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2026.09.01労働時間

訪問介護ヘルパーの移動時間・待機時間は労働時間か。賃金の払い方と規程整備

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

訪問介護ヘルパーの移動時間は、使用者が業務のために移動を命じ、その時間の自由利用が保障されていなければ労働時間にあたります。事業場等で待つよう命じた待機時間も同じ考え方です。通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)は移動時間・待機時間・報告書作成時間がそれぞれどんな場合に労働時間に該当するかを示しています。労働時間にあたる時間は賃金の支払対象で、時間あたりに直したとき最低賃金(最低賃金法第4条)を下回れません。移動時間・待機時間・キャンセル時間の扱い、最低賃金の確認方法、賃金規程と直行直帰ルールの整え方を整理します。個別の労働時間該当性の最終判断は労働基準監督署・裁判所です。

結論(先に要点):訪問介護ヘルパーの移動時間は、使用者が業務のために移動を命じ、その時間の自由利用が保障されていないと認められる場合は労働時間にあたります。事業場や利用者宅で待つよう命じた待機時間も同じ考え方です。労働時間にあたる時間は、賃金の支払対象になり、時間あたりに直したときに最低賃金(最低賃金法第4条)を下回ってはいけません。ただし個別の時間が労働時間に該当するかの最終判断は、労働基準監督署や裁判所が行います。

「訪問と訪問の合間の移動には給料を払っていない」「直行直帰だから移動は労働時間ではないと思っていた」——訪問介護の現場では、移動時間・待機時間の扱いがあいまいなまま運用され、あとから未払いを指摘される例が少なくありません。この記事は、訪問介護事業所の管理者・経営者と、直行直帰やサービス間移動の多い現場の労務担当の方に向けて、どの時間が労働時間にあたり、賃金規程にどう落とし込むのかを整理します。

訪問介護の移動時間は労働時間にあたる?

あたる場合があります。判断の軸は「使用者の指揮監督下にあるか(自由に使える時間か)」です。

厚生労働省の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)は、移動時間について、使用者が業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するとしています。利用者宅から次の利用者宅への移動や、事業所から利用者宅への移動が、これにあたる典型です。

時間の種類労働時間にあたるか(原則)
利用者宅から次の利用者宅への移動業務上必要な移動を命じられ、自由利用が保障されていなければ労働時間
事業所から利用者宅への移動同上。移動を命じられていれば労働時間にあたり得る
自宅から最初の利用者宅への移動(直行)、最後の利用者宅から自宅への移動(直帰)通常の通勤に準じ、原則として労働時間ではない
業務報告書などの作成時間制度・業務規定で義務づけられ、指揮監督に基づき作成する場合は労働時間

通達も、移動時間や待機時間を一律に労働時間として扱っていない事業者があることを問題として挙げています。「一律に払わない」という運用は、実態が指揮監督下にあれば通りません。

労働時間そのものの考え方は労働基準法第32条にあります。所定の労働時間や残業の管理については残業をさせるには何がいるのか(36協定はどこまで)もあわせてご確認ください。

待機時間やキャンセル時の時間はどう扱う?

待機時間も、労働時間にあたるかは「自由に使えるか」で決まります。

同じ通達は、待機時間について、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するとしています。事業所で次の指示を待つよう命じられている時間は、労働時間にあたる典型です。反対に、次の訪問まで数時間空き、その間は自宅に帰るなど自由に過ごしてよいのであれば、労働時間ではない扱いになり得ます。

キャンセルが出たときの扱いは、状況で分かれます。

場面考え方
事業所で待機を命じたままキャンセルが出た待機の自由利用が保障されていなければ、その待機時間は労働時間
利用者都合で急にキャンセルになり、他の業務も命じず帰した使用者の責に帰すべき事由による休業なら、休業手当(労働基準法第26条・平均賃金の6割以上)の検討対象
予定が空き、労働者が自由に過ごしてよい原則として労働時間ではない

キャンセル時間を「働いていないから無給」と一律に処理するのではなく、待機を命じていたか/使用者の都合による休業かを確認することが要点です。個別事案の労働時間該当性・休業手当の要否は、労働基準監督署や裁判所の判断領域です。

移動時間を含めて計算すると最低賃金を割らないか?

ここが実務でいちばん見落とされる点です。移動時間・待機時間を労働時間に含めたうえで、時間あたりの賃金が最低賃金を下回っていないかを確かめる必要があります。

サービス提供1件ごとに時給を払い、移動時間には賃金を払っていない、という設計だと、移動を含めた総労働時間で割り直したときに最低賃金を割ることがあります。最低賃金法第4条は、使用者に最低賃金額以上の賃金の支払を義務づけています。移動時間分の賃金を別建てで定める場合でも、総額を総労働時間で割った額が最低賃金以上でなければなりません。

考え方を単純化すると、次のようになります。

項目内容
分子(賃金)サービス提供分の賃金+移動時間・待機時間分の賃金+各種手当
分母(労働時間)サービス提供時間+労働時間にあたる移動・待機・報告書作成時間
判定分子÷分母が、その地域の最低賃金額以上であること

介護報酬は、サービスに要する平均的な費用(人件費を含む)を勘案して包括的に設定されています。移動時間分の賃金の定め方は労使で工夫の余地がありますが、最低賃金を下回らないことが前提です。なお、移動時間の賃金単価をサービス提供分と別に定めること自体は可能ですが、その水準の当否や個別の設計は、実態と最新の一次情報に照らした判断が要るため、ここでは一般論にとどめます。

賃金規程と直行直帰のルールはどう整える?

