継続雇用の対象者を労使協定で絞れる経過措置が2025年3月末で終了。何が変わった?

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
労使協定で定めた基準により継続雇用の対象者を絞れた経過措置は、2025年3月31日で終了しました。高年齢者雇用安定法の一部を改正する法律(平成24年法律第78号)附則の経過措置で、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の者に限り基準を使えましたが、適用年齢は2013年4月の61歳以上から段階的に上がり、2022年4月〜2025年3月の64歳以上を最後に消滅しました。2025年4月1日以降、65歳までの継続雇用は希望者全員が対象で、就業規則や労使協定に残った選別基準は使えません(厚労省Q&A・2025年4月1日適用)。ただし就業規則の解雇事由・退職事由に該当する場合は継続雇用しないことができます(2012年告示第560号指針/客観的合理・社会通念上相当)。「65歳定年の義務化」ではなく60歳定年のままでも対応できる点、70歳までは努力義務で対象者を基準で限定できる点を社会保険労務士の視点で整理し、継続雇用拒否の個別の可否や紛争は弁護士へ振り分けます。
結論(先に要点):労使協定で継続雇用の対象者を選別できた経過措置は、2025年3月31日で終了しました。2025年4月1日以降は、65歳までの継続雇用は希望者全員が対象です。就業規則や労使協定に残った選別基準は、もう使えません。
そもそも継続雇用の『経過措置』とは何で、いつ終わった?
経過措置とは、労使協定で定めた基準によって継続雇用の対象者を絞ることを、一定の年齢以上の層について当分の間だけ認めていた仕組みです。2025年3月31日をもって終了しました。
経緯を押さえると分かりやすくなります。2006年施行の旧制度では、継続雇用制度を導入する場合でも、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)との労使協定で「継続雇用の対象者を選ぶ基準」を定めれば、希望者の一部だけを継続雇用の対象とすることが認められていました。
これを改めたのが、高年齢者雇用安定法の一部を改正する法律(平成24年法律第78号)です。この改正で、継続雇用は原則として希望者全員を対象とすることになりました。ただし、改正前にすでに労使協定で選別基準を定めていた事業主にいきなり全員化を求めるのは激変が大きいため、同改正法の附則に経過措置が置かれました。内容は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について、従来の基準を引き続き使えるというものです。
支給開始年齢は段階的に引き上げられるため、基準を使える下限年齢も段階的に上がり、最終的に消滅する設計でした。
| 期間 | 基準を適用できる年齢 |
|---|---|
| 2013年4月1日〜2016年3月31日 | 61歳以上 |
| 2016年4月1日〜2019年3月31日 | 62歳以上 |
| 2019年4月1日〜2022年3月31日 | 63歳以上 |
| 2022年4月1日〜2025年3月31日 | 64歳以上 |
| 2025年4月1日〜 | 経過措置は終了(基準は使えない) |
たとえば2022年4月から2025年3月までは、64歳以上の層についてだけ選別基準を使えました。64歳未満は希望者全員が対象です。そして2025年4月1日以降は、この最後の「64歳以上」の枠も消え、65歳まで全年齢で希望者全員が対象になりました。終了にあわせて、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第30号・2025年3月28日公布・原則2025年4月1日施行)で、施行規則側の経過措置規定も整理されています。
2025年4月から、基準で対象者を絞れなくなるとどうなる?
65歳までの継続雇用制度を採っている会社は、希望者全員を対象にしなければなりません。
厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&A(2025年4月1日適用)は、継続雇用制度を導入する場合「希望者全員を対象とするものにしなければなりません」としています。「上司の推薦がある者」「人事評価が一定以上の者」「過去◯年の勤怠が良好な者」といった選別基準は、2025年4月以降は根拠を失いました。基準に該当しないことを理由に継続雇用を断れば、第9条の雇用確保措置を講じていないことになります。
ここで誤解しやすいのが、「経過措置が終わって65歳定年が義務になった」という受け止めです。そうではありません。高年齢者雇用安定法第8条は定年年齢の下限を60歳としており、60歳定年そのものは今も適法です。第9条第1項は、65歳未満の定年を定めている事業主に対し、定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年の定めの廃止のいずれかを講じることを求めています。60歳定年を残したまま、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を整えていれば、それで足ります。変わったのは「継続雇用の対象者を基準で絞れるかどうか」であって、「定年を65歳にしなければならないか」ではありません。3つの措置の選び方や70歳までの就業確保の全体像は定年後に65歳・70歳まで働いてもらうときに整理しています。
既存の労使協定・就業規則はどこを直す必要がある?
