労働保険の年度更新(概算・確定保険料)は、いつ何をどう計算するか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までに、前年度の確定保険料を精算し、当年度の概算保険料を申告・納付する手続です(徴収法第15条・第19条)。保険料は「賃金総額×保険料率」で、賃金総額に何を含めるかで金額が変わります。概算保険料が40万円以上等なら延納(3期分割)ができます。賃金総額に含める・含めない手当の分かれ目、延納の要件と納期限、自社で回す場合と社労士に頼む場合の違いを表で整理します。
結論(先に要点):労働保険の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までに、前年度の確定保険料を精算し、当年度の概算保険料を申告・納付する手続です(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第15条・第19条)。保険料は「賃金総額×保険料率」で、どの賃金を総額に含めるかで金額が変わります。概算保険料が一定額以上なら延納(3期分割)ができます。数字は表で押さえておけば、自社で回すか社労士に頼むかの判断もしやすくなります。
労働保険の年度更新とは、いつまでに何を出す手続きですか?
労働保険(労災保険・雇用保険)の保険料は、保険年度(4月1日から翌年3月31日まで)の初めに概算で納め、年度末が確定したところで精算する仕組みです。この「前年度の精算」と「当年度の概算の申告」を一度に行うのが年度更新です。
継続事業の事業主は、その保険年度の6月1日から40日以内、すなわち7月10日までに、概算保険料を申告・納付します(徴収法第15条第1項)。あわせて、前保険年度の確定保険料も同じ期間に申告・納付します(第19条第1項)。実務ではこの二つを1枚の年度更新申告書で処理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 労災保険・雇用保険の保険料(一括して労働保険料として申告) |
| 対象期間 | 保険年度=4月1日〜翌年3月31日 |
| 申告・納付の期間 | 毎年6月1日〜7月10日 |
| 内容 | 前年度の確定保険料の精算+当年度の概算保険料の申告・納付 |
期限を過ぎると、政府が保険料の額を決定し、追徴金が課されることがあります(徴収法第21条)。設立した年に何をいつ出すかは会社をつくったら、いつまでに何を出すのかに、会社をたたむときの確定保険料の扱いは会社をたたむとき、社会保険と労働保険はどうするかに整理しています。
確定保険料と概算保険料は、どの賃金をもとにどう計算しますか?
どちらも「賃金総額×保険料率」で計算します。違いは、どの期間の賃金を使うかです。
- 確定保険料=前年度に実際に支払った賃金総額 × 前年度の保険料率
- 概算保険料=当年度に支払う見込みの賃金総額 × 当年度の保険料率
概算の見込み賃金総額は、前年度と大きく変わらない見込みであれば、前年度の確定賃金総額をそのまま用います。具体的には、見込額が前年度の確定額の100分の50以上100分の200以下に収まる場合は、前年度と同額を見込み額として使う扱いです。
保険料率は、労災保険率(事業の種類ごとに異なり、全額が事業主負担)と雇用保険率(労使で分担)の合計です。率は年度や業種で改定されるため、その年度の公式リーフレットで確認します(率の具体的な数値は本記事では固定しません。2026年8月31日参照)。
計算の順序は次のとおりです。
- 前年度に支払った賃金を月ごとに集計し、確定賃金総額を出す
- 確定賃金総額 × 前年度の料率=確定保険料。すでに納めた概算保険料と比べ、差額を精算する
- 当年度の見込み賃金総額 × 当年度の料率=概算保険料
- (前年度の精算の不足+当年度の概算)を7月10日までに納付する
賃金総額に含める・含めない手当は、どこで判断が分かれますか?
賃金総額の「賃金」は、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものを指します(徴収法第2条第2項)。含めるか含めないかは、この「労働の対償か」で分かれます。税や社会保険料を控除する前の額で数えます。
| 含めるもの(例) | 含めないもの(例) |
|---|---|
| 基本給・固定給 | 役員報酬(労働者でない役員に対するもの) |
| 通勤手当・時間外手当・家族手当・住宅手当など諸手当 | 退職金、退職を事由に支払われるもの |
| 賞与・一時金 | 結婚祝金・見舞金など恩恵的・任意的な給付 |
| 通勤定期券・回数券など現物で支給する通勤費 | 出張旅費・宿泊費など実費弁償的なもの |
判断が分かれやすいのは、名目が手当でも実費弁償の性格が強いもの(出張旅費など)や、恩恵的な給付です。ここを取り違えると賃金総額がずれ、保険料も過不足になります。役員でも、取締役でありながら労働者としての性格を併せ持つ使用人兼務役員の賃金部分は取り扱いが分かれるため、注意が要ります。役員と労災の関係は社長には労災が出ない。そして1人だと特別加入もできないにまとめています。個別の手当が賃金に当たるかどうかの最終的な当てはめは、実態に即して判断します。
納付が高額なとき、分割(延納)はどこまでできますか?
