AIに従業員の情報を入れてよいか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
一律には決まりません。従業員の情報は個人データで、生成AIへの入力には個人情報保護法の枠組みがかかり、個人情報保護委員会も注意喚起を出しています。「学習しない」設定の型と限界、社内で決めておく4項目、当事務所自身のデータの扱いまで開示して整理します。
結論(先に要点):一律には決まりません。従業員の情報は個人データで、生成AIへの入力には個人情報保護法の枠組みがかかり、個人情報保護委員会も注意喚起を出しています。線を決めてから使う——順序はこれだけです。 四葉は、顧客・従業員の個人データを生成AIに入力しない運用です。
「勤怠の集計をAIにやらせたい」「従業員とのやりとりを要約させたい」——社内でAIを使い始めると、従業員の情報をどこまで入れてよいかという問題に、必ず突き当たります。このページは、その線引きをこれから決める経営者・総務担当の方に向けたものです。本記事は制度の枠組みの紹介と、当事務所自身の運用の開示にとどめ、個別のサービス利用の適法性の判断には踏み込みません。
従業員の情報をAIに入れると、何が問題になり得るのか?
従業員の氏名・住所・給与・評価・健康情報は、会社が管理する個人データです。個人情報保護法は、これを扱う事業者に次の枠組みを課しています。
| 条文 | 枠組み |
|---|---|
| 第23条 | 安全管理措置——漏えい・滅失・毀損の防止のために必要かつ適切な措置を講じる |
| 第24条 | 従業者の監督——従業者に個人データを取り扱わせるときの監督 |
| 第25条 | 委託先の監督——取扱いを委託するときの委託先への監督 |
| 第27条 | 第三者提供の制限——あらかじめ本人の同意を得ない個人データの第三者提供は原則できない |
生成AIについては、個人情報保護委員会が**「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)を公表し、事業者に対して次の2点を指摘しています。①個人情報を含むプロンプトの入力は、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること。②本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的(学習など)で取り扱われる場合**、個人情報保護法の規定に違反する可能性があること。
入力した内容がどう扱われるかは、サービスごとの契約と設定で変わります。だからこそ「このサービスなら大丈夫」という一般論は成り立たず、確認してから線を引く、という順序になります。
会社として、何を決めてから使えばよいのか?
社内で決める項目は、実務的には次の4つに整理できます。これは判断材料の提示であって、個別のサービスの適法性の評価ではありません。
| 決めること | 中身 |
|---|---|
| 入れてよい情報の線引き | 個人データ・健康情報・評価情報は入れない、といった社内基準。迷ったら入れない側に倒す |
| サービスの設定と契約 | 入力内容が学習に使われるか(次章で詳しく)。法人契約・オプトアウト設定の有無。規約の確認 |
| 使える人と場面 | 誰が・どの業務で使ってよいか。私物アカウントの業務利用を認めるか |
| 記録 | 何をどのサービスに入れたかを、あとから確認できる形にしておく |
決めたルールを服務規律として就業規則に位置づけるところは、労務管理の領域です。規程のかたちにする段取りはAIがつくった就業規則は、届け出られるかで書いた就業規則の手続と同じです。
「学習しない」設定にすれば、入れてもよいのか?
まず設定の話から。多くの生成AIサービスには、入力内容をモデルの**学習に使わせない設定(オプトアウト)**や、はじめから学習に使わない契約形態があります。各社の公表資料・解説(2026年8月14日参照)では、おおむね次の型に整理できます。
| 利用の形 | 学習への利用の扱い |
|---|---|
| 個人向けプラン | 既定で学習に使われる設定のサービスがあります。設定画面でオフにできるのが一般的です(ChatGPTの「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする、Claudeのプライバシー設定のトグルなど) |
| 法人向けプラン(Team・Enterprise等) | 既定で学習に使わないとするサービスが多く、管理者が組織全体の設定をまとめて管理できます |
| API経由 | 入力を既定で学習に使わないと明示するのが一般的です |
この設定は、前章で紹介した注意喚起の②——入力が応答の出力以外の目的(学習など)で取り扱われる場合——に直接かかわります。業務で使うなら、学習しない設定・契約を最初に確認するのが出発点です。 個人アカウントを既定のまま業務に使う形が、いちばん危ない形です。
ただし、2つ添えます。第一に、学習に使わない設定でも、不正利用の監視などのために入力データが一定期間保存される場合があります。保存の期間と条件はサービスと契約によって異なります。第二に、「学習しない」は「個人データを入れてよい」を意味しません。安全管理措置(第23条)や利用目的の範囲の論点は残りますし、氏名を伏せても、部署・役職・経緯の組み合わせで本人が特定できる場合があります。設定の名称・既定値・保存の扱いは頻繁に変わるため、利用時点で各サービスの公表資料を確認してください。
社会保険労務士に渡した情報は、どう守られるのか?
