クリニック開業で最初に要る労務|看護師・受付の社会保険と医師の宿日直許可
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
クリニック(診療所)を開業したら、最初に要る労務は、スタッフの社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用手続き、労働条件の明示と雇用契約、そして人を10人以上使うなら就業規則の作成・届出です。あわせて、医師やスタッフに宿直・日直をさせるなら、労働時間の例外扱いになる宿日直許可を所轄の労働基準監督署から受けます。医療法人(法人)は従業員がいれば社会保険が強制適用、個人経営の診療所は常時5人以上で強制適用です(健康保険法第3条第3項、厚生年金保険法第6条)。宿日直許可は労働基準法第41条第3号・労働基準法施行規則第23条が根拠で、様式第10号により所轄労働基準監督署長の許可を受けます。何から手をつけるか、社会保険の適用判断、就業規則・36協定のタイミング、そして誰に何を頼むかを整理します。
結論(先に要点):クリニック(診療所)を開業したら、最初に要る労務は、スタッフの社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用手続き、労働条件の明示と雇用契約、そして人を10人以上使うなら就業規則の作成・届出です。あわせて、医師やスタッフに宿直・日直をさせるなら、労働時間の例外扱いになる宿日直許可を所轄の労働基準監督署から受けます。医療法人(法人)は従業員がいれば社会保険が強制適用、個人経営の診療所は常時5人以上で強制適用です。この記事では、何から手をつけるか、社会保険の適用判断、宿日直許可の意味、就業規則・36協定のタイミング、そして誰に何を頼むかを整理します。
「先生(院長)は診療、労務は後回し」で開業すると、入職日をまたいで社会保険の空白や未払いが生じがちです。このページは、新規開業する医師・事務長の方に向けて、開業時に最初に要る労務の手続きを、社会保険労務士の労務管理の視点で整理します。
クリニック開業で最初に要る労務の手続きは何か?
診療所の開設届(保健所)や保険医療機関の指定申請とは別に、人を雇うことで発生する手続きがあります。開業前後の順序で並べると次のとおりです。
| 時期 | すること | 提出先 |
|---|---|---|
| 開業前〜入職まで | 労働条件の明示・雇用契約書の作成(労働基準法第15条) | 会社内(本人へ交付) |
| 入職日 | 健康保険・厚生年金保険の資格取得届(5日以内) | 年金事務所(協会けんぽ等) |
| 入職日〜10日以内 | 雇用保険の資格取得届 | ハローワーク |
| 労働者を使うことになった日〜 | 労働保険(労災・雇用)の成立届・概算保険料の申告 | 労働基準監督署・ハローワーク |
| 常時10人以上を使うとき | 就業規則の作成・届出(労働基準法第89条) | 所轄労働基準監督署長 |
| 宿直・日直をさせるとき | 断続的な宿直又は日直勤務の許可(労働基準法施行規則第23条) | 所轄労働基準監督署長 |
社会保険(健保・厚年)の資格取得届は入職から5日以内、雇用保険の資格取得届は入職した月の翌月10日までが目安です。まず「誰を、いつから、どの保険に入れるか」を確定させるのが出発点になります。労働時間・割増賃金の一般的な考え方は36協定と残業の上限もあわせてご覧ください。
看護師・受付の社会保険は強制適用になるのか、どう判断するのか?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)を事業所として入るかどうかは、事業所の形態と業種・人数で決まります。
| 事業所の形態 | 社会保険(健保・厚年) |
|---|---|
| 医療法人などの法人 | 従業員を常時使用していれば強制適用(人数を問わない) |
| 個人経営の診療所(適用業種) | 常時5人以上を使用すれば強制適用。5人未満は任意適用 |
医療の事業(疾病の治療など)は健康保険法・厚生年金保険法の適用業種にあたります(健康保険法第3条第3項、厚生年金保険法第6条)。したがって、個人経営の診療所でも常時5人以上を雇えば健保・厚年は強制適用です。医療法人であれば人数にかかわらず強制適用です。
そのうえで、パートの看護師・受付などが個々に被保険者になるかは、労働時間・日数で判断します。1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上なら被保険者になり、4分の3未満でも一定の要件(週20時間以上・月額賃金88,000円以上など)を満たせば被保険者になります。この短時間労働者への適用は段階的に拡大しています。判断の詳しい線引きはパート・アルバイトの社会保険は4分の3が目安と社会保険の適用拡大をご覧ください。
医師・スタッフの宿日直許可はなぜ要り、誰に出すのか?
