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テーマ別の労務管理

不動産仲介の営業社員に、歩合給と事業場外みなし労働時間は使えますか?

壁の掛け時計と升目だけのシフト表を描いた水彩イラスト
浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

不動産仲介の営業社員を歩合給だけにすることはできません。出来高払制(請負制)で使う労働者には、労働時間に応じた一定額の保障給が必要です(労働基準法第27条)。外回りの営業に事業場外みなし労働時間制(同法第38条の2)を使えるのは「労働時間を算定し難いとき」に限られ、スマートフォンで随時指示・報告させている実態があると使えないと判断されやすくなっています(阪急トラベルサポート事件・最高裁平成26年1月24日判決)。歩合給に固定残業代を組み込むときは、通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別でき、不足分は別途支払う運用が要ります(国際自動車事件・最高裁令和2年3月30日判決ほか)。宅地建物取引士の専任要件は常勤が前提のため、労働時間の設計と無関係ではありません。保障給、事業場外みなし、固定残業代の有効要件、専任宅建士と労働時間を整理し、宅建業免許は行政書士へ、個別の未払い賃金の紛争は弁護士へ分離受任で振ります。

結論(先に要点):不動産仲介の営業社員を歩合給だけにすることはできません。出来高払制(請負制)で使う労働者には、労働時間に応じた一定額の保障給が必要です(労働基準法第27条)。外回りの営業に事業場外みなし労働時間制(同法第38条の2)を使えるのは「労働時間を算定し難いとき」に限られ、スマートフォンで随時指示・報告させている実態があると使えないと判断されやすくなっています(阪急トラベルサポート事件・最高裁平成26年1月24日判決)。歩合給に固定残業代を組み込むときは、通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別でき、不足分は別途支払う運用が要ります(国際自動車事件・最高裁令和2年3月30日判決ほか)。宅地建物取引士の専任要件は常勤が前提のため、労働時間の設計と無関係ではありません。この記事では、保障給、事業場外みなし、固定残業代の有効要件、専任宅建士と労働時間の整理を、社会保険労務士の労務管理の視点でまとめ、宅建業免許は行政書士へ、個別の未払い賃金の紛争は弁護士へ分離受任で振り分けます。

不動産仲介の営業は、成約で大きく変わる歩合給、直行直帰の外回り、繁閑の波が重なるため、賃金と労働時間の設計が難しくなりがちです。このページは、営業社員の歩合給・固定残業代・外回りの労働時間管理を適法に組みたい不動産仲介会社の経営者・人事担当の方に向けて、保障給、事業場外みなし、固定残業代、専任宅建士との整理を、社会保険労務士の労務管理の視点で示します。

歩合給だけにできる?保障給(労働基準法第27条)は要るのか?

完全歩合制(賃金の全部を成約の出来高だけで決める形)はできません。出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないと定められているからです(労働基準法第27条・出来高払制の保障給)。これは、客の都合や景気など労働者の責めによらない事情で実収賃金が大きく下がることを防ぐ趣旨です。

保障給の具体的な金額は、法律にも定めがありません。行政解釈は「通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入が保障されるよう定める」ことを求めていますが、確定した数値基準はありません(本記事では一律の金額を断定しません)。実務では、固定給部分を設けて月ごとの最低額を保障する設計が一般的です。なお、賃金構造からみて固定給が賃金総額の大半を占める場合は、そもそも第27条の「請負制で使用する」場合に当たらないと解されています。

賃金の組み方第27条との関係
完全歩合制(固定給ゼロ)保障給がなく違反のおそれ
固定給+歩合給固定給部分が保障給の役割を果たしうる(額は要検討)
固定給が大半+少額の歩合「請負制で使用する」に当たらないと解されうる

いずれの場合も、実際に支払われる賃金が地域別最低賃金を下回らないかを別に確認します。

外回りの営業に事業場外みなし労働時間は使える?(スマホ連絡の扱い)

