メインコンテンツにスキップ
2026.09.01採用と雇用

外国人労働者への労働条件明示は、母国語でどこまで必要か

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

労働条件の明示そのものは労働基準法第15条第1項の義務ですが、条文は言語を指定していないため、日本語の通知書でも法律上の明示は成り立ち得ます。ただし外国人指針(平成19年厚生労働省告示第276号)は、母国語又は平易な日本語で理解できるよう明示するよう努めることを求めています。義務が二段構えである点を押さえ、モデル通知書の外国語版で「渡した・理解した」を残すのが実務です。2024年4月の追加事項が外国人雇用でどう効くかもあわせて整理します。

結論(先に要点):労働条件の明示そのものは労働基準法第15条第1項の義務ですが、条文は言語を指定していないため、日本語の通知書を交付するだけでも「法律上の明示」は成り立ち得ます。ただし「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)は、外国人が理解できるよう、母国語又は平易な日本語を用いる等の方法で明示するよう努めることとしています。義務のレベルが二段構えである点を押さえ、モデル通知書の外国語版を使って「渡した・理解した」を残すのが実務です。

労働条件通知書は、外国人にも日本語だけで渡してよいのですか?

まず制度の骨格から分けます。使用者は、労働契約を結ぶときに賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項、明示事項は労働基準法施行規則第5条)。この条文は明示すべき事項を定めていますが、どの言語で書くかは指定していません。したがって、日本語の労働条件通知書を交付すること自体が直ちに違法になるわけではありません。

一方で、外国人の雇用には別の規範が重なります。「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)は、外国人労働者が理解できるよう、母国語又は平易な日本語を用いる等の方法により労働条件を明示するよう努めることを求めています。ここは「努める」=努力義務です。

つまり、義務のレベルは二段構えです。

何を根拠義務のレベル
労働条件を明示すること労働基準法第15条第1項・労基則第5条法的義務(相手が外国人でも同じ)
明示する言語・方法(母国語・平易な日本語等)外国人指針(厚生労働省告示第276号)努力義務

「日本語で渡せば足りる」と読むと、努力義務の部分を落とします。逆に「必ず母国語でなければ違法」と読むのも正確ではありません。実務の勘どころは、法的義務は満たしたうえで、努力義務として理解できる方法を尽くし、後で「聞いていない」と食い違わない証跡を残すことです。

2024年4月改正で追加された明示事項は、外国人雇用でどこが実務に効きますか?

2024年4月から、明示事項が追加されました(労働基準法施行規則第5条の改正、令和5年厚生労働省令第39号、2024年4月1日施行)。すべての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」を、有期契約の労働者にはさらに「更新上限」「無期転換の申込機会」「無期転換後の労働条件」を明示します。改正の全体像は労働条件の明示ルールはどう変わった?に整理しています。

この改正は、外国人雇用で特に効きます。技能実習・特定技能・留学生アルバイトなど、有期契約で働く人が多いためです。有期の3事項は、契約の締結時だけでなく更新のたびに関わります。更新のたびに、更新上限や無期転換の話を、理解できる言語で伝え直す場面が増えるということです。

  • 更新上限:「更新は通算〇年まで」を、在留期間の更新とは別物として理解してもらう必要があります。在留期限と契約期間の関係は在留期限と雇用契約期間は、どちらが先に切れるかに整理しています。
  • 無期転換の申込機会:通算5年を超えると無期転換を申し込める、という案内は、言葉の壁があると伝わりにくい部分です。
  • 就業場所・業務の変更の範囲:配置転換の可能性を、母国語で正確に示しておかないと、後の異動で行き違いになります。

日本人と同じひな型を日本語のまま渡すだけでは、追加事項ほど伝わりにくくなります。外国語版のひな型に、追加事項の欄が反映されているかを確認することが要点です。

母国語や平易な日本語で示すとき、何を根拠にどこまで対応すればよいですか?

根拠は前記の外国人指針(努力義務)です。「どこまで」は、努力義務である以上、一律の正解はありません。実務では、次の順で対応を組み立てると過不足が出にくくなります。

  1. 厚生労働省のモデル労働条件通知書の外国語版を使う。厚生労働省は、労働条件通知書のモデル様式を英語・中国語・ベトナム語などの外国語版で公表しています(2026年8月31日参照)。追加された明示事項を反映した最新版を使います。
  2. 母国語版と日本語版を併せて交付する。母国語版だけだと、法的に効力を持つのは日本語版か外国語版かで解釈が分かれ得ます。両方を渡し、内容が対応していることを確認します。
  3. 「理解したこと」を残す。読み合わせをした、質問を受けた、といった事実を記録に残しておくと、後日の食い違いを防げます。翻訳の正確性を法令が保証してくれるわけではないため、専門用語(無期転換・変更の範囲など)の訳し方は慎重に扱います。

平易な日本語で示す場合も、追加事項は抽象的で伝わりにくいので、具体例を添えるのが実務です。募集の段階で示す求人票の明示(職業安定法)も同様に理解できる方法で行うことが求められており、入社時の明示との関係は求人票に書かなければならないことにまとめています。

なお、翻訳版を渡したかどうかにかかわらず、労働条件通知書の内容が就業規則・雇用契約書と食い違っていては意味がありません。多言語対応は「翻訳」よりも「実態との整合」が先です。

在留資格の申請・変更と労働条件明示は、どこで担当が分かれますか?

