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2026.09.01障害福祉の労務

介護職員等処遇改善加算、賃金規程はどう直す?──加算と労務の分界

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

介護職員等処遇改善加算は、お金を取ってくるだけでは維持できません。加算で増えた原資を「どの賃金で・誰に・いくら配るか」を賃金規程と就業規則に書き、計画と実績を示せて初めて算定・維持ができます。賃金制度の設計は社会保険労務士、指定権者への計画書・実績報告の届出は行政書士、税務は税理士と担当が分かれます。ベースアップと一時金で就業規則の書く場所も社会保険料への跳ね返りも変わる点を、労働基準法第89条・随時改定の条文とあわせて整理します。

結論(先に要点):介護職員等処遇改善加算は、加算というお金を取ってくるだけでは維持できません。加算で増えた原資を「どの賃金で・誰に・いくら配るか」を賃金規程と就業規則に書き、その計画と実績を示せて、はじめて算定と維持ができます。この賃金制度の設計は社会保険労務士、指定権者への計画書・実績報告の届出は行政書士、税務は税理士と、担当が分かれます。

賃金の上げ方(ベースアップか一時金か)で、就業規則に書く場所も、社会保険料への跳ね返りも変わります。どこを直せば要件を満たし、実績報告で否認されないかを、労務の側から整理します。

加算の区分の選択や届出の可否は事業所ごと・年度ごとに変わるため、この記事では結論を出しません。個別の判断は面談のうえ資格者が行います。

処遇改善加算を取るのに、なぜ賃金規程の見直しが要るのか?

介護職員等処遇改善加算は、令和6年(2024年)6月に、それまでの3つの加算(介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算)を一本化したものです。算定要件は大きく3つあり、いずれも「規程に書いてあること」と「そのとおり払った実績」の両方が問われます。

要件概要労務側の落とし込み先
キャリアパス要件任用要件・賃金体系の整備、研修の機会、経験や資格に応じた昇給の仕組みなど就業規則・賃金規程・キャリアパス規程
月額賃金改善要件加算による賃金改善の一定割合以上を、基本給又は毎月決まって支払われる手当で行う賃金規程・賃金台帳
職場環境等要件職場環境の改善の取組み就業規則・社内規程・記録

キャリアパス要件は「賃金体系」「昇給の仕組み」を求めます。昇給に関する事項は、労働基準法第89条第2号で就業規則の必ず書かなければならない事項(絶対的必要記載事項)とされています。つまり、加算の要件を満たすには、そもそも就業規則・賃金規程で昇給と賃金の決め方が整っていることが前提になります。ここが口約束のままだと、加算の入口で止まります。障害福祉サービスでの人員基準と加算・賃金の関係は児童発達支援・放課後等デイの人員基準と労務にも整理しています。

『加算の届出』と『賃金制度の設計』は誰の仕事なのか?

処遇改善加算は、工程で担当が分かれます。ここを取り違えると、資格のない者が独占業務に踏み込むことになります。

論点担当
賃金体系・昇給の仕組みの設計、賃金規程・就業規則の整備、賃金改善額の配分設計、社会保険への影響確認社会保険労務士(当事務所)
指定権者(自治体・国保連経由)への計画書・実績報告書の作成・提出行政書士
加算収入の会計処理・法人の税務税理士

計画書・実績報告書の作成と提出は、指定権者への行政手続で、行政書士の業務です。四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、必要な場合はお客様に別々にご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。「社労士と行政書士のどちらに頼むか」の切り分けそのものは処遇改善加算は、社会保険労務士と行政書士のどちらに頼むのかに整理しています。本記事は、その社労士側の仕事——賃金規程をどう直すか——に絞っています。

ベースアップと一時金、どちらで配分すると要件を満たすのか?