事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2第1項)は、労働者が労働時間の全部または一部を事業場の外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときに、所定労働時間(または業務の遂行に通常必要とされる時間)労働したものとみなす制度です。直行直帰の外回り営業でよく検討されます。

ただし「労働時間を算定し難いとき」の認定は厳しくなっています。添乗員の事例ですが、最高裁は、業務の内容があらかじめ具体的に定められ、ツアー中も携帯電話を所持させて随時指示ができ、添乗日報で業務の遂行状況を詳細に報告させていた事情から、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないと判断しました(阪急トラベルサポート事件・最高裁平成26年1月24日判決)。営業でも、スマートフォンで常時連絡・指示・報告をさせ、訪問先や時間を会社が把握できるなら、みなしは使いにくくなります。

事情みなしの使いやすさ
訪問先・時間を会社が指定し、随時報告させる使いにくい(算定できる)
本人裁量が大きく、連絡が随時でない検討の余地
直行直帰でも勤怠アプリ等で時刻を記録把握できるため使いにくい

みなしを使えない場合は、原則どおり客観的な記録で労働時間を把握し、時間外・深夜・休日労働には割増賃金(労働基準法第37条)を支払います。労働時間を算定し難いかの線引きはテレワークでも同じ論点があり、テレワークの労働時間管理でも扱っています。適用の可否は実態に即して資格者が確認します。

歩合給に固定残業代を組み込むときの有効要件は?

固定残業代(定額残業代)を歩合給と組み合わせるには、判例が示す要件を満たす必要があります。要点は二つです。第一に、賃金のうち通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分が判別できること(明確区分性)。第二に、固定分が実際の割増賃金額に不足する月は差額を支払う合意と運用があることです(日本ケミカル事件・最高裁平成30年7月19日判決ほか)。

歩合給で特に問題になったのが、歩合給の計算で割増賃金相当額を差し引く仕組みです。最高裁は、このような賃金規則では通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できず、割増賃金が支払われたとは認められないとしました(国際自動車事件・最高裁令和2年3月30日判決)。つまり、「歩合給の中に残業代が含まれている」とだけ定めても、割増賃金を支払ったことにはなりません。

設計有効性の目安
歩合給から割増相当額を控除して相殺判別できず無効と判断されうる
固定残業代を独立の手当として明示し、不足は差額支給要件を満たせば有効の余地

固定残業代の額・時間数の設定と就業規則・賃金規程への落とし込みは、賃金体系全体を見て設計します。

宅地建物取引士の専任要件と労働時間はどう整理する?

宅地建物取引業者は、事務所ごとに、業務に従事する者5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を置かなければなりません(宅地建物取引業法第31条の3第1項、同法施行規則第15条の5の3)。ここでいう「専任」は、その事務所に常勤し、専ら宅地建物取引業の業務に従事することを指すと解されています。

ご自身のケースについて相談したい方へ

社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。

この常勤性は労働時間の設計と無関係ではありません。たとえば専任の宅建士に極端な短時間勤務や事業場外みなしを広く適用して実態として常勤といえなくなると、宅建業の設置要件の側で問題になり得ます。労務の設計(労働時間・勤務形態)と、宅建業の人的要件(専任・常勤)の両方を満たすように組むのが安全です。もっとも、専任要件を満たすかどうかの最終判断や宅建業免許の手続は不動産取引の許認可の問題であり、行政書士の業務です。

歩合給の社員が通算5年を超えて有期契約を続けた場合の無期転換など、契約期間の論点は無期転換ルールで扱っています。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、不動産仲介の営業社員について保障給を含む賃金規程の設計、固定残業代の有効要件の確認と条項整備、事業場外みなしの適用可否の検討、労働時間の把握方法の設計、就業規則・36協定の整備をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。

宅地建物取引業の免許や専任宅建士の要件判断は行政書士、歩合給や固定残業代をめぐる個別の未払い賃金の紛争は弁護士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。

