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社会保険

脱退一時金は帰国後でも請求できるのか——「2年」の数え方と、日本を離れる前にそろえるもの

空港の窓辺で年金の請求書類を確かめる夫婦のイメージ
浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

日本の年金の脱退一時金は、帰国後でも請求できます。期限は日本に住所がなくなった日から2年以内で、請求書は転出(予定)日より後に日本年金機構に届くように出します。帰国後にそろえにくいのは、基礎年金番号、本人名義の受取口座の証明、代理人に頼む場合の委任状の3つです。出身国が日本と年金加入期間を通算できる協定を結んでいる場合は、受け取ると日本の加入期間がすべて消えるため、請求する前に損得を確認してください。協定の有無と通算の可否を、主要国の一覧で整理します。

結論(先に要点):日本の年金の脱退一時金は、帰国後でも請求できます。ただし期限は「日本に住所がなくなった日から2年以内」で、請求書は転出(予定)日より後に日本年金機構に届くように出します。帰国してからそろえにくいのは、基礎年金番号、本人名義の受取口座の証明、代理人に頼む場合の委任状の3つです。この3つを日本にいる間に手元に置いておけば、請求そのものは帰国後に落ち着いて進められます。ただし、出身国が日本と年金加入期間を通算できる協定を結んでいる場合は、請求する前に「受け取らないほうが得ではないか」を確認してください。受け取ると日本の加入期間がすべて消えます。


カナダ出身のご主人と、英国出身の奥様から、出国の2週間ほど前にご相談を受けたことがあります(以下は、複数の相談をもとにした架空の事例です)。ご主人は英会話学校を法人で6年経営し、その前の3年は業務委託で働いていました。奥様は日本の会社で6年勤め、その後2年はご主人の扶養に入っていました。お二人とも日本に戻る予定はなく、「年金に払ったお金は、帰ってからでも取り戻せるのか」が最初の質問でした。

答えは「できる」です。ただし、帰国後に請求する人がつまずく場所は決まっています。そして、この夫婦の場合はお二人で答えが分かれる可能性があります。順に見ていきます。

「2年」は、いつから、いつまでか?

脱退一時金は、日本国籍のない方が国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を失って出国したとき、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求できる給付です(厚生年金保険法附則第29条、国民年金法附則第9条の3の2)。

起算日は「出国した日」ではなく、市区町村に転出届を出した転出(予定)日の翌日と理解しておくと安全です。日本年金機構も、転出日の翌日(国民年金の資格喪失日)から2年間が請求可能期間だと案内しています。

事例転出届の転出予定日請求できる期間の目安
ご主人(厚生年金6年・国民年金3年)2026年11月30日2026年12月1日 〜 2028年11月30日
奥様(厚生年金6年・第3号2年)2026年11月30日同上

※ 実際の期限は転出届の記載と年金記録で決まります。個別の日付は年金事務所で確認してください。

注意したいのは、起点が「早すぎる」側ではなく「遅すぎる」側です。 転出届を出さずに出国し、再入国許可(みなし再入国許可を含む)を受けていると、再入国許可の有効期間が終わるまで国民年金の被保険者のままとされ、脱退一時金は請求できません。帰国後に請求するつもりなら、転出届は出国前に必ず出しておきます。

日本を離れる前に、何をそろえればよいか?

帰国後に取り寄せにくい順に並べます。

1.基礎年金番号がわかるもの
基礎年金番号通知書(または年金手帳)の写しが請求書の添付書類です。手元にないときは、出国前に年金事務所で番号の照会と通知書の再交付を受けておきます。帰国後に海外から番号を調べ直すのは手間がかかります。

2.本人名義の受取口座を証明する書類
受取先の金融機関名・支店名・支店所在地・口座番号・請求者本人の名義であることを、金融機関が発行した証明書などで示します。日本年金機構は、ゆうちょ銀行と一部のインターネット専業銀行では受け取れないと案内しています。帰国先の銀行口座で受け取る場合は、到着後に銀行で口座証明(bank statement など、口座名義と番号が記載されたもの)を取り、請求書に添えます。家族や友人の口座は使えません。

3.代理人に頼むなら委任状
請求は本人でも代理人でもできます。帰国後に日本側の社会保険労務士などに手続きを任せる場合は、出国前に委任状に署名しておくと、帰国後に書類を国際郵便で往復させる手間が減ります。

4.パスポートの写し
氏名・生年月日・国籍・署名・在留資格が確認できるページの写しが必要です。転出届を出していれば、「日本に住所がないことを確認できる書類(住民票の除票など)」は原則として不要です。

5.年金の加入記録
請求書には加入していた制度と期間を書く欄があります。記憶で書くより、出国前に年金事務所で記録を照会し、控えを持っておくと正確に書けます。ご主人のように会社経営と業務委託の期間が混在している方は、国民年金第1号の期間に保険料の未納がないかも、ここで確認しておきます。

帰国後はどう進み、どこでつまずきやすいか?

