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2026.09.04労働法の基本

退職代行から連絡が来た。会社側の実務対応と離職手続

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

退職代行から連絡が来ても、退職の意思表示自体は受理して差し支えありません。期間の定めのない雇用は、労働者からの解約申入れの日から2週間で終了します(民法第627条第1項)。ただし、代行業者が退職条件の交渉まで行うと弁護士法第72条に触れるおそれがあるため、業者の種別(民間・労働組合・弁護士)を確認します。賃金は本人に直接払い(労働基準法第24条)、退職に伴う金品の返還は請求から7日以内(同第23条)、資格喪失や離職票の手続の期限まで整理します。

結論(先に要点):退職代行から連絡が来ても、退職の意思表示自体は受理して差し支えありません。期間の定めのない雇用は、労働者からの解約申入れの日から2週間で終了します(民法第627条第1項)。ただし、代行業者が「退職条件の交渉」まで行うと弁護士法第72条に触れるおそれがあるため、業者の種別(民間・労働組合・弁護士)を確認します。賃金は本人に直接払い(労働基準法第24条)、退職に伴う金品の返還は請求から7日以内(同第23条)、資格喪失や離職票の手続には期限があります。個別の対応は資格者が行います。

ある朝、従業員本人ではなく「退職代行サービス」を名乗る第三者から退職の連絡が入る——中小企業では珍しくなくなりました。「本人と話せないまま辞められるのか」「有給や貸与品はどうなるのか」と戸惑う経営者・人事の方へ、この記事は、会社側が受理・有給・貸与品回収・離職手続をどう進めるかを、民法・労働基準法・弁護士法の条文に沿って整理します。

退職代行からの連絡は、そのまま受理していい?

退職の意思表示そのものは、受理して差し支えありません。退職は労働者の権利であり、会社の承諾は要件ではないからです。

期間の定めのない雇用契約では、民法第627条第1項により、労働者はいつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間を経過すれば雇用契約は終了します。就業規則に「退職は1か月前に申し出る」と定めていても、この2週間の効力を会社の規則で延ばすことはできないと解されています。なお、月給制など期間によって報酬を定めている場合の予告に関する第627条第2項・第3項は、2020年(令和2年)4月1日施行の民法改正で、使用者からの解約にのみ適用されるよう改められました。したがって、労働者側からの退職は賃金の定め方にかかわらず2週間で足ります(有期雇用は別で、原則は期間途中の一方的解約はできず、やむを得ない事由が必要です=民法第628条)。会社側からの解雇との違い、社労士と弁護士のどちらに相談するかは解雇は社会保険労務士と弁護士のどちらに頼むのかもあわせてご確認ください。

本人と直接やり取りしてはいけない?(代行業者の種別で何が変わる?)

「本人に連絡するな」と言われても、会社が本人へ事務連絡をすること自体が禁じられるわけではありません。ただし、代行業者が何をできるかは、その種別で大きく変わります。

業者の種別できること根拠・注意
民間の退職代行業者退職の意思の伝達(使者)まで退職条件(有給・退職日・金銭)の交渉を報酬を得て行うと、弁護士法第72条(非弁行為)に触れるおそれ
労働組合(合同労組など)団体交渉としての交渉憲法第28条・労働組合法に基づく団体交渉。会社は正当な理由なく拒めない
弁護士交渉・請求・訴訟の代理法律事務の代理が本来業務

つまり、相手が民間業者であれば、有給の日数や退職日、未払い賃金などの「交渉」に応じる相手ではない可能性があります。会社としては、退職の意思が本人のものかを確認し(本人の署名した委任状・退職届の有無など)、事務的な連絡は本人にも行える、という整理が基本です。退職条件をめぐる交渉・請求が必要な場面は弁護士の領域で、非弁の疑いがある業者と条件交渉を進めないよう注意します。

退職日までの有給消化と欠勤、賃金はどう扱う?

退職日までに残る年次有給休暇を、退職日までにまとめて取得したいという申出は、原則として認めることになります。

年休は労働者が請求する時季に与えるのが原則で、会社の時季変更権は「他の時季に与える」ことが前提です。退職で他の時季がない以上、退職日を超えて変更する余地がなく、事実上拒めません。未消化分の「買取り」は、法律上の義務ではありませんが、退職時の未消化分に限って任意に買い取ること自体は違法ではありません。有給を使わず欠勤扱いのまま退職日を迎えた場合、その分の賃金は発生しません。年休の付与や5日取得義務の全体像は年5日の年休取得義務が取りきれないときどうするかを参照してください。

項目取扱い
退職日までの年休の一括取得時季変更の余地がなく、原則拒めない
未消化年休の買取り義務ではないが、退職時分の任意の買取りは違法ではない
有給を取らず欠勤のまま退職その日の賃金は発生しない
最後の賃金の支払い通常の賃金支払日に支払えばよい(第23条の請求がある場合は7日以内)

貸与品の返却や引き継ぎは、どこまで求められる?

