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2026.09.03労働時間

訪問看護のオンコール(待機)手当は、どう設計すればよいですか

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

オンコール(呼出待機)の時間が労働時間にあたるかは、待機中に労働者が指揮命令下に置かれ、時間の自由利用が保障されていないといえるかで決まります。判断の枠組みは大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日)が示しています。実際に呼び出されて働いた時間は労働時間で、時間外・深夜・休日にあたれば割増賃金(労働基準法第37条)が必要です。待機手当を払っていても、それだけで割増賃金の義務はなくなりません。常勤換算2.5への数え方、移動・記録時間の扱いとあわせて整理します。個別の労働時間該当性は労働基準監督署・裁判所が判断します。

結論(先に要点):オンコール(呼出待機)の時間が労働時間にあたるかは、待機中に労働者が指揮命令下に置かれ、時間の自由利用が保障されていないといえるかで決まります。実際に呼び出されて働いた時間は労働時間で、時間外・深夜・休日にあたれば割増賃金(労働基準法第37条)が必要です。待機手当を払っていても、それだけで割増賃金の義務がなくなるわけではありません。個別の待機が労働時間にあたるかの最終判断は、労働基準監督署や裁判所が行います。

「オンコールは手当を月いくらで払っているから、それで足りているはず」「呼び出されなかった夜は働いていないから賃金は要らない」——訪問看護ステーションの現場では、待機と実働の切り分けがあいまいなまま運用され、あとから未払い割増賃金を指摘される例があります。この記事は、訪問看護ステーションの管理者・経営者の方に向けて、オンコール待機の労働時間性、待機手当と割増賃金の分け方、常勤換算2.5への数え方、移動・記録時間の扱いを整理します。

オンコール(待機)の時間は、労働時間に当たりますか?

「自由に使える時間か」で決まります。一律に「待機は労働時間ではない」とも「待機はすべて労働時間だ」とも言えません。

判断の枠組みは、仮眠時間の労働時間性が争われた**大星ビル管理事件(最高裁第一小法廷 平成14年2月28日判決)**が示しています。最高裁は、仮眠時間中に警報への対応など実作業への従事が義務づけられ、その時間の自由利用が保障されていないなど、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると認められる場合には、その時間は労働基準法第32条の労働時間にあたるとしました。

オンコールにあてはめると、次のように分かれます。

待機の状態労働時間にあたるか(考え方)
事業所に泊まり込むなど、拘束され自由に過ごせない待機指揮命令下にあれば労働時間にあたり得る
自宅で待機し、電話を受けたら出動するが、それまでは食事・入浴・睡眠など通常の私生活を送れる拘束の程度が低ければ、待機そのものは労働時間にあたらない扱いが一般的
待機中に電話対応・記録・オンライン助言など実作業を命じられているその実作業の時間は労働時間
呼び出されて利用者宅へ出動し、看護を行った出動から帰所までの実働は労働時間

自宅でのオンコールは、拘束の程度が低ければ待機自体は労働時間にあたらないと整理されることが多い一方、電話対応の頻度が高い、飲酒や外出を禁じるなど拘束が強い場合は評価が変わり得ます。個別の待機が労働時間にあたるかは、実態に照らして労働基準監督署・裁判所が判断します。

待機手当と、呼び出されたときの割増賃金はどう分けますか?

分けて設計するのが基本です。「待機したこと」への手当と、「実際に働いたこと」への賃金は、性質が違います。

多くのステーションは、待機1回(一晩)あたりのオンコール手当を定額で支払い、実際に呼び出されて出動した時間には実働分の賃金を別に支払っています。出動が深夜(午後10時〜午前5時)にかかれば深夜割増、法定時間外にかかれば時間外割増、法定休日にかかれば休日割増が必要です。

支払いの種類性質割増の要否
オンコール手当(待機1回あたり定額)待機に応じたことへの手当待機が労働時間でなければ割増の対象外。就業規則・賃金規程で定める
呼出出動の実働賃金実際に働いた時間への賃金時間外・深夜・休日にあたれば割増賃金(労働基準法第37条)

注意が要るのは、待機手当を払っているから割増賃金は不要、という取り扱いはできない点です。待機手当は待機への対価、割増賃金は実働への法定の支払いで、別物です。割増賃金の考え方や時間外労働の管理は残業をさせるには何がいるのか(36協定はどこまで)を、夜勤・宿直との切り分けは夜勤と宿直は労働時間の扱いがどう違うのかもあわせてご確認ください。

常勤換算2.5人に、オンコール担当はどう数えますか?

常勤換算は、その職員の勤務時間を常勤職員の所定勤務時間で割って求めます。だから、オンコールを常勤換算に数えられるかは「その待機時間が勤務時間(労働時間)にあたるか」と同じ問題になります。

指定訪問看護ステーションの人員基準は、指定居宅サービス等の基準(平成11年厚生省令第37号)で、看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算方法で2.5以上置くこと、うち1人以上は常勤とすること、管理者は原則として常勤の保健師又は看護師とすることを定めています。

時間常勤換算への数え方(考え方)
自宅待機で、待機自体が労働時間にあたらないオンコール勤務時間に含まれないため、常勤換算には数えない
呼び出されて出動し看護を行った実働労働時間として勤務時間に算入する
待機中に命じられた記録・電話対応などの実作業労働時間にあたれば勤務時間に算入する

つまり「オンコール担当がいる」こと自体では2.5にカウントされず、実際に勤務した時間が積み上がります。人員基準の充足や常勤換算の具体的なカウント方法は指定権者(都道府県等)の解釈にもよるため、個別の算定は最新の一次情報と指定権者の手引きで確認してください。

移動時間・記録時間の賃金は、どう扱いますか?

