会社をつくったら、いつまでに何を出すのか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
法人は代表者1人でも社会保険の適用事業所になります。人を雇えば労働保険も要ります。見落としやすいのが労働保険の概算保険料申告書で、保険関係が成立した日から50日以内という別の期限があります。届出の名称・提出先・期限を一覧にしました。
結論(先に要点):法人は、代表者1人でも社会保険の適用事業所になります。人を雇えば労働保険も要ります。見落としやすいのが労働保険の概算保険料申告書で、保険関係が成立した日から50日以内という別の期限があります。成立届を出して終わりではありません。
会社をつくったあと、税務署への届出は税理士から案内が来ることが多いのですが、労働・社会保険の側は自分で調べることになりがちです。期限が短いものが混じっているうえ、同じ「労働保険」の中に期限の違う書類が2枚あるので、片方だけ出して終わったつもりになりやすい領域です。
法人をつくると、何に入ることになるのか?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、人を雇っていなくても必要です。 法人は、代表者1人であっても強制適用事業所になります。代表者に報酬が支払われている限り、その代表者自身が被保険者になります。
労働保険(労災保険・雇用保険)は、労働者を雇ってからです。労災保険は、労働者を使用する事業が適用事業になります。雇用保険は、週20時間以上などの要件を満たす労働者を雇ったときに手続が生じます。代表者だけの会社に労働保険はありません。
この違いが、そのまま届出のタイミングの違いになります。
| 社会保険 | 労働保険 | |
|---|---|---|
| いつ必要になるか | 法人設立時(代表者1人でも) | 最初の労働者を雇ったとき |
| 代表者の扱い | 被保険者になる | 労働者ではないため対象外(特別加入の枠がある) |
いつまでに、どこへ出すのか?
期限がすべて違います。起算日も揃っていません。
| 何を | どこへ | いつまでに | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 | 事実があった日から5日以内 | 健康保険法施行規則第19条第1項/厚生年金保険法施行規則第13条第1項 |
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 同上 | 事実があった日から5日以内 | 健康保険法施行規則第24条第1項/厚生年金保険法施行規則第15条第1項 |
| 労働保険 保険関係成立届 | 所轄労働基準監督署長または所轄公共職業安定所長 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 徴収法第4条の2第1項、同施行規則第4条第2項 |
| 労働保険 概算保険料申告書 | 所轄労働基準監督署、所轄都道府県労働局、日本銀行のいずれか | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 徴収法第15条第1項 |
| 雇用保険 適用事業所設置届 | 事業所の所在地を管轄するハローワーク | 設置の日の翌日から起算して10日以内 | 雇用保険法施行規則第141条第1項 |
| 雇用保険 被保険者資格取得届 | 同上 | 資格取得の事実があった日の属する月の翌月10日まで | 雇用保険法施行規則第6条第1項 |
社会保険は「5日以内」がふたつ、労働保険は「10日以内」と「50日以内」、雇用保険の資格取得だけが「翌月10日まで」。 この不揃いが、そのまま抜けの原因になります。
なお、法文の書き方と行政の案内で表現が違うところがあります。徴収法第4条の2第1項は「その成立した日から十日以内」ですが、厚生労働省は「成立した日の翌日から起算して10日以内」と案内しています。民法第140条(初日不算入)による同じ内容の言い換えで、矛盾ではありません。
なぜ概算保険料の申告を見落とすのか?
「労働保険の手続」が1つだと思われているからです。 実際には2枚あります。
- 保険関係成立届——保険関係が成立したことを届け出る書類(10日以内)
- 概算保険料申告書——その年度分の保険料を見込みで申告し、納付する書類(50日以内)
成立届を出すと労働保険番号が振られるので、そこで手続が終わったように見えます。ところが保険料の申告はまだ済んでいません。50日という期限は他より長いため、いったん置いて忘れるというのが、いちばんよくある流れです。
しかも、期限が長いぶん、気づいたときには過ぎていることになります。成立届と概算保険料申告書は、同じ日にまとめて出すのが確実です。 提出先が違う場合もありますが、労働基準監督署では両方受け付けています。
概算保険料は、その保険年度に支払う見込みの賃金総額に保険料率を掛けて算出します。年度が終わったあとに確定保険料を申告し、差額を精算する仕組みです(これを毎年繰り返すのが年度更新です)。払いすぎた分は精算されますので、見込みが多少ずれても取り返しはつきます。 出さないことのほうが問題です。
会社をたたむときは、この裏返しで確定保険料申告書を出すことになります。会社をたたむとき、社会保険と労働保険はどうするかにまとめました。
登記や税務の届出とは、どう分かれるのか?