月額賃金改善要件は、加算による賃金改善の一定割合以上を、基本給又は毎月決まって支払われる手当(ベースアップ等)で行うことを求めています。ベースアップだけで配りきれない場合に、その他の手当や一時金を組み合わせることは差し支えないとされていますが、「全額を年1回の一時金で配る」設計は要件を満たしません。

賃金の上げ方によって、就業規則に書く場所が変わります。

配分の方法就業規則・賃金規程での位置づけ根拠
基本給・毎月の手当の引上げ(ベースアップ・昇給)賃金の決定・計算・昇給に関する事項=必ず書く労働基準法第89条第2号(絶対的必要記載事項)
一時金・賞与での支給臨時の賃金等=定めを置くなら書く労働基準法第89条第4号(相対的必要記載事項)
退職金への上乗せ退職手当の定めを置くなら書く労働基準法第89条第3号の2(相対的必要記載事項)

月額賃金改善要件を満たすには、少なくとも一定部分を第2号の「毎月の賃金」で上げる必要があります。だから賃金規程の改定は避けて通れません。なお、加算の区分ごとの具体的な配分割合は年度・区分で変わるため、この記事では扱いません(未検証)。

賃金を上げると社会保険料はどう変わるのか?

ベースアップで毎月の賃金を上げると、標準報酬月額が上がり、健康保険・厚生年金保険の保険料(労使折半なので会社負担も)が増えることがあります。判断の分かれ目は、上げ方が「固定的賃金の変動」かどうかです。

上げ方標準報酬月額への影響
基本給・毎月の手当の引上げ(固定的賃金の変動)変動月から3か月の平均で2等級以上上がり、各月の支払基礎日数が17日以上なら、4か月目に随時改定(月額変更届)。保険料が上がる
年1回・年2回の賞与・一時金標準賞与額として賞与にかかる保険料はあるが、毎月の標準報酬月額(=毎月の保険料)は上がらない

随時改定は、固定的賃金の変動+3か月平均で2等級以上の差+各月17日以上(短時間労働者は11日以上)の3つがそろったときだけです(健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条)。毎年の定時決定(4月・5月・6月の報酬で決め、9月から適用)との違いは算定基礎届と月額変更届は何が違うかに整理しています。標準報酬月額が上がると将来の年金額も上がるため、「保険料が増える=損」とは限りません。パート・短時間職員の加入判定は短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかもあわせてご覧ください。

実績報告で否認されないために、就業規則に何を書いておくのか?

処遇改善加算は、計画したとおりに賃金改善を実施したことを、実績報告で示す仕組みです。規程と実態がずれていると、ここで否認され、返還を求められることがあります。労務の側で、あらかじめ明文化しておきたいのは次のところです。

  • 加算による賃金改善を、どの賃金項目(基本給・処遇改善手当など)で行うかを賃金規程に明記する
  • 誰を対象にするか(対象職種・配分の考え方)を規程に書き、賃金台帳で追えるようにする
  • 昇給の仕組み・任用要件をキャリアパス規程で示す
  • 実際の支給を賃金台帳・給与明細で残し、計画と一致させる

「加算で入ったお金を、規程に書いたとおりに、その職員へ払った」という筋が、規程・賃金台帳・給与明細で一本につながっていることが、実績報告の芯です。就業規則の作成・届出義務そのものは常時10人以上の事業場で生じます(労働基準法第89条)。義務としての就業規則と、加算のために整える規程は目的が別で、10人未満でも加算のために賃金規程を整える場面は多くあります。

労務・加算の届出・税務は、それぞれ誰に頼めばよいのか?

処遇改善加算まわりは、担当する事業体が分かれます。

論点担当
賃金規程・就業規則・キャリアパス規程の整備、賃金改善額の配分設計、社会保険の手続社会保険労務士(当事務所)
指定権者への計画書・実績報告書の作成・提出行政書士
加算収入の会計・法人の税務税理士
法人・役員に関する登記司法書士

指定権者への計画書・実績報告書の作成は行政書士の業務で、四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体です。加算収入の会計・税務は税理士、登記は司法書士へおつなぎします。必要な場合は、お客様に別々にご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。

ご相談は無料です。費用は報酬額表に、サービス内容ご相談の流れもあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 加算を取るだけなら、賃金規程は直さなくてよいのではないですか?
A. 加算の要件(キャリアパス要件・月額賃金改善要件・職場環境等要件)は、賃金体系や昇給の仕組み、賃金改善の内容が規程として整っていることを前提にします。とくに昇給に関する事項は労働基準法第89条第2号で就業規則の絶対的必要記載事項です。規程が実態と合っていないと、算定や実績報告でつまずきます。取るときだけでなく、維持のためにも規程の整備は避けて通れません。