「あとで払っていないと言われない」ためには、どの時間を労働時間として扱い、どう賃金を計算するかを、書面で明確にしておくことが有効です。

整える順序は次のとおりです。

  1. 労働時間の範囲を定義する:移動時間・待機時間・報告書作成時間のうち、どれを労働時間として扱うかを、通達の考え方に沿って明文化する。
  2. 賃金の計算方法を賃金規程に書く:サービス提供分・移動分・待機分の単価や計算式を定め、総額が最低賃金以上になることを確認する。手当を使う場合は算入の可否に注意する。
  3. 直行直帰のルールを決める:どこからが業務の移動で、どこまでが通勤かを線引きし、移動記録(開始・終了・経路)を残す運用にする。
  4. 労働時間を記録する:移動・待機を含めて始業・終業を客観的に把握する。記録がないと、あとで争いになったとき事業所側が不利になりやすい。

就業規則・賃金規程の整備そのものは就業規則は何人から義務なのか(何を書くのか)を、介護分野の賃金規程は介護職員等処遇改善加算は賃金規程にどう落とすのかをご覧ください。夜勤や宿直がある事業所は夜勤と宿直は労働時間の扱いがどう違うのかもあわせてご確認ください。

なお、賃金規程・36協定・労働時間管理は社会保険労務士の業務です。事業所の指定基準・人員配置の届出は行政書士(四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、別々にご契約いただきます)、すでに発生した未払い賃金の請求など争いになった案件は弁護士の領域です。

よくある質問

Q. 訪問と訪問の合間の移動時間は、必ず賃金を払わなければいけませんか?
A. その移動が使用者の指示による業務上の移動で、時間の自由利用が保障されていなければ、労働時間にあたり賃金の支払対象になります。通達(平成16年8月27日基発第0827001号)も、移動時間を一律に労働時間として扱わない運用を問題として挙げています。個別の該当性の最終判断は労働基準監督署・裁判所が行います。

Q. 直行直帰なら、自宅から利用者宅への移動も労働時間ですか?
A. 自宅から最初の利用者宅への移動、最後の利用者宅から自宅への移動は、原則として通常の通勤に準じ、労働時間ではない扱いが一般的です。一方、利用者宅の間の移動や、事業所から利用者宅への移動を命じている場合は労働時間にあたり得ます。実態に照らした確認が必要です。

Q. 利用者都合でキャンセルになった時間の賃金はどうなりますか?
A. 事業所で待機を命じたままなら、その待機時間は労働時間にあたり得ます。他の業務も命じずに帰した場合で、使用者の責に帰すべき事由による休業といえるときは、休業手当(労働基準法第26条・平均賃金の6割以上)の検討対象になります。状況により結論が変わるため、個別に確認してください。

Q. サービス提供分だけ時給を払っていれば、最低賃金は問題ありませんか?
A. 必ずしも問題ないとはいえません。移動時間・待機時間が労働時間にあたる場合、その時間も含めた総労働時間で賃金総額を割り直したときに、最低賃金(最低賃金法第4条)以上でなければなりません。移動分を別建てにする場合でも、総額での最低賃金充足を確認してください。

この記事の根拠

  • 労働基準法第32条(労働時間)。使用者は、原則として1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはならないと定めています(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年8月28日参照)
  • 「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)。移動時間について「使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」、待機時間について「使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」、業務報告書等の作成時間について「業務上義務付けられ、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当する」としています(厚生労働省、2026年8月28日参照)
  • 最低賃金法第4条(最低賃金の効力)。使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと定めています。移動時間分を別建てで定める場合でも、総額を総労働時間で割った額が最低賃金以上である必要があります(e-Gov法令検索、最低賃金法・昭和34年法律第137号、2026年8月28日参照)
  • 労働基準法第26条(休業手当)。使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、平均賃金の100分の60以上の手当の支払を義務づけています。キャンセル時の扱いの検討で参照されます(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年8月28日参照)
  • 個別の時間が労働時間に該当するか、休業手当の要否は、実態に照らして労働基準監督署・裁判所が判断します。移動時間の賃金単価の設計や労使協定の当否は、最新の一次情報と個別事情に照らした確認が必要です

この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。就業規則・賃金規程の整備、労働時間管理、36協定の締結は社会保険労務士の業務です。事業所の指定基準・人員配置に関する届出は行政書士、未払い賃金の請求など争いになった案件は弁護士の領域です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別の時間の労働時間該当性は労働基準監督署・裁判所が判断します。制度の適用や個別の手続は、最新の一次情報(厚生労働省など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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