個人事業主が亡くなり相続人が事業を継ぐとき、従業員の社会保険はどうなるか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
個人事業主が亡くなり相続人が事業を継ぐときは、法人の代表者が亡くなった場合と扱いが根本的に違います。個人事業では事業主=自然人なので、事業主が亡くなると、その人を事業主としていた社会保険・労働保険の適用事業所はいったん区切りがつき、後継者が新たな事業主として引き継ぎます。実務は「旧事業主のもとでの全喪(消滅)」と「後継者を事業主とする新規適用(新規成立)」の組み合わせで動くのが原則です。労働契約は個人事業主本人との契約で当然には承継されず、後継者が結び直します。有給休暇は継続勤務(労働基準法第39条)で実質的に継続していれば通算が一般的。準確定申告(所得税法第125条)や相続税は税理士、許認可の承継は行政書士、相続登記は司法書士の領域です。
結論(先に要点):個人事業主が亡くなり相続人が事業を継ぐときは、法人の代表者が亡くなった場合と扱いが根本的に違います。個人事業では事業主=自然人なので、事業主が亡くなると、その人を事業主としていた社会保険・労働保険の適用事業所はいったん区切りがつき、後継者が新たな事業主として引き継ぎます。実務は「旧事業主のもとでの適用事業所の全喪(消滅)」と「後継者を事業主とする新規適用(新規成立)」の組み合わせで動くのが原則です。
だから最初に止めてはいけないのは、従業員の給与計算と社会保険・労働保険です。給与を払う義務は事業に付いて回ります。亡くなった事業主本人の準確定申告(所得税法第125条・4か月以内)や相続税は税理士、許認可の承継は行政書士、相続登記は司法書士の領域です。当事務所がお引き受けするのは労務・社会保険の支援で、個別の判断は面談のうえ資格者が行います。
個人事業主が亡くなると、労働保険・社会保険の適用はどうなりますか?
法人は代表者が亡くなっても法人自体は残るため、社会保険・労働保険は代表者変更の届出で続きます。ところが個人事業では、事業主がその自然人本人です。事業主が亡くなると、その人を事業主としていた適用事業所は、事業の廃止に伴っていったん消滅する扱いになります。後継者が同じ事業を続ける場合でも、後継者は別人格なので、後継者を事業主とする適用事業所を新たに立てるのが原則です。
| 保険 | 亡くなった事業主のもと | 後継者のもと | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 適用事業所全喪届(事実があった日から5日以内) | 新規適用届(事実があった日から5日以内) | 健康保険法施行規則第20条第1項・第19条第1項/厚生年金保険法施行規則第13条の2第1項・第13条第1項 |
| 労働保険(労災・雇用) | 保険関係は事業の廃止・終了の翌日に消滅/確定保険料申告書(消滅日から50日以内) | 保険関係成立届(成立日から10日以内)/概算保険料申告書(成立日から50日以内) | 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第5条・第19条第1項・第4条の2第1項・第15条第1項 |
| 雇用保険 | 適用事業所廃止届 | 適用事業所設置届 | 雇用保険法施行規則第141条第1項 |
ただし、個人事業主の死亡による承継を、労働保険で「消滅+新規成立」とするか「事業主の変更」として扱うかは、労働局・ハローワーク・年金事務所の運用や事業の同一性の見方によって分かれる場面があります。実際の手続の入り方は、書く直前に管轄の窓口で確認してください。この記事では一般的な原則までにとどめ、個別の処理は結論を出しません。会社(法人)の代表者が亡くなった場合の初動は社長が急に亡くなった、会社の給与と社会保険はどう動く?──労務側の初動に整理しています。
従業員の雇用契約は、後継者にそのまま引き継がれますか?
ここが個人事業でいちばん誤解の多いところです。労働契約は、従業員と「個人事業主その人」との間の契約です。事業主が自然人であるため、事業主の死亡は契約の当事者の一方が失われることを意味します。法人であれば法人格が残るので契約はそのまま続きますが、個人事業では、後継者へ労働契約が当然に引き継がれるという明文の規定はありません。
| 論点 | 個人事業の承継での考え方 |
|---|---|
| 労働契約の当事者 | 従業員と個人事業主本人。事業主=自然人 |
| 承継の可否 | 当然には後継者へ移らない。後継者が新たな使用者として結び直す(又は黙示の合意で継続する)のが実務 |
| 労働条件の明示 | 後継者との労働契約になる場合、労働条件を改めて明示する(労働基準法第15条第1項・同法施行規則第5条) |
| 実務の要点 | 従業員に不利益が生じないよう、賃金・勤続の取扱いを整理してから切り替える |
現実には、後継者が事業をそのまま続け、従業員も働き続けるので、労働関係が実質的に途切れないことが多いものです。それでも「誰が使用者か」がいったん変わる以上、労働条件の明示をやり直し、後述の有給休暇や退職金の勤続をどう扱うかを決めておくことが、後々の争いを避ける要点になります。雇用契約と労働時間の設計は短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかもあわせてご覧ください。
有給休暇や退職金、給与計算の締めはどう扱いますか?
