副業・兼業中にケガをしたら労災は?複数事業労働者の給付と賃金合算

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
副業・兼業で2つ以上の会社に雇われている人が働いている間にケガや病気をした場合、2020年(令和2年)9月1日施行の改正で、労災の給付基礎日額はすべての勤務先の賃金を合算して計算されます(労働者災害補償保険法第8条第3項)。また、1社だけでは労災と認められない過重負荷でも、複数の会社の業務を合わせて評価する「複数業務要因災害」の枠組みができました(同法第7条第1項第2号)。対象となる複数事業労働者とは誰か、賃金の合算、複数業務要因災害、請求の窓口、会社が整えることを、社会保険労務士の観点で整理します。
結論(先に要点):副業・兼業で2つ以上の会社に雇われている人が働いている間にケガや病気をした場合、2020年(令和2年)9月1日施行の改正で、労災の給付額のもとになる給付基礎日額はすべての勤務先の賃金を合算して計算されます(労働者災害補償保険法第8条第3項)。また、1社だけでは労災と認められない過重負荷でも、**複数の会社の業務を合わせて評価する「複数業務要因災害」**という枠組みができました(同法第7条第1項第2号)。この記事では、対象となる「複数事業労働者」とは誰か、賃金の合算、複数業務要因災害、請求の窓口、会社が整えておくことを整理します。
「うちの従業員が副業先でケガをした」「自社は副業を認めているが、労災はどうなるのか」——そうしたご相談が増えています。このページは、副業・兼業者を雇う、または自社の従業員が副業している中小企業の労務担当の方に向けて、複数事業労働者の労災給付の考え方を整理します。個別の給付の可否は労働基準監督署が認定するもので、この記事の範囲外です。
複数事業労働者とは?どんな人が対象?
「複数事業労働者」とは、傷病等が生じた時点で、事業主が同一でない複数の事業に同時に雇われている労働者をいいます。たとえば、平日はA社の正社員、週末はB社でアルバイト、といった働き方が典型です。
注意したい線引きがあります。
| 対象になる | 対象にならない(原則) |
|---|---|
| 複数の会社に同時に「雇われている」人 | 副業が雇用でない人(個人事業・フリーランスとしての兼業) |
| 事業主が別々の複数事業に同時使用されている人 | すでに前職を辞め、1社だけで働いている人 |
| 特別加入を含め、複数の立場で就業する人(一定の場合) | — |
ポイントは「複数の事業に、労働者として同時に使用されている」ことです。フリーランスとして別の仕事を請けているだけでは、原則として複数事業労働者にはあたりません(労働者性の考え方は別記事の業務委託と雇用の境目で整理しています)。
副業先でのケガは両方の賃金で計算される?
はい。ここが2020年9月改正の中心です。労災の休業(補償)給付などは「給付基礎日額」をもとに計算されますが、改正前は、災害が発生した事業場の賃金だけで算定していました。副業先での賃金が抜け落ち、実際の収入より低い給付になっていたのです。
改正後は、複数事業労働者については、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額を算定します(労働者災害補償保険法第8条第3項)。
| 改正前(2020年8月まで) | 改正後(2020年9月1日〜) | |
|---|---|---|
| 給付基礎日額の算定 | 災害が発生した1社の賃金のみ | 全勤務先の賃金を合算 |
| 例:A社20万円+B社10万円の人がB社で被災 | B社の10万円分だけで算定 | 合算した30万円分を基礎に算定 |
これにより、休業給付・障害給付・遺族給付などが、実際の収入水準に近づきます。
複数業務要因災害(脳・心臓疾患等)とは?
もう一つの柱が「複数業務要因災害」です。これは、複数事業労働者の2つ以上の事業の業務を要因とする傷病等をいいます(労働者災害補償保険法第7条第1項第2号)。対象となるのは、主に脳・心臓疾患や精神障害など、長時間労働やストレスが積み重なって起きる類型です。
従来は、1つの事業場だけの業務負荷で労災かどうかを判断していました。そのため、A社もB社も単独では認定基準に届かないと、どちらでも労災にならないことがありました。改正後は、A社とB社の労働時間やストレス等を合わせて総合的に評価し、複数業務要因災害として認定し得る仕組みになっています。
労災は、次の3類型で整理されます。
| 類型 | 中身 |
|---|---|
| 業務災害 | 1つの事業場の業務が原因の負傷・疾病等 |
| 複数業務要因災害 | 複数事業労働者の2以上の事業の業務を合わせて評価する負傷・疾病等(脳・心臓疾患、精神障害など) |
| 通勤災害 | 通勤による負傷・疾病等 |
なお、複数業務要因災害として認められない場合でも、いずれか1社の業務だけで業務災害と認められることはあります。まず業務災害として評価し、それで認められないときに複数業務要因災害として評価する、という順序で判断されます。
労災の請求はどの会社を通して行う?