宿直・日直(夜間や休日の待機的な勤務)は、原則どおりなら労働時間として扱われ、時間外・深夜の割増賃金や労働時間の上限に効いてきます。ただし、常態としてほとんど労働する必要がない待機的な勤務については、使用者が所轄労働基準監督署長の許可(様式第10号)を受けると、労働時間の規制(労働基準法第32条)にかかわらず従事させることができます(労働基準法第41条第3号、労働基準法施行規則第23条)。これが宿日直許可です。
医師については、令和6年(2024年)4月から医業に従事する医師にも時間外労働の上限規制が適用されており、宿日直許可を受けた時間は原則として労働時間に算入されない扱いになるため、上限規制との関係でも許可の有無が実務上重要になります。ただし、許可を受けた宿日直中であっても、通常の勤務と同様の労働に従事した時間は労働時間として扱い、割増賃金の対象になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 労働基準法第41条第3号、労働基準法施行規則第23条 |
| 許可の対象 | 常態としてほとんど労働をする必要のない、待機的な宿直・日直 |
| 申請先 | 所轄労働基準監督署長(様式第10号) |
| 効果 | 労働時間の規制(労働基準法第32条)の適用外。ただし通常の労働に従事した時間は労働時間 |
許可の判断は労働基準監督署が行います。当事務所は許可基準に沿った勤務実態の整理と申請書類の作成をお手伝いします。
就業規則と36協定はどのタイミングで要るのか?
人数と働かせ方に応じて、次の書面が必要になります。
| 書面 | 必要になるとき | 根拠 |
|---|---|---|
| 就業規則 | 常時10人以上の労働者を使用するとき(作成・届出義務) | 労働基準法第89条 |
| 36協定 | 法定の労働時間を超える時間外労働・休日労働をさせるとき | 労働基準法第36条 |
常時10人以上を使用する使用者は、就業規則を作成して所轄労働基準監督署長に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。10人未満でも、労働条件や賃金のルールをそろえるために作っておくと実務が安定します。就業規則を何人から備えるかは就業規則は何人から義務かをご覧ください。
法定労働時間(原則1日8時間・1週40時間)を超えて時間外・休日労働をさせるには、過半数代表者との間で36協定を結び、届け出てからでなければなりません(労働基準法第36条)。医療現場は夜間・休日の勤務が生じやすいため、開業初期に就業規則・36協定・割増賃金の計算をひとそろいで整えておくのが安全です。
開業スケジュールに労務手続きをどう組み込むか?
労務の手続きは、診療所開設届や物件の準備と時期が重なります。取りこぼしを防ぐには、次の順で並べておくと分かりやすくなります。
| 段階 | 労務でやること |
|---|---|
| 物件・内装の計画 | 想定人数と勤務シフトから、社会保険の適用と労働時間の枠組みを設計 |
| スタッフ採用 | 労働条件の明示・雇用契約書の作成、就業規則のたたき台づくり |
| 開業直前 | 労働保険の成立届、社会保険の新規適用届の準備 |
| 入職日 | 健保・厚年の資格取得届(5日以内)、雇用保険の資格取得届 |
| 開業後すみやかに | 10人以上なら就業規則の届出、宿日直をさせるなら宿日直許可、36協定の締結・届出 |
物件そのものの選定や賃貸借は不動産の領域、診療所開設届は行政書士または院長ご本人(保健所)の手続きで、労務とは担い手が分かれます。次の節で整理します。
誰に、何を頼めばよいのか?