提出先と方法 国民年金・厚生年金保険の期間だけの方は、日本年金機構本部あてに郵送します(電子申請も可能)。年金事務所の窓口で出せるのは、観光など就労以外の目的で来日している場合に限られます。

到達日 請求書が機構に届いた日に住所がまだ日本にあると、請求できません。出国前に日本から郵送するなら、転出(予定)日以降に届くよう投函日を調整します。帰国後に送るなら、この点は自然に満たされます。

支給額の上限 支給額は、国民年金は保険料納付済期間等の月数、厚生年金保険は加入月数と平均標準報酬額で計算され、月数には**60月(5年)**の上限があります(最後の加入月が2021年4月以降の場合)。ご主人・奥様ともに厚生年金保険の加入は6年(72月)ですが、計算に使われるのは60月までです。国民年金と厚生年金保険の期間は合算されず、それぞれ別に計算されます。奥様の「扶養に入っていた2年(第3号)」は国民年金の脱退一時金の対象にならないため、この点は配偶者の扶養に入っていた期間は、脱退一時金に入らないで別に整理します。

振込まで 請求してすぐ振り込まれるわけではなく、数か月単位の期間がかかります。帰国直後の生活費には当てにしないほうが現実的です。

税 厚生年金保険の脱退一時金は、支払いの際に所得税(復興特別所得税を含め20.42%)が源泉徴収されます。「退職所得の選択課税」の申告で還付を受けられる場合がありますが、申告には日本に住む納税管理人を帰国前に届け出ておく必要があります。ここから先は税務の領域なので、税理士に確認してください。

請求したあと 脱退一時金を受け取ると、請求前の日本の年金加入期間はすべて加入期間でなくなります。将来また日本で働く可能性がある方は、この点を知ったうえで決めてください。

請求しないほうがよいのは、どんな人か?

  • 受給資格期間が10年以上ある方 老齢年金を受け取れるため、脱退一時金は請求できません。
  • 社会保障協定で加入期間を通算できる国の出身者 受け取ると、日本の加入期間がすべて消え、通算の対象からも外れます。ご主人のカナダは、日本との協定(2008年3月発効)に加入期間の通算が含まれています。ご主人の日本での加入は厚生年金保険6年と国民年金3年で合計9年。日本の老齢年金に必要な受給資格期間10年には足りませんが、協定によりカナダの加入期間を通算して10年以上になれば、日本の加入9年分の老齢年金を将来受け取れる可能性があります。一方で脱退一時金を選べば、計算は上限60月で打ち切られ、9年分の記録は消えます。どちらが有利かは年齢・カナダ側の加入状況・為替まで含めた個別の計算になるため、この記事では結論を出しません。
    奥様の英国にも日本との協定(2001年2月発効)がありますが、こちらは保険料の二重負担を防ぐもので、加入期間の通算はありません。奥様は通算の選択肢がないぶん、脱退一時金を請求するかどうかを期限内に決めればよいことになります。同じ夫婦でも、出身国でここまで答えが変わります。出身国ごとに、日本年金機構の協定ページで「通算ができる/できない」を確認してください。
  • 近いうちに再入国して働く予定の方 上限60月で計算されたうえ、過去の期間がすべて消えます。出国のたびに請求したほうがよい場合もあれば、請求しないほうがよい場合もあります。

請求するか・しないかの判断は、本人の国と今後の予定で変わります。この記事は判断材料の整理であり、どちらが有利かは面談のうえ資格者が個別に確認します。

出身国と日本に協定はあるか?——主要国の一覧

脱退一時金を「請求するか・しないか」の分かれ目は、出身国と日本の社会保障協定に加入期間の通算があるかどうかです。日本年金機構と厚生労働省の公表資料(2026年10月20日参照)をもとに整理します。

ご自身のケースについて相談したい方へ

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協定が発効している国(24か国)

国発効加入期間の通算
ドイツ2000年2月できる
英国2001年2月できない
韓国2005年4月できない
アメリカ2005年10月できる
ベルギー2007年1月できる
フランス2007年6月できる
カナダ2008年3月できる(ケベック州年金制度を除く)
オーストラリア2009年1月できる
オランダ2009年3月できる
チェコ2009年6月できる
スペイン2010年12月できる
アイルランド2010年12月できる
ブラジル2012年3月できる
スイス2012年3月できる
ハンガリー2014年1月できる
インド2016年10月できる
ルクセンブルク2017年8月できる
フィリピン2018年8月できる
スロバキア2019年7月できる
中国2019年9月できない
フィンランド2022年2月できる
スウェーデン2022年6月できる
イタリア2024年4月できない
オーストリア2025年12月できる

英国・韓国・中国・イタリアは、協定があっても保険料の二重負担を防ぐだけで、加入期間の通算はありません。これらの国の出身者にとっては、協定のない国と同じく、脱退一時金を請求するかどうかを期限内に決めればよいことになります。

協定に向けて動いている国(まだ発効していない)

国状況(2026年4月時点・厚生労働省)
ポーランド2026年4月に署名。発効待ち
トルコ、ノルウェー、ベトナム政府間交渉中
タイ予備協議中

署名済み・交渉中の国も、発効するまでは「協定がない」のと同じ扱いです。発効の時期は国会承認などによるため、出国前に厚生労働省の最新の締結状況を確認してください。

協定がない主要国(2026年10月20日時点で日本年金機構の一覧に掲載がない国)

