外国人材の寮費・食費は給料から引ける?賃金全額払いの原則と控除の実務

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
賃金は全額払いが原則で、寮費や食費を勝手に差し引くことはできません(労働基準法第24条第1項)。差し引けるのは、法令に定めがある場合か、事業場の過半数代表との書面による労使協定(賃金控除協定)がある場合に限られます。さらに外国人材の寮費・食費は、技能実習・特定技能の運用上、実費を基本とした合理的な額とし、本人が十分に理解できる言語で事前に明示して同意を書面で残すのが前提です。控除後の手取りが最低賃金(最低賃金法第4条)を下回らないかの確認もいります。全額払いの原則と控除の適法要件、実費の考え方、最低賃金との関係、母国語での明示と同意、そして物件・在留・支援の振り分けを整理します。
結論(先に要点):賃金は全額払いが原則で、寮費や食費を勝手に差し引くことはできません(労働基準法第24条第1項)。差し引けるのは、法令に定めがある場合か、事業場の過半数代表との書面による労使協定(賃金控除協定)がある場合に限られます。さらに外国人材の寮費・食費は、技能実習・特定技能の運用上、実費を基本とした合理的な額とし、本人が十分に理解できる言語で事前に明示して同意を書面で残すのが前提です。控除後の手取りが最低賃金を下回らないかの確認もいります。この記事では、全額払いの原則と控除の適法要件、実費の考え方、最低賃金との関係、母国語での明示と同意、そして物件・在留・支援の振り分けを、社会保険労務士の労務管理の視点で整理します。
技能実習・育成就労・特定技能などで外国人材を受け入れ、社宅・寮や食事を提供している会社では、「寮費や食費を給料から引いてよいか」「いくらまでなら引けるか」で迷いがちです。このページは、そうした中小企業の経営者・労務担当の方に向けて、賃金全額払いの原則、控除に必要な労使協定、実費の考え方、最低賃金との関係、母国語での明示、そして物件・在留・支援の振り分けを整理します。なお技能実習は育成就労制度への移行が予定されていますが、賃金控除の枠組み(労働基準法第24条)は制度をまたいで共通です。
賃金は全額払いが原則なのに、なぜ寮費や食費を控除できる場合があるのか?
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければなりません(労働基準法第24条第1項・全額払いの原則)。ただし同項のただし書は、法令に別段の定めがある場合(所得税の源泉徴収や社会保険料の控除など)と、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、またはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払えると定めています。
寮費・食費・水道光熱費は法令に定めのある控除ではないため、差し引くには後者の賃金控除協定が必要です。協定なしに寮費・食費を天引きすると、全額払いの原則に反します。
| 控除の種類 | 根拠 | 寮費・食費はどれか |
|---|---|---|
| 法令に定めのある控除 | 所得税法・健康保険法・厚生年金保険法等 | 該当しない |
| 労使協定による控除 | 労働基準法第24条第1項ただし書 | これに当たる(協定が必要) |
控除に必要な労使協定とは何で、何を書けば適法になるのか?
賃金控除協定は、事業場の過半数代表(過半数労働組合または過半数代表者)と書面で結びます。協定には、少なくとも**控除する項目(寮費・食費・水道光熱費など)**と、控除する金額または算定方法、**控除を行う日(賃金支払日)**を定めます。あわせて就業規則や賃金規程にも控除の定めを置きます。
36協定と違い、賃金控除協定は労働基準監督署への届出は不要です(作成・保存はします)。協定で控除してよいのは、購買代金・社宅/寮費・組合費など、事理明白なものに限られると解されており、使用者が一方的に損害賠償などを相殺する手段には使えません。
寮費・食費はいくらまで引けるのか、「実費」の考え方と上限は?
金額の上限そのものを一律に定めた条文はありませんが、外国人材については、技能実習・特定技能の運用要領が実費を基本とした合理的な額を求めています。利益を上乗せして徴収することは想定されていません。
| 費目 | 実費の考え方(目安) |
|---|---|
| 居住費(寮費) | 自己所有物件は建設・改修等に要した費用等を、借上げ物件は賃借料・管理費等を、実際に入居する人数で按分した合理的な額 |
| 食費 | 提供する食事の食材費・調理の費用など、実際に要する費用を勘案した合理的な額 |
| 水道光熱費 | 実際に要した費用を入居人数で按分した額 |
いずれも、本人が十分に理解できる言語で事前に説明し、合意を書面で残すことが前提です。社宅や食事を現物で供与し、その対価を賃金から控除する扱いの基本は社宅・現物給与と標準報酬でも扱っています。具体的な按分方法や金額の妥当性は、物件の契約内容と人数を踏まえて資格者が確認します。
最低賃金との関係で、控除後の手取りはどう確認すればよいのか?
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法第4条第1項)。ここで注意したいのは、最低賃金の判定に使う賃金には算入しない賃金がある点です。1か月を超えない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金や、通常の労働時間・労働日の賃金以外の賃金のうち厚生労働省令で定めるものなどは算入しません(同条第3項)。
寮費・食費の控除は「賃金の支払い方」の問題で、最低賃金はあくまで支払われるべき賃金(算入対象の賃金)が最低賃金以上かで判定します。実務では、控除によって本人の生活が成り立たなくなる水準まで引くことは避け、控除前の賃金が地域別最低賃金を満たしているかをまず確認します。現物で食事・住居を供与する場合に最低賃金の算定へどう反映するかは個別性が高いため、所轄の労働基準監督署・労働局に確認します(本記事では確定判断をしません)。最低賃金額そのものの動きは最低賃金の引き上げで扱っています。
外国人材本人に控除内容をどう母国語で明示し、同意を残すのか?
