家族信託を組むとき行政書士は何をする?──信託契約書・公正証書・信託登記の役割分担と遺言・後見との違い
家族信託(民事信託)は、委託者が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託し、受益者のために運用してもらう仕組みです(信託法・2007年9月30日施行)。認知症などで判断能力が下がっても受託者が契約に沿って管理できます。行政書士が関われる信託契約書作成の範囲、公正証書にする理由、信託の登記(不動産登記法第98条)、受益者課税(相続税法第9条の2)、遺言・任意後見との違いを整理し、書面作成は行政書士、公正証書化は公証人、登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士へ分離受任で振る分担を示しました。
結論(先に要点):家族信託(民事信託)は、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託し、決めた人(受益者)のために運用してもらう仕組みです。根拠は信託法(平成18年法律第108号・2007年9月30日施行)。認知症などで判断能力が下がっても受託者が契約に沿って財産を管理できるため、生前の財産管理と承継の設計に使われます。行政書士は、信託契約書という権利義務に関する書面の作成を支援できますが、公正証書の作成は公証人、信託登記は司法書士、税務は税理士、親族間に争いがある場合は弁護士と、担当が分かれます。本記事は仕組みと役割分担、遺言・任意後見との違いを整理します。個別の組成の可否・課税の最終判断は有資格者が行います。
家族信託(民事信託)とはどんな仕組みで、遺言や後見とどう違う?
家族信託は、委託者・受託者・受益者の三者で成り立ちます。多くは、親(委託者)が自分自身を受益者に指定する「自益信託」で組み、実質的な利益は親のまま、管理だけを子(受託者)に託します。信託の設定方法は信託法第3条で、契約(第1号)・遺言(第2号)・自己信託=信託宣言(第3号)の3つが定められています。
遺言・任意後見との違いは次のとおりです。
| 制度 | いつ効力を持つ | 主にできること |
|---|---|---|
| 家族信託(信託法) | 契約時(生前)から | 生前の柔軟な財産管理・処分、認知症後も管理継続、承継先の指定 |
| 遺言 | 本人の死亡後 | 死後の財産の承継先を指定(生前の管理はできない) |
| 任意後見 | 判断能力低下後(家庭裁判所が任意後見監督人を選任) | 本人保護のための財産管理と身上監護 |
遺言は死後の一度きりの承継ですが、家族信託は生前から効力を持ち、認知症になっても受託者が管理を続けられます。さらに、受益者の死亡により次の受益者へ承継させる「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」も設計できますが、信託法第91条により、信託設定から30年を経過した後に受益権を取得した受益者が死亡すれば信託は終了する、という期間制限があります。任意後見は本人保護が目的で積極的な資産の組み替えが難しい一方、家族信託は柔軟な管理・処分を設計できる代わりに身上監護(介護・医療の同意など)は対象外です。目的に応じて使い分け、併用します。
信託契約書の作成で行政書士が関われる範囲はどこまで?
行政書士は、権利義務又は事実証明に関する書類の作成を業務とします。契約による信託の「信託契約書」は権利義務に関する書面ですから、行政書士は依頼者の意向を聞き取り、契約書の文案の作成を支援できます。
一方で、次の領域は行政書士の業務ではありません。
- 個別事案でその信託が有効に成立するか、どう設計すべきかといった法的判断や、親族間に争いがある事案 → 弁護士
- 信託を原因とする登記の申請代理 → 司法書士
- 受益者課税など税額の計算・申告 → 税理士
- 信託契約書を公正証書にする作成行為 → 公証人
四葉行政書士事務所は、行政書士業務の範囲で信託契約書の作成を支援し、公証役場・司法書士・税理士との窓口整理を行います。各手続はそれぞれの資格者と別々にご契約いただきます。組成の可否や課税の判断は有資格者が行います。
なぜ公正証書にするのか、信託登記は誰がするのか?
