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2026.09.02労働法の基本

専門業務型の裁量労働制、2024年4月改正で本人同意と定期報告はどう変わったか

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

2024年4月から、専門業務型の裁量労働制を導入・更新するには、対象となる従業員本人の同意を得ることと、同意しなかった人を不利益に扱わないことを労使協定に必ず書き込むことになりました(労働基準法施行規則第24条の2の2第3項)。すでに運用している会社も、協定の作り直しが要ります。対象業務はM&Aアドバイザリー業務の追加で20業務になり、記録の保存や同意撤回の手続も協定事項です。労基署への届出(様式第13号)は1回で、専門業務型に定期報告はありません。企画業務型との違いとあわせて整理します。

結論(先に要点):2024年4月から、専門業務型の裁量労働制を導入・更新するには、対象となる従業員本人の同意を得ることと、同意しなかった人を不利益に扱わないことを、労使協定に必ず書き込むことになりました。すでに運用している会社も、協定の作り直しが要ります。

専門業務型裁量労働制は、実際に何時間働いたかにかかわらず、労使協定で決めた時間だけ働いたものとみなす制度です(労働基準法第38条の3第1項)。研究開発やシステム設計など、仕事の進め方を大幅に本人の裁量に委ねる必要がある業務に限って使えます。

2024年4月1日施行の改正(令和5年厚生労働省令第39号)で、この制度の入口が一段厳しくなりました。従来は労使協定さえあれば対象者を一律に組み入れられましたが、改正後は一人ひとりの同意が要り、その手続と、同意を撤回する道筋を協定に定めておかなければなりません。

自社の業務が対象になるか、いまの協定が新しい要件を満たしているかは、記事だけでは決まりません。この記事では制度の骨格と、2024年4月改正で足すべきものを整理します。

専門業務型の裁量労働制とは、そもそも誰に使える制度なのか?

業務で決まります。誰にでも使える制度ではありません。

労働基準法第38条の3第1項は、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、遂行の手段や時間配分の決定等について使用者が具体的な指示をすることが困難な業務として厚生労働省令で定める業務に限る、と定めています。対象業務は労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙され、細目は厚生労働大臣の告示で指定されています。

2024年4月1日から、この対象業務に「銀行又は証券会社における合併及び買収に関する調査若しくは分析、又はこれらに基づく考案及び助言の業務」(いわゆるM&Aアドバイザリー業務)が加わり、対象は20業務になりました(厚生労働省告示第115号)。

区分主な対象業務
施行規則に列挙新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、記事の取材・編集、デザインの考案、放送番組・映画等のプロデューサー・ディレクター
厚生労働大臣の告示で指定コピーライター、システムコンサルタント、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融商品の開発、大学教授研究、公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザリー業務(2024年4月追加)

営業職や一般事務は、忙しくても対象になりません。「みなし残業代を払っているから裁量労働制と同じ」という理解は誤りで、対象業務に当たらない人を組み入れると、制度そのものが無効と判断される余地を残します。労働時間そのものを月・年で配分し直す変形労働時間制やフレックスタイム制は別の制度で、変形労働時間制とフレックスタイム制の選び方に整理しています。

2024年4月の改正で、なぜ本人の同意が必須になったのか?

みなし労働時間で働かせること自体が、労働者にとって重い効果を持つからです。

裁量労働制が適用されると、実際に何時間働いても、協定で定めた時間だけ働いたものとして賃金が計算されます。制度の趣旨に合った運用なら働き方の自由につながりますが、実態が伴わないまま適用されると、長時間労働が賃金に反映されないおそれがあります。そこで改正は、適用される本人がそれを納得して受け入れることを要件に据えました。

改正後は、労働基準法施行規則第24条の2の2第3項第1号により、労使協定に次の2つを定めることが必要です。

  • みなし労働時間により働かせることについて、対象労働者本人の同意を得なければならないこと
  • 同意をしなかった労働者に対して、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないこと

厚生労働省の解説は、同意を得るにあたり、制度の概要、対象労働者に適用される評価制度・賃金制度の内容、同意しなかった場合の配置・処遇を本人に明示して説明することが適当だとしています。同意は労働者ごとに、書面で得ておくのが実務です。

いったん同意した従業員は、あとから撤回できるのか?

できます。改正はその手続を協定に定めることまで求めました。

労働基準法施行規則第24条の2の2第3項第2号は、同意の撤回に関する手続を労使協定で定めることを義務づけています。撤回の申出先、方法、撤回後にどの労働時間制度に戻るのかを、あらかじめ決めておくということです。そして同意しなかった人と同じく、撤回したことを理由とする不利益な取扱いも禁止されます。

つまり同意は入口で一度取れば終わりではなく、対象労働者はいつでも制度から降りられる建て付けになりました。会社は撤回に備えて、撤回後の勤怠管理と賃金計算の道筋を用意しておく必要があります。

労使協定に新しく書き足す事項は何か?

