個人事業を法人成りしたときの社会保険・労働保険の切替—強制適用への移行と従業員の手続

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
個人事業を法人成りすると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は従業員の人数にかかわらず強制適用になります。法人の事業所は常時従業員を使用すれば適用事業所になるためで(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)、常時5人未満で任意適用だった個人事業の扱いとは変わります。法人設立後は、新規適用届と被保険者資格取得届を事実発生から5日以内に年金事務所(事務センター)へ提出し(日本年金機構の案内)、労働保険・雇用保険も事業主が変わる前提で届出を見直します。従業員は国民健康保険・国民年金から健康保険・厚生年金保険へ、または旧事業所での資格喪失と法人での資格取得の付替えになります。切替の時期を誤ると保険料のさかのぼり請求や資格の空白が生じます。設立登記は司法書士、資産の引継ぎや消費税・所得税の税務は税理士へ、社会保険・労働保険の届出を社会保険労務士が、独立した事業体として別々にご契約いただく形で進めます。
結論(先に要点):個人事業を法人成りすると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、従業員の人数にかかわらず強制適用になります。法人の事業所は常時従業員を使用すれば適用事業所となるためで(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)、常時5人未満で任意適用だった個人事業の扱いとは変わります。法人設立後は、新規適用届と被保険者資格取得届を事実発生から5日以内に年金事務所(事務センター)へ出し(日本年金機構の案内)、労働保険・雇用保険も事業主が変わる前提で届出を見直します。設立登記は司法書士、資産の引継ぎや消費税・所得税の税務は税理士の領域で、社会保険・労働保険の届出を社会保険労務士が、いずれも独立した事業体として別々にご契約いただく形で進めます。
「個人事業のときは従業員が少なく社会保険に入っていなかったが、法人成りしたら入らなければならないのか」「法人を作った後、社保や労働保険の手続はいつまでに何を出すのか」「従業員の加入や被保険者番号はどう切り替わるのか」——個人事業から株式会社・合同会社へ法人成りする事業主、法人化後に手続を控えている経営者からよく受ける相談です。このページは、法人成りに固有の、任意適用から強制適用への移行と、労働保険・雇用保険の事業主変更、従業員の資格の付替えという社会保険労務士側の論点に絞って整理します。設立登記そのものは司法書士、法人成りに伴う税務は税理士の領分で、この記事は労務に絞ります。
法人成りすると社会保険はなぜ強制適用になりますか?
法人の事業所は、常時従業員を使用していれば(代表者1人だけでも使用関係があれば)健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)。一方、個人事業は、農林水産・サービス業など一部の業種を除き、常時5人以上の従業員を使用する場合に強制適用で、5人未満や非該当業種では任意適用(従業員の同意と認可による。健康保険法第31条・厚生年金保険法第10条)でした。法人成りはこの「任意適用だった状態」から「人数を問わない強制適用」への移行です。
| 事業の形 | 社会保険の適用 |
|---|---|
| 法人(株式会社・合同会社など) | 常時従業員を使用すれば人数を問わず強制適用(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条) |
| 個人事業・特定業種で常時5人以上 | 強制適用 |
| 個人事業・5人未満または非該当業種 | 任意適用(従業員の同意と認可。健康保険法第31条・厚生年金保険法第10条) |
ここで押さえるのは、法人成りの時点で、個人事業のときに社会保険へ入っていたかどうかにかかわらず、法人として新たに適用事業所になるという点です。新規に法人を設立する場合の社保・労働保険の期限は会社設立の社会保険・労働保険の期限に整理しており、法人成りでも社会保険の入口の考え方は共通です。
新規適用届と被保険者資格取得届はいつ出しますか?
法人が適用事業所に該当したとき(法人設立等の事実が生じたとき)は、健康保険・厚生年金保険の新規適用届を事実発生から5日以内に、あわせて従業員ごとの被保険者資格取得届を提出します。提出先は管轄の年金事務所または事務センターです(日本年金機構の案内。2026年10月29日参照)。
| 届出 | 単位 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 新規適用届 | 事業所 | 事実発生から5日以内(日本年金機構の案内) |
| 被保険者資格取得届 | 従業員ごと | 事実発生から5日以内(日本年金機構の案内) |
| 健康保険被扶養者(異動)届 | 扶養家族がいる被保険者ごと | 資格取得届とあわせて |
添付書類は法人の登記事項証明書など、事業所の状況によって異なります。具体的な様式・添付書類・提出方法の細目は保険者・管轄で変わるため、書く直前に日本年金機構・年金事務所の最新の案内で確認してください(未検証)。短時間で働く従業員が被保険者になるかの線引き(通常の労働者の4分の3以上など)は短時間労働者はどこから社会保険に入るかにまとめています。
労働保険・雇用保険は事業主が変わると何の届出が要りますか?
