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2026.09.03労働保険

外国人労働者が労災に遭い帰国したら、補償はどうなりますか

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

労災保険は、日本国内の事業で働く労働者であれば、国籍や在留資格を問わず適用されます。仕事が原因のけが・病気で受ける療養・休業・障害などの給付は、被災者が帰国したあとでも受けられ、海外の口座への送金も可能です。ただし請求には時効があり、療養・休業などは2年、障害・遺族は5年です(労働者災害補償保険法第42条)。海外送金・通訳・書類の翻訳の準備、帰国後に請求できる厚生年金の脱退一時金とあわせて整理します。労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。

結論(先に要点):労災保険は、日本国内の事業で働く労働者であれば、国籍や在留資格を問わず適用されます。仕事が原因のけが・病気で受ける療養・休業・障害などの給付は、被災者が帰国したあとでも受けられ、海外の口座への送金も可能です。ただし請求には時効があり、療養・休業などは2年、障害・遺族は5年です。労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。

「外国人だから労災は使えないのでは」「帰国してしまったら、もう給付は受けられないのでは」——外国人を雇う事業者や、被災後に帰国した/帰国予定の労働者を支える方から、こうした不安をよく聞きます。この記事は、国内で被災した外国人労働者が帰国後も給付を受け続けるための、適用・時効・送金・通訳の要点を整理します。

外国人労働者にも労災保険は適用されますか?

適用されます。国籍や在留資格による区別はありません。

労災保険は、日本国内の事業に使用され賃金を受ける労働者であれば、国籍を問わず適用されます。労働基準法第3条は、使用者が労働者の国籍を理由に賃金・労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならないと定めており、労災保険の適用も同じ考え方に立ちます。厚生労働省の取扱いでも、在留期限の切れた人や就労資格に適合しない就労など、いわゆる不法就労の状態にある人であっても、仕事が原因のけが・病気であれば労災保険給付の対象になるとされています。

項目取扱い
適用の対象日本国内の事業で働く労働者。国籍・在留資格を問わない
保険料の負担全額事業主が負担する(労働者の自己負担はない)
不法就労の状態にある人仕事が原因のけが・病気であれば給付の対象
給付を受ける権利帰国しても消滅しない

労災保険の未加入や、私傷病と業務上の切り分けなど、手続の入口は労災の手続と私傷病の報告はどう違うのかもあわせてご確認ください。

帰国後でも、療養・休業・障害の給付は受けられますか?

受けられます。給付を受ける権利は、被災者が日本を離れても消滅しません。

労災保険給付は、被災した労働者本人の権利です。帰国後は、海外の住所・口座を届け出ることで、給付金を海外送金で受け取ることができます。療養(治療費)、休業(働けない間の補償)、障害(後遺障害が残ったときの補償)、遺族(死亡したときの遺族への補償)といった給付が、要件を満たす限り帰国後も対象になります。

ただし、帰国後は日本の医療機関にかかれないため、療養(補償)給付の現物給付(労災指定病院での治療)は使えず、海外で治療を受けた費用の請求などは、書類や証明の準備が国内より手間がかかります。海外出張・海外派遣中の被災など、そもそも国内の労災保険が及ぶかどうかが問題になる場面については海外出張と海外派遣で労災の扱いはどう違うのかを参照してください。

労災の請求には時効(2年・5年)がありますか?

あります。給付の種類によって、時効の期間が2年と5年に分かれます。

労働者災害補償保険法第42条は、請求権が消滅する時効を次のように定めています。帰国して時間が経つと、請求できたはずの給付が時効で受けられなくなるため、早めの手続が要点です。

給付の種類時効起算点(原則)
療養(補償)給付、休業(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)、介護(補償)給付2年それぞれの権利を行使できる時から
障害(補償)給付、遺族(補償)給付5年それぞれの権利を行使できる時から

休業給付は、賃金を受けない日ごとに請求権が生じ、その日ごとに2年の時効が進みます。帰国後にまとめて請求しようとすると、古い分から時効にかかることがあるため注意が要ります。

海外送金や通訳、書類の翻訳はどうすればよいですか?

給付金の受取り、請求書類の作成、労働基準監督署とのやり取りには、送金と言語の準備が要ります。

場面準備
給付金の受取り海外の住所・銀行口座を届け出れば、海外送金で受け取れる
請求書類の記入本人・事業主・医師の証明欄がある。帰国後は事業主側の協力が要る場面が多い
通訳・翻訳厚生労働省は外国人労働者向けに多言語の労災保険給付の案内を公表している(参照日を確認して使う)。医証など外国語の書類は翻訳の添付を求められることがある
会社の協力事業主には、労災の証明や手続への協力が求められる

帰国後の請求は、事業主の証明・協力が得られるかで進みやすさが変わります。雇用の入口で誰が何を担当するかは外国人を雇うとき、社労士・行政書士のどちらの窓口かを分けるも参考になります。なお、給付の具体的な手続や必要書類は、被災地を管轄する労働基準監督署と最新の一次情報で確認してください。

在留・帰国手続や会社への賠償請求は、誰に相談しますか?

