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2026.09.01労働法の基本

労働条件の明示ルールはどう変わった?就業場所・業務の変更の範囲と有期の更新上限

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

2024年4月から、労働条件の明示ルールが変わりました。すべての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」を、有期契約の労働者にはさらに「更新上限」「無期転換の申込機会」「無期転換後の労働条件」を明示する必要があります。だれに・いつ明示するかは事項ごとに違います。労働条件通知書のひな型を差し替えるだけでは終わらず、就業規則・雇用契約書と実態を合わせて整えることが本質です。

結論(先に要点):2024年4月から、労働条件の明示ルールが変わりました。すべての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」を、有期契約の労働者にはさらに「更新上限」「無期転換の申込機会」「無期転換後の労働条件」を明示する必要があります。労働条件通知書のひな型を差し替えるだけでは終わらず、実態と合わせて整えることが本質です。

2024年4月から労働条件の明示は何が増えた?

使用者は、労働契約を結ぶときに、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項)。この明示事項を定める労働基準法施行規則第5条が改正され(令和5年厚生労働省令第39号、2023年3月30日公布)、2024年4月1日から、明示事項が追加されました。

追加されたのは、次の4つです。だれに・いつ明示するかが事項ごとに違います。

追加された明示事項対象明示のタイミング
就業場所・業務の変更の範囲すべての労働者労働契約の締結時/有期契約の更新時
更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容有期契約の労働者有期契約の締結時/更新時
無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)有期契約の労働者無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと
無期転換後の労働条件有期契約の労働者同上

上の1つ目は正社員を含むすべての労働者が対象で、残る3つは有期契約の労働者だけが対象です。この線引きを取り違えると、正社員の通知書に無期転換の話を書いてしまったり、逆にパートの通知書で更新上限を書き漏らしたりします。

「就業場所・業務の変更の範囲」はどこまで書く?

従来から明示していたのは、「雇入れ直後」の就業場所と従事すべき業務でした。2024年4月からは、これに加えて**「変更の範囲」**、つまりその労働契約が続くあいだに配置転換などで変わり得る就業場所・業務の範囲を示します。

ポイントは、「雇入れ直後」と「変更の範囲」を分けて書くことです。将来の可能性まで含めた範囲を示すため、書き方は会社の運用によって幅があります。

  • 全国転勤があり得るなら、その旨がわかる範囲を示す
  • 転勤や職種変更を想定していないなら、その範囲にとどまることがわかるように書く

ここで実態と離れた広い範囲を書くと、後の配置転換の場面で「そんな範囲は聞いていない」という食い違いのもとになります。逆に狭く書きすぎると、必要な異動がしにくくなります。就業規則の配置転換に関する定めと通知書の記載をそろえておくことが要点で、就業規則の作成・届出義務そのものは就業規則は何人から義務か。義務でないものは何かに整理しています。特定の異動が有効かどうかといった個別の判断には、この記事は踏み込みません。

有期契約の更新上限はいつ・どう示す?

有期契約の労働者には、更新上限の有無と内容(通算契約期間または更新回数の上限)を、契約の締結時と更新時に明示します。「更新は通算3年まで」「更新は4回まで」といった上限があるなら、それを示すということです。

あわせて、通達で説明の努力義務が設けられています。最初の契約より後に更新上限を新しく設けたり、上限を短くしたりする場合は、その理由をあらかじめ労働者に説明するよう努めることとされています。

更新上限の設定そのものが違法になるわけではありませんが、上限に達したときの雇止めが有効かどうかは、また別の判断です。ここは紛争になりやすい部分で、個別の可否は当事務所では扱いません。契約形態の入口の設計は助成金を狙うなら、最初の契約形態で決まるも参考になります。

無期転換の申込機会と転換後の労働条件明示とは?

有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えると、労働者は申込みによって無期労働契約に転換できます(労働契約法第18条。これが無期転換ルールです)。

2024年4月からは、この無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、次の2つを明示します。

  1. 無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)
  2. 無期転換した後の労働条件

つまり、「申し込めば無期になれます」という案内と、「無期になったらどういう労働条件になるか」の両方を、権利が生じる更新のたびに示すということです。転換後の労働条件を決めるにあたっては、正社員など他の労働者との均衡を考慮した事項について説明するよう努めることも、通達で求められています。

無期転換は「正社員になる」ことと同じではありません。契約期間が有期から無期に変わるだけで、労働条件は転換前と同じでも構いません。ここを混同すると、社内の説明が食い違います。有期・無期と待遇の関係は2026年10月、パート・有期雇用のルールはどう変わる?にも整理しています。

通知書・雇用契約書のどこを直せばよい?