  • アジア 台湾、香港、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ネパール、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュ、パキスタン、モンゴル、カンボジア、ウズベキスタン
  • 欧州 ポルトガル、デンマーク、ノルウェー(交渉中)、ポーランド(署名済み)、ギリシャ、ルーマニア、ロシア
  • 米州・大洋州 メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ニュージーランド
  • 中東・アフリカ アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ(交渉中)、南アフリカ

協定がない国の出身者は、日本の加入期間を母国の年金に通算する手段がないため、加入期間が10年に満たない場合は脱退一時金がほぼ唯一の選択肢になります。ただし、将来また日本で働く可能性がある方は、請求すると過去の期間が消える点を踏まえてください。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、出国前の年金記録の照会・基礎年金番号の確認、脱退一時金請求書の作成と提出代行(委任状による)、帰国後の書類のやり取りの窓口をお受けします。ご相談は無料です。サービスの内容は脱退一時金の請求に、料金は報酬額表に、会社側の手続(資格喪失届など)は帰国する社員の年金は、どうなるのかに、会社をたたんで帰国する場合の全体は会社をたたむとき、社会保険と労働保険はどうするかにまとめています。

誰に相談するか

脱退一時金の源泉徴収と還付申告は税理士の業務です。在留資格や再入国に関する手続は四葉行政書士事務所(当事務所とは独立した事業体で、別々にご契約いただきます)、紛争性のある事案は弁護士の業務です。いずれも紹介料の授受はありません。

よくある質問

Q. 帰国して1年半たちました。まだ請求できますか?
A. 転出(予定)日の翌日から2年以内であれば請求できます。残り期間が短い場合は、口座証明と基礎年金番号の確認を先に進めてください。基礎年金番号がわからなければ、日本年金機構に照会する時間も見込む必要があります。

Q. 日本の銀行口座を解約して帰国しました。受取口座はどうすればよいですか?
A. 帰国先の金融機関の本人名義口座で受け取れます。口座名義・口座番号・支店所在地がわかる金融機関発行の証明書を請求書に添えます。日本国内の口座で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されている必要があります。ゆうちょ銀行と一部のネット銀行は受取口座にできません。

Q. 夫婦で加入期間が違います。まとめて請求できますか?
A. 請求は一人ずつ、別々の請求書で行います。支給額も個人ごとに、国民年金と厚生年金保険の期間を別々に計算します。出身国が違えば、協定の通算の有無も人ごとに違います。配偶者の扶養に入っていた期間(第3号被保険者)は国民年金の脱退一時金の月数に含まれないため、扶養期間がある方は配偶者の扶養に入っていた期間は、脱退一時金に入らないをご覧ください。

Q. 代理人に頼めば、本人は何もしなくてよいですか?
A. 署名と口座証明は本人でないと用意できません。委任状、パスポートの写し、本人名義口座の証明書を本人がそろえ、請求書の作成・提出・年金機構とのやり取りを代理人が担う、という分担になります。

この記事の根拠

  • 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)附則第29条(脱退一時金。第1項=要件と2年の期限、第3項・第4項=額の計算、第5項=被保険者でなかったものとみなす) ―― 2026年10月21日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
  • 国民年金法(昭和34年法律第141号)附則第9条の3の2(国民年金の脱退一時金) ―― 同上
  • 支給要件、2年の起算(転出日の翌日)、60月の上限、国民年金と厚生年金保険の期間を合算しないこと ―― 日本年金機構「脱退一時金の制度」「脱退一時金を請求する方の手続き」年金Q&A「脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか」(2026年10月20日参照)
  • 添付書類(パスポートの写し、本人名義口座の証明、基礎年金番号通知書等、委任状)、転出届提出済みなら除票不要、ゆうちょ銀行等で受け取れないこと ―― 日本年金機構「脱退一時金を請求する方の手続き」(2026年10月20日参照)
  • 厚生年金保険の脱退一時金に対する20.42%の源泉徴収と「退職所得の選択課税」による還付申告 ―― 国税庁「退職所得の選択課税の記載例」(2026年10月20日参照)
  • カナダとの社会保障協定(2008年3月発効)に加入期間の通算が含まれること、英国との協定(2001年2月発効)に加入期間の通算が含まれないこと ―― 日本年金機構「協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度」(2025年10月27日更新、2026年10月20日参照)
  • 社会保障協定による受給資格期間の通算の仕組み ―― 日本年金機構「社会保障協定」(2026年10月20日参照)
  • 協定発効済み24か国の発効年月・通算の可否 ―― 日本年金機構「協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度」(2025年10月27日更新、2026年10月20日参照)
  • 署名済み(ポーランド)・政府間交渉中(トルコ、ノルウェー、ベトナム)・予備協議中(タイ)の状況 ―― 厚生労働省「社会保障協定の締結状況(2026年4月時点)」(2026年10月20日参照)

本記事は一般的な情報提供です。請求の可否・有利不利の判断は個別の事情によります。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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