130万円の壁、一時的な収入増は事業主証明で乗り切れる?
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
パート従業員の年収が一時的に130万円を超えても、その超過が残業や繁忙など一時的な事情によるものであれば、事業主が証明することで被扶養者の認定を続けられる場合があります(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)。原則として連続2回(連続する2年間)までが目安です。ただし最終的に被扶養者と認めるかを判断するのは会社ではなく保険者(協会けんぽ・健康保険組合)で、会社にできるのは一時的な事情を証明することまで。106万円の壁(加入基準)とは別制度である点も整理します。
結論(先に要点):パート従業員の年収が一時的に130万円を超えても、その超過が残業や繁忙など一時的な事情によるものであれば、事業主が証明することで被扶養者の認定を続けられる場合があります。この「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」は原則として連続2回(連続する2年間)までが目安です。ただし、**最終的に被扶養者と認めるかを判断するのは会社ではなく保険者(協会けんぽ・健康保険組合)**です。会社にできるのは、一時的な事情を正しく証明することまでです。
「うちのパートさん、今年は人手が足りなくて残業が続き、気づいたら年収130万円を超えそうだ。扶養から外れてしまうのか」——人手不足の職場で、こうした相談が増えています。この記事は、パート・アルバイトの扶養を管理する中小企業の事業主・人事担当の方に向けて、130万円の壁で一時的に収入が超えたときの取扱いと、会社がどこまで担い、どこからが保険者の判断なのかを整理します。
130万円の壁は、106万円の壁と何が違うのか?
「年収の壁」には複数あり、混同されがちです。とくに106万円と130万円は、対象になる制度そのものが違います。
| 106万円の壁 | 130万円の壁 | |
|---|---|---|
| 何の基準か | 短時間労働者が自分の勤務先で社会保険に加入する基準(適用拡大) | 配偶者などの扶養に入れるかどうか(被扶養者認定)の収入基準 |
| 根拠 | 厚生年金保険法・健康保険法の適用拡大の要件 | 健康保険法第3条第7項(被扶養者の定義)と認定基準(収入の目安) |
| 判断するのは | 勤務先の会社 | 被保険者が加入する保険者(協会けんぽ・健康保険組合) |
| 金額の性格 | 月額賃金8.8万円以上(2026年10月に賃金要件は撤廃予定) | 見込み年収130万円未満(60歳以上・一定の障害者は180万円未満) |
106万円の壁は「働く本人が勤務先で社会保険に入るかどうか」の話で、2026年10月に賃金要件が撤廃される見込みです。詳しくは106万円の壁が撤廃されると、事業主は何をすればいいのかをご覧ください。一方、この記事で扱う130万円の壁は「配偶者などの扶養に入れるかどうか」の話で、106万円の壁とは別の制度です。106万円が撤廃されても、130万円の扶養基準はなくなりません。
なお、130万円という金額そのものは、健康保険法の条文に数字で書かれているわけではありません。条文(第3条第7項)は「主として被保険者により生計を維持する一定範囲の親族で、日本国内に住所を有するもの」を被扶養者と定め、「130万円未満」は生計維持の目安として示された認定基準です。だからこそ、機械的に「130万円を超えたら即アウト」ではなく、実態に照らした判断の余地があります。
一時的に超えたとき、事業主証明で認定は続けられるのか?
続けられる場合があります。国は、いわゆる「年収の壁・支援強化パッケージ」の一つとして、「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」という取扱いを設けました。人手不足による残業などで一時的に収入が増え、見込み年収が130万円相当を超えても、その超過が一時的なものであることを事業主が証明すれば、被扶養者の認定を続けられる、という仕組みです。
「一時的な事情」として想定されているのは、たとえば次のようなケースです。
- ほかの従業員が退職・休職したため、その分の業務量が増えた
- 当該事業所が繁忙期で業務量が増えた
- 突発的な大口案件が入り、一時的に業務量が増えた
この取扱いは2023年(令和5年)10月に「当面の措置」として始まりましたが、2025年(令和7年)10月に恒久的な取扱いへ移行しました。時限措置ではなくなったため、毎年の収入確認の場面で使えます。
ただし注意が必要です。恒久的な事情による収入増(時給の恒常的な引上げ、勤務日数を継続的に増やす契約変更など)は「一時的」に当たりません。 あくまで「今年は特別な事情で増えたが、来年は元に戻る見込み」という場合の取扱いです。恒常的に130万円を超えるなら、本来は扶養から外れて自分で社会保険に加入する(あるいは勤務先で加入する)方向になります。
証明の回数・書き方で気をつけることは?
事業主証明を使うときのポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 回数の目安 | 原則として連続2回(連続する2年間の収入確認)まで。3年続けて使うことは想定されていない |
| 誰が書くか | 被扶養者本人ではなく、その人を雇っている事業主が、一時的な収入増であることを証明する |
| 何を書くか | 収入増の理由(他の従業員の退職・繁忙・大口案件など)が一時的であること |
| 提出先 | 被保険者(扶養する側)が加入する保険者(協会けんぽ・健康保険組合)。会社が保険者へ提出する |
| 恒久的な増加の扱い | 一時的でない収入増には使えない。翌年以降も続く見込みなら扶養継続はできない |
証明は「事実を証明する」ものであって、「認定を約束する」ものではありません。書いたから必ず認定が続く、というものではない点に注意してください。
あわせて、2026年4月からは、労働契約の内容(労働条件通知書など)に基づく見込み年収で被扶養者認定を判断する取扱いも整理されました。契約上の労働時間・賃金から見込み年収を確認する場面が増えるため、労働条件通知書の整備がこれまで以上に大切になります。労働条件の明示についてはパート・有期雇用の労働条件、2026年10月から何を明示するのかもご確認ください。
最終的に認定するのは、会社か、保険者か?