よくある質問

Q. 不動産営業の給料を完全歩合制(固定給ゼロ)にできますか?
A. できません。出来高払制その他の請負制で使う労働者には、労働時間に応じた一定額の保障給が必要です(労働基準法第27条)。客の都合や景気など本人の責めによらない事情で収入が大きく下がることを防ぐ趣旨です。保障給の具体的な金額の基準は法律になく、通常の実収賃金とあまり隔たらない程度を保障するよう求める行政解釈があります。実際に支払われる賃金が最低賃金を下回らないことも確認します。

Q. 直行直帰の外回りなら、事業場外みなし労働時間を使えますか?
A. 「労働時間を算定し難いとき」に限られます。スマートフォンで随時指示・報告させ、訪問先や時間を会社が把握できる実態があると、算定し難いとはいえず使いにくくなります(阪急トラベルサポート事件・最高裁平成26年1月24日判決の考え方)。使えない場合は客観的な記録で労働時間を把握し、時間外・深夜・休日には割増賃金(労働基準法第37条)を支払います。適用可否は実態に即して確認が必要です。

Q. 「歩合給に残業代を含む」と決めれば割増賃金を払ったことになりますか?
A. それだけでは足りません。通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別でき、不足分は差額を支払う運用が要ります。歩合給の計算で割増賃金相当額を差し引く仕組みは、判別できず割増賃金を支払ったとは認められないと判断されています(国際自動車事件・最高裁令和2年3月30日判決)。固定残業代は独立した手当として明示し、不足月は差額を支給する設計が安全です。

Q. 宅建業の専任宅建士と労働時間はどう関係しますか?
A. 専任の宅地建物取引士は常勤・専従が前提です(宅地建物取引業法第31条の3第1項、施行規則第15条の5の3)。労務で短時間勤務や広い事業場外みなしを適用し、実態として常勤といえなくなると、宅建業の設置要件の側で問題になり得ます。労働時間の設計と宅建業の人的要件の両方を満たすよう組むのが安全で、専任要件の最終判断や免許手続は行政書士の業務です。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第27条(出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じた一定額の賃金の保障)、第37条(時間外・休日・深夜の割増賃金)、第38条の2第1項(事業場外みなし労働時間制=「労働時間を算定し難いとき」の要件)(e-Gov法令検索で2026年10月18日に条文確認)
  • 最高裁判所平成26年1月24日第二小法廷判決(阪急トラベルサポート事件)。業務内容が具体的に定められ、携帯電話で随時指示・報告させ、添乗日報で詳細に報告させていた事情から「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした(2026年10月18日参照)
  • 最高裁判所令和2年3月30日第一小法廷判決(国際自動車事件・第2次上告審)。歩合給の計算で割増賃金相当額を差し引く賃金規則では、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できず、割増賃金が支払われたとは認められないとした(2026年10月18日参照)
  • 最高裁判所平成30年7月19日第一小法廷判決(日本ケミカル事件)。固定残業代が有効となるには、通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分の判別ができることが前提とされる(2026年10月18日参照)
  • 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第31条の3第1項、同法施行規則第15条の5の3(事務所ごとに業務に従事する者5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を置く)。「専任」は常勤かつ専従と解される(e-Gov法令検索で2026年10月18日に条文確認。専任の解釈は国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方による)
  • 保障給の具体的な金額基準は法令に定めがなく、通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入を保障するよう求める行政解釈にとどまる。一律の数値は確定値として示さない(2026年10月18日参照)

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。保障給を含む賃金規程・固定残業代の条項整備、事業場外みなしの適用検討、労働時間の把握方法、就業規則・36協定の整備は社会保険労務士の業務です。宅地建物取引業の免許や専任宅建士の要件判断は行政書士、歩合給や固定残業代をめぐる個別の未払い賃金の紛争は弁護士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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