会社が貸与したパソコン・制服・社員証・鍵などは、会社の所有物なので返還を求められます。一方、賃金と相殺したり、引き継ぎを法的に強制したりすることはできません。

労働基準法第24条は賃金の全額払いと直接払いを定めており、貸与品の未返却や損害を理由に、賃金から一方的に控除することはできません(賃金は本人に直接支払い、代行業者に払うものでもありません)。引き継ぎは退職の自由の範囲にあり、就業規則に定めても、引き継ぎをしないことだけで当然に損害賠償が認められるわけではありません。貸与品の返却は、着払いでの郵送など現実的な方法を案内し、返還請求は別途行うのが穏当です。

離職票・社会保険と雇用保険の資格喪失は、いつまでに出す?

退職の受理とは別に、会社には期限のある手続が残ります。本人に連絡が取りにくくても、会社の義務として進めます。

手続提出先期限
健康保険・厚生年金の被保険者資格喪失届年金事務所(日本年金機構)退職日の翌日から5日以内
雇用保険の被保険者資格喪失届・離職証明書ハローワーク資格喪失日(退職日の翌日)の翌日から起算して10日以内
離職票の交付会社→本人本人が離職票を希望する場合は交付する(原則交付。転職先が決まっていても本人の請求があれば必要)
源泉徴収票・退職所得の手続会社→本人/税務税務の取扱いは税理士に確認

離職証明書の離職理由欄は、失業給付の内容に影響するため、事実に基づいて記載します。本人と連絡が取りにくい場合でも、これらの届出は会社の義務として期限内に行います。給付の具体的な要否・記載方法は、管轄のハローワーク・年金事務所と最新の一次情報で確認してください。

よくある質問

Q. 退職代行から「本人に連絡するな」と言われました。従わないと違法ですか?
A. 会社が本人へ事務連絡をすること自体が違法になるわけではありません。ただし退職の意思が本人のものかの確認は必要です。相手が民間業者の場合、退職条件の「交渉」に応じる相手ではない可能性があり、条件交渉が必要なら弁護士の領域です。嫌がらせ的な連絡は避け、事務的な範囲にとどめてください。

Q. 「明日から出社しない」と言われました。2週間は来てもらえますか?
A. 期間の定めのない雇用では、解約申入れから2週間で契約は終了します(民法第627条第1項)。出社を強制することはできませんが、残りの年休を充てる、欠勤扱いとする、などの整理になります。欠勤分の賃金は発生しません。

Q. 貸与品を返さないので、最後の給料から天引きしていいですか?
A. できません。労働基準法第24条の全額払い・直接払いにより、貸与品の未返却や損害を理由に賃金から一方的に控除することはできません。賃金は本人に直接支払い、貸与品の返還は別途請求してください。

Q. 離職票や資格喪失の届出は、本人と連絡が取れなくても出す必要がありますか?
A. あります。健康保険・厚生年金の資格喪失届は退職日の翌日から5日以内、雇用保険の資格喪失届・離職証明書は10日以内が期限です。本人に連絡が取りにくくても、会社の義務として期限内に手続してください。

この記事の根拠

  • 民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)。第1項で、各当事者はいつでも解約の申入れができ、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了すると定めます。期間によって報酬を定めた場合の予告に関する第2項・第3項は、2020年(令和2年)4月1日施行の民法(債権関係)改正で、使用者からの解約にのみ適用されるよう改められました(e-Gov法令検索、民法・明治29年法律第89号、2026年9月4日参照)
  • 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)。弁護士等でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して代理・交渉その他の法律事務を業とすることを禁じます。退職条件の交渉は法律事務にあたり得るため、民間の退職代行業者が交渉まで行うと同条に触れるおそれがあります(e-Gov法令検索、弁護士法・昭和24年法律第205号、2026年9月4日参照)
  • 労働基準法第23条(金品の返還)。労働者の退職の場合において、権利者の請求があれば7日以内に賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと定めます(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年9月4日参照)
  • 労働基準法第24条(賃金の支払)。賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければなりません。貸与品の未返却や損害を理由に賃金から一方的に控除することはできません(e-Gov法令検索、労働基準法・昭和22年法律第49号、2026年9月4日参照)
  • 資格喪失届の提出期限。健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届は退職日の翌日から5日以内(日本年金機構)、雇用保険の被保険者資格喪失届・離職証明書は資格喪失日の翌日から起算して10日以内(ハローワーク)が期限です(日本年金機構・厚生労働省、2026年9月4日参照)
  • 有期雇用の期間途中の解約はやむを得ない事由が必要(民法第628条)など、事案により扱いが異なります。個別の届出の要否・記載方法・提出先は、最新の一次情報(e-Gov法令検索・厚生労働省・日本年金機構・ハローワークなど)と個別事情に照らして確認してください

この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。退職に伴う社会保険・雇用保険の資格喪失、離職票の作成は社会保険労務士の業務です。退職条件や損害賠償の交渉・請求は弁護士、税務上の取扱いは税理士の領域です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。退職条件の交渉・請求は弁護士の領域で、当事務所は行いません。個別の手続の適否は、最新の一次情報(e-Gov法令検索・厚生労働省・日本年金機構など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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