助成金を狙うなら、最初の契約形態で決まる
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期契約から正社員にしたか、無期契約から正社員にしたかで額が変わります。パートを迎える時点でどちらにするかが、1年後の金額を決めます。キャリアアップ計画は転換の実施日の前日までに提出しないと不支給になります。
結論(先に要点):キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期契約から正社員にしたか、無期契約から正社員にしたかで額が変わります。パートを迎える時点でどちらにするかが、1年後の金額を決めます。あとから変えることはできません。
助成金の記事は「いくらもらえるか」から書かれることが多いのですが、実際に金額を決めているのは入り口の契約です。しかも入り口の判断は、正社員化を考えるずっと前——最初にパートとして迎えるときに済んでしまっています。この記事は、助成金そのものではなく契約の形の選び方だけを扱います。制度全体は助成金の申請サポートをご覧ください。
有期と無期で、なぜ額が変わるのか?
正社員に近いところから動かすほど、助成の額は小さくなるという設計だからです。
有期契約(期間の定めのある契約)から正社員にするほうが、無期契約(期間の定めのない契約)から正社員にするより、労働者の立場の改善幅が大きいと評価されます。そのため額に差がつきます。
| 転換前 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 有期契約労働者から | 40万円(1期あたり) | 30万円(1期あたり) |
| 無期契約労働者から | 20万円(1期あたり) | 15万円(1期あたり) |
(キャリアアップ助成金支給要領 1005。令和8年4月8日付け)
「1期あたり」がもう一段の分岐です。 支給対象期が2期になるのは、対象者が重点支援対象者に当たる場合だけです。当たらなければ1期で終わります。
| 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|
| 重点支援対象者・有期から | 80万円(40万円×2期) | 60万円(30万円×2期) |
| 重点支援対象者・無期から | 40万円(20万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
| それ以外・有期から | 40万円(1期) | 30万円(1期) |
| それ以外・無期から | 20万円(1期) | 15万円(1期) |
同じ1人の正社員化で、80万円と20万円の差がつきます。 4倍です。
重点支援対象者には、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、雇入れから3年未満で過去5年の正規雇用期間が通算1年以下かつ過去1年正規雇用でない者、派遣労働者・母子家庭の母等などが含まれます(支給要領0235)。
ここが実務の要です。 3年以上有期契約で働いてもらってから正社員にすると最大額に届きますが、途中で「安定させてあげよう」と無期契約に切り替えると、その先の正社員化は無期からの転換になり、額が下がります。善意の無期転換が、助成金を減らします。
無期転換ルール(労働契約法第18条)により、通算5年を超えると本人の申込みで無期契約になります。5年を待たずに正社員化まで進めるのか、無期転換を経るのか。この見通しを、最初に立てておく必要があります。
なお、令和8年度からしょくばらぼ等への公表による加算(中小企業20万円)が新設されました。正社員転換制度や多様な正社員制度を新たに規定した場合の加算とあわせて、1適用事業所につき各1回のみ受けられます。
1年度1事業所あたりの支給申請の上限は20人です(同一対象者の2回目の申請を除く)。
計画は、いつまでに出すのか?
転換等の措置を実施する日の前日までです。出していなければ、それだけで不支給になります。
支給要領0401は、天災その他やむを得ない理由がある場合を除き、「コース実施日の前日(その日が行政機関の休日に当たる場合には、当該行政機関の休日の翌日)までに」、キャリアアップ計画書を管轄労働局長に提出しなければならない、としています。
| 内容 | |
|---|---|
| 提出期限 | コース実施日(転換日)の前日まで。前日が土日祝・年末年始なら休日の翌日まで |
| 計画期間 | 3年以上5年以内(支給要領0302ヘ) |
| 提出先 | 管轄労働局長。労働局が委任した場合に限り、ハローワーク経由で提出可 |
「前日まで」は、ぎりぎりを狙う期限ではありません。 厚生労働省のパンフレットも「コース実施日の1か月前など、余裕を持ってご提出ください」としています。計画書に不備があれば差し戻され、その間に転換日が来てしまいます。
計画期間が3年以上必要なので、「来月転換するから今月計画を出す」という使い方はできても、計画自体は3年先まで書くことになります。転換の予定が1人分しかなくても同じです。
家族を雇う場合は、どうなるのか?