労働契約の締結時には、賃金・労働時間などの労働条件を書面などで明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項・同法施行規則第5条)。外国人労働者については、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人指針)が、本人が理解できる方法で労働条件を明示するよう求めています。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
寮費・食費の控除も、金額(または算定方法)・内訳・控除日を本人が理解できる言語で示し、同意を書面で残すのが安全です。中国・台湾出身の方には繁体字・簡体字で用意するなど、母国語での説明を整えます。日本人と同等以上の報酬という在留資格側の要件との関係は外国人の同等報酬と労働条件通知で扱っています。
物件・在留・支援の部分は誰に相談を振り分けるのか?
寮費・食費の控除は労務の範囲ですが、周辺の手続はそれぞれ担い手が分かれます。
| すること | 誰の業務か |
|---|---|
| 賃金控除の労使協定・就業規則・賃金台帳、控除額の適法性の確認、最低賃金との照合 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 寮そのものの物件の選定・賃貸借契約 | 宅地建物取引業者(不動産会社) |
| 在留資格の申請取次、登録支援機関としての住居確保支援 | 行政書士/登録支援機関 |
| 事業附属寄宿舎に当たる寮の寄宿舎規則の届出 | 社会保険労務士(労働基準監督署への届出を支援) |
当事務所は労務管理の情報提供・手続に限ります。社会保険労務士業務と、不動産・行政書士・登録支援機関の業務は、それぞれ独立した事業体が担い、別々にご契約いただく前提で、一括受任はしません。寮が労働基準法の事業附属寄宿舎に当たる場合の寄宿舎規則の届出は外国人の寄宿舎規則の届出で扱っています。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、外国人材の寮費・食費の控除について賃金控除の労使協定の作成、就業規則・賃金規程への反映、控除額の適法性と最低賃金との照合、賃金台帳の整備、母国語での控除明示の設計をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表をご覧ください。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
寮の物件や在留資格の手続は、それぞれ独立した事業体である不動産会社・行政書士・登録支援機関に別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 労使協定を結べば、寮費や食費はいくらでも給料から引けますか?
A. いくらでも引けるわけではありません。賃金控除協定(労働基準法第24条第1項ただし書)で控除の項目・金額(算定方法)・控除日を定める必要があり、外国人材については技能実習・特定技能の運用上、実費を基本とした合理的な額が求められます。利益を上乗せして徴収することは想定されていません。本人の理解と書面による同意も前提です。
Q. 賃金控除協定は労働基準監督署に届け出が必要ですか?
A. 不要です。36協定と違い、賃金控除協定は作成・保存すればよく、労働基準監督署への届出義務はありません。ただし、事業場の過半数代表との書面であること、控除してよいのは寮費・食費など事理明白なものに限られること、就業規則・賃金規程にも定めを置くことが実務上の前提です。
Q. 寮費・食費を引いた後の手取りが最低賃金を下回ってもよいですか?
A. 最低賃金は、支払われるべき賃金(算入対象の賃金)が最低賃金額以上かで判定します(最低賃金法第4条)。控除は賃金の支払い方の問題ですが、控除で生活が成り立たない水準まで引くことは避け、控除前の賃金が地域別最低賃金を満たすかをまず確認します。現物給与の最低賃金への反映は個別性が高いため、所轄の労働基準監督署・労働局に確認してください。
Q. 控除の内容は外国人本人にどう伝えればよいですか?
A. 金額(算定方法)・内訳・控除日を、本人が理解できる言語で事前に示し、同意を書面で残すのが安全です。労働条件の明示(労働基準法第15条第1項)と外国人指針が、本人が理解できる方法での明示を求めています。中国・台湾出身の方には繁体字・簡体字で用意するなど、母国語での説明を整えます。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条第1項(賃金の全額払いの原則と、法令の定めまたは事業場の過半数代表との書面による協定がある場合の一部控除)、第15条第1項(労働条件の明示)、第95条(事業附属寄宿舎の寄宿舎規則の作成・届出)。施行規則第5条(明示事項)(e-Gov法令検索で2026年10月17日に条文確認)
- 最低賃金法(昭和34年法律第137号)第4条第1項(最低賃金額以上の賃金支払義務)、第3項(最低賃金の算定に算入しない賃金=1か月を超えない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの等)(e-Gov法令検索で2026年10月17日に条文確認)
- 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(外国人指針・厚生労働省)。本人が理解できる方法での労働条件の明示(2026年10月17日参照)
- 出入国在留管理庁・外国人技能実習機構の運用要領等における宿泊施設・費用徴収の考え方(居住費・食費・水道光熱費は実費を基本とした合理的な額、事前の明示と本人の合意)。費目ごとの按分・金額の妥当性は個別判断のため確定値として示さない(2026年10月17日参照)
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。賃金控除の労使協定・就業規則・賃金台帳の整備、控除額の適法性の確認、最低賃金との照合は社会保険労務士の業務です。寮の物件の選定・賃貸借は宅地建物取引業者、在留資格の申請取次や登録支援機関としての住居支援は行政書士・登録支援機関の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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