初めて人を雇ったら何を揃える?法定三帳簿の中身と保存年限
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
初めて人を雇ったら、労働基準法第107条・第108条により労働者名簿と賃金台帳を作らなければなりません。実務ではこれに出勤簿を加えて「法定三帳簿」と呼びます。保存年限は第109条で5年間、附則第143条の経過措置により当分の間3年間(いずれも2020年〈令和2年〉4月1日施行の改正)です。三帳簿それぞれの記載事項(施行規則第53条・第54条)、保存の起算日(施行規則第56条)、電子保存の可否、そして帳簿づくりは社会保険労務士・税務は税理士という切り分けを整理します。
結論(先に要点):初めて人を雇ったら、法律上まず労働者名簿・賃金台帳の2つを作らなければなりません(労働基準法第107条・第108条)。実務ではこれに出勤簿を加えて「法定三帳簿」と呼びます。出勤簿は労基法に「出勤簿」という名称での直接の定めはありませんが、賃金台帳に労働日数・労働時間数を書く義務があり、また労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務(労働安全衛生法第66条の8の3、2019年4月1日施行)があるため、その裏づけとして必要になります。保存年限は労働基準法第109条で5年間とされ、附則第143条の経過措置により当分の間は3年間でよいとされています(いずれも2020年〈令和2年〉4月1日施行の改正)。この記事では、三帳簿それぞれの記載事項、保存年限と起算日、電子保存の可否、そして帳簿づくりと税務・紛争の切り分けを、社会保険労務士の視点で整理します。
初めて従業員を雇う小規模事業主の方、雇用の入口の労務を任された一人目の担当の方に向けて、最初に必ず揃える帳簿を横断で整理します。個別の記載の要否や保存の扱いは事業所の実態によって変わるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。給与計算そのものの相場観は給与計算を社会保険労務士に頼むと、いくらかかるのかもあわせてご覧ください。
従業員を雇ったら、法律上まず何を作るのか?
労働基準法は、労働者を1人でも雇う使用者に対して、事業場ごとに帳簿を備え付けることを求めています。法律が名指しで作成を義務づけているのは、労働者名簿と賃金台帳の2つです。
| 帳簿 | 根拠条文 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 労働基準法第107条 | 各事業場ごとに、各労働者について調製する(日々雇い入れられる者を除く) |
| 賃金台帳 | 労働基準法第108条 | 各事業場ごとに、賃金の支払のつど遅滞なく記入する |
| 出勤簿(タイムカード等) | 労基法に名称の直接規定はない | 賃金台帳の労働日数・労働時間数の記載を裏づけ、労働時間の状況の把握義務(安衛法第66条の8の3)にも対応する |
「法定三帳簿」という呼び方は実務上の言い方で、労基法が「三帳簿」とまとめて定めているわけではありません。労働者名簿と賃金台帳は労基法に明文がありますが、出勤簿は他の義務(賃金台帳の記載・労働時間の状況の把握)から実務上必要になる、という位置づけです。就業規則の作成義務は常時10人以上を使用する事業場から生じますが(就業規則は10人からと聞いたが、何が必要なのか)、三帳簿は人数にかかわらず雇用の入口で必要になります。
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿には、それぞれ何を書くのか?
記載事項は、労働者名簿と賃金台帳については労働基準法施行規則に具体的に定められています。抜けがあると是正の対象になるため、様式より先に「何を書くか」を押さえます。
| 帳簿 | 主な記載事項 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 氏名・生年月日・履歴(法107条)、性別・住所・従事する業務の種類・雇入の年月日・退職の年月日及びその事由(解雇の場合はその理由を含む)・死亡の年月日及びその原因(施行規則第53条) | 労基法第107条・施行規則第53条 |
| 賃金台帳 | 氏名・性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外/休日/深夜労働の時間数・基本給や手当など賃金の種類ごとの額・控除した場合はその額 | 労基法第108条・施行規則第54条 |
| 出勤簿等 | 出勤日、始業・終業時刻、休憩、時間外・休日・深夜の労働時間など、労働時間の状況がわかる記録 | 賃金台帳の記載の裏づけ/安衛法第66条の8の3 |
労働者名簿の「従事する業務の種類」は、常時30人未満の労働者を使用する事業では記入しなくてよいとされています(施行規則第53条第2項)。日々雇い入れられる者は労働者名簿の対象外です(法107条第1項かっこ書)。労働時間の状況は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法で把握するのが原則で、自己申告のみに頼ることは想定されていません(安衛法第66条の8の3・厚生労働省の労働時間把握のガイドライン)。
帳簿は何年保存し、いつから数えるのか?