対象になりません。 支給要領1003ニが、対象労働者の要件として「転換又は直接雇用を行った適用事業所の事業主又は取締役の3親等以内の親族(民法第725条第1号に規定する血族のうち3親等以内の者、同条第2号に規定する配偶者及び同条第3号に規定する姻族をいう)以外の者であること」と定めています。
判定される期間まで決まっています。 厚生労働省のQ&A(令和8年7月29日)Q-8は、正社員化コースについて「転換又は直接雇用日の前日から起算して6か月前の日を始期とし、支給申請時点まで」としています。転換の直前に関係が変わっても、6か月さかのぼって見られます。
そのうえ、同居の親族は原則として雇用保険の被保険者になりません(厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」20351(1)リ)。雇用関係助成金は雇用保険適用事業所の事業主であることを前提としており、対象労働者も被保険者です。入り口の段階で二重に外れることになります。
家族の入社を検討している場合は、家族を社員にするとき、つまずく3つのところを先にお読みください。
入り口で決めておくことは何か?
パートを迎える時点で、次の4つを決めておいてください。
- 有期契約にするか、無期契約にするか——ここで最大4倍の差がつきます
- 正社員化までの想定年数——3年以上有期で働いてもらうと重点支援対象者に届きます
- 無期転換ルール(通算5年)との関係——5年を超えると本人の申込みで無期になります
- その人が3親等以内の親族でないか——親族なら助成金の検討自体が不要です
そして、正社員転換制度そのものを就業規則等に規定しておく必要があります。制度を新たに規定して転換した場合には加算もありますが、そもそも制度がなければ転換の根拠がありません。就業規則の作成義務は常時10人以上からですが、10人未満でも規定は必要になります(就業規則は何人から義務か。義務でないものは何か)。
短時間で雇う場合の社会保険の加入基準は、短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかにまとめています。週20時間以上でないと雇用保険に入れず、雇用保険に入らなければ助成金の対象にもなりません。 労働時間の設計も、入り口の判断のうちです。
よくある質問
Q. すでに無期契約にしてしまいました。有期に戻せますか?
A. 無期契約を有期契約に戻すことは、労働条件の不利益変更にあたります。本人の同意があっても、助成金を受けるために戻したと見られる形は望ましくありません。すでに無期であれば、無期からの転換として受けるのが素直です。 額は下がりますが、要件を満たさない申請をするより確実です。
Q. 転換日を来週に予定しています。いまから計画を出せますか?
A. 転換日の前日まで(前日が休日なら休日の翌日まで)に管轄労働局長に到達していれば、形式上は間に合います。ただし計画書に不備があると受理されないため、実際には厳しい日程です。転換日を先に延ばすほうが確実な場合があります。 日程の組み替えを含めてご相談ください。
Q. 金額はこの記事のとおりで確定ですか?
A. いいえ。本記事の金額は令和8年4月8日付けの支給要領・リーフレットに基づくものです。厚生労働省は「制度の見直し等によりその都度支給申請様式の改定を行っています。支給申請様式や支給金額は、各コースの取組を行った日で変化します」としており、実際に令和8年度も4月1日版と4月8日版の2つが出ています。申請の際は、必ず厚生労働省の最新の支給要領でご確認ください。
Q. 助成金の申請だけをお願いできますか?
A. 助成金の申請には、就業規則や賃金台帳、出勤簿といった書類の整合が必要になります。日ごろの労務管理と切り離して申請だけを受けると、書類の不整合に気づけないまま提出することになりかねません。四葉では顧問契約を前提としてお受けしています。 費用の考え方は報酬額表をご覧ください。
この記事の根拠
- キャリアアップ助成金支給要領(令和8年4月8日付け) 0235(重点支援対象者)、0302ヘ(計画期間)、0401(計画書の提出)、1003ニ(3親等以内の親族の除外)、1005(支給額・上限人数・加算)
- キャリアアップ助成金Q&A(令和8年7月29日) Q-8(親族の判定期間)
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)リーフレット 令和8年4月8日版
- キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)パンフレット(令和8年4月8日現在)
- 雇用関係助成金に共通の支給要領(令和8年4月8日付け)0301(雇用保険適用事業所の事業主であること)
- 民法(明治29年法律第89号)第725条第1号・第2号・第3号
- 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(適用関係)」20351(1)リ(同居の親族)
- 労働契約法(平成19年法律第128号)第18条(無期転換ルール)
- 支給要領・支給額は年度ごとに、また年度の途中でも改定されます。 本記事の金額はいずれも令和8年4月8日付けの資料に基づくもので、令和9年度以降の取組には適用されない可能性が高く、令和8年度内であっても改定がありえます。申請の際は、必ず厚生労働省の最新の支給要領でご確認ください
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 キャリアアップ計画の作成と提出、正社員転換制度の規定づくり、対象労働者の要件確認、支給申請は社会保険労務士の業務です。設備投資などの補助金は四葉行政書士事務所(別の事業体です。別々にご契約いただきます)、助成金収入の税務上の扱いは税理士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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