クリニック開業は、労務だけで完結しません。業務ごとに担い手が分かれます。
| すること | 誰の業務か |
|---|---|
| 社会保険・労働保険の適用手続き、就業規則・36協定の作成、労働時間・宿日直許可の書類、給与計算 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 診療所開設届などの行政手続の書類作成 | 行政書士(または院長ご本人が保健所へ) |
| 宿日直許可・36協定の許可・受理の判断 | 所轄労働基準監督署長 |
| 保険医療機関の指定 | 地方厚生局 |
| 診療所の物件の選定・賃貸借・内装 | 不動産(宅地建物取引業者) |
| 未払い賃金の請求や労使紛争 | 弁護士 |
| 源泉徴収・年末調整・法人の税務 | 税理士 |
当事務所は労務管理の情報提供・手続に限ります。診療所開設届などの行政手続は四葉行政書士事務所へ、物件については四葉不動産へおつなぎすることもできますが、社会保険労務士業務・行政書士業務・宅地建物取引業は、それぞれ独立した事業体が担い、別々にご契約いただく前提です。一括受任はしません。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、クリニック開業時の社会保険・労働保険の適用手続き、労働条件の明示・雇用契約書の作成、就業規則・36協定の作成と届出、宿日直許可の申請書類の整理、給与計算をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表をご覧ください。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
すでに未払い賃金の請求や紛争になっている場合は、弁護士へ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. スタッフが2〜3人でも社会保険に入れなければいけませんか?
A. 医療法人などの法人であれば、従業員が2〜3人でも健康保険・厚生年金保険は強制適用です。個人経営の診療所の場合は、常時5人以上で強制適用となり、5人未満は任意適用です。ただし業種や人数の数え方には判断を要する場面があるため、実態に沿って確認することをおすすめします。
Q. 宿日直許可を受ければ、夜間の割増賃金は一切払わなくてよいのですか?
A. いいえ。宿日直許可は、常態としてほとんど労働の必要がない待機的な勤務を労働時間の規制の外に置くものです。許可を受けた宿日直中であっても、急患対応など通常の労働に従事した時間は労働時間として扱い、割増賃金の対象になります。
Q. 就業規則は開業と同時に必ず要りますか?
A. 作成・届出が義務になるのは、常時10人以上の労働者を使用するときです(労働基準法第89条)。10人未満でも、労働条件や賃金・服務のルールをそろえるために作っておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
Q. 物件探しや診療所開設届も一緒にお願いできますか?
A. 労務管理は社会保険労務士、診療所開設届などの行政手続の書類は行政書士(または院長ご本人が保健所へ)、物件は宅地建物取引業者の業務です。それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく前提で、四葉行政書士事務所・四葉不動産へおつなぎすることはできます。まとめて一括で受任する形はとっていません。
この記事の根拠
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項(適用業種・法人の事業所の強制適用/個人事業所は常時5人以上の適用業種で強制適用)
- 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条(適用事業所)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条(労働条件の明示)、第32条(労働時間)、第36条(時間外・休日労働の協定)、第37条(割増賃金)、第41条第3号(監視・断続的労働に従事する者の適用除外)、第89条(常時10人以上の就業規則の作成・届出義務)
- 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第23条(宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第10号により所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合の取扱い)
- 医業に従事する医師への時間外労働の上限規制の適用開始日は令和6年(2024年)4月1日(厚生労働省「医師の働き方改革」の公表資料により確認、2026年9月参照)
- 健康保険・厚生年金保険の資格取得届は5日以内、雇用保険の資格喪失・取得等の期限は日本年金機構・ハローワークの案内により確認(2026年9月参照)
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。社会保険・労働保険の適用手続き、就業規則・36協定の作成、宿日直許可の書類、給与計算は社会保険労務士の業務です。診療所開設届などの行政手続の書類は行政書士の業務(または院長ご本人が保健所へ)、物件の選定・賃貸借は宅地建物取引業者の業務、未払い賃金の請求・紛争は弁護士の業務、源泉徴収・年末調整・法人の税務は税理士の業務です。社会保険労務士業務・行政書士業務・宅地建物取引業は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「人」のことから、整理しませんか。
四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。
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