まず確認すべきは、選別基準の条項が残っていないかです。
経過措置の時代に作った就業規則や労使協定には、「継続雇用は次の基準をすべて満たす者を対象とする」という条項が入っていることがあります。2025年4月以降、この条項はそのままでは運用できません。放置すると、現場が古い基準で可否を判断してしまい、「基準に合わないので再雇用しない」という本来できない対応につながります。見直しのポイントを挙げます。
| 確認する箇所 | あるべき状態 |
|---|---|
| 継続雇用の対象者 | 希望者全員が対象である旨。選別基準の条項は削除 |
| 希望の申出 | 定年の何か月前に意思確認するか、書式は何か、申出の期限 |
| 契約期間・更新 | 65歳までの間、どの期間で契約し、どう更新するか |
| 労働条件 | 定年前と変える場合の賃金・勤務日数・職務の決め方 |
| 解雇事由・退職事由 | 就業規則の定めが実態に合っているか(後述の例外の前提になる) |
労使協定に選別基準が残っている場合は、協定自体を改めるか、少なくとも当該条項を適用しない運用に切り替える必要があります。就業規則を変更するときは、意見聴取と届出の手続きが必要です。就業規則の作成・変更義務そのものは就業規則は何人から義務かをご覧ください。
なお、継続雇用を1年ごとの有期契約で回す場合、無期転換ルール(通算5年)との関係が出てきます。定年後再雇用については有期雇用特別措置法の第二種計画認定という特例があり、認定を受けていれば無期転換申込権が発生しないものとして扱えます。この点も含めた再雇用設計は定年後に65歳・70歳まで働いてもらうときに整理しています。
健康状態や勤務成績を理由に再雇用しないことはできる?
まったく例外がないわけではありませんが、入口は限られています。
高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(2012年11月9日厚生労働省告示第560号)は、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができる」としています。
読み方の要点は3つです。第一に、根拠は「就業規則に定める解雇事由または退職事由」です。継続雇用のためだけの別基準を新しく作ることはできません。つまり就業規則の解雇事由・退職事由が実態に合っていない会社は、この入口が使えません。第二に、年齢に係る事由は除かれます。第三に、該当すれば自動的に継続雇用しないでよいという話ではなく、指針は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であることが求められるとしています。この線引きは個別性が高く、争いになりそうな場面の最終判断は資格者が行います。継続雇用しないことの個別の可否や、こじれたときの交渉・訴訟は社労士ではなく弁護士の領域です。相談先の分け方は社員を辞めてもらうとき、社労士と弁護士のどちらに頼むのかに整理しています。
再雇用後の社会保険・年金・給付は、経過措置の終了とあわせて何を見る?
経過措置の終了は「誰を継続雇用するか」の話ですが、継続雇用した後の手続きにも、近年の制度改正が重なっています。再雇用の設計をするなら、あわせて次を見ておくと齟齬が減ります。
- 同日得喪。60歳以上の人を退職後1日も空けずに同じ会社で再雇用した場合、使用関係がいったん中断したものとみなし、被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に提出して、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額へ改定できます。標準報酬月額の仕組みは算定基礎届と月額変更届は何が違う?をご覧ください。
- 在職老齢年金。老齢厚生年金を受けながら働く場合の支給停止の基準額は、2026年3月以前は51万円でしたが、2025年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により2026年4月以降は65万円に見直されました。計算の詳細は年金をもらいながら働く人を雇うときに整理しています。
- 高年齢雇用継続給付。2025年4月1日以降に60歳に達する人については、支給率の上限が各月の賃金の10%に下がりました。再雇用で賃金を下げる前提の設計に影響します。縮小の内容は高年齢雇用継続給付の縮小をご覧ください。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
「基準で絞れた時代の設計」と「給付で賃金低下を補う前提」が同時に古くなっていることがあります。経過措置の終了を機に、再雇用まわりの規程と手続きを一度点検する価値があります。
70歳までの就業確保の努力義務とはどう整理して考える?
分けて考えます。65歳までは義務、70歳までは努力義務です。
高年齢者雇用安定法第9条の「講じなければならない」(65歳までの雇用確保措置)に対し、同法第10条の2第1項は65歳から70歳までの就業確保について「努めなければならない」と書き分けています。今回終了した経過措置は、あくまで第9条の世界、すなわち65歳までの継続雇用で対象者を絞れるかどうかの話です。70歳までの就業確保措置とは別の制度です。
| 65歳まで | 70歳まで | |
|---|---|---|
| 根拠 | 第9条 | 第10条の2 |
| 性質 | 義務 | 努力義務 |
| 継続雇用の対象者 | 原則として希望者全員(経過措置は2025年3月終了) | 対象者を限定する基準を設けられる |
ここで混同しやすいのは、70歳までの就業確保措置では対象者を基準で限定できる、という点です。65歳までは経過措置の終了で全員化したのに、70歳までは基準での限定が認められています。「65歳までで絞れなくなったから70歳までも全員」と誤解すると、制度を過大に設計してしまいます。70歳までの措置の全体像(雇用3措置と創業支援等措置2措置、過半数代表等の同意の要否など)は定年後に65歳・70歳まで働いてもらうときに整理しています。
