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社会保険

配偶者の扶養に入っていた期間は、脱退一時金に入らない——第3号期間がある人の計算と「10年」の線

空港の窓辺で年金の請求書類を確かめる夫婦のイメージ
浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

配偶者の扶養に入っていた期間(国民年金の第3号被保険者期間)は保険料を納めていないため、脱退一時金の金額には入りません。一方で、この期間は老齢年金の受給資格期間(10年)には数えられます。会社員の期間と扶養の期間を足して10年以上になると、脱退一時金そのものが請求できなくなり、代わりに将来の老齢年金が残ります。「10年」は日本に住んだ年数ではなく年金記録の月数で数えるため、記録を照会すると120か月に届いていないこともあります。

結論(先に要点):配偶者の扶養に入っていた期間(国民年金の第3号被保険者期間)は、脱退一時金の金額には入りません。この期間は保険料を納めていないので、返ってくるお金もありません。一方で、この期間は老齢年金の「10年」の判定には入ります。会社員の期間と扶養の期間を足して10年以上になると、脱退一時金そのものが請求できなくなり、代わりに将来の老齢年金が残ります。扶養期間のある方は、「金額の計算」と「10年の判定」を別々に数えてください。


英国出身の奥様の話です(脱退一時金は帰国後でも請求できるのかと同じ、複数の相談をもとにした架空の事例です)。日本の会社で6年働き、退職後の2年はカナダ出身のご主人の扶養に入っていました。ご主人の会社をたたんで、お二人で出国します。奥様の質問は「扶養に入っていた2年分も、脱退一時金に入りますか」でした。

答えは「入りません」です。ただ、この2年がまったく意味を持たないわけではありません。順に見ていきます。

「金額」と「10年」は、期間の種類ごとにどう数えるか?

脱退一時金は、国民年金と厚生年金保険で別々に計算され、2つの期間は合算されません(厚生年金保険法附則第29条、国民年金法附則第9条の3の2)。そして国民年金の脱退一時金は、第1号被保険者として保険料を納めた期間だけが対象です。

日本での期間脱退一時金の金額に入るか老齢年金の「10年」に入るか
会社員(厚生年金保険)入る(厚生年金保険の脱退一時金)入る
自営業・無職で国民年金保険料を納めた期間(第1号)入る(国民年金の脱退一時金)入る
配偶者の扶養(第3号)入らない入る
国民年金保険料の免除を受けた期間(第1号)免除の種類に応じて一部が入る入る
国民年金保険料の未納期間入らない入らない

奥様の場合、金額の計算に使えるのは会社員6年(72か月)だけです。「10年」の判定には、会社員6年と扶養2年を足した8年が使われます。

奥様の金額はいくらか?——厚生年金保険6年なら、上限60か月で計算

厚生年金保険の脱退一時金は、被保険者だった期間の平均標準報酬額 × 支給率で計算します。支給率は、最終月(資格を喪失した日の属する月の前月)が2021年4月以降の方で、加入が60か月以上なら 5.5 です(日本年金機構「脱退一時金の制度」の支給率表による)。

奥様は72か月加入していますが、計算に使われる月数の上限は60か月なので、60か月を超えた12か月分は金額に反映されません。

例として、在職中の平均標準報酬額が30万円だったとすると、

  • 30万円 × 5.5 = 165万円

が支給額の目安です。ここから所得税(復興特別所得税を含め20.42%)が源泉徴収されるので、振り込まれるのはおよそ131万円になります(源泉徴収分は「退職所得の選択課税」の申告で一部が戻る場合があります。税務は税理士の領域です)。

標準報酬月額は在職中の給与水準で決まるので、実際の額は年金事務所で照会した記録で計算し直してください。支給率も、最終月がいつかで変わります。

扶養の2年分は、どう扱われるか?——返ってくるお金はないが「10年」には入る

第3号被保険者の期間は、本人も配偶者も国民年金保険料を納めていません(配偶者が加入する厚生年金保険の制度全体が負担しています)。だから脱退一時金という形で返ってくるお金はありません。