労働保険(労災保険・雇用保険)は、個人事業のときから従業員を雇っていれば原則として成立しています。法人成りで事業主が「個人」から「法人」へ変わるため、労働保険・雇用保険の届出を見直します。新たに保険関係が成立する扱いになる場合、保険関係成立届は成立した日の翌日から10日以内が目安です(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)。雇用保険では、事業所の設置や被保険者の扱いについてハローワークへの届出が必要です。
| 保険 | 想定される届出 |
|---|---|
| 労働保険(労災・雇用の保険料徴収) | 保険関係成立届ほか(成立日の翌日から10日以内が目安。労働保険の保険料の徴収等に関する法律) |
| 雇用保険 | 適用事業所設置届・被保険者に関する届出(ハローワーク) |
法人成りを労働保険で「個人事業の消滅+法人の新規成立」として扱うか、「事業主の変更」として扱うかは、事業の継続性の見方により運用が分かれます。どちらの手続になるか、被保険者番号をどう引き継ぐかは、所轄の労働局・労働基準監督署・ハローワークで確認する前提とし、ここでは断定しません(未検証)。
従業員を個人事業から法人へ移すと加入はどう切り替わりますか?
個人事業で社会保険に入っていなかった従業員は、法人の被保険者資格取得により、国民健康保険・国民年金から健康保険・厚生年金保険へ切り替わります。すでに社会保険に入っていた場合は、個人事業の事業所での資格を喪失し、法人の事業所で資格を取得する付替えになります。雇用保険の被保険者番号は本人に一つで、事業所が変わっても引き継がれるのが原則です。
| 従業員の状況 | 切替の内容 |
|---|---|
| 個人事業で社会保険に未加入だった | 法人で資格取得(国保・国民年金 → 健康保険・厚生年金保険) |
| 個人事業で社会保険に加入していた | 旧事業所で資格喪失・法人で資格取得の付替え |
| 雇用保険の被保険者 | 被保険者番号は本人に一つ。事業所が変わっても引き継ぐのが原則 |
給与や標準報酬月額、保険料の控除開始のタイミングは、資格取得日と給与の締め・支払いに合わせて設計します。就業規則も、個人事業から法人へ引き継ぐ際に見直す場面が多く、何人から整備義務があるかは就業規則は何人から義務かに、事業の承継にともなう労務の整理は個人事業主が亡くなったときの事業承継と労務にまとめています。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
切替のタイミングを誤るとどんな不利益が出ますか?
法人成りで適用事業所に該当したのに届出が遅れると、社会保険料が設立時にさかのぼって請求されることがあります。その間の国民健康保険・国民年金との二重負担や調整、賞与・昇給が挟まった場合の標準報酬の扱いなど、後からの整理が複雑になります。設立の登記・銀行口座・給与支払いの開始と、社保・労働保険の届出の順序を最初に設計しておくと、こうした不利益を避けやすくなります。
| 誤りやすい点 | 起こりうる不利益 |
|---|---|
| 新規適用届・資格取得届の提出遅れ | 保険料のさかのぼり請求、国保・国民年金との二重負担の調整 |
| 従業員の資格喪失・取得の時期のずれ | 保険証の空白、被扶養者の手続漏れ |
| 労働保険の成立・変更届の漏れ | 保険料の精算・遅延、助成金の要件確認で不備 |
さかのぼりの範囲や精算の具体は、保険者・管轄や個別の事情で変わるため、ここでは一般的な注意にとどめます(未検証)。最終的な取扱いは年金事務所・労働局で確認し、資格者が設計します。
法人成りの手続は誰に相談すればよいですか?