よくある質問
Q. 2025年4月から65歳定年にしないと法律違反になりますか?
A. なりません。高年齢者雇用安定法第8条により定年は60歳以上であれば適法で、60歳定年そのものは今も認められています。終了したのは「継続雇用の対象者を労使協定の基準で絞れる経過措置」であって、「65歳定年の義務化」ではありません。60歳定年を残したまま、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度(第9条第1項第2号)を整えていれば対応できます。確認すべきは定年年齢ではなく、定年後から65歳までが希望者全員でふさがっているかどうかです。
Q. 就業規則に「継続雇用は人事評価がB以上の者」とあります。このまま運用してよいですか?
A. 2025年4月以降は運用できません。経過措置の終了により、継続雇用の対象者を基準で絞ることはできず、希望者全員が対象です。厚生労働省のQ&Aも、継続雇用制度は「希望者全員を対象とするものにしなければなりません」としています。この条項は削除し、希望の申出方法・期限・契約期間・更新の考え方に書き換えるのが見直しの方向です。就業規則を変更する際は意見聴取と届出の手続きが必要です。
Q. 経過措置の時代に結んだ労使協定は、自動的に無効になりますか?それとも改める手続きが要りますか?
A. 経過措置の終了により、選別基準の条項は適用できなくなります。協定そのものを失効させる自動の仕組みに頼るのではなく、当該条項を削除・改定するか、少なくとも適用しない運用に切り替え、就業規則の継続雇用の定めと整合させておくのが安全です。古い基準が文面に残っていると、現場が誤って適用してしまう原因になります。
Q. 70歳まで雇う制度は入れていません。これも義務違反ですか?
A. 70歳までは努力義務です。高年齢者雇用安定法第10条の2第1項が「努めなければならない」と定めており、65歳までの「講じなければならない」(第9条)とは区別されています。今回終了した経過措置は65歳までの継続雇用に関するもので、70歳までの就業確保措置とは別の制度です。70歳までの措置では、65歳までと異なり対象者を基準で限定することも認められています。
この記事の根拠
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第8条 ── 定年を定める場合、当該定年は60歳を下回ることができない
- 同法第9条第1項 ── 65歳未満の定年を定めている事業主は、65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年の定めの廃止のいずれかを講じなければならない
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成24年法律第78号)附則 ── 改正前に労使協定で継続雇用の対象者を限定する基準を定めていた事業主について、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者に限り当該基準を適用できる経過措置。基準を適用できる年齢は、2013年4月1日〜2016年3月31日は61歳、2016年4月1日〜2019年3月31日は62歳、2019年4月1日〜2022年3月31日は63歳、2022年4月1日〜2025年3月31日は64歳と段階的に引き上げられ、2025年3月31日をもって終了
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第30号・2025年3月28日公布・原則2025年4月1日施行)── 経過措置の終了にともなう施行規則の整理
- 厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」(2025年4月1日適用)── 継続雇用制度は「希望者全員を対象とするものにしなければなりません」
- 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(2012年11月9日厚生労働省告示第560号)──「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができる」。客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であることが求められる
- 同法第10条の2第1項 ── 65歳以上70歳未満の定年を定めている事業主または継続雇用制度を導入している事業主は、65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない(努力義務)
- 厚生年金保険法附則(老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の段階的引上げ)── 経過措置の基準年齢はこの支給開始年齢に連動する
- 厚生年金保険法第46条第3項および2025年年金制度改正法(令和7年法律第74号)── 在職老齢年金の支給停止調整額は2026年3月以前は51万円、2026年4月以降は65万円
- 雇用保険法(高年齢雇用継続給付)── 2025年4月1日以降に60歳に達する人の支給率の上限は各月の賃金の10%
- 日本年金機構「60歳以上の方を、退職後1日の間もなく再雇用したとき」── 使用関係がいったん中断したものとみなし、被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に提出して標準報酬月額を改定(同日得喪)
- 条文・公的資料は2026年10月31日に確認。経過措置の基準年齢と各期間の対応、省令の施行日は厚生労働省の公表資料で確認した
この記事は、個別の該当性を判断するものではありません。四葉社会保険労務士事務所では、継続雇用に関する就業規則・規程の見直し、選別基準の削除と希望者全員化にともなう労使協定の改定、意思確認の書式や社内フローの設計、定年後再雇用にともなう社会保険の同日得喪の手続、第二種計画認定の申請についてご相談いただけます。退職金や企業年金の税務上の取扱いは税理士へおつなぎします。継続雇用しないことの個別の可否や、再雇用の条件をめぐって争いになった場面の交渉・訴訟は当事務所では扱わず、弁護士への相談をご案内します。別の専門家が必要な場合は、それぞれ別契約となり、紹介料はありません。ご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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