概算保険料が一定額以上のときは、延納(分割納付)ができます(徴収法第18条)。要件と回数は次のとおりです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 延納できる場合 | 概算保険料額が40万円以上(労災保険・雇用保険のいずれか一方のみ成立している事業は20万円以上)、又は労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託している場合 |
| 分割回数 | 3期に分割(継続事業・年度更新の場合) |
| 各期の納期限(原則) | 第1期=7月10日、第2期=10月31日、第3期=翌年1月31日 |
| 事務組合に委託している場合 | 第2期・第3期の納期限が延長される(原則として11月14日・2月14日) |
納期限が土日・祝日に当たるときは翌開庁日にずれるため、実際の期日はその年度の公式リーフレットで確認します(2026年8月31日参照)。労働保険事務組合への委託は、中小事業主等の特別加入の前提にもなる仕組みで、委託の可否は事業者のご判断です。
延納しない場合は、確定の精算分と概算の全額を7月10日までに一括で納付します。資金繰りを考えるなら、要件に当たるかどうかを早めに確認しておくと選択肢が増えます。
計算や申告を自社でやる場合と社労士に頼む場合で、何が変わりますか?
年度更新は、賃金を正しく集計できれば自社でも申告できる手続です。実際、多くの事業所が自社で対応しています。自社で行う場合に効くのは、賃金総額の集計精度と、料率・様式が最新かどうかの確認です。
社会保険労務士に頼む場合に変わるのは、次の点です。
- 賃金総額に含める・含めないの当てはめを、実態に即して整理する
- 概算と確定の差額の精算、延納の要否を含めて申告書を作成し、代理・代行する
- 給与計算や社会保険の手続とあわせて、賃金データを一つの流れで扱う
報酬を得て他人の労働保険の申告書を作成・提出する代行は、社会保険労務士の業務です。会社の会計・法人税は税理士の領域で、労働保険料の計算とは担当が分かれます。当事務所の関与は労働・社会保険の手続に限られ、税務は税理士へ、個別の紛争は弁護士へご案内します。費用の目安は報酬額表にまとめています。
よくある質問
Q. 年度更新は、いつからいつまでに出せばよいですか?
A. 継続事業では、毎年6月1日から7月10日までに、前年度の確定保険料の精算と当年度の概算保険料の申告・納付を行います(徴収法第15条・第19条)。この二つを1枚の年度更新申告書で処理します。期限を過ぎると、政府による保険料の決定と追徴金の対象になることがあります。
Q. 通勤手当や賞与は、賃金総額に入れるのですか?
A. 通勤手当・時間外手当・家族手当などの諸手当や賞与は、労働の対償として支払うものなので、原則として賃金総額に含めます。一方、退職金、恩恵的な慶弔見舞金、出張旅費などの実費弁償的なものは含めません。名目ではなく「労働の対償か」で判断し、税・社会保険料を控除する前の額で数えます。
Q. 保険料が高額です。分割して納められますか?
A. 概算保険料額が40万円以上(労災・雇用の一方のみ成立の事業は20万円以上)、又は労働保険事務組合に委託している場合は、3期に分割して納められます(徴収法第18条)。各期の納期限は原則として第1期7月10日・第2期10月31日・第3期翌年1月31日で、事務組合委託の場合は第2期・第3期が延長されます。実際の期日は土日祝で前後するため、その年度のリーフレットで確認します。
Q. 保険料率は毎年同じですか?
A. 労災保険率は事業の種類ごとに定められ、雇用保険率とあわせて年度や情勢に応じて改定されます。前年度と同じ率とは限らないため、年度更新のたびに、その年度の公式リーフレットで最新の率を確認してから計算します。本記事では率の具体的な数値は固定していません。
この記事の根拠
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第15条第1項 ── 継続事業の事業主は、その保険年度ごとに、概算保険料を、その保険年度の6月1日から40日以内(保険年度の中途に保険関係が成立した場合は成立日から50日以内)に申告・納付しなければならない
- 同法第19条第1項 ── 確定保険料の申告・納付。前保険年度の確定保険料を、次の保険年度の6月1日から40日以内等に申告・納付する。既に納付した概算保険料との差額を精算する
- 同法第2条第2項 ── 「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいう(賃金総額の範囲の根拠)
- 同法第18条・同法施行規則 ── 概算保険料額が40万円(労災保険・雇用保険の一方のみ成立の事業は20万円)以上、又は労働保険事務組合に委託している場合、概算保険料を延納(3期分割)できる
- 厚生労働省 労働保険 年度更新のリーフレット・申告書の書き方 ── 年度更新の申告・納付期間は毎年6月1日から7月10日まで。延納の各期の納期限(原則)は第1期7月10日・第2期10月31日・第3期翌年1月31日、事務組合委託の場合は第2期・第3期が延長される。土日祝により実際の期日は前後する。保険料率は年度・業種により改定される(2026年8月31日参照)
- 公的資料・条文は2026年8月31日に確認。個別の手当が賃金に当たるかどうか、延納の要件に当たるかどうかといった当てはめは、実態や年度の取扱いによって判断が分かれます。本記事は制度の枠組みの紹介にとどまり、個別の可否を判断するものではありません
四葉不動産株式会社、四葉行政書士事務所、四葉社会保険労務士事務所は、それぞれ独立した事業体として業務を受任します。他の専門家をご紹介する場合も、お客様に直接ご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。年度更新について当事務所がご支援するのは、賃金総額の整理と申告書の作成・代行、延納の要否の確認です。会社の会計・法人税は税理士に、個別の紛争や訴訟は弁護士にご案内します。費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、最新の一次資料(厚生労働省、e-Gov等)を踏まえ、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。
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