給与計算や手続の代行を頼むと、従業員の個人データは事務所に渡ります。ここには2つの守りがあります。
第一に、法律上の守秘義務です。開業社会保険労務士と、社会保険労務士でつくる法人の社員は、正当な理由なく、業務に関して知り得た秘密を漏らし、盗用してはならず、この義務はその立場でなくなった後も続きます(社会保険労務士法第21条)。
第二に、委託の枠組みです。会社から見ると、事務所は個人データの取扱いの委託先であり、会社には委託先を監督する立場が定められています(個人情報保護法第25条)。つまり、事務所がデータをどう扱っているかを確認することは、頼む側の当然の権利です。当事務所は、次のとおり運用を開示しています。
四葉は、AIと個人データをどう扱っているのか?
当事務所もAIを業務に使います。ただし、どの情報をどのAIに入れてよいかを定めた社内基準を持ち、そのうえで次の運用にしています。
- 顧客・従業員の個人データは、生成AIに入力しません。 加工の程度にかかわらず、この線は動かしません
- AIに任せるのは、一般的な資料の整理・論点の洗い出し・文書の下書きまで
- 個別の事案への判断は、資格者である代表が行います
この方針は、四葉不動産・四葉行政書士事務所の業務でも同じです(それぞれ独立した事業体として、別々に業務をお受けしています)。AIの答えの確かめ方はAIに労務を聞いてから、社労士に相談してよいかに、freeeのAI機能の現在地はfreee人事労務とfreee会計のAI連携は、どこまで進んでいるのかに書いています。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、給与計算・労働社会保険の手続・労務相談・就業規則の作成変更をお受けします。社内のAI利用ルールを服務規律として就業規則に位置づけるご相談も、労務管理の側面からお受けできます。ご相談は無料です。 料金は報酬額表で公開しており、よくある質問はFAQにまとめています。
誰に相談するか
個人情報保護法の解釈が必要な場面や、漏えいが起きたときの法的対応は弁護士の業務です。制度の一次情報は個人情報保護委員会の公表資料をご確認ください。税務は税理士、登記は司法書士、在留資格の申請・補助金・会社設立の書類は四葉行政書士事務所(当事務所とは別の事業体で、別々にご契約いただきます)がお受けします。いずれも紹介料の授受はありません。
よくある質問
Q. 従業員の名前や給与額をAIに入れるのは、違法なのですか?
A. 一律には決まりません。個人情報保護委員会は、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があると指摘しています(令和5年6月2日注意喚起)。サービスの契約・設定で扱いが変わるため、線引きを決めてから使うことをお勧めします。個別の適法性の判断が必要な場合は、弁護士にご相談ください。
Q. 「学習しない」設定にすれば、従業員の情報を入れてもよいですか?
A. 設定の確認は出発点として重要ですが、それだけで「入れてよい」ことにはなりません。学習に使わない設定でも入力データが一定期間保存される場合があり、安全管理措置(個人情報保護法第23条)や利用目的の範囲の論点も残ります。当事務所は、設定にかかわらず顧客・従業員の個人データを生成AIに入力しない運用にしています。
Q. 社会保険労務士に給与データを渡すのは、大丈夫なのですか?
A. 開業社会保険労務士と、社会保険労務士でつくる法人の社員には法律上の守秘義務があり、その立場でなくなった後も続きます(社会保険労務士法第21条)。また会社から見ると、事務所は個人データの取扱いの委託先で、会社には委託先を監督する立場があります(個人情報保護法第25条)。取扱いの運用を事務所に確認することは、頼む側の当然の権利です。
Q. 社内のAI利用ルールづくりは、どこに相談すればよいですか?
A. 服務規律として就業規則に位置づける部分は、社会保険労務士がお受けできます。個人情報保護法の解釈が必要な部分は弁護士に、制度の一次情報は個人情報保護委員会の公表資料をご確認ください。当事務所のご相談は無料です。
この記事の根拠
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第23条(安全管理措置)・第24条(従業者の監督)・第25条(委託先の監督)・第27条(第三者提供の制限) ―― 2026年8月14日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
- 社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)第21条(秘密を守る義務) ―― 同日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日・2026年8月14日参照)
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ - 各生成AIサービスの学習への利用の設定・既定値 ―― 各社の公表資料による(2026年8月14日参照)。名称・既定値・保存の扱いは変わるため、利用時点で各サービスの公表資料をご確認ください
本記事は、制度の枠組みの紹介と当事務所の運用の開示にとどまるものであり、個別のサービス利用の適法性の判断を示すものではありません。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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