呼び出されて事業所や利用者宅へ向かう移動、看護後の記録作成の時間も、指揮命令下にあれば労働時間にあたり、賃金の対象になります。

呼出出動は、使用者の指示で業務のために移動するものですから、その移動時間は原則として労働時間です。訪問後の看護記録・報告の作成も、業務として義務づけられ指揮監督のもとで行うなら労働時間にあたります。これらを含めた総労働時間で時間あたりの賃金が最低賃金を下回らないかも確認が必要です。

整える順序は次のとおりです。

  1. 待機と実働を定義する:どの状態を待機(手当の対象)とし、どこからを実働(賃金・割増の対象)とするかを、大星ビル管理事件の枠組みに沿って明文化する。
  2. オンコール手当と実働賃金を賃金規程に書く:待機1回あたりの手当額、実働の単価、深夜・時間外・休日の割増を定める。
  3. 出動・移動・記録を記録する:呼出時刻、出動から帰所までの時間、記録作成の時間を客観的に残す。記録がないと、あとで争いになったとき事業所側が不利になりやすい。
  4. 最低賃金を割らないか確認する:実働・移動・記録を含む総労働時間で割った額が、その地域の最低賃金以上であることを確かめる。

賃金規程・36協定・労働時間管理の整備は社会保険労務士の業務です。訪問と訪問の合間の移動時間の考え方は訪問介護の移動時間・待機時間は労働時間にあたるのかもご覧ください。

指定申請・賃金の紛争・税務は、それぞれ誰に頼みますか?

訪問看護ステーションの立ち上げと運営には、複数の資格者が別々の役割で関わります。

相談内容担当
オンコール手当・割増賃金の設計、就業規則・賃金規程、36協定、労働時間管理社会保険労務士
指定申請(人員2.5・管理者などの基準を満たす書類)、指定権者への届出行政書士
すでに発生した未払い割増賃金の請求など、争いになった案件弁護士
賃金設計に伴う源泉徴収・税務税理士

指定基準・人員配置の届出は行政書士(四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、別々にご契約いただきます)、未払い賃金をめぐる紛争は弁護士、税務は税理士の領域です。指定の可否そのものは指定権者(都道府県等)が判断します。

よくある質問

Q. オンコール手当を月額で払っていれば、割増賃金は払わなくてよいですか?
A. いいえ。オンコール手当は待機に応じたことへの手当で、実際に呼び出されて働いた時間の割増賃金(労働基準法第37条)とは別物です。出動が深夜・時間外・休日にかかれば、実働分に割増賃金の支払いが必要です。手当の支払いだけで割増の義務がなくなるわけではありません。

Q. 自宅で待機しているオンコールの時間は、すべて労働時間になりますか?
A. 必ずしもそうではありません。自宅で待機し、電話を受けたら出動するが、それまでは食事・入浴・睡眠など通常の私生活を送れる程度の拘束であれば、待機自体は労働時間にあたらないと整理されることが多いです。一方、電話対応が頻繁、外出や飲酒を禁じるなど拘束が強い場合は評価が変わり得ます。個別の判断は労働基準監督署・裁判所が行います。

Q. オンコール担当を置けば、常勤換算2.5人に数えられますか?
A. 待機していること自体では数えられません。常勤換算はその職員の勤務時間(労働時間)を常勤の所定勤務時間で割って求めるため、労働時間にあたらない自宅待機は算入されません。呼び出されて働いた実働時間や、待機中に命じられた実作業の時間が労働時間として積み上がります。

Q. 呼び出されて利用者宅へ向かう移動時間には、賃金が要りますか?
A. 呼出出動の移動は、使用者の指示による業務上の移動ですから、原則として労働時間にあたり賃金の対象です。看護後の記録作成も、業務として義務づけられ指揮監督のもとで行うなら労働時間です。これらを含めた総労働時間で、時間あたりの賃金が最低賃金を下回らないかも確認してください。

この記事の根拠

  • 労働基準法第32条(労働時間)。使用者は、原則として1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはならないと定めています(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年9月3日参照)
  • 労働基準法第37条(時間外・休日及び深夜の割増賃金)。時間外・休日・深夜(午後10時〜午前5時)の労働に対し、政令で定める率以上の割増賃金の支払を義務づけています。実際に呼び出されて働いた時間がこれにあたれば割増賃金が必要です(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年9月3日参照)
  • 大星ビル管理事件(最高裁第一小法廷 平成14年2月28日判決、民集56巻2号361頁)。仮眠時間中に実作業への従事が義務づけられ、その時間の自由利用が保障されていないなど、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると認められる場合には、その時間は労働基準法第32条の労働時間にあたるとしました。オンコール待機の労働時間性を判断する枠組みとして参照されます(最高裁判所、2026年9月3日参照)
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)。指定訪問看護ステーションの看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算方法で2.5以上置くこと、うち1人以上を常勤とすること、管理者を原則として常勤の保健師又は看護師とすることを定めています(e-Gov法令検索、2026年9月3日参照)
  • 個別のオンコール待機が労働時間にあたるか、常勤換算の具体的なカウント方法は、実態と指定権者の解釈に照らして判断されます。人員基準の充足や割増賃金の設計は、最新の一次情報(厚生労働省・指定権者の手引きなど)と個別事情に照らした確認が必要です

この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。オンコール手当・割増賃金の設計、就業規則・賃金規程の整備、36協定、労働時間管理は社会保険労務士の業務です。指定申請・人員配置の届出は行政書士、未払い賃金の請求など争いになった案件は弁護士、税務は税理士の領域です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別の待機が労働時間に該当するかは労働基準監督署・裁判所が判断します。制度の適用や個別の手続は、最新の一次情報(厚生労働省など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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