同意・撤回・記録の3つが軸です。もともとの協定事項に、2024年4月改正の分を重ねます。

協定で定める事項根拠2024年4月改正
対象業務労基法第38条の3第1項第1号従来どおり
みなし労働時間同項第2号従来どおり
遂行の手段・時間配分の決定等に具体的な指示をしないこと同項第3号従来どおり
健康・福祉確保措置同項第4号措置の選択肢が整理された
苦情処理措置同項第5号従来どおり
本人同意を得ること・同意しない人への不利益取扱いの禁止施行規則第24条の2の2第3項第1号新設
同意の撤回に関する手続同項第2号新設
労使協定の有効期間同項第3号従来どおり
同意・撤回・健康福祉・苦情処理の記録の保存同項第4号記録事項に同意・撤回が加わった

記録は、労使協定の有効期間中と、その満了後3年間保存します(施行規則の条文上は5年間ですが、経過措置により当分の間は3年間です)。有効期間そのものは、厚生労働省の解説が3年以内とすることが望ましいとしています。既存の協定で運用している会社は、有効期間の満了を待たず、改正に合わせて協定を締結し直すのが安全です。

労基署への届出と、健康・福祉確保措置の報告はいつ行うのか?

届出は協定を結んだときの1回で、専門業務型に定期報告の仕組みはありません。ここが企画業務型との大きな違いです。

労働基準法第38条の3第2項は、締結した労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出ることを義務づけています。届出は様式第13号(労働基準法施行規則第24条の2の2第4項)で、協定の締結・更新のたびに提出します。健康・福祉確保措置は協定で定めて実施し、実施状況を記録として残しますが、その内容を定期的に労基署へ報告する義務は専門業務型にはありません

一方、企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)は、労使委員会の決議を届け出たうえで、対象労働者の労働時間の状況や健康・福祉確保措置の実施状況などを定期的に報告する義務があります。同じ「裁量労働制」でも、専門業務型と企画業務型では手続の重さが違います。自社に企画業務型が向くのか専門業務型で足りるのかは、対象業務と体制で分かれます。

協定づくりと届出、紛争対応は、それぞれ誰に頼むのか?

工程で担い手が分かれます。線を引いて整理します。

  • 労使協定の作成、就業規則・賃金規程の整備、所轄労働基準監督署長への協定届の提出代行、健康・福祉確保措置の設計、過半数代表者の選出手続の設計 → 社会保険労務士の領域です
  • みなし労働時間の適否や未払い残業代をめぐって争いになった場面の交渉・訴訟 → 弁護士へご相談ください
  • 賃金の税務上の処理・年末調整 → 税理士へおつなぎします

労働基準法は社会保険労務士法別表第一第1号に掲げられており、これに基づく申請書等の作成は同法第2条第1項第1号、提出に関する手続の代行は同項第1号の2、労務管理その他の労働に関する事項についての相談・指導は同項第3号の業務です。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

当事務所がお引き受けするのは、制度を入れられるかの見極めと、2024年4月改正に合わせた書面の整備です。

  • 自社の業務が対象20業務のどれに当たるか(当たらないか)の整理
  • 本人同意の取り方(説明事項・同意書のひな型)と、同意の撤回手続の設計
  • 労使協定の作成と、様式第13号による所轄労働基準監督署長への提出代行
  • 就業規則・賃金規程の改定と、みなし労働時間・深夜・休日割増の計算方法の組み直し
  • 健康・福祉確保措置と苦情処理措置の設計、記録の様式づくり
  • 企画業務型との比較材料の整理

次のものは、当事務所では扱いません。

  • みなし労働時間の適否や未払い残業代をめぐって争いになった場面の交渉・訴訟 → 弁護士への相談をご案内します
  • 賃金の税務上の処理、年末調整 → 税理士へおつなぎします
  • 会社の登記に関する手続 → 司法書士へおつなぎします
  • 許認可の申請書類の作成 → 四葉行政書士事務所が別の事業体として承ります
  • 事業所や社宅の賃貸借 → 四葉不動産株式会社が別の事業体として承ります

四葉不動産株式会社、四葉行政書士事務所、四葉社会保険労務士事務所は、それぞれ独立した事業体として業務を受任します。他の専門家をご紹介する場合も、お客様に直接ご契約いただく形をご案内し、当事務所は紹介料を受け取りません。

ご相談は無料です。費用は報酬額表に、サービス内容ご相談の流れもあわせてご覧ください。時間外労働そのものの上限は残業の上限は36協定で決まるに、就業規則の届出は就業規則は何人から義務かに分けて書いています。

