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2026.08.16相続の手続き(行政書士の実務から)

相続人に認知症の方・行方不明の方・未成年者がいるときは?成年後見・不在者財産管理人・特別代理人の使い分け

浦松 丈二

浦松 丈二

行政書士・宅地建物取引士(四葉行政書士事務所/四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

遺産分割の協議は共同相続人が当事者となる手続です。相続人の中に判断能力が不十分な方、行方不明の方、未成年者がいる場合、その方を欠いたまま協議を進めることはできません。後見・保佐・補助、不在者財産管理人、失踪宣告、特別代理人の根拠条文と実費、期限との関係、行政書士に頼める範囲を文京区の実務に沿って整理しました。

結論(先に要点):遺産分割の協議は共同相続人が当事者となる手続です。相続人の中に判断能力が不十分な方、行方不明の方、未成年者がいる場合、その方を欠いたまま協議を進めることはできず、家庭裁判所の手続で当事者側を整えてから協議に入ります。判断能力が不十分な方は後見・保佐・補助の開始(民法第7条、第11条、第15条)、行方不明の方は不在者財産管理人の選任(民法第25条第1項)又は失踪宣告(民法第30条)、未成年者と親権者がともに相続人であれば特別代理人の選任(民法第826条第1項)が検討対象になります。四葉行政書士事務所では、戸籍収集、相続人調査、相続関係整理、財産資料整理、法定相続情報一覧図の申出に用いる書類の作成、合意成立後の遺産分割協議書等の作成を扱います。家庭裁判所へ提出する書類の作成は司法書士又は弁護士、紛争性のある事案の判断と代理は弁護士です。

なぜ遺産分割協議が止まるのですか?

共同相続人は、遺言による禁止などの例外を除き、いつでもその協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法第907条第1項)。裏を返すと、協議は共同相続人が当事者となる手続であり、当事者となる方を漏れなく参加させる必要があります。

相続人の中に、自分で判断して署名・押印することが難しい方、連絡が取れない方、法律上単独で有効に協議できない未成年者がいると、この前提が満たせません。「とりあえず残りの相続人だけで進める」という進め方は取れません。

誰が相続人かの確定は相続は何から始める?法定相続人と相続分の基本をご覧ください。相続人が確定して初めて、本記事の話が始まります。

なお、意見が対立して合意できない場合は別の問題で、家庭裁判所の遺産分割調停・審判の領域です。相続人の意見がまとまらないときは?をご覧ください。

相続人の判断能力が不十分なときは何を使いますか?

民法は、精神上の障害による判断能力の程度に応じて3つの類型を定めています。いずれも家庭裁判所の審判で開始します。

類型条文条文上の要件
後見開始民法第7条事理を弁識する能力を欠く常況にある者
保佐開始民法第11条事理を弁識する能力が著しく不十分である者
補助開始民法第15条事理を弁識する能力が不十分である者

後見開始の申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官です(民法第7条)。申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。

誰を成年後見人に選ぶかは家庭裁判所が決めます。申立ての際に候補者を挙げることはできますが、候補者がそのまま選ばれるとは限りません。

後見開始の審判は、その原因が消滅したときに取り消されます(民法第10条)。遺産分割が終われば当然に終わる制度ではありません。この点は、申立ての前に家庭裁判所又は弁護士・司法書士へ確認してください。

成年後見人自身も相続人のときはどうなりますか?

成年後見人と成年被後見人がどちらも相続人である場合、遺産分割協議は両者の利益が相反する行為に当たり得ます。

民法第860条は、利益相反行為について民法第826条の規定を後見人に準用し、ただし後見監督人がある場合はこの限りでないとしています。後見監督人があるときは、後見監督人が被後見人を代表します(民法第851条第4号)。

後見監督人がいない場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。申立先は後見開始の審判をした家庭裁判所で、申立手数料は収入印紙800円分です。申立ての際に、利益相反に関する資料として遺産分割協議書案を提出します(裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)に関する特別代理人(臨時保佐人・臨時補助人)の選任」・参照日2026年8月22日)。

つまり、協議書案は選任の前に必要になります。案の作成は当事務所で扱う範囲です。

相続人が未成年のときはどうしますか?

年齢18歳をもって成年とされます(民法第4条)。18歳未満の相続人がいる場合、親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません(民法第826条第1項)。

親権者も同じ被相続人の相続人である場合の遺産分割協議は、この利益相反行為の典型例として裁判所の手続案内に挙げられています(参照日2026年8月22日)。

親権を行う者が数人の子に親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、その一方のために特別代理人を選任することを請求しなければなりません(民法第826条第2項)。未成年の子が複数いる場合、子の人数に応じて選任が必要になる場面があります。

項目内容
根拠民法第826条第1項・第2項
申立てをする人親権者、利害関係人
申立先子の住所地の家庭裁判所
申立手数料子1人につき収入印紙800円分
郵便料裁判所ごとに異なる
主な添付書類未成年者の戸籍謄本、親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票、利益相反に関する資料(遺産分割協議書案等)

ここでも遺産分割協議書案が先に必要になります。案の内容が未成年者にとって不利かどうかは家庭裁判所が審査します。当事務所はその審査の結果を保証しません。

相続人が行方不明のときはどうしますか?