外国人を1人雇うと、在留資格・労働社会保険・住まいという別々の手続が同時に動きます。全体像は外国人を1人雇うと、窓口はいくつ必要かに整理しています。担当は、手続の性質で分かれます。

手続担当
在留資格の申請・変更・更新(入管への申請書類の作成・取次)行政書士(四葉行政書士事務所)
労働条件の明示、労働・社会保険の加入と届出、就業規則社会保険労務士(当事務所)
雇い入れ・離職時の外国人雇用状況の届出事業主の義務。社会保険労務士が代行できます

労働条件の明示は、在留資格が「就労できる資格か」を確かめたうえで行う労務の手続で、社会保険労務士の領域です。在留資格そのものを取る・変える手続は行政書士の領域で、当事務所とは別の事業体です。雇い入れ後のハローワークへの届出については外国人を雇ったら、ハローワークに届け出るにまとめています。

明示不足がトラブルになったとき、誰に相談すればよいですか?

明示が不十分だったこと自体は、まず労務の問題として、通知書・雇用契約書・就業規則の整合を点検し、以後の運用を整えることで対処します。ここは社会保険労務士がご支援できる範囲です。

一方、「聞いていない条件で不利益を受けた」「雇止めや配置転換が無効だ」といった個別の紛争になった場合、その有効性の判断や交渉・訴訟は弁護士の領域です。この記事は制度の枠組みの紹介にとどまり、個別の可否を判断するものではありません。紛争性のある場面は、弁護士への相談をご案内します。

トラブルを未然に防ぐ観点では、外国語版のひな型整備と、更新のたびの明示の運用設計を、雇い入れの前に決めておくことが最も効きます。

よくある質問

Q. 労働条件通知書を日本語だけで渡したら、それだけで違法になりますか?
A. 労働条件を明示すること自体は労働基準法第15条第1項の義務ですが、条文は言語を指定していないため、日本語で明示したことが直ちに違法になるわけではありません。ただし外国人指針(厚生労働省告示第276号)は、母国語又は平易な日本語を用いる等、理解できる方法で明示するよう努めることを求めており、これは努力義務です。トラブル予防の観点からは、外国語版を併せて交付するのが実務です。

Q. 母国語版と日本語版で内容がずれていたら、どちらが優先しますか?
A. 一般には、どちらの書面が労働条件を定めたものかという解釈の問題になり、事情によって判断が分かれます。だからこそ、母国語版と日本語版の内容を対応させ、翻訳の正確性を確認しておくことが重要です。個別の書面の効力をめぐる争いは、弁護士への相談をご案内します。

Q. 平易な日本語で口頭で説明すれば、書面は要りませんか?
A. 明示事項のうち、労働基準法施行規則第5条が定める主要な事項は、書面の交付(本人が希望した場合はファクシミリや電子メール等)による明示が原則です。口頭の説明は理解を助ける補助であり、書面の交付に代えることはできません。平易な日本語での説明は、書面を渡したうえで理解を確認するために行います。

Q. 在留資格の変更も、労働条件の通知書と一緒に社労士に頼めますか?
A. 在留資格の申請・変更は行政書士の業務で、当事務所(社会保険労務士事務所)とは別の事業体である四葉行政書士事務所が担当します。それぞれ別々にご契約いただく形です。労働条件の明示・労働社会保険の手続は当事務所が、在留資格は行政書士がと、担当を分けてご案内します。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項 ── 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。言語の指定はない
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条 ── 明示すべき労働条件を定める規定。主要な事項は書面の交付(労働者が希望した場合はファクシミリ・電子メール等)による。2024年4月1日施行の改正(令和5年厚生労働省令第39号)で、就業場所・業務の変更の範囲、有期契約の更新上限、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件が追加された
  • 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年8月3日厚生労働省告示第276号) ── 事業主は、外国人労働者が理解できるよう、その内容について、外国人労働者が使用する言語又は平易な日本語を用いる等、外国人労働者が理解できる方法により、労働条件を明示するよう努めること。募集に当たっての明示についても同様に、理解できる方法で行うよう努めることとされている(2026年8月31日参照)
  • 厚生労働省 モデル労働条件通知書(外国語版) ── 労働条件通知書のモデル様式が英語・中国語等の外国語版で公表されている。追加された明示事項を反映した最新版を使う(2026年8月31日参照)
  • 公的資料・条文は2026年8月31日に確認。翻訳版と日本語版の内容がずれた場合にどちらが効力を持つか、特定の雇止め・配置転換が有効かどうかといった個別の該当性は、事情によって判断が分かれます。本記事は制度の枠組みの紹介にとどまり、個別の可否を判断するものではありません

四葉不動産株式会社、四葉行政書士事務所、四葉社会保険労務士事務所は、それぞれ独立した事業体として業務を受任します。他の専門家をご紹介する場合も、お客様に直接ご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。外国人の労働条件明示について当事務所がご支援するのは、外国語版を含む労働条件通知書・雇用契約書のひな型整備と、就業規則との整合の点検です。在留資格の申請・変更は四葉行政書士事務所が別々にご契約のうえ担当し、個別の紛争や訴訟は弁護士の領域としてご案内します。費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、最新の一次資料(厚生労働省、e-Gov等)を踏まえ、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

「人」のことから、整理しませんか。

四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。

LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。

東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分|火・水 10:00〜19:00/月・木・金・土・日 18:00〜19:00