Q. 全額を年1回の賞与でまとめて配ってはいけませんか?
A. 月額賃金改善要件は、加算による賃金改善の一定割合以上を、基本給又は毎月決まって支払われる手当で行うことを求めています。ベースアップだけで足りない分を一時金で補うことは差し支えありませんが、毎月の賃金を一切上げず全額を年1回の一時金で配る設計は要件を満たしません。具体的な割合は年度・区分で変わるため、この記事では結論を出しません。

Q. 賃金を上げると、会社の社会保険料も増えますか?
A. 基本給や毎月の手当を上げると、固定的賃金の変動として随時改定(月額変更届)の対象になり得ます。変動月から3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上上がり、各月の支払基礎日数が17日以上なら、4か月目に改定され、労使折半の保険料が増えます。年1回・年2回の賞与は、賞与にかかる保険料はありますが、毎月の標準報酬月額そのものは上げません。

Q. 計画書や実績報告書の作成も、社労士に頼めますか?
A. 指定権者への計画書・実績報告書の作成・提出は、行政書士の業務です。当事務所(社会保険労務士)がお引き受けするのは、賃金規程・就業規則・キャリアパス規程の整備、賃金改善額の配分設計、社会保険への影響確認までです。届出は四葉行政書士事務所が別の事業体として承り、別々にご契約いただきます。どちらに何を頼むかは、社労士と行政書士の切り分けの記事に整理しています。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条 ── 常時10人以上の労働者を使用する使用者の就業規則の作成・届出義務。第2号=賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、締切り・支払時期、昇給に関する事項(絶対的必要記載事項)。第3号の2=退職手当の定めをする場合の事項。第4号=臨時の賃金等(退職手当を除く。賞与・一時金)の定めをする場合の事項(相対的必要記載事項)。条文は e-Gov 法令検索および労働新聞社「労働法検索」で確認(2026年8月25日参照)
  • 健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条 ── 随時改定(固定的賃金の変動、その月以後3か月の報酬の平均による標準報酬月額と従前との間に2等級以上の差、各月の支払基礎日数17日以上〔短時間労働者は11日以上〕がそろうと、4か月目から改定)。日本年金機構「随時改定(月額変更届)」で確認(2026年8月25日参照)
  • 健康保険法第41条・厚生年金保険法第21条 ── 定時決定(4月・5月・6月に支払った報酬で標準報酬月額を決め、その年の9月から翌年8月まで適用)
  • 介護職員等処遇改善加算 ── 令和6年(2024年)6月から、介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算を一本化。算定要件は①キャリアパス要件(Ⅰ〜Ⅴ)、②月額賃金改善要件(加算による賃金改善の一定割合以上を基本給又は毎月決まって支払われる手当で行い、不足分は一時金等の組合せも可)、③職場環境等要件。厚生労働省「介護職員等処遇改善加算」の資料・リーフレットで確認(2026年8月25日参照)
  • 加算の区分(Ⅰ〜Ⅳ及び経過措置区分)ごとの具体的な加算率・配分割合、令和8年度以降の見直しの個別の適用は、事業所ごと・年度ごとに変わるため本記事では扱っていません(未検証
  • 自治体・国保連の実務上の様式・受付の運用は、各指定権者の要綱によります。本記事では扱っていません(未検証

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。四葉社会保険労務士事務所では、処遇改善加算の要件を落とし込んだ賃金規程・就業規則・キャリアパス規程の整備、ベースアップと一時金の配分設計、賃金改善が標準報酬月額・社会保険料に与える影響の確認についてご相談いただけます。指定権者への計画書・実績報告書の作成・提出は四葉行政書士事務所が別の事業体として承り、それぞれ別々にご契約いただきます。加算収入の会計・法人の税務は税理士へ、登記は司法書士へおつなぎします。別の専門家が必要な場合は、それぞれ別契約となり、紹介料はありません。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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