従来の住所又は居所を去った者が財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民法第25条第1項)。これが不在者財産管理人の選任です。

選任された管理人が遺産分割に参加するには、家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。民法第28条は、管理人が民法第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得てその行為をすることができると定めています。裁判所の手続案内も、管理人は「家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行う」と説明しています(参照日2026年8月22日)。

項目内容
根拠民法第25条第1項、第28条
申立てをする人利害関係人(配偶者、相続人、債権者など)、検察官
申立先不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所
申立手数料収入印紙800円分
郵便料裁判所ごとに異なる
予納金管理に不足が見込まれる場合に納付を求められることがある
主な添付書類不在者の戸籍謄本、戸籍附票、候補者の住民票、不在の事実を証する資料、財産に関する資料、利害関係を証する資料

予納金の額は事案によって異なります。金額を先に確定させたい場合は、申立先の家庭裁判所へ直接確認してください。

失踪宣告は何が違うのですか?

失踪宣告は、不在者を法律上死亡したものとみなす制度です。不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)は家庭裁判所が利害関係人の請求により宣告できます(民法第30条第1項)。戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者については、その危難が去った後1年間生死が明らかでないときに宣告できます(同条第2項)。

効果の起算点は制度によって違います。普通失踪は7年の期間が満了した時に、危難失踪はその危難が去った時に、それぞれ死亡したものとみなされます(民法第31条)。この「みなされる時点」がいつかによって、誰が相続人になるかが変わります。

比較項目不在者財産管理人失踪宣告
位置づけ不在者は生存している前提で財産を管理法律上死亡したものとみなす
期間の要件なし普通失踪は7年、危難失踪は1年
遺産分割への参加管理人が権限外行為許可を得て参加不在者は相続人でなくなる(みなし死亡の時点による)
申立手数料収入印紙800円分収入印紙800円分
官報公告料不要5,298円(失踪に関する届出の催告3,359円と失踪宣告1,939円の合計)
申立先不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所

どちらを選ぶかは、生死の見込み、経過年数、遺産の内容によって変わります。選択そのものは弁護士にご確認ください。

そもそも相続人がいるか分からないときはどうしますか?

「行方不明の相続人がいる」ことと「相続人のあることが明らかでない」ことは別の話です。民法第951条は、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とすると定めています。

この場合に検討されるのが相続財産清算人の選任です。裁判所の手続案内によれば、申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、申立手数料は収入印紙800円分、連絡用の郵便切手のほか、官報公告料5,582円を家庭裁判所の指示後に納付します(参照日2026年8月22日)。

相続放棄によって結果的に相続人がいなくなる場合もあります。放棄そのものは相続放棄・限定承認を検討する前に知っておきたいことをご覧ください。

費用はどれくらいかかりますか?

家庭裁判所へ納める実費は次のとおりです。いずれも実費であり、専門家の報酬とは別です。連絡用の郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先へ確認してください。

手続申立手数料そのほかの実費
後見開始(民法第7条)収入印紙800円分登記手数料 収入印紙2,600円分、郵便料、鑑定費用(申立人が負担することがある)
特別代理人選任(民法第826条第1項)子1人につき収入印紙800円分郵便料
特別代理人選任(成年被後見人と成年後見人の利益相反)収入印紙800円分郵便料
不在者財産管理人選任(民法第25条第1項)収入印紙800円分郵便料、予納金(必要な場合)
失踪宣告(民法第30条)収入印紙800円分郵便料、官報公告料5,298円
相続財産清算人選任(民法第951条)収入印紙800円分郵便料、官報公告料5,582円

上の額は裁判所の手続案内に掲載されているものです(参照日2026年8月22日)。鑑定費用と予納金は事案によって変わります。審理にかかる期間は事案と裁判所によって異なるため、本記事では期間の目安を示しません。

期限のある手続はどうなりますか?

家庭裁判所の手続を待っている間も、相続の期限は進みます。

期限内容
3か月自己のために相続の開始があったことを知った時から、承認又は放棄をすべき期間(民法第915条第1項)。利害関係人又は検察官の請求により家庭裁判所で伸長できる
4か月準確定申告
10か月相続税の申告と納税
3年相続登記の申請義務

期限の起算点は制度ごとに違います。詳しくは相続手続きの期限まとめをご覧ください。相続税の申告要否は相続税の申告は必要?、相続登記は相続登記はどう進める?をご覧ください。

協議が動かない間にも、預貯金の当面の支払には亡くなった人の預貯金はいつ引き出せる?で扱う制度が関係します。財産の把握は相続財産の調査と財産目録をご覧ください。

行政書士に頼めること・頼めないことは何ですか?