年次有給休暇は「継続勤務」を要件とします(労働基準法第39条)。事業主が変わっても、事業の同一性が保たれ、労働関係が実質的に継続していると見られる場合は、勤続年数を通算して扱うのが一般的な考え方です。形式的に事業主が変わったことだけを理由に、勤続をゼロに戻すと、後で争いになりやすい点です。
| 論点 | 考え方 |
|---|---|
| 年次有給休暇 | 労働関係が実質的に継続していれば勤続年数は通算される扱いが一般的(労働基準法第39条) |
| 退職金 | 規程があれば規程による。勤続の通算・打切りの扱いを規程と実態で確認する |
| 給与計算の締め | 死亡日で機械的に区切らず、締め日・支払日と支払義務者(後継者)を整理する |
| 未払賃金 | 亡くなった事業主のもとで発生した賃金は、支払義務がどこに残るかを個別に確認する |
給与を止めないことが初動の要点です。事業を続ける以上、賃金の支払期日は待ってくれません。誰が当面の支払と意思決定をするかを、後継者の確定と並行して早く決めてください。ただし、個別の勤続の通算の可否や未払賃金の帰属は、事業の同一性や相続の状況によって判断が分かれるため、この記事では結論を出しません。
許認可や屋号を継ぐ手続と、労務の手続はどう分かれますか?
事業を継ぐには、労務・社会保険の手続のほかに、許認可や屋号(税務上の開業・廃業届を含む)の手続が別に動きます。担当する資格が違うため、それぞれ別の窓口・別の契約になります。
| 手続 | 担当 |
|---|---|
| 従業員の社会保険・労働保険の切替、雇用契約の結び直し、給与計算の継続 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 亡くなった事業主の廃業届・後継者の開業届など税務、相続税・準確定申告 | 税理士 |
| 建設業・飲食業などの許認可の承継・取り直し | 行政書士 |
| 相続登記(不動産の名義変更)・相続放棄の申述 | 司法書士・弁護士 |
許認可は業種によって、地位の承継が認められるもの・後継者が取り直すものが分かれます。許認可の承継は行政書士の業務で、四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体です。必要な場合は、お客様に別々にご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。相続をきっかけに事業を売る・組織を変える場合の労務は、事業承継・M&Aのとき、労務と社会保険はどうなるかもあわせてご覧ください。
相続・登記・税務・労務は、誰にどこを頼めばよいですか?
事業承継の準備は、担当する事業体が分かれます。
| 論点 | 担当 |
|---|---|
| 従業員の社会保険・労働保険の切替、雇用契約の結び直し、就業規則・賃金規程、給与計算の継続 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 相続税・準確定申告、廃業届・開業届などの税務 | 税理士 |
| 許認可の承継・取り直し | 行政書士 |
| 相続登記・遺産分割の登記 | 司法書士 |
| 相続人間に争いがある場合 | 弁護士 |
四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体です。必要な場合は、お客様に別々にご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
当事務所がお引き受けするのは、従業員を守りながら事業を続けるための、労務・社会保険の初動と切替です。
- 亡くなった事業主のもとでの適用事業所の全喪・廃止と、後継者を事業主とする新規適用・成立の手続
- 従業員の被保険者資格の切替(喪失・取得)と、期限の管理
- 後継者との労働契約の結び直しと労働条件の明示
- 有給休暇・退職金の勤続の取扱いの整理と、就業規則・賃金規程の見直し
- 給与計算の締め・支払の継続の設計
次のものは、当事務所では扱いません。
- 亡くなった事業主の廃業届・後継者の開業届、相続税・準確定申告 → 税理士へおつなぎします
- 建設業・飲食業などの許認可の承継・取り直し → 四葉行政書士事務所が別の事業体として承ります
- 相続登記・遺産分割の登記 → 司法書士へおつなぎします
- 相続人間の紛争 → 弁護士へおつなぎします
四葉不動産株式会社、四葉行政書士事務所、四葉社会保険労務士事務所は、それぞれ独立した事業体として業務を受任します。他の専門家をご紹介する場合も、お客様に直接ご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。
ご相談は無料です。費用は報酬額表に、サービス内容とご相談の流れもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 個人事業主が亡くなると、社会保険はいったん切れますか?