一方で、この期間は国民年金の「保険料納付済期間」として扱われ、老齢基礎年金を受けるための受給資格期間(10年)に数えられます。ここが見落とされやすい点です。

奥様は会社員6年+扶養2年=8年なので、10年に届かず、脱退一時金を請求できます。もし扶養の期間が4年あったら、合計10年になり、脱退一時金は請求できません。その代わり、65歳から、会社員6年分の老齢厚生年金と、10年分の老齢基礎年金を受け取ることになります(海外に住んでいても受け取れます)。

つまり、扶養期間のある方は、次の2つの出口のどちらかになります。

  • 10年未満 脱退一時金を請求できる(扶養期間分の支給はない)
  • 10年以上 脱退一時金は請求できない。将来の老齢年金が残る

10年の線をまたぐかどうかで答えが変わるので、年金事務所で加入記録を照会し、第3号の期間が正しく記録されているかも含めて、月数を確定させてから判断してください。

「日本に10年以上いるから、もう請求できない」は本当か?

「10年」は、日本に住んだ年数ではなく、年金記録に残っている月数で数えます。国民年金保険料の未納期間は数えられません。そのため、在留期間が10年を超えていても、記録上の月数が120か月に届いていないことがあります。

実際の相談でも、こうしたことがありました(ご本人が特定されないよう、内容を一部変えています)。来日から10年近くが経ち、会社員の期間と国民年金の期間を合わせると10年を超えるので、脱退一時金はもう請求できない——ご本人もそう考えていました。ところが年金事務所で加入記録を照会し、期間を1か月ずつ数え直すと、受給資格期間に数えられる月数は120か月を下回っていました。脱退一時金を請求できる見込みとなり、配偶者の方とあわせて請求の準備に入りました。

反対の思い違いもあります。会社員の期間だけを数えて「10年に届かない」と考えていた方が、扶養の期間を足すと10年を超えていた、というケースです。

どちらも、「年数」で考えて「月数」で確かめていないことから起きます。10年の線の近くにいる方は、出国前に年金事務所で加入記録を照会し、月数を確定させてください。記録のどの期間が数えられるかの見極めに迷うときは、社会保険労務士に相談するのも一つの方法です。請求できるはずの一時金をあきらめてしまう、あるいは請求できないものを準備してしまう、という手戻りを防げます。

ご自身のケースについて相談したい方へ

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国民年金第1号の期間が少しだけある人は、どうなるか?

会社を辞めてから扶養に入るまでに数か月の空白があり、その間に国民年金第1号として保険料を納めていた方もいます。この期間は国民年金の脱退一時金の対象ですが、6か月以上ないと支給されません。5か月なら国民年金分はゼロで、厚生年金保険の期間と足して6か月にすることもできません。短い第1号期間がある方は、月数を正確に数えておく必要があります。

手続きで、配偶者と分けて用意するものは何か?

請求は一人ずつ、別々の請求書で行います。入口記事(脱退一時金は帰国後でも請求できるのか)で挙げた「帰国後に取り寄せにくいもの」は、奥様の分も別に必要です。

  • 奥様本人の基礎年金番号(配偶者の番号では請求できません)
  • 奥様本人名義の受取口座の証明(配偶者名義の口座は使えません)
  • 奥様本人の転出届(扶養に入っていた方も、転出届で国民年金の資格を失います)
  • 代理人に頼む場合は、奥様本人の署名した委任状

扶養の期間は、配偶者の勤務先が「被扶養配偶者」として届け出ていた記録です。出国前に年金事務所で奥様自身の記録を照会し、第3号の期間が抜けていないかを確かめておくと、帰国後に困りません。