保存年限は労働基準法第109条にまとめて定められています。ここは2020年(令和2年)4月1日の改正で年数が変わり、経過措置が残っている点に注意が要ります。
| 帳簿・書類 | 保存年限 | 起算日(施行規則第56条) |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 5年間(当分の間3年間) | 労働者の死亡・退職または解雇の日 |
| 賃金台帳 | 5年間(当分の間3年間) | 最後の記入をした日 |
| 出勤簿など賃金その他労働関係に関する重要な書類 | 5年間(当分の間3年間) | その完結の日 |
| (参考)安衛法上の労働時間の状況の記録 | 3年間 | 労働安全衛生規則により作成・保存 |
労働基準法第109条は保存年限を「5年間」と定めていますが、附則第143条の経過措置により「当分の間3年間」と読み替えることとされています(民法改正に伴う賃金請求権の消滅時効の見直しに合わせた改正。2020年〈令和2年〉4月1日施行)。したがって現時点の実務は3年間の保存で足りますが、法律上の原則は5年である点は押さえておく必要があります。起算日は帳簿ごとに違い、雇い入れた日や作成した日からではなく、名簿なら退職・解雇の日、賃金台帳なら最後の記入日からと定められています。数え方を取り違えると、必要な期間より早く廃棄してしまうおそれがあります。
紙でなく電子で保存してよいのか、条件は何か?
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿は、一定の要件を満たせば電子データで調製・保存することが認められています。紙とデータのどちらでも、求められたときに直ちに確認・出力できる状態であることが前提です。
| 論点 | 電子保存の考え方 |
|---|---|
| 作成・保存の媒体 | 記載事項を満たし、改ざん防止や検索性など必要な要件を満たせば電子データでよい |
| 出力できること | 労働基準監督官の臨検などに際し、直ちに必要事項を明らかにし、書面に出力できること |
| バックアップ | 滅失・改変に備えた管理(アクセス制限・バックアップ)を講じること |
クラウドの労務・勤怠システムで名簿や勤怠を管理する場合も、記載事項の充足と保存年限・起算日の管理は変わりません。システムを入れたことで満たしたつもりになりやすいのが、退職者分の保存です。退職しても、労働者名簿・賃金台帳は起算日から所定年数の保存が必要なので、退職と同時に削除しない運用にしておきます。給与計算をシステムで内製する場合の線引きは給与計算を社会保険労務士に頼むと、いくらかかるのかもご参照ください。
帳簿づくりは社労士、税務は税理士とどう分けるのか?
三帳簿の整備は雇用の入口の労務そのもので、社会保険労務士の業務です。一方、給与計算に連動する源泉徴収や年末調整は税務の領域で、担い手が分かれます。
| すること | 誰の業務か |
|---|---|
| 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の整備、記載事項・保存年限の設計、勤怠・給与計算、就業規則・雇用契約の整備 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 源泉徴収・年末調整・所得税の確定申告 | 税理士(提出先は税務署) |
| 未払い賃金など個別の労使間の紛争 | 弁護士 |
当事務所は労務・社会保険の情報提供と手続に限ります。源泉徴収や年末調整といった税務は税理士(提出先は税務署)へご案内し、賃金をめぐる個別の紛争は弁護士へおつなぎします。これらはそれぞれ独立した事業体が担い、別々にご契約いただく前提で、一括受任はしません。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の帳簿の記載の要否や保存の扱いについての最終判断は、所轄の労働基準監督署が行います。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、初めて従業員を雇う事業主の方について、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の整備、記載事項と保存年限・起算日の設計、勤怠と給与計算の仕組みづくり、雇用契約書・(必要に応じて)就業規則の整備をお受けします。紙・電子どちらの運用でも、退職者分を含めた保存の設計までお手伝いします。ご相談は無料です。 料金の考え方は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
源泉徴収・年末調整・所得税の申告は税理士(提出先は税務署・独立した事業体・別々にご契約)へ、賃金をめぐる紛争は弁護士へご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 従業員が1人だけでも、労働者名簿や賃金台帳は作らないといけませんか?
