中国・台湾の外国人を雇うとき、安全衛生教育は母国語で行う義務がありますか?

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
労働者を雇い入れたときや作業内容を変えたときは、国籍を問わず雇入れ時等の安全衛生教育を行う義務があります(労働安全衛生法第59条第1項・第2項)。教える項目は労働安全衛生規則第35条第1項に定める8項目で、2024年(令和6年)4月1日施行の改正で業種による省略の仕組みがなくなり、介護などサービス業を含む全業種で8項目すべてが必要になりました。外国人には母国語など本人が内容を理解できる方法で行うことが求められています(厚生労働省の外国人指針・平成19年厚生労働省告示第276号)。技能実習・特定技能では入国後講習や生活オリエンテーションで安全に関する内容が重なりますが、作業の安全衛生教育そのものは安衛法第59条で別に必要です。教育をしていないと、労災が起きたときに安全配慮義務(労働契約法第5条)が問われます。在留資格の適合は行政書士へ分離受任で振ります。
結論(先に要点):労働者を雇い入れたときや作業内容を変えたときは、国籍を問わず雇入れ時等の安全衛生教育を行う義務があります(労働安全衛生法第59条第1項・第2項)。教える項目は労働安全衛生規則第35条第1項に定める8項目で、2024年(令和6年)4月1日施行の改正で業種による省略の仕組みがなくなり、介護などサービス業を含む全業種で8項目すべてが必要になりました。外国人には「母国語など本人が内容を理解できる方法」で行うことが求められています(厚生労働省の外国人指針・平成19年厚生労働省告示第276号)。技能実習・特定技能では、入国後講習や生活オリエンテーションで安全に関する内容が重なりますが、作業の安全衛生教育そのものは安衛法第59条で別に必要です。教育をしていないと、労災が起きたときに安全配慮義務(労働契約法第5条)が問われます。この記事では、雇入れ時教育の中身、母国語・やさしい日本語での実施、技能実習・特定技能での上乗せ、労災との関係を、社会保険労務士の労務管理の視点でまとめ、在留資格の適合は行政書士へ分離受任で振ります。
製造・建設・介護などで中国・台湾の人材を受け入れる会社では、「安全衛生教育を日本語だけで済ませてよいか」「母国語でやる義務があるのか」で迷いがちです。このページは、そうした中小企業の経営者・労務担当の方に向けて、雇入れ時の安全衛生教育、母国語での実施、技能実習・特定技能での重なり、労災との関係を、社会保険労務士の労務管理の視点で整理します。
雇入れ時の安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)では何を教える?
事業者は、労働者を雇い入れたとき、安全または衛生のための教育を行わなければなりません(労働安全衛生法第59条第1項)。作業内容を変更したときも同様です(同条第2項)。危険有害業務に就かせるときは、これとは別に特別教育が必要です(同条第3項)。
教える内容は、労働安全衛生規則第35条第1項の次の8項目のうち、その労働者が従事する業務に関するものです。
| # | 教育事項 |
|---|---|
| 1 | 機械等、原材料等の危険性・有害性とこれらの取扱い方法 |
| 2 | 安全装置、有害物抑制装置、保護具の性能と取扱い方法 |
| 3 | 作業手順 |
| 4 | 作業開始時の点検 |
| 5 | 当該業務で発生するおそれのある疾病の原因と予防 |
| 6 | 整理、整頓、清潔の保持 |
| 7 | 事故時等の応急措置と退避 |
| 8 | そのほか当該業務の安全・衛生に必要な事項 |
改正前は、製造業・建設業などに当たらない「その他の業種」(労働安全衛生法施行令第2条第3号。たとえば医療・福祉、商業、サービス業など)では、1号から4号までの教育を省略できました。しかし2024年(令和6年)4月1日施行の改正(令和4年厚生労働省令第91号・2022年5月31日公布)でこの省略規定が削除され、全業種で8項目すべての教育が義務になりました。製造業・建設業はもともと全項目が必要でしたが、介護など従来は省略できた業種も、改正後は1号から4号を含めて実施する必要があります。
外国人には母国語・やさしい日本語での教育が必要?
安全衛生教育は、外国人労働者が内容を理解できる方法で行うことが求められています。厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人指針・平成19年厚生労働省告示第276号)が、安全衛生教育を外国人労働者が理解できる方法で実施するよう定めています。関連する通達「外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について」(平成31年3月28日付け基発0328第28号)も、母国語等を用いるなど理解できる方法で行うことを示しています。
法令は「母国語」と一律に義務づける文言ではありませんが、日本語だけで形式的に実施しても、本人が理解していなければ教育をしたとはいえません。実務では、次のような工夫で「理解できる方法」を整えます。
| 工夫 | 内容 |
|---|---|
| 母国語の教材 | 中国・台湾の人材には繁体字・簡体字の資料・視聴覚教材を用意 |
| やさしい日本語 | 短い文・ふりがな・図やイラストで補う |
| 通訳・補助 | 同じ国・地域出身で日本語ができる先輩に通訳・補助を頼む |
| 理解度の確認 | 一方的に説明せず、理解したかを確認しながら繰り返す |
労働条件そのものを母国語で明示する義務との関係は外国人の同等報酬と労働条件通知で扱っています。どの言語・どの方法が「理解できる方法」に当たるかは、本人の日本語能力や作業の危険度に応じて資格者が確認します。
技能実習・特定技能で上乗せされる教育は?
