を反映させるためです(厚生年金保険法第27条)。

場合届出
70歳到達日時点の標準報酬月額相当額が、前日の標準報酬月額と異なる必要(70歳到達日から5日以内)
同額である不要(日本年金機構側で処理。平成31年4月からの取扱い)
70歳以上で新たに雇い入れた必要

(厚生年金保険法施行規則第10条の4、第15条の2)

対象になるのは、過去に厚生年金保険の被保険者期間がある方です。一度も加入したことがない方は対象になりません。

繰下げを考えている人を雇うとき、何に気をつけるのか?

ここが、いちばん誤解の多いところです。

繰下げ受給は、年金の受給開始を遅らせて増額を受ける制度です。ところが、繰下げの待機期間中に在職老齢年金で支給停止された額は、増額の対象になりません。

日本年金機構は次のように説明しています。繰下げ加算額を計算するとき、在職老齢年金により支給停止される額に相当する部分を除き、平均支給率を掛けて計算する。

平均支給率 = 月単位での支給率の合計 ÷ 繰下げ待機期間
月単位での支給率 = 1 −(在職支給停止額 ÷ 65歳時の老齢厚生年金額)

法律上は、厚生年金保険法第44条の3第4項が、繰下げ加算額を「第46条第1項の規定の例により計算したその支給を停止するものとされた額を勘案して政令で定める額」としており、ここが根拠になります。

つまり「止まった分は、あとで増えて返ってくる」わけではありません。 止まった分は、そのまま受け取れないまま終わります。

とはいえ、令和8年4月に基準額が65万円まで上がったことで、止まる方自体が大きく減りました。基本月額が月10万円の方なら、総報酬月額相当額が55万円までは1円も止まりません。「繰下げるから給与を抑えてほしい」というご要望があった場合は、実際に止まるのかどうかを一度計算してみてください。 抑える必要がないことが多いはずです。

なお、老齢基礎年金の繰下げは在職老齢年金の影響を受けません。 厚生年金と基礎年金は別々に繰下げを選べるため、選び方の相談は本人が年金事務所にされるのが確実です。

賃金は、どう設計すればいいのか?

順番としては、①本人の基本月額を確認する → ②65万円から基本月額を引く → ③その額が総報酬月額相当額の上限になる、です。

例えば基本月額が12万円なら、総報酬月額相当額が53万円までは支給停止が生じません。中小企業の給与水準では、多くの場合、意識せずに済む範囲に収まります。

意識が必要になるのは、次のような場合です。

  • 役員報酬が高く、総報酬月額相当額が50万円を超える
  • 賞与が大きく、総報酬月額相当額(直近1年の賞与の12分の1を含む)が跳ね上がる
  • 基本月額が大きい(長期加入・高額報酬の期間が長い)

賞与の設計には特に注意してください。 総報酬月額相当額には直近1年間の賞与の12分の1が入るため、年1回の賞与でも12か月にわたって影響します。月給を抑えて賞与を厚くしても、在職老齢年金の計算では均されます。

2027年9月からは標準報酬月額の上限が65万円から68万円に上がり、その後も2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と段階的に引き上げられます。高額報酬の方については、標準報酬月額が上がることで総報酬月額相当額も上がる点を、あわせて見ておいてください。

短時間で雇う場合の加入の基準は短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかに、業務委託で来てもらう場合の注意は外注と雇用の境目は、契約書では決まらないにまとめています。

よくある質問

Q. 65万円という額は、来年も同じですか?
A. 支給停止調整額は年度ごとに改定されます(厚生年金保険法第46条第3項ただし書)。名目賃金の変動に応じて改定されるため、令和9年度以降の額は改定の結果によります。毎年1月下旬に厚生労働省が翌年度の年金額改定を公表しますので、そこでご確認ください。

Q. 本人が「年金が止まるので月20万円までにしてほしい」と言っています。どう説明すればよいですか?
A. まず基本月額を確認していただくのが早道です。ねんきん定期便や年金事務所で確認できます。基本月額が分かれば、65万円から引いた額が支給停止の生じない上限になります。多くの場合、月20万円という水準は上限をはるかに下回りますので、抑える必要がないことをその場で示せます。ただし本人の年金額は個人情報ですので、本人から確認していただく形になります。

Q. 70歳を過ぎた方を新しく雇いました。何を出しますか?
A. 厚生年金保険の被保険者にはなりませんが、70歳以上被用者該当届の対象になります。健康保険については75歳未満であれば被保険者になりますので、健康保険の資格取得届もあわせて必要です。雇用保険も、週20時間以上であれば高年齢被保険者として加入します。3つの制度で扱いが分かれるので、届出の抜けが出やすい場面です。

Q. 在職中に年金額が増えることはありますか?
A. 65歳以降も厚生年金保険に加入して働いた期間は年金額に反映され、在職定時改定により毎年10月分から増額される仕組みがあります。ただし増えた分も在職老齢年金の計算対象になります。個別の見込み額は年金事務所でご確認いただくのが確実です。当方では、給与や賞与をどう設計すると支給停止が生じるかの整理をお手伝いしています。費用は報酬額表をご覧ください。

この記事の根拠

  • 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第9条、第14条第5号、第27条、第44条の3第4項、第46条第1項・第3項
  • 厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)第10条の4、第15条の2、第22条の2
  • 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第1項第7号、第36条第3号
  • 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)第50条第1号、第52条第1号
  • 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第37条の2第1項
  • 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)
  • 支給停止調整額65万円の出典:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(令和8年1月23日)、日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」(2026年4月1日更新
  • 繰下げと在職支給停止の関係の出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」(2026年8月12日更新
  • 繰下げ加算額の具体的な計算方法を定める政令の条番号は特定していません(未検証
  • 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 賃金・賞与の設計、届出の要否の判定、標準報酬月額の管理は社会保険労務士の業務です。ご本人の年金見込額や繰下げの選択は日本年金機構(年金事務所)へ、役員報酬の税務の扱いは税理士へ、それぞれ直接ご確認・ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

「人」のことから、整理しませんか。

四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。

LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。

東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分|火・水 10:00〜19:00/月・木・金・土・日 18:00〜19:00