分かれます。 設立直後に必要な届出は、少なくとも3つの系統に分かれ、それぞれ担当する専門家が違います。
| 系統 | 中身 | 誰の業務か |
|---|---|---|
| 労働・社会保険 | 新規適用届、保険関係成立届、概算保険料申告書、適用事業所設置届、資格取得届 | 社会保険労務士 |
| 登記 | 設立登記、役員変更登記 | 司法書士 |
| 税務 | 法人設立届出書、青色申告の承認申請、給与支払事務所等の開設届出 | 税理士 |
| 許認可 | 事業に必要な免許・許可・届出 | 行政書士 |
当事務所が扱うのは1行目だけです。 登記は司法書士、税務は税理士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
なお、会社設立に伴う定款や許認可の書類作成は会社設立・各種許認可で承っていますが、これは四葉行政書士事務所の業務で、四葉社会保険労務士事務所とは別の事業体です。 両方をご依頼いただく場合も、それぞれ別々にご契約いただき、請求もお振込先も分かれます。
タイミングだけ、先に押さえておいてください。 社会保険の新規適用届には登記事項証明書が必要になるため、設立登記の完了を待つことになります。一方、5日という期限は登記の完了を待ってくれるわけではありません。登記が完了したら、すぐ動けるよう書類を先に揃えておくのが実務です。
クラウドで会社設立を済ませた場合は、何が変わるのか?
期限の側は、何も変わりません。 freee会社設立のようなクラウドの設立サービスでは、定款や設立登記申請書などの書類作成を、画面の案内に沿って進められます(2026年8月14日参照の公表資料による)。設立までが速く済むのは事実です。
ただし、こうしたサービスが作ってくれるのは、主に設立(登記)と税務の側の書類です。本記事の表にある労働・社会保険の届出——5日以内・10日以内・50日以内——は、設立が済んだあとに、別に始まります。むしろ設立が速く済むほど、社会保険の「5日以内」は早くやってきます。画面の案内が終わったところで手続の全部が終わったように見える——これが、クラウドで設立したあとに労働保険で詰まる、いちばん典型的な形です。
担当の分かれ方は、前章の表のとおりです。クラウドで設立しても、資格の線は変わりません。 ソフトと社会保険労務士の線の引き方はfreee人事労務を入れました。顧問社労士は何をしてくれるのですかに書いています。
よくある質問
Q. 代表者1人で、役員報酬をゼロにしています。それでも社会保険は必要ですか?
A. 報酬が支払われていない場合、被保険者となる前提を欠くため、実務上は適用事業所として届け出ないことがあります。ただし「ゼロにしておけば入らなくてよい」という単純な話ではなく、実際に報酬が発生していないかどうかで判断されます。役員報酬をどう設定するかは税務にも直結しますので、税理士と並行してご検討ください。
Q. 設立から数か月経ってしまいました。いま出しても大丈夫ですか?
A. 期限を過ぎていても、届出は受け付けられます。ただし社会保険については、さかのぼって適用され、その分の保険料もさかのぼって発生します。時間が経つほど遡及の額が大きくなりますので、気づいた時点で早く出すほど負担は軽くなります。まずは現状を整理するところからご相談ください。
Q. 家族だけの会社ですが、労働保険は必要ですか?
A. 同居の親族は原則として労働者に当たらないと扱われるため、その方だけであれば労働保険の対象にならない場合があります。ただし判断は実態によります。雇用保険については別途、業務取扱要領の要件を満たせば被保険者となる余地があります。詳しくは家族を社員にするとき、つまずく3つのところをご覧ください。
Q. 労働・社会保険の届出は、すべてお願いできますか?
A. 労働・社会保険の届出は、四葉社会保険労務士事務所で承ります。料金は報酬額表に掲載しています。登記や税務の届出は当事務所では扱いませんので、司法書士・税理士へ直接ご依頼いただく形になります。 それぞれ別のご契約になります。
この記事の根拠
- 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)第19条第1項(新規適用届)、第24条第1項(資格取得届)
- 厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)第13条第1項(新規適用届)、第15条第1項(資格取得届)
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第3条、第4条の2第1項、第15条第1項
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)第4条第2項
- 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第141条第1項(適用事業所設置届)、第6条第1項(資格取得届)
- 厚生労働省「労働保険の成立手続」(成立届10日以内・概算保険料申告書50日以内・雇用保険適用事業所設置届10日以内・資格取得届は翌月10日まで)
- 日本年金機構「新規適用の手続き」(提出時期は事実発生から5日以内、提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所)
- 厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き【第1編】適用事業所編【令和7年8月版】」
- freee会社設立で作成・出力できる書類(設立登記申請書・定款・法人設立届出書など) ―― freee株式会社の公表資料(2026年8月14日参照)。機能は改定されるため、最新は公式サイトでご確認ください
- 条文はいずれも2026年8月13日時点でe-Gov法令検索により確認した現行条文です
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。 労働・社会保険の届出と概算保険料の申告、資格取得の手続は社会保険労務士の業務です。設立登記は司法書士、法人設立届出書など税務は税理士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。定款や許認可の書類作成は四葉行政書士事務所(別の事業体です。別々にご契約いただきます)で承ります。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
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