請求するか・しないかの判断は、月数と出身国の協定で変わります。この記事は判断材料の整理であり、どちらが有利かは面談のうえ資格者が個別に確認します。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、ご夫婦それぞれの年金記録の照会、第3号期間を含めた月数の確定、脱退一時金請求書の作成と提出代行(委任状による)をお受けします。ご相談は無料です。サービスの内容は脱退一時金の請求に、料金は報酬額表に、期限と帰国後の段取りは脱退一時金は帰国後でも請求できるのかに、会社側の手続は帰国する社員の年金は、どうなるのかにまとめています。

誰に相談するか

脱退一時金の源泉徴収と還付申告は税理士の業務です。在留資格や再入国に関する手続は四葉行政書士事務所(当事務所とは独立した事業体で、別々にご契約いただきます)、紛争性のある事案は弁護士の業務です。いずれも紹介料の授受はありません。

よくある質問

Q. 扶養に入っていた期間の分は、何かの形で戻ってきますか?
A. 戻りません。第3号被保険者の期間は本人が保険料を納めていないため、脱退一時金の対象外です。ただし老齢年金の受給資格期間(10年)には数えられるので、会社員の期間と合わせて10年を超えるかどうかの判定には影響します。

Q. 会社員の期間と扶養の期間を足すと10年を超えました。どうなりますか?
A. 受給資格期間を満たすため、脱退一時金は請求できません。65歳から、会社員期間分の老齢厚生年金と、全期間分の老齢基礎年金を受け取ることになります。海外に住んでいても受給できます。請求書類は時期が来たら日本年金機構に出します。

Q. 扶養に入る前に、国民年金を自分で5か月だけ払いました。この分は?
A. 国民年金の脱退一時金は保険料納付済期間が6か月以上ないと支給されません。5か月なら国民年金分は支給されず、厚生年金保険の期間と合算して6か月にすることもできません。厚生年金保険の分だけが支給対象です。

Q. 日本に11年住んでいます。もう脱退一時金は請求できませんか?
A. 住んだ年数ではなく、年金記録の月数で決まります。保険料の未納期間などは数えないため、在留期間が10年を超えていても、受給資格期間が120か月に届いていないことがあります。年金事務所で加入記録を照会して確認してください。

Q. 夫婦で一緒に出国します。請求書は1枚でよいですか?
A. 一人ずつ別の請求書です。基礎年金番号、受取口座の証明、委任状もそれぞれ本人のものが必要です。配偶者名義の口座では受け取れません。

この記事の根拠

  • 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)附則第29条(脱退一時金。第1項=要件、第3項・第4項=額の計算、第5項=被保険者でなかったものとみなす) ―― 2026年10月21日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
  • 国民年金法(昭和34年法律第141号)附則第9条の3の2(国民年金の脱退一時金)、同法第5条(保険料納付済期間の定義に第3号被保険者としての被保険者期間を含むこと) ―― 同上
  • 国民年金の脱退一時金が第1号被保険者としての加入期間についてのみ支払われること、国民年金と厚生年金保険の期間を合算しないこと ―― 日本年金機構・年金Q&A「脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか」(2026年10月20日参照)
  • 厚生年金保険の脱退一時金の計算式(平均標準報酬額×支給率)、最終月が2021年4月以降・60月以上の支給率5.5、月数の上限60月、免除期間の算入割合 ―― 日本年金機構「脱退一時金の制度」(2026年4月1日更新、2026年10月20日参照)
  • 第3号被保険者期間が保険料納付済期間として受給資格期間(10年)に算入されること ―― 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」資料(保険料納付済期間の一覧)(2026年10月20日参照)
  • 厚生年金保険の脱退一時金に対する20.42%の源泉徴収と「退職所得の選択課税」 ―― 国税庁「退職所得の選択課税の記載例」(2026年10月20日参照)

本記事は一般的な情報提供です。請求の可否・有利不利の判断は個別の事情によります。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

「働き方」から、整理しませんか。

四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。

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