技能実習・特定技能でも、雇入れ時等の安全衛生教育(安衛法第59条)は日本人と同じく必要です。そのうえで、制度側の仕組みで安全に関する内容が重なります。
- 技能実習:入国後講習に、安全衛生を含む日本での生活・技能修得に資する科目が置かれます(技能実習制度運用要領)。これは制度上の講習で、現場の作業に即した安衛法第59条の教育に代わるものではありません。
- 特定技能1号:受入れ側が行う義務的支援のうち、生活オリエンテーションで災害時・緊急時の対応など生活上の安全に関する情報提供が含まれます。こちらも作業の安全衛生教育そのものとは別です。
つまり、入国後講習や生活オリエンテーションを受けていても、自社の現場・作業に即した安衛法第59条の教育は別に実施するのが安全です。制度ごとの講習・支援の範囲や時間数は運用要領で変わり得るため、確定値はここでは示しません。
教育をしていないと、労災で何が問われる?
労災保険は国籍・在留資格を問わず適用され、業務災害・通勤災害には保険給付が行われます。寮から現場への移動と労災の関係は外国人の寮と通勤災害で扱っています。問題は、保険給付とは別に生じる民事上の責任です。
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使用者は、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負います(労働契約法第5条)。言葉が通じないまま危険な作業に就かせて労災が起きた場合、理解できる方法での教育を怠ったことが安全配慮義務違反と評価され得ます。実際に、外国人労働者へ日本語のみで行った安全教育が不十分とされた裁判例もあると指摘されています。あわせて、安衛法第59条の教育を行わないこと自体が労働基準監督署の是正勧告の対象となり、違反の態様によっては罰則の問題にもなり得ます。
| 問われるもの | 根拠 |
|---|---|
| 労災保険給付(国籍を問わず) | 労働者災害補償保険法 |
| 民事の損害賠償(安全配慮義務違反) | 労働契約法第5条 |
| 行政指導・罰則(教育の不実施) | 労働安全衛生法第59条ほか |
個別の事案で安全配慮義務違反に当たるかの最終判断は、事情を踏まえて行われます(本記事では確定判断をしません)。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、中国・台湾の人材を含む外国人材の受入れについて雇入れ時等の安全衛生教育の実施体制の設計、母国語・やさしい日本語での教材と記録の整え方、特別教育・健康診断を含む安全衛生管理の整理、就業規則・労使関係の整備、労災時の手続をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
在留資格の該当性や申請取次は行政書士の業務で、社会保険労務士業務とは独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 外国人の安全衛生教育は、必ず母国語でやらないといけませんか?
A. 「母国語で」と一律に義務づける条文ではありませんが、外国人指針(平成19年厚生労働省告示第276号)と関連通達は、本人が内容を理解できる方法で行うよう求めています。日本語だけで形式的に実施しても、本人が理解していなければ教育をしたとはいえません。繁体字・簡体字の教材、やさしい日本語、図やイラスト、同国出身の先輩による通訳・補助、理解度の確認などで「理解できる方法」を整えます。
Q. 介護事業所でも、機械や保護具(1〜4号)の教育は要りますか?
A. 2024年(令和6年)4月1日施行の改正で業種による省略の仕組みがなくなり、介護などサービス業を含む全業種で労働安全衛生規則第35条第1項の8項目すべてが必要になりました。従来は「その他の業種」で1号から4号を省略できましたが、改正後は介護の現場でも、使う機器・用具の危険性や保護具の取扱いなどを業務に即して教育します。
Q. 技能実習の入国後講習を受けていれば、会社での安全衛生教育は省けますか?
A. 省けません。入国後講習には安全衛生を含む科目がありますが、これは制度上の講習で、自社の現場・作業に即した安衛法第59条の雇入れ時等の教育に代わるものではありません。特定技能の生活オリエンテーションも同様で、作業の安全衛生教育そのものとは別です。入社時・作業変更時には、改めて自社の作業に即した教育を実施するのが安全です。
Q. 日本語が通じないまま作業させて労災が起きたら、会社は何を問われますか?
A. 労災保険は国籍を問わず適用され保険給付が行われますが、それとは別に、使用者は安全配慮義務(労働契約法第5条)を負います。理解できる方法での教育を怠ったまま危険な作業に就かせて労災が起きると、安全配慮義務違反として民事の損害賠償を問われ得ます。安衛法第59条の教育の不実施は、労働基準監督署の是正勧告や、態様によっては罰則の問題にもなり得ます。
この記事の根拠
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第59条第1項・第2項(雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育)、第3項(危険有害業務の特別教育)(e-Gov法令検索で2026年10月18日に条文確認)
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第35条第1項(雇入れ時等の教育の8項目)。2024年(令和6年)4月1日施行の改正(令和4年厚生労働省令第91号・2022年5月31日公布)で、旧第1項ただし書(労働安全衛生法施行令第2条第3号の「その他の業種」で第1号から第4号を省略できる規定)が削除され、全業種で8項目が義務化(e-Gov法令検索・厚生労働省資料で2026年10月18日に確認)
- 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(外国人指針・平成19年厚生労働省告示第276号)。安全衛生教育を外国人労働者が理解できる方法で実施すること(2026年10月18日参照)
- 外国人労働者に対する安全衛生教育の推進等について(平成31年3月28日付け基発0328第28号・厚生労働省)。母国語等を用いるなど理解できる方法で行うこと(2026年10月18日参照)
- 技能実習制度運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省編)における入国後講習の科目、および特定技能1号の義務的支援(生活オリエンテーション)。各科目の時間数・割合は運用要領で変わり得るため確定値として示さない(2026年10月18日参照)
- 労働契約法(平成19年法律第128号)第5条(安全配慮義務)(e-Gov法令検索で2026年10月18日に条文確認)
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。安全衛生教育の実施体制の設計、母国語での教材・記録の整え方、安全衛生管理・就業規則の整備、労災時の手続は社会保険労務士の業務です。在留資格の該当性や申請取次は行政書士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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