技能実習と育成就労で、労務は何が変わるのか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
いちばん大きい違いは、本人の意向による転籍が認められることです。人が辞められる制度になるため、労務の軸は「来てもらう」から「残ってもらう」に移ります。待遇の透明化・生活相談の体制・日本語と技能の育成計画・賃金カーブ——様式の構造から逆算して、労務が変えるものを整理します。
結論(先に要点):労務にとっていちばん大きい違いは、本人の意向による転籍が認められることです。「人が辞められる制度」になるため、労務の軸は「来てもらう」から**「残ってもらう」**に移ります。日本語能力や技能の段階が計画の要素になるため(目標とする日本語能力の申告様式があります)、賃金と育成の設計そのものが労務の仕事になります。
このページは、技能実習で受け入れてきた会社・これから育成就労を検討する会社の経営者・総務担当の方に向けた総論です。制度全体の解説は世に多く、分野別の運用要領もいまも更新されています。本記事は労務が何をどう変えるかに絞り、各論は4本のコラムへつなぎます。
何がいちばん変わるのか?
人が動けるようになることです。 育成就労計画認定の申請様式には、実施者の変更希望(転籍)に関する様式が7つ用意されています(参考様式第1-16号〜第1-22号。OTIT・2026年8月14日確認)。様式の数が示すとおり、転籍は例外処理ではなく制度の設計の中心にあります。
これまで「受け入れたら基本的に最後までいる」前提で組まれていた労務——寮の費用、貸与物、教育投資の回収、賃金カーブ——は、「途中で移り得る」前提で組み直すことになります。待遇の書面が何枚も要るのも(待遇欄に何を書くのか)、入口で示した条件が後から照合される制度だからです。
「残ってもらう」ために、労務は何をするのか?
精神論ではなく、様式が示す構造から逆算できます。
| 打ち手 | 対応する制度側の要素 |
|---|---|
| 待遇の透明化——契約・説明書面・給与明細を一致させる | 待遇に関する重要事項説明書(第1-13号)、報酬・宿泊施設・徴収費用の説明書(第1-15号・第1-39号) |
| 住居費の設計——徴収額と現物給与の整理 | 宿泊施設・徴収費用が書面の記載事項になっている |
| 相談される体制——生活相談員を「名前だけ」にしない | 育成就労責任者・育成就労指導員・生活相談員の就任承諾書(第1-11号) |
| 日本語と技能の育成計画——学習時間と費用負担を決める | 目標とする日本語能力に係る講習等履修状況申告書(第1-35号) |
| 賃金カーブ——段階が上がったら賃金がどう上がるかを示す | 技能・日本語の段階が計画の要素になっている構造そのもの |
どれも「本人がここに残る理由」を書面と実態の両方で示す作業です。待遇のずれは、以前なら不満で済んだものが、これからは転籍という出口につながります。 逆にいえば、透明な待遇と育成の設計は、そのまま定着の設計になります。
技能実習からの移行で、手続はどうなるのか?
カレンダーは育成就労、いま何をしておくのかに一次資料付きでまとめました。骨子だけ再掲します——監理支援機関許可の施行日前申請は受付中、育成就労計画認定の施行日前申請は2026年9月1日から、技能実習側は監理団体の新規許可が2026年9月30日まで・1号技能実習計画の認定申請が2027年2月まで(OTIT・2026年8月14日確認)。
いま技能実習中の方の扱いについては、申請様式に**旧技能実習生に係る認定申請書(別記様式第3号(2))**が用意されており、移行の道筋が様式レベルで存在することが確認できます。個々のケースで移行できるか・いつどう移行するかの判断は、主務省令・運用要領・入管の領域です。当事務所では判断せず、申請側は四葉行政書士事務所(別事業体)にご相談ください。
どこから手をつけるのか?
順序を1本にすると、こうなります。
- カレンダーを引く——いま何をしておくのかの期限を自社の予定に落とす
- 待遇と住居費を設計する——待遇欄に何を書くのか
- 規程を直す——就業規則をどう直すのか
- 転籍の手続を準備しておく——転籍されたとき、社会保険と雇用保険はどうなるのか
1が締切のある作業、2〜4が中身の作業です。1だけ先に済ませて、2〜4を施行までに積む、という進め方が現実的です。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、育成就労への移行に伴う労務の作り替え——待遇の書面、住居費と現物給与、就業規則・社宅規程、転籍時の手続——を一つずつお受けします。ご相談は無料です。 料金は報酬額表に掲載しています。技能実習で受け入れ中の会社の「うちは何から動くべきか」という段階のご相談も歓迎します。
誰に相談するか
監理支援機関の許可申請・育成就労計画認定の申請・在留資格・移行の要件は四葉行政書士事務所(当事務所とは別の事業体で、別々にご契約いただきます。外部監査人の依頼先の選び方はこちら)。監査に備える側の整理は外部監査人(備える側)。住まい・社宅は四葉不動産株式会社(別事業体・別契約)、給与課税は税理士、紛争性のある事案は弁護士の業務です。いずれも紹介料の授受はありません。
よくある質問
Q. 技能実習と育成就労は、別の法律の制度ですか?
A. 別の法律ではありません。育成就労制度は、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)を令和6年法律第60号が改正して設けられるものです(題名も改められますが、e-Govの現行条文は改題前です。2026年8月14日確認)。
Q. 転籍で人が出ていくなら、教育投資は回収できないのでは?
A. その不安が、賃金と育成の設計を労務の仕事にする理由です。費用負担のルールを入口の書面で明確にし(第1-39号)、段階に応じた賃金カーブで「残る理由」を示すのが基本線です。なお、退職時の費用返還を安易に定めると労働基準法第16条との関係が問題になり得る点は就業規則の記事で書いたとおりです。
Q. 給与水準は上げなければいけませんか?
A. 一律の答えは本記事では示しません。報酬の水準は計画の認定に関わる領域で、分野別の定めもあります。労務の側で確実なのは、報酬・徴収費用の説明書面と実際の支給・控除を一致させることと、段階が上がったときの昇給の道筋を示すことです。
Q. まだ何も決まっていない段階でも相談できますか?
A. できます。ご相談は無料です。カレンダー(期限)の確認と、自社の現状の棚卸し——契約書式・規程・住居費・保険の手続——から始めるのが、いちばん無駄のない入り方です。
この記事の根拠
- 外国人技能実習機構「育成就労計画認定施行日前申請」(令和8年8月5日更新・2026年8月14日確認)――参考様式第1-11号・第1-13号・第1-15号・第1-16号〜第1-22号・第1-35号・第1-39号、旧技能実習生に係る別記様式第3号(2)、「1号技能実習計画の認定申請は令和9年2月までに」の注記
- 外国人技能実習機構「監理支援機関許可施行日前申請」(令和8年7月10日更新・2026年8月14日確認)――受付中・「監理団体の新規許可は令和8年9月30日までに」の注記
- 育成就労制度の根拠法令=外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)の改正(令和6年法律第60号)。e-Govの現行条文は改題前であることを2026年8月14日に確認
- 移行の要件・報酬水準・転籍の可否の詳細は、主務省令・運用要領(2026年8月5日改正)・分野別の定め・入管の領域です。本記事は労務側の設計のみを扱っています
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。
LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。
東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分|火・水 10:00〜19:00/月・木・金・土・日 18:00〜19:00
