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2026.09.16労働法の基本

飲食店を開くときの労務設計——深夜割増・シフト・固定残業代は?

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

飲食店の労務は、深夜割増・シフト・固定残業代の3つを開業前に設計しておくと、あとの未払いトラブルを防げます。午後10時から午前5時の労働には25%以上の深夜割増が必要で(労働基準法第37条第4項)、時間外に重なれば50%以上になります。シフト制でも1日8時間・1週40時間の法定労働時間と休憩は動かず、超えるには36協定が要ります。固定残業代は何時間分でいくらかを示し、超えた分の差額を精算してはじめて有効です。アルバイトの社会保険と、営業許可・物件の担当分けまで整理します。

結論(先に要点):飲食店の労務は、深夜割増・シフト・固定残業代の3つを開業前に設計しておくと、あとの未払いトラブルを防げます。午後10時から午前5時の労働には25%以上の深夜割増が必要で(労働基準法第37条第4項)、その時間帯が時間外にも当たれば時間外25%以上と重なって50%以上になります。シフト制でも1日8時間・1週40時間の法定労働時間と休憩(第32条・第34条)は動かず、これを超えて働かせるには36協定が要ります(第36条)。固定残業代(みなし残業代)は「何時間分でいくらか」を賃金と割増部分に分けて示し、超えた分は差額を精算してはじめて有効になります。この記事では、飲食店の店長・オーナーに向けて、開業時に決めておく労働時間と賃金の型を実務目線で整理します。

「うちは深夜まで営業するけど、割増はどう払えばいいのか」「シフトを自由に組んでいるが、休憩や上限はどうなるのか」「固定残業代を付ければ残業代は払わなくてよいのか」——居酒屋・レストラン・カフェを新しく開く方から、よく受ける質問です。このページは、営業許可を取って店を開く前の段階で、労働時間・深夜割増・固定残業代・アルバイトの社会保険をどう設計するかに絞って整理します。個別の未払い残業代の請求や訴訟への対応は、この記事の範囲外です。

飲食店の深夜割増(22時以降)はどう計算する?

深夜割増は、午後10時から午前5時までに働かせたときに、通常の賃金の25%以上を上乗せするものです(労働基準法第37条第4項)。時間外割増(第37条第1項)とは別の割増なので、深夜かつ時間外なら両方が重なります。

働き方上乗せ率の目安
法定内の深夜(22時〜5時)深夜25%以上
時間外(1日8時間超)が深夜に重なる時間外25%+深夜25%=50%以上
法定休日の労働が深夜に重なる休日35%+深夜25%=60%以上
月60時間を超える時間外部分が深夜に重なる時間外50%+深夜25%=75%以上

時間外の割増率は原則25%以上ですが、1か月60時間を超えた時間外労働の部分は50%以上になります(第37条第1項ただし書。中小企業も2023年4月から適用)。時給制のアルバイトでも考え方は同じで、深夜に入る時間帯は時給に深夜割増を上乗せします。管理職だから深夜手当は不要、という扱いはできません。深夜割増は管理監督者にも適用されるためで、詳しくは名ばかり管理職と深夜割増の扱いをご覧ください。

シフト制でも労働時間の上限や休憩は必要か?

必要です。シフト制は勤務の時間帯を柔軟に組む仕組みであって、法定労働時間や休憩の義務を外す仕組みではありません。

項目原則
法定労働時間(第32条)1日8時間・1週40時間。これを超えるには36協定が必要
休憩(第34条)労働6時間超で45分、8時間超で60分を労働時間の途中に与える
一斉休憩の例外飲食業は一斉付与の例外業種にあたり、交替で休憩を取らせられる(第40条・同法施行規則第31条)
36協定(第36条)法定労働時間を超える・法定休日に働かせるには締結・届出が必要

繁忙期に労働時間が集中する店では、1か月単位・1年単位の変形労働時間制を使うと、期間を平均して週40時間に収める設計ができます。制度の選び方は変形労働時間制とフレックスタイムの選び方にまとめています。36協定の上限規制(特別条項でも年720時間以内・単月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回まで)は36協定はどこまで社労士に頼めるかをご覧ください。

固定残業代(みなし残業代)を適法に設計するには?

固定残業代(定額残業代・みなし残業代)は、毎月一定額の残業代をあらかじめ払っておく仕組みです。付けること自体は認められますが、有効とされるには要件があります。

  • 判別できること:通常の労働時間の賃金部分と、割増賃金にあたる部分を、契約や給与明細で区別できること
  • 対価性:その手当が時間外労働などの対価として支払われるものであること(日本ケミカル事件・最高裁第一小法廷判決平成30年7月19日)
  • 差額精算:固定額に相当する時間を超えて働かせたら、その超えた分の割増賃金を追加で支払うこと

「固定残業代を付けたから、いくら働かせても追加はゼロ」という運用はできません。何時間分でいくらかを示し、その時間を超えた月は差額を払う——ここまでそろって有効になります。飲食店は繁閑の差が大きく、想定した時間を超える月が出やすいので、深夜割増との重なりも含めた計算のあて先をあらかじめ決めておくと安全です。要件と差額精算の実務は固定残業代が有効になる要件と差額精算で詳しく扱っています。

アルバイト・パートの社会保険はどこから加入する?