A. 個人事業では事業主が自然人本人なので、その人を事業主としていた適用事業所は、事業の廃止に伴っていったん消滅する扱いが原則です。後継者が同じ事業を続ける場合でも、後継者を事業主とする適用事業所を新たに立て、従業員は資格の喪失と取得で切り替えます。法人の代表者が亡くなった場合は法人が残るため代表者変更で続く点と、扱いが違います。具体的な処理の入り方は管轄の年金事務所・労働局・ハローワークで確認してください。
Q. 従業員の雇用契約は自動で後継者に引き継がれますか?
A. 労働契約は従業員と個人事業主本人との契約で、後継者へ当然に引き継がれるという明文の規定はありません。実務では、後継者が新たな使用者として労働契約を結び直す(又は黙示の合意で継続する)形になります。使用者がいったん変わる以上、労働条件を改めて明示し(労働基準法第15条第1項)、有給休暇や退職金の勤続の取扱いを決めておくことが、後の争いを避ける要点です。
Q. 有給休暇の勤続年数はゼロに戻りますか?
A. 年次有給休暇は継続勤務を要件とします(労働基準法第39条)。事業の同一性が保たれ、労働関係が実質的に継続していると見られる場合は、勤続年数を通算して扱うのが一般的な考え方です。形式的に事業主が変わったことだけを理由に勤続をゼロに戻すと、後で争いになりやすい点です。個別の通算の可否は事情によって分かれるため、この記事では結論を出しません。
Q. 準確定申告や相続税は社労士に頼めますか?
A. 準確定申告(所得税法第125条・相続の開始を知った日の翌日から4か月以内)や相続税の申告は、税理士の業務です。当事務所は労務・社会保険の切替と雇用契約の結び直しをお引き受けし、税務は税理士へおつなぎします。許認可の承継は四葉行政書士事務所が別の事業体として、相続登記は司法書士が承ります。それぞれ別契約となり、紹介料はありません。
この記事の根拠
- 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)第19条第1項(新規適用届)・第20条第1項(全喪届)・第24条第1項(資格取得届)・第29条第1項(資格喪失届) ── 適用事業所となったとき/該当しなくなったときの事業主の届出(事実があった日から5日以内)。日本年金機構の手続案内で確認(2026年8月27日参照)
- 厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)第13条第1項(新規適用届)・第13条の2第1項(全喪届)・第15条第1項(資格取得届)・第22条第1項(資格喪失届) ── 同上
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第4条の2第1項(保険関係成立届・成立日から10日以内)・第5条(事業の廃止・終了の翌日に保険関係が当然に消滅)・第15条第1項(概算保険料申告書・成立日から50日以内)・第19条第1項(確定保険料申告書・消滅日から50日以内)
- 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第141条第1項(適用事業所設置届・廃止届)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項・同法施行規則第5条 ── 労働条件の明示(後継者との労働契約になる場合に改めて明示する)
- 同法 第39条 ── 年次有給休暇の継続勤務要件(労働関係が実質的に継続していれば勤続年数は通算される扱いが一般的)
- 同法 第24条 ── 賃金の全額払い等の原則。承継の混乱の中でも従業員の賃金の支払は止めない前提の根拠
- 所得税法(昭和40年法律第33号)第125条 ── 年の中途で死亡した場合の確定申告(準確定申告)。相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告する(税務は税理士の業務。国税庁の解説で確認・2026年8月27日参照)
- 個人事業主の死亡による承継を、労働保険で「消滅+新規成立」とするか「事業主の変更」として扱うかは、労働局・ハローワーク・年金事務所の運用や事業の同一性の見方によって分かれる場面がある。個別の処理の入り方は本記事では扱っていません(未検証)
- 建設業許可・飲食業の営業許可など、許認可の地位の承継の可否は業種・根拠法令ごとに異なる(許認可は行政書士の業務)。本記事では扱っていません(未検証)
- 未払賃金・退職金の帰属、勤続年数の通算の可否は、事業の同一性や相続の状況によって判断が分かれる。個別の事案は本記事では扱っていません(未検証)
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。四葉社会保険労務士事務所では、亡くなった事業主のもとでの適用事業所の全喪・廃止と後継者を事業主とする新規適用・成立の手続、従業員の被保険者資格の切替と期限の管理、後継者との労働契約の結び直しと労働条件の明示、有給休暇・退職金の勤続の取扱いの整理、就業規則・賃金規程の見直し、給与計算の締め・支払の継続の設計についてご相談いただけます。相続税・準確定申告などの税務は税理士へ、許認可の承継は四葉行政書士事務所が別の事業体として、相続登記は司法書士へおつなぎし、それぞれ別々にご契約いただきます。相続人間に争いがある場合は弁護士へおつなぎします。別の専門家が必要な場合は、それぞれ別契約となり、紹介料はありません。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
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