A. 必要です。労働基準法第107条・第108条は、労働者を1人でも雇う使用者に対し、事業場ごとに労働者名簿と賃金台帳を調製することを求めています。就業規則の作成義務は常時10人以上の事業場から生じますが、三帳簿は人数にかかわらず雇用の入口で必要です。日々雇い入れられる者は労働者名簿の対象外です。
Q. 帳簿は3年保存すればよいのですか、5年ですか?
A. 労働基準法第109条は原則「5年間」と定めていますが、附則第143条の経過措置により「当分の間3年間」と読み替えられています(2020年〈令和2年〉4月1日施行)。したがって現時点は3年間の保存で足りますが、法律上の原則は5年である点は押さえておいてください。起算日は帳簿ごとに異なります(施行規則第56条)。
Q. 出勤簿は法律で作れと決まっているのですか?
A. 労働基準法に「出勤簿」という名称での直接の作成義務はありません。ただし賃金台帳に労働日数・労働時間数を記載する義務があり(法108条・施行規則第54条)、また労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務(労働安全衛生法第66条の8の3、2019年4月1日施行)があるため、その裏づけとして出勤簿やタイムカード等の記録が実務上必要になります。
Q. 帳簿はパソコンやクラウドで電子的に保存してよいですか?
A. 記載事項を満たし、改ざん防止や検索性などの要件を満たしたうえで、求められたときに直ちに確認・出力できる状態であれば、電子データでの調製・保存が認められています。システムで管理する場合でも、退職者分の保存年限と起算日の管理は変わらないため、退職と同時に削除しない運用にしておくことが大切です。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第107条(労働者名簿)・第108条(賃金台帳)・第109条(記録の保存)/e-Gov法令検索により条文を確認(2026年9月参照)。第109条の保存年限は「5年間」で、附則第143条により「当分の間3年間」と読み替える
- 労働基準法の一部改正(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律等による賃金請求権の消滅時効等の見直し。2020年〈令和2年〉4月1日施行)による保存年限の3年→5年(当分の間3年)への変更/e-Gov法令検索および厚生労働省の案内により確認(2026年9月参照)
- 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第53条(労働者名簿の記載事項)・第54条(賃金台帳の記載事項)・第56条(記録の保存起算日)/e-Gov法令検索により確認(2026年9月参照)
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8の3(労働時間の状況の把握。2019年〈平成31年〉4月1日施行。客観的な方法による把握)、および「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省、2017年〈平成29年〉1月20日策定)/e-Gov法令検索および厚生労働省の案内により確認(2026年9月参照)
- 帳簿の電子的な調製・保存の取扱いは、厚生労働省・労働基準監督署の案内により確認(2026年9月参照)。臨検の際に直ちに必要事項を明らかにし書面に出力できることなどが前提
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の整備、記載事項・保存年限の設計、勤怠・給与計算、就業規則・雇用契約の整備は社会保険労務士の業務です。源泉徴収・年末調整・所得税の申告は税理士の業務(提出先は税務署)、未払い賃金などの労使紛争は弁護士の業務です。社会保険労務士業務とこれらの業務は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の帳簿の記載の要否や保存の扱いについての最終判断は、所轄の労働基準監督署が行います。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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