労災の給付そのものは社会保険労務士が扱いますが、周辺の手続は資格ごとに担当が分かれます。

相談内容担当
労災保険給付の請求、休業・障害などの手続社会保険労務士
在留資格の変更・帰国に伴う入管手続(申請取次)行政書士
会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償など、争いになった案件弁護士
年金の脱退一時金、源泉徴収された税の還付など税務社会保険労務士・税理士

在留資格の変更や帰国に伴う入管手続は行政書士(四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、別々にご契約いただきます)、会社の安全配慮義務違反をめぐる損害賠償の紛争は弁護士の領域です。労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。帰国する外国人は、厚生年金の脱退一時金を請求できる場合があり(日本国籍がない・被保険者期間6か月以上・老齢厚生年金の受給資格期間10年を満たしていない・日本に住所がない・日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求、などが要件)、これは労災とは別の年金の制度です。詳しくは帰国する外国人社員の年金はどう精算するのかをご覧ください。

よくある質問

Q. 在留資格のない外国人が働いていてけがをした場合、労災は使えますか?
A. 仕事が原因のけが・病気であれば、労災保険給付の対象になります。労災保険は日本国内の事業で働く労働者に国籍・在留資格を問わず適用され、厚生労働省の取扱いでも、いわゆる不法就労の状態にある人も給付の対象とされています。労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。

Q. すでに帰国してしまいましたが、休業や障害の給付はまだ請求できますか?
A. 給付を受ける権利は帰国では消滅しません。ただし時効があり、休業(補償)給付などは2年、障害(補償)給付・遺族(補償)給付は5年です。休業給付は賃金を受けない日ごとに時効が進むため、古い分から受けられなくなることがあります。早めに労働基準監督署へ確認してください。

Q. 給付金は海外の口座で受け取れますか?
A. 受け取れます。海外の住所・銀行口座を届け出れば、給付金を海外送金で受け取れます。請求書類の記入や医証の翻訳など、帰国後は国内より準備の手間がかかる場面があるため、事業主の協力を得ながら進めてください。

Q. 労災の給付とは別に、会社に損害賠償を求めることはできますか?
A. 労災保険給付は法定の補償で、会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求は、これとは別に問題になり得ます。ただし損害賠償をめぐって争いになった案件は弁護士の領域です。労災の給付手続は社会保険労務士、在留・帰国の入管手続は行政書士と、担当が分かれます。

この記事の根拠

  • 労働者災害補償保険法第42条(時効)。療養補償給付・休業補償給付・葬祭料・介護補償給付などを受ける権利は2年、障害補償給付・遺族補償給付などを受ける権利は5年を経過したときに時効で消滅すると定めています(e-Gov法令検索、労働者災害補償保険法・昭和22年法律第50号、2026年9月3日参照)
  • 労働基準法第3条(均等待遇)。使用者は、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由として、賃金・労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならないと定めています。労災保険の適用も国籍・在留資格を問いません(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年9月3日参照)
  • 厚生労働省による外国人労働者への労災保険の取扱い。労災保険は国籍・在留資格を問わず日本国内の事業で働く労働者に適用され、いわゆる不法就労の状態にある人も仕事が原因のけが・病気であれば給付の対象とされています。保険料は全額事業主が負担します。多言語の労災保険給付の案内も公表されています(厚生労働省、2026年9月3日参照)
  • 厚生年金保険法(脱退一時金)。日本国籍がなく、厚生年金の被保険者期間が6か月以上あり、老齢厚生年金の受給資格期間(10年)を満たしていない人が、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求できる制度です。2021年(令和3年)4月以降に最後の保険料を納付した人は、計算に用いる月数の上限が60月(従来は36月)になりました。労災とは別の制度です(日本年金機構、2026年9月3日参照)
  • 労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。個別の給付の要否・必要書類・海外での証明の取り方は、最新の一次情報(厚生労働省・労働基準監督署など)と個別事情に照らした確認が必要です

この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。労災保険給付の請求・休業・障害の手続は社会保険労務士の業務です。在留資格の変更・帰国に伴う入管手続は行政書士、会社の安全配慮義務違反をめぐる損害賠償の紛争は弁護士、税の還付など税務は税理士の領域です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。労災にあたるかの認定は労働基準監督署が行います。制度の適用や個別の手続は、最新の一次情報(厚生労働省など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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