保険者です。 ここが最も誤解されやすいところです。
会社(事業主)ができるのは、「一時的な収入増であること」を証明するところまでです。その証明を踏まえて、**実際に被扶養者と認めるかどうかを判断するのは、被保険者が加入する保険者(協会けんぽ・健康保険組合)**です。健康保険組合によっては独自の運用や追加書類を求める場合もあります。
したがって、従業員から「扶養は続けられますか」と聞かれても、会社が「大丈夫、続けられます」と断言することはできません。言えるのは「一時的な事情を証明することはできます。認定の可否は保険者の判断です」までです。ここを取り違えると、後から認定されなかったときにトラブルになります。
会社が実務で確認する流れは、次のとおりです。
- 一時的な事情かどうかを見極める:残業・繁忙・欠員補充など、来年は元に戻る見込みか。恒常的な増加なら証明の対象外。
- 回数を確認する:すでに前年に証明を使っていないか(連続2回までが目安)。
- 保険者の様式・締切を確認する:協会けんぽか健康保険組合かで様式や添付書類が異なる。被保険者を通じて確認する。
- 判断は保険者に委ねる:会社は証明まで。認定の可否は保険者が決める。
社会保険の加入判定の基礎については短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかに、標準報酬月額の考え方は算定基礎届と月額変更届は何が違うのかにまとめています。あわせてご確認ください。
よくある質問
Q. 事業主証明を出せば、必ず扶養のままでいられますか?
A. いいえ。事業主証明は「一時的な収入増であること」を証明するものであって、認定を約束するものではありません。最終的に被扶養者と認めるかを判断するのは、被保険者が加入する保険者(協会けんぽ・健康保険組合)です。会社ができるのは証明までです。
Q. 何年でも事業主証明を使えますか?
A. 使えません。この取扱いは「一時的な事情」による収入増を対象とするもので、原則として連続2回(連続する2年間の収入確認)までが目安とされています。時給の恒常的な引上げや勤務日数を継続的に増やす契約変更など、恒常的な収入増には使えません。
Q. 130万円を1円でも超えたら、その時点で扶養から外れますか?
A. 必ずしもそうではありません。130万円は健康保険法の条文に数字で定められているのではなく、生計維持の目安として示された認定基準です。一時的な収入増であれば、事業主証明による円滑化の対象になり得ます。ただし恒常的に超えるなら、扶養から外れて社会保険に加入する方向になります。
Q. パートの扶養と、税金の配偶者控除(103万円など)は同じ話ですか?
A. 別の話です。130万円の壁は健康保険の被扶養者認定(社会保険)の基準、配偶者控除・配偶者特別控除(103万円・150万円など)は所得税・住民税の基準で、制度が異なります。税務に関する判断は税理士の領域です。
この記事の根拠
- 健康保険法第3条第7項(被扶養者の定義)。被扶養者を「主として被保険者により生計を維持する一定範囲の親族で、日本国内に住所を有するもの」等と定めています。「130万円未満(60歳以上・一定の障害者は180万円未満)」という金額は、条文の数字ではなく、生計維持関係を判断するための収入の目安(認定基準)です(e-Gov法令検索、健康保険法・大正11年法律第70号、2026年8月26日参照)
- 「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主の証明による被扶養者認定の円滑化。一時的な収入増(他の従業員の退職・休職による業務量増加、繁忙、突発的な大口案件など)で見込み年収が130万円相当を超えても、事業主が一時的であることを証明すれば被扶養者認定を継続できる取扱いです。当初は令和5年(2023年)10月20日付通知(保保発1020第3号)による当面の措置として始まり、令和7年(2025年)10月に恒久的な取扱いへ移行しました。原則として連続2回(連続する2年間の収入確認)までが目安とされています(厚生労働省「『年収の壁』への対応」、2026年8月26日参照)
- 2026年4月からの労働契約内容に基づく被扶養者認定。労働条件通知書など労働契約の内容に基づく見込み年収で認定を判断する取扱いが整理されています(厚生労働省・日本年金機構の公表情報、2026年8月26日参照)
- 最終的な被扶養者認定は、被保険者が加入する保険者(協会けんぽ・健康保険組合)が行います。健康保険組合によっては独自の運用・添付書類がある場合があります。具体的な様式・締切は各保険者の案内でご確認ください(協会けんぽ・各健康保険組合の被扶養者認定の案内、2026年8月26日参照)
この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。被扶養者認定に関する事業主証明の作成や社会保険の手続は社会保険労務士の業務です。税務(配偶者控除など)は税理士の領域です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別の被扶養者認定の可否は保険者が判断します。制度の適用や個別の手続は、最新の一次情報(厚生労働省・日本年金機構・各保険者など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
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