労災の給付は、被災した労働者(死亡の場合は遺族)が労働基準監督署に請求して受けます。複数事業労働者の場合は、請求書にすべての勤務先を記載し、それぞれの事業場から賃金額などの証明を受ける必要があります。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
- 提出先は、災害が発生した事業場を管轄する労働基準監督署(複数業務要因災害では主たる就業先の管轄署)
- 請求様式には「その他就業先の有無」を記載する欄があり、非災害発生事業場の賃金額も申告する
- 各事業場の事業主が、労働時間・賃金・災害の状況などについて証明する
会社側の対応は、求められた事項に正しく証明することが中心です。給付の可否そのものを認定するのは労働基準監督署であり、会社や社会保険労務士が決めるものではありません。請求手続そのものの流れは、別記事の労災の手続きでも整理しています。
会社が確認・整えておくことは?
副業・兼業を認める、あるいは自社の従業員が副業しているなら、労災に備えて次を整えておくと、いざという時に慌てません。
| やること | 中身 |
|---|---|
| 副業・兼業の把握 | 従業員が他社でも雇われて働いているかを、届出などで把握する |
| 就業規則の整備 | 副業・兼業の取扱い、届出のルールを就業規則に定める |
| 賃金・労働時間の記録 | 自社分の賃金・労働時間を正確に記録し、証明に備える |
| 相談窓口の確認 | 労災が起きたときの請求の流れと、相談先を社内で共有する |
副業・兼業がある場合の労働時間の通算(時間外労働の管理)は労災とは別の論点ですが、あわせて整理しておくと安全です。詳しくは別記事の副業・兼業の労務管理をご覧ください。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、労災(複数事業労働者の給付を含む)の請求手続の支援、副業・兼業に対応した就業規則の整備、労働時間・賃金の記録体制づくりをお受けします。ご相談は無料です。 費用は報酬額表をご覧ください。
給付の可否を認定するのは労働基準監督署です。当事務所は、請求が適切に行えるようお手伝いする立場であり、認定の結果を保証するものではありません。
よくある質問
Q. 副業がアルバイト(雇用)ではなく、個人事業の場合も合算されますか?
A. 原則として合算の対象になりません。給付基礎日額の合算や複数業務要因災害は、「複数の事業に労働者として使用されている」複数事業労働者が対象です。個人事業・フリーランスとしての兼業は、労働者としての雇用ではないため、原則として対象外です(特別加入をしている場合など、例外的な取扱いは個別に確認が必要です)。
Q. 給付基礎日額の合算は、いつの災害から適用されますか?
A. 2020年(令和2年)9月1日以後に生じた傷病等について適用されます。それより前の災害は、従来どおり災害が発生した事業場の賃金のみで算定されます。
Q. A社・B社のどちらも単独では労災の基準に届きません。給付は受けられませんか?
A. 複数業務要因災害として、両社の業務を合わせて評価される可能性があります。脳・心臓疾患や精神障害などで、1社の負荷だけでは基準に届かない場合でも、複数事業労働者であれば合算して評価されます。最終的な認定は労働基準監督署が行います。
Q. 請求はどちらの会社が手続きするのですか?
A. 労災の請求は労働者本人(または遺族)が行うもので、会社が代わりに請求する義務があるわけではありません。ただし会社は、賃金・労働時間・災害の状況などについて証明する立場にあります。複数事業労働者の場合は、すべての勤務先の証明が必要になります。
この記事の根拠
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項第2号(複数業務要因災害)、第8条第3項(複数事業労働者の給付基礎日額=各事業ごとに算定した額を合算)、第20条の2以下(複数事業労働者に係る保険給付)
- 複数事業労働者・複数業務要因災害の制度は、雇用保険法等の一部を改正する法律により、2020年(令和2年)9月1日から施行
- 複数事業労働者の定義(傷病等が生じた時点で事業主が同一でない複数の事業に同時に使用されている労働者であること、個人事業としての兼業は原則対象外であること)、複数業務要因災害の対象(脳・心臓疾患、精神障害など)、賃金の合算、請求様式の「その他就業先の有無」欄、請求先の考え方は、厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(2020年9月施行)」および都道府県労働局の公表資料により確認しています(2026年9月参照)
- 条文番号・施行日は、e-Gov法令検索および厚生労働省の公表資料により確認しています
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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