まず、労働条件通知書のひな型を最新のものに差し替えます。厚生労働省がモデルの様式を公表しており、追加された明示事項を反映した欄が設けられています。明示は書面の交付が原則で、労働者が希望した場合はファクシミリや電子メール等の方法によることもできます。

そのうえで、通知書だけを直しても実務は回りません。次を突き合わせて確認します。

  • 労働条件通知書:追加された4事項が漏れなく、様式が最新か
  • 雇用契約書:通知書と矛盾していないか
  • 就業規則・賃金規程:配置転換・更新・無期転換に関する定めが実態と合っているか

募集の段階で示す求人票の明示(職業安定法)は、入社時の明示(労働基準法)とは別の義務です。両者の関係は求人票に書かなければならないことにまとめています。賃金の支払方法を見直すなら、給与のデジタル払いの導入と同じ機会に、通知書と規程をまとめて点検すると二度手間になりません。

よくある質問

Q. 労働条件通知書のひな型を新しくすれば、それで対応は終わりますか?
A. ひな型の差し替えは出発点で、それだけでは終わりません。追加された「就業場所・業務の変更の範囲」や有期契約の「更新上限」は、就業規則の配置転換・更新の定めや実際の運用と一致している必要があります。通知書と雇用契約書、就業規則の三つがずれていないかを突き合わせて確認することが本質です。

Q. 「変更の範囲」は、あり得る配置転換をすべて広く書いておけばよいですか?
A. 実態と離れた広い範囲を書くと、後の配置転換の場面で「そんな範囲は聞いていない」という食い違いのもとになります。逆に狭く書きすぎると、必要な異動がしにくくなります。会社の運用や就業規則の定めに沿った範囲を示すのが要点です。特定の異動が有効かどうかの個別判断は、この記事の範囲を超えます。

Q. 更新上限を新しく設けると、違法になりますか?
A. 更新上限を設けること自体が直ちに違法になるわけではありません。ただし、最初の契約より後に更新上限を新設したり短縮したりする場合は、その理由をあらかじめ説明するよう努めることとされています。また、上限に達したときの雇止めが有効かどうかは別の判断で、紛争性のある場面は弁護士への相談をご案内します。

Q. 無期転換すると、パートも正社員になるのですか?
A. 無期転換は契約期間が有期から無期に変わるだけで、正社員になることと同じではありません。労働条件は転換前と同じでも構いません。ただし2024年4月からは、無期転換申込権が生じる更新のたびに、申し込める旨と転換後の労働条件を明示する必要があります。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項 ── 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条 ── 明示すべき労働条件を定める規定。改正により、就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の上限、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件が明示事項に追加された
  • 労働基準法施行規則等の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第39号、2023年3月30日公布) ── 労働基準法第15条第1項前段に基づき明示すべき労働条件に、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の上限、及び就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲を追加。2024年4月1日施行
  • 労働契約法(平成19年法律第128号)第18条 ── 同一の使用者との間の有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより無期労働契約に転換する(無期転換ルール)
  • 厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更」 ── ①すべての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」を、労働契約の締結時と有期契約の更新時に明示、②有期契約の労働者に「更新上限」を締結時・更新時に明示、③無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに「無期転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」を明示。あわせて、更新上限を新設・短縮する場合の理由の説明、無期転換後の労働条件を決定するにあたって他の労働者との均衡を考慮した事項の説明が努力義務とされている。明示は書面の交付が原則で、労働者が希望した場合はファクシミリ・電子メール等の方法も可(2026年8月30日参照)
  • 公的資料・条文は2026年8月30日に確認。上限に達したときの雇止めが有効かどうか、特定の配置転換が有効かどうかといった個別の該当性は、事情によって判断が分かれます。本記事は制度の枠組みの紹介にとどまり、個別の可否を判断するものではありません

四葉不動産株式会社、四葉行政書士事務所、四葉社会保険労務士事務所は、それぞれ独立した事業体として業務を受任します。他の専門家をご紹介する場合も、お客様に直接ご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。労働条件明示について当事務所がご支援するのは、労働条件通知書・雇用契約書のひな型改訂と、就業規則・賃金規程との整合の点検です。個別の紛争や訴訟は弁護士の領域としてご案内します。費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、最新の一次資料(厚生労働省、e-Gov等)を踏まえ、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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