飲食店はアルバイト・パートが多く、加入の分かれ目を人ごとに見る必要があります。労災保険は勤務時間の長短にかかわらず全員が対象です。雇用保険・社会保険(健康保険・厚生年金)は、労働時間などの要件で決まります。

保険加入の目安
労災保険労働者は全員対象(アルバイト・学生を含む)
雇用保険週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み(昼間学生は原則対象外)
社会保険(4分の3基準)週の所定労働時間・月の所定労働日数がともに通常の労働者の4分の3以上
社会保険(特定適用事業所)従業員51人以上の事業所では、週20時間以上・月額88,000円以上・2か月超の見込み・学生でないの要件で加入

ご自身のケースについて相談したい方へ

社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。

社会保険の企業規模要件は段階的に引き下げ・撤廃が予定されています。学生アルバイト中心の店でも、掛け持ちや卒業後の勤務で要件を満たすことがあるため、契約時の所定労働時間の決め方が加入の可否を左右します。判定の詳細は短い時間で雇うと社会保険はどうなるかにまとめています。外国人スタッフを雇う場合の労務と社会保険は、専門性の高い人材については高度専門職の外国人を雇うときの労務と社会保険もあわせてご覧ください。

労務・営業許可・物件はそれぞれ誰に頼むのか?

飲食店の開業では、動く手続の担当が資格ごとに分かれます。

すること誰の領分か
就業規則・36協定・シフトと固定残業代の設計、社会保険・雇用保険の手続、給与計算社会保険労務士(当事務所)
飲食店営業許可・食品衛生の届出、深夜酒類提供飲食店営業の届出行政書士(保健所・警察署への手続)
店舗物件の紹介・条件確認、賃貸借契約宅地建物取引業者
個別の未払い残業代請求・団体交渉・労働審判弁護士

就業規則・36協定・固定残業代の設計と社会保険の手続は社会保険労務士の業務です。営業許可や食品衛生の届出は行政書士、物件は宅地建物取引業者の領域で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所から他の事業体を紹介する場合も、紹介料のやり取りはありません。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、飲食店の労働時間設計、深夜割増を含む賃金規程・固定残業代の設計、シフトと変形労働時間制の設計、36協定の作成・届出、アルバイト・パートの社会保険と雇用保険の手続、給与計算をお受けします。開業前に労働条件と賃金の型を決めておくと、あとからの是正やトラブルを防げます。ご相談は無料です。 費用は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。

よくある質問

Q. 深夜まで営業する店では、割増はどうなりますか?
A. 午後10時から午前5時の労働には、通常の賃金の25%以上の深夜割増が必要です(労働基準法第37条第4項)。その時間帯が1日8時間を超える時間外にも当たれば、時間外25%以上と深夜25%以上が重なって50%以上になります。時給制のアルバイトでも同じ考え方です。

Q. シフト制なら、休憩や労働時間の上限はないのですか?
A. あります。シフト制でも1日8時間・1週40時間の法定労働時間は動かず、6時間超で45分・8時間超で60分の休憩が必要です。これを超えて働かせるには36協定の締結・届出が要ります。飲食業は一斉休憩の例外業種にあたるため、交替で休憩を取らせることはできます。

Q. 固定残業代を付ければ、残業代の追加払いは要りませんか?
A. 要ることがあります。固定残業代は、通常の賃金部分と割増部分を判別でき、時間外の対価であることが明確で、相当する時間を超えたら差額を精算する——という要件を満たしてはじめて有効です。何時間分でいくらかを示さず、超えた月に差額を払わないと、有効と認められないことがあります。

Q. 学生アルバイトも社会保険に入れる必要がありますか?
A. 昼間学生は雇用保険・社会保険とも原則として対象外ですが、労災保険は全員が対象です。卒業後の勤務や掛け持ち、労働時間の増加で要件を満たすことがあるため、契約時の所定労働時間の決め方が加入の分かれ目になります。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条(法定労働時間=1日8時間・1週40時間)、第34条(休憩=6時間超45分・8時間超60分・途中付与・一斉付与)、第36条(時間外・休日労働に関する協定と上限規制)、第37条(割増賃金。第1項=時間外25%以上/月60時間超50%以上・休日35%以上、第4項=午後10時〜午前5時の深夜25%以上)、第40条・同法施行規則第31条(一斉休憩の適用除外業種=接客娯楽業等)
  • 固定残業代(定額の手当)が時間外労働の対価と認められるかの判断=日本ケミカル事件・最高裁第一小法廷判決平成30年7月19日。個別の可否は事情により判断が分かれます
  • 短時間労働者の社会保険(健康保険法・厚生年金保険法)=4分の3基準、特定適用事業所での週20時間以上・月額88,000円以上・2か月超の見込み・学生でないの要件。企業規模要件の段階的な引き下げ・撤廃を含む
  • 雇用保険(雇用保険法)=週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み、昼間学生の適用除外
  • 割増賃金率・社会保険と雇用保険の加入要件は、厚生労働省・日本年金機構の公表資料により確認しています(2026年9月時点)

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。就業規則・36協定・固定残業代の設計と社会保険・雇用保険の手続は社会保険労務士の業務、飲食店営業許可・食品衛生の届出は行政書士の業務、店舗物件は宅地建物取引業者の領域、個別の未払い残業代請求や労働審判・訴訟は弁護士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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