家族信託の契約書は、公証人が作成する公正証書にするのが一般的です。理由は、契約の存在と内容についての証拠力が高く、後日の紛争を防ぎやすいこと、金融機関で信託専用口座(信託口口座)を開設する際に公正証書を求められることが多いことです。なお、自己信託(信託宣言)は、公正証書等の書面によることが効力発生の要件とされています(信託法第4条第3項)。公正証書を作るのは公証人であって、行政書士や司法書士ではありません。
信託財産に不動産が含まれるときは、登記が必要です。委託者から受託者への「信託」を原因とする所有権移転登記と、信託の登記を、同一の申請でまとめて行います(不動産登記法第98条。信託の登記事項は第97条)。この登記申請の代理は司法書士の業務です。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 所有権移転登記(委託者→受託者) | 形式的な移転のため登録免許税は非課税 |
| 信託の登記 | 固定資産評価額の0.4%(税率・軽減の有無は最新の規定を確認) |
| 申請の代理 | 司法書士 |
受託者に名義を移しても、実質の利益は受益者にあります。自益信託(委託者=受益者)であれば財産の実質的な帰属は変わらないため、設定時に贈与税・不動産取得税はかかりません。税額の扱いは税理士にご確認ください。
家族信託でよくある失敗と、課税の注意点は誰に相談する?
設計や運用でつまずきやすい点があります。
- 受託者の監督が効かない:受託者が財産を私的に使う懸念があるため、受益者代理人・信託監督人を置く、帳簿・報告の義務を契約に明記する、といった設計が要ります。
- 身上監護を家族信託でカバーしようとする:介護・医療の同意などは信託の対象外です。任意後見と併用します。判断能力の低下や見守りは認知症・行方不明の相続人がいるとき、死後の事務は死後事務委任契約もあわせてご検討ください。
- 遺留分との関係:信託の設計が他の相続人の遺留分に影響することがあり、争いになりそうなら弁護士の領域です。
- 課税:委託者と受益者が別(他益信託)の場合や受益者を変更した場合、受益者となる者に贈与税・相続税がかかることがあります(相続税法第9条の2「受益者等課税信託」)。また信託不動産から生じた損失は他の所得と損益通算できないなどの制限があり、税務は税理士に確認します。
遺言との使い分けは自筆証書遺言と公正証書遺言もご参照ください。四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社・提携する各資格者は、それぞれ別事業体です。当社は信託契約書の作成支援のみを独立した事業体として担い、公正証書化は公証人、登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士と、別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。相続・遺言・信託の全体像は相続・遺言・信託サービス、受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続不動産の全体像は相続不動産の完全ガイドをご覧ください。
よくある質問
Q. 家族信託は誰でも組めますか?
A. 委託者に判断能力があるうちに、信頼できる受託者を決めて契約するのが基本です。認知症などで判断能力が失われた後では契約による信託を新たに組むことは難しく、その場合は法定後見など別の制度を検討します。個別の組成可否は面談のうえ有資格者が判断します。
Q. 家族信託と遺言・任意後見は、どれを選べばよいですか?
A. 目的が異なります。生前の柔軟な財産管理は家族信託、死後の承継先の指定は遺言、判断能力低下後の身上監護は任意後見が担います。家族信託だけでは介護・医療の同意(身上監護)は対象外のため、任意後見と併用することもあります。組み合わせは事案ごとに設計します。
Q. 信託契約書は行政書士に頼めますか?
A. 信託契約書は権利義務に関する書面のため、行政書士がその作成を支援できます。ただし、公正証書にするのは公証人、信託を原因とする登記は司法書士、税務は税理士、紛争性のある事案は弁護士の領域です。四葉行政書士事務所は書面作成の支援を独立した事業体として行い、他はそれぞれの資格者と別々にご契約いただきます。
Q. 家族信託に税金はかかりますか?
A. 委託者が自分を受益者にする自益信託であれば、設定時に贈与税・不動産取得税はかかりません。委託者と受益者が別(他益信託)の場合や受益者を変更した場合は、受益者となる者に贈与税・相続税がかかることがあります(相続税法第9条の2)。税額の計算・申告は税理士にご確認ください。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「信託法」(平成18年法律第108号・2007年9月30日施行)第2条、第3条、第4条、第91条(参照日 2026-08-28)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号)第97条、第98条(信託の登記)(参照日 2026-08-28)
- e-Gov法令検索「相続税法」(昭和25年法律第73号)第9条の2(受益者等課税信託)(参照日 2026-08-28)
- 法務省「信託法の概要」・国税庁タックスアンサー(信託に関する課税)(参照日 2026-08-28)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の信託の組成の可否、有効性、課税関係を保証するものではありません。信託契約書を公正証書にする作成行為は公証人、信託を原因とする登記の申請代理は司法書士、受益者課税など税務は税理士、親族間に争いがある場合の交渉・調停・訴訟は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
まずは、状況を整理するところから。
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