よくある質問

Q. すでに専門業務型裁量労働制を運用しています。2024年4月改正で何をすればよいですか?
A. 労使協定を締結し直すことになります。2024年4月1日施行の改正(令和5年厚生労働省令第39号)により、本人同意を得ること、同意しなかった人を不利益に扱わないこと(労働基準法施行規則第24条の2の2第3項第1号)、同意の撤回に関する手続(同項第2号)を協定に定めることが必要になりました。これらを定めた協定を様式第13号で所轄労働基準監督署長に届け出ます。既存の協定の有効期間が残っていても、新しい要件を満たしていなければ制度の適用が問われるため、満了を待たずに整えるのが安全です。

Q. 本人が同意しなかった場合、その従業員をどう扱えばよいですか?
A. 裁量労働制を適用せず、通常の労働時間管理(実労働時間に基づく管理)を行います。同意しなかったことを理由に、解雇・降格・減給その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(労働基準法施行規則第24条の2の2第3項第1号)。同意を後から撤回した人についても同じで、撤回を理由とする不利益取扱いは認められません。

Q. 対象業務であれば、労働時間の管理はしなくてよいのですか?
A. いいえ。みなし労働時間の制度でも、使用者は労働時間の状況を把握する義務があり、把握した状況に応じて健康・福祉確保措置を講じます(労働基準法第38条の3第1項第4号)。また、みなしの対象は所定内労働時間の算定であり、深夜業(午後10時から午前5時まで)や休日労働については別に割増賃金が必要です。「裁量労働制だから残業代は一切かからない」という理解は誤りです。

Q. 専門業務型と企画業務型は、どちらを選べばよいですか?
A. 対象となる業務と、社内で用意できる体制で分かれます。専門業務型は施行規則・告示で定める20業務に限られ、労使協定と届出(様式第13号)で導入できます。企画業務型は事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務が対象で、労使委員会の設置・決議と、決議の届出、定期的な報告が必要です(労働基準法第38条の4)。手続は企画業務型のほうが重く、どちらが自社に合うかは面談のうえ整理します。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条の3第1項 ── 労使協定で第1号(対象業務)・第2号(みなし労働時間)・第3号(遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこと)・第4号(健康及び福祉を確保するための措置)・第5号(苦情の処理に関する措置)・第6号(前各号のほか厚生労働省令で定める事項)を定めた場合において、労働者を第1号の業務に就かせたときは第2号の時間労働したものとみなす
  • 同法第38条の3第2項 ── 第38条の2第3項を準用し、協定を行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出る
  • 同法第38条の4 ── 企画業務型裁量労働制。労使委員会の決議、行政官庁への届出、および厚生労働省令で定めるところによる定期的な報告
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第24条の2の2第2項 ── 法第38条の3第1項第1号の厚生労働省令で定める業務(新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、記事の取材・編集、デザインの考案、プロデューサー・ディレクター、および厚生労働大臣の指定する業務)
  • 同規則第24条の2の2第3項第1号 ── 本人の同意を得なければならないこと、および同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
  • 同項第2号 ── 前号の同意の撤回に関する手続
  • 同項第3号 ── 労使協定の有効期間の定め
  • 同項第4号 ── 健康・福祉確保措置、苦情処理措置、同意および同意の撤回に関し労働者ごとに講じた措置の記録を、有効期間中および当該有効期間の満了後(施行規則本則は5年間、経過措置により当分の間3年間)保存すること
  • 同規則第24条の2の2第4項 ── 協定届は様式第13号により所轄労働基準監督署長に
  • 専門業務型裁量労働制の対象業務にM&Aアドバイザリー業務を追加する厚生労働省告示第115号(令和6年4月1日施行)
  • 厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」(令和6年3月)── 本人同意を得るにあたり制度概要・評価制度・賃金制度・同意しなかった場合の処遇を明示して説明することが適当であること、有効期間は3年以内が望ましいこと、記録の保存
  • 社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)第2条第1項第1号(申請書等の作成)・第1号の2(提出に関する手続の代行)・第3号(相談・指導)、別表第一第1号(労働基準法)
  • 労働基準法・同施行規則の条文は2026年9月2日に e-Gov 法令検索の法令データ提供API(法令ID 322AC0000000049・322M40000100023・343AC1000000089)を取得して確認。厚生労働省の解説・告示は同日に確認

この記事は、個別の該当性を判断するものではありません。四葉社会保険労務士事務所では、専門業務型裁量労働制の対象業務の整理、本人同意・同意撤回の手続の設計、労使協定の作成と様式第13号による提出代行、就業規則・賃金規程の改定、健康・福祉確保措置と苦情処理措置の設計についてご相談いただけます。みなし労働時間の適否や未払い残業代をめぐって争いになった場面の交渉・訴訟は当事務所では扱わず、弁護士への相談をご案内します。賃金の税務上の処理と年末調整は税理士へ、会社の登記は司法書士へおつなぎします。許認可の申請書類は四葉行政書士事務所が、事業所や社宅の賃貸借は四葉不動産株式会社が、それぞれ別の事業体として承ります。別の専門家が必要な場合は、それぞれ別契約となり、紹介料はありません。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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