法人成りは、複数の専門家の領域にまたがります。社会保険労務士が担うのは社会保険・労働保険の届出と労務の設計で、登記や税務とは担い手が分かれます。
| 手続 | 担当 |
|---|---|
| 会社設立の登記・役員変更の登記 | 司法書士(当事務所とは独立した事業体) |
| 資産・負債の引継ぎ、消費税・所得税など法人成りの税務 | 税理士(当事務所とは独立した事業体) |
| 社会保険・労働保険の届出、従業員の資格の付替え、就業規則・賃金規程の整備 | 社会保険労務士(四葉社会保険労務士事務所) |
四葉社会保険労務士事務所は独立した事業体として労務を受任し、司法書士や税理士など別の専門家が必要な場合は、お客様に直接ご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
当事務所がお引き受けするのは、法人成りの際に社会保険・労働保険を正しい時期に切り替え、保険料のさかのぼりや資格の空白を生まないための労務の設計です。
- 新規適用届・被保険者資格取得届・被扶養者届の作成と提出(事実発生から5日以内の段取り)
- 労働保険・雇用保険の事業主変更にともなう届出の見直し(所轄での確認を含む)
- 従業員の資格喪失・取得の付替えと、給与・標準報酬月額・保険料控除の開始設計
- 法人としての就業規則・賃金規程・労働条件明示・労働時間管理の整備
設立登記は司法書士、法人成りの税務は税理士の領域です。四葉社会保険労務士事務所は独立した事業体として業務を受任し、別の専門家が必要な場合は、お客様に直接ご契約いただく形をご案内します。紹介料はありません。
ご相談は無料です。費用は報酬額表に、サービス内容とご相談の流れもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 法人成りすると従業員が少なくても社会保険に入らなければなりませんか?
A. はい。法人の事業所は常時従業員を使用していれば、人数にかかわらず健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)。代表者1人だけでも、法人から報酬を受け使用関係があれば被保険者になります。常時5人未満で任意適用だった個人事業の扱いとは変わります。
Q. 社会保険の届出はいつまでに出しますか?
A. 法人が適用事業所に該当したときは、新規適用届と被保険者資格取得届を事実発生から5日以内に、管轄の年金事務所または事務センターへ提出します(日本年金機構の案内)。添付書類は法人の登記事項証明書などで、事業所の状況により異なります。具体的な様式・提出方法は書く直前に最新の案内で確認してください。
Q. 労働保険・雇用保険の手続も要りますか?
A. 要ります。法人成りで事業主が個人から法人へ変わるため、労働保険・雇用保険の届出を見直します。新たに保険関係が成立する扱いなら、保険関係成立届は成立日の翌日から10日以内が目安です(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)。消滅+新規成立とするか事業主変更とするか、被保険者番号の引継ぎは、所轄の労働局・ハローワークで確認する前提です。
Q. 届出が遅れるとどうなりますか?
A. 社会保険料が設立時までさかのぼって請求されたり、国民健康保険・国民年金との二重負担の調整が生じたりすることがあります。従業員の資格喪失・取得の時期がずれると、保険証の空白や被扶養者の手続漏れも起こり得ます。設立の登記・給与支払いの開始と、社保・労働保険の届出の順序を最初に設計しておくことをおすすめします。
この記事の根拠
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項(適用事業所の定義。法人の事業所であって常時従業員を使用するものは強制適用、個人の特定業種は常時5人以上)・第31条(任意適用事業所の認可)
- 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条(適用事業所。法人の事業所であって常時従業員を使用するものは強制適用、個人の特定業種は常時5人以上)・第10条(任意適用事業所の認可)
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)── 保険関係の成立とその届出(成立日の翌日から10日以内が目安)
- 日本年金機構「新規適用の手続き」「被保険者資格取得届」の案内 ── 新規適用届・被保険者資格取得届は事実発生から5日以内に年金事務所(事務センター)へ提出(2026年10月29日参照)
- 新規適用・資格取得の具体的な様式と添付書類、法人成りを労働保険で「消滅+新規成立」とするか「事業主変更」とするか、被保険者番号の引継ぎ、保険料のさかのぼりの範囲は、保険者・管轄や個別の事情で変わります。最終的な取扱いは年金事務所・労働局・ハローワークで確認する前提とし、本記事では個別の結論を出していません(未検証)
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。四葉社会保険労務士事務所では、法人成りにともなう新規適用届・被保険者資格取得届の作成と提出、労働保険・雇用保険の事業主変更の届出の見直し、従業員の資格の付替えと給与・標準報酬・保険料控除の設計、法人としての就業規則・賃金規程の整備についてご相談いただけます。設立登記は司法書士、法人成りの税務は税理士が行います。四葉社会保険労務士事務所は独立した事業体として業務を受任し、別の専門家が必要な場合は、お客様に直接ご契約いただく形をご案内します。紹介料はありません。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「働き方」から、整理しませんか。
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