転籍されたとき、社会保険と雇用保険はどうなるのか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
労務の側から見ると、転籍は「離職」と「雇入れ」が同時に起きることです。転籍元は資格喪失、転籍先は資格取得、外国人雇用状況の届出は両方で必要になります。移動・転居の費用は申請の段階で書面により説明しておく事項です。両側の手続を期限とあわせて整理します。
結論(先に要点):労務の側から見ると、転籍は**「離職」と「雇入れ」が同時に起きることです。転籍元は社会保険・雇用保険の資格喪失**、転籍先は資格取得の手続を行い、外国人雇用状況の届出は離職側と雇入れ側の両方で必要です(労働施策総合推進法第28条第1項)。移動・転居の費用は、申請の段階で書面により説明しておく事項になっています(参考様式第1-39号)。
このページは、育成就労で受け入れる会社・受け入れている会社の総務担当の方に向けたものです。転籍が認められる要件(何年で・どんな場合に認められるか)は主務省令・入管の領域のため、本記事では扱いません。要件の側は育成就労の外部監査人ページを持つ四葉行政書士事務所(別事業体)にご相談ください。本記事は、転籍が起きたときに労務が何をするかだけを書きます。
転籍は、法律上どういう扱いになるのか?
労働・社会保険の世界に「転籍」という特別な手続はありません。転籍元との雇用契約の終了と、転籍先との雇用契約の締結——つまり離職と雇入れです。だから、手続も両側で通常どおり発生します。ここを「制度内の異動だから手続は簡単なはず」と考えると、届出が漏れます。
なお、育成就労計画認定の申請様式には実施者の変更希望に関する様式が7つ(参考様式第1-16号〜第1-22号)用意されています(OTIT・2026年8月14日確認)。様式の数が示すとおり、転籍はこの制度の例外事象ではなく、設計の中心です。「起きたら考える」ではなく、起きる前提で手続を整えておくものだと考えてください。
転籍元は、何をいつまでに出すのか?
| 手続 | 期限の目安 |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 | 事実発生から5日以内 |
| 雇用保険 被保険者資格喪失届(離職票の要否を本人に確認) | 離職日の翌日から10日以内 |
| 外国人雇用状況の届出(離職側) | 雇用保険の資格喪失届が兼ねます。被保険者でない場合は様式第3号を翌月末日まで |
| 社宅を貸与していた場合の明渡し・費用の精算 | 契約と社宅の現物給与の整理による |
「本人が別の会社に移るだけだから」と喪失届を後回しにすると、保険料の計算と本人の保険証の切り替えの両方が滞ります。期限は通常の退職と同じです。
転籍先は、何をいつまでに出すのか?
| 手続 | 期限の目安 |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 事実発生から5日以内 |
| 雇用保険 被保険者資格取得届 | 雇入れ日の属する月の翌月10日まで |
| 外国人雇用状況の届出(雇入れ側) | 資格取得届が兼ねます(在留資格等の欄を正しく記載) |
| 雇用契約書・雇用条件書(参考様式第1-2号)、待遇の説明書面 | 受け入れの手続として申請側と整合させる |
雇入れ側の手続の全体は会社をつくったら、いつまでに何を出すのか・外国人を雇ったら、ハローワークに届け出ると同じ骨格です。転籍では離職側・雇入れ側の届出が2社にまたがって同時に走る——ここが通常の転職と同じで、かつ漏れやすい点です。
移動や転居の費用は、誰が負担するのか?
申請様式が答えの場所を示しています。参考様式第1-39号は、報酬・宿泊施設・徴収費用に加えて**「移動及び転居費用等」についての説明書**です(OTIT・2026年8月14日確認)。つまり、転籍に伴う移動・転居の費用を誰がどう負担するかは、受け入れの入口で書面により説明しておく事項であり、転籍が起きてから交渉する話ではありません。
金額や負担割合の基準は運用要領・分野別の定めの領域のため、本記事では立ち入りません。労務の側ですることは明確です——住居(社宅)の扱い・貸与物の返還・費用負担のルールを、雇用契約と規程に落としておくこと。規程側の整理は受け入れる前に、就業規則をどう直すのかで書いています。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、転籍が起きたときの資格喪失・資格取得・外国人雇用状況の届出の代行、転籍を前提とした雇用契約・社宅・費用負担のルールの設計をお受けします。ご相談は無料です。 料金は報酬額表に、いま動くべきことの全体は育成就労、いま何をしておくのかにまとめています。
誰に相談するか
転籍が認められる要件・手続の申請側、監理支援機関の許可、在留資格は四葉行政書士事務所(当事務所とは別の事業体で、別々にご契約いただきます)。住まい・社宅の物件と法人契約は四葉不動産株式会社(同)。給与課税は税理士、紛争性のある事案は弁護士の業務です。いずれも紹介料の授受はありません。
よくある質問
Q. 転籍のとき、社会保険は継続できないのですか?
A. 制度上の「継続」はなく、転籍元での資格喪失と転籍先での資格取得を、それぞれの期限内に行います。手続が滞ると本人の保険証の切り替えが遅れますので、転籍日が決まった時点で両社の総務が同時に動くのが実務です。
Q. 外国人雇用状況の届出は、どちらの会社が出すのですか?
A. 両方です。転籍は労務上「離職+雇入れ」なので、転籍元は離職側の届出、転籍先は雇入れ側の届出をそれぞれ行います(労働施策総合推進法第28条第1項)。雇用保険の被保険者であれば、喪失届・取得届がそれぞれ届出を兼ねます。
Q. 転籍を防ぐことはできますか?
A. 転籍の要件・可否は主務省令・入管の領域で、当事務所では判断しません。労務の側でできるのは、転籍されにくい職場を作ること——待遇の透明化・生活相談の体制・日本語支援——です。技能実習と育成就労で、労務は何が変わるのかで書いたとおり、労務の軸は「残ってもらう」設計に移ります。
Q. 転居費用は会社が持たなければならないのですか?
A. 一律の答えは本記事では示しません。負担のルールは運用要領・分野別の定めを確認したうえで、受け入れの入口で書面(参考様式第1-39号の説明書)により明確にしておく事項です。決めていないことがいちばんのリスクです。
この記事の根拠
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第28条第1項(外国人雇用状況の届出) ―― 2026年8月14日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
- 外国人技能実習機構「育成就労計画認定施行日前申請」(令和8年8月5日更新・2026年8月14日確認)――実施者の変更希望に関する参考様式第1-16号〜第1-22号、報酬・宿泊施設・徴収費用・移動及び転居費用等についての説明書(第1-39号)
- 社会保険・雇用保険の資格取得・喪失の期限は、健康保険法施行規則・厚生年金保険法施行規則・雇用保険法施行規則の定めによります(取得側の条文は会社をつくったら、いつまでに何を出すのかに記載)
- 転籍の要件・認められる場合の詳細は、主務省令・運用要領・入管の領域です。本記事は労務側の手続のみを扱っています
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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