四葉行政書士事務所では、戸籍収集、相続人調査、相続関係整理、財産資料整理、法定相続情報一覧図の申出に用いる書類の作成、合意成立後の遺産分割協議書等の作成を扱います。特別代理人選任や権限外行為許可の申立てで添付を求められる遺産分割協議書案の作成も、この範囲です。

家庭裁判所へ提出する申立書等の作成そのものは扱いません。誰にどの手続を申し立てるべきかという個別の法的判断も行いません。

  • 家庭裁判所へ提出する書類の作成 → 司法書士又は弁護士
  • 手続の選択、申立ての代理、紛争性のある事案 → 弁護士
  • 相続登記 → 本人/司法書士又は弁護士
  • 相続税の申告、税額計算 → 本人/税理士
  • 相続した不動産の売却査定・媒介 → 四葉不動産株式会社

四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社は別事業体・別契約で対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。相続した不動産の売却・活用は相続した不動産のご相談をご覧ください。

文京区で相続の相談を進めるにはどうしますか?

四葉行政書士事務所(文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分)では、戸籍収集、相続人調査、財産資料整理、法定相続情報一覧図関係、遺産分割協議書等の作成を段階的に案内します。家庭裁判所の手続が必要な場面では、司法書士又は弁護士に直接ご依頼いただく形をご案内します。

受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続業務の全体像は相続・遺言・信託サービスをご覧ください。

よくある質問

Q. 相続人の1人が認知症です。ほかの相続人だけで遺産分割協議はできますか?
A. 遺産分割の協議は共同相続人が当事者となる手続で、当事者となる方を漏れなく参加させる必要があります。判断能力が不十分な方については、後見・保佐・補助の開始(民法第7条、第11条、第15条)を家庭裁判所に申し立てる方法が検討対象になります。個別の手続選択は弁護士にご確認ください。

Q. 成年後見人になった子が自分も相続人です。そのまま協議できますか?
A. 民法第860条は利益相反行為について民法第826条を後見人に準用し、後見監督人がある場合を除くとしています。後見監督人があるときは後見監督人が被後見人を代表し(民法第851条第4号)、いないときは家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。

Q. 未成年の子がいる場合、必ず特別代理人が必要ですか?
A. 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法第826条第1項)。親権者も相続人である場合の遺産分割協議は、裁判所の手続案内で利益相反行為の例として挙げられています。個別の当てはめは家庭裁判所又は弁護士にご確認ください。

Q. 行方不明の相続人がいます。7年待たないと何もできませんか?
A. 失踪宣告の普通失踪は生死が7年間明らかでないことが要件です(民法第30条第1項)。一方、不在者財産管理人の選任(民法第25条第1項)には期間の要件がなく、選任された管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て遺産分割に参加する方法があります。どちらを選ぶかは弁護士にご確認ください。

この記事の出典(一次情報)

  • 民法(明治29年法律第89号)第4条、第7条、第10条、第11条、第15条、第25条第1項、第28条、第30条第1項・第2項、第31条、第826条第1項・第2項、第851条第4号、第860条、第907条第1項、第915条第1項、第951条(e-Gov・2026年8月22日確認。最終改正は令和8年法律第45号で、2026年6月24日施行分まで反映)
  • 裁判所「後見開始」(参照日2026年8月22日)——申立手数料 収入印紙800円分、登記手数料 収入印紙2,600円分
  • 裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」(参照日2026年8月22日)——子1人につき収入印紙800円分
  • 裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)に関する特別代理人(臨時保佐人・臨時補助人)の選任」(参照日2026年8月22日)
  • 裁判所「不在者財産管理人選任」(参照日2026年8月22日)——権限外行為許可を得たうえで遺産分割等を行う旨の記載
  • 裁判所「失踪宣告」(参照日2026年8月22日)——官報公告料5,298円(催告3,359円と失踪宣告1,939円の合計)
  • 裁判所「相続財産清算人の選任」(参照日2026年8月22日)——官報公告料5,582円
  • 司法書士法第3条/弁護士法第72条/税理士法第52条/行政書士法現行条文

本記事は一般的な情報提供であり、個別の手続の選択、申立ての可否、費用、期間、家庭裁判所の判断を保証するものではありません。家庭裁判所へ提出する書類の作成と相続登記は司法書士又は弁護士、手続の選択と申立ての代理及び紛争性のある事案は弁護士、相続税は税理士、不動産の売却査定・媒介は四葉不動産株式会社が、それぞれ独立した事業体として別契約で対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。

まずは、状況を整理するところから。

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