複数の会社で働く・役員を兼ねると社会保険はどうなりますか?(二以上事業所勤務届)

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
2つ以上の会社や事業所で同時に働き、それぞれで社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件を満たすと、各事業所で被保険者になります。保険は肩書きではなく、適用事業所との使用関係ごとに付くからです(健康保険法・厚生年金保険法)。このとき、自分の保険を管掌する保険者(主たる事業所=選択事業所)を選び、事実が生じた日から10日以内に本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択した事業所を管轄する年金事務所(事務センター)へ提出します(健康保険法施行規則第1条の3・第2条)。標準報酬月額は各事業所の報酬月額を合算して決まり、保険料はその標準報酬に基づく額を各事業所の報酬月額の比率で按分します。複数の会社で役員を兼ね、各社で報酬を受けて使用関係があるときも同じ扱いです。届出が必要になる場面、保険者の選び方と期限、合算と按分、役員兼務での注意点を社会保険労務士の視点で整理し、役員報酬の税務は税理士、会社設立・役員変更の登記は司法書士へ、独立した事業体として別々にご契約いただく形で振り分けます。
結論(先に要点):2つ以上の会社や事業所で同時に働き、それぞれで社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件を満たすと、各事業所で被保険者になります。保険は肩書きではなく、適用事業所との使用関係ごとに付くからです(健康保険法・厚生年金保険法)。このとき、自分の保険を管掌する保険者(主たる事業所=選択事業所)を選び、事実が生じた日から10日以内に本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択した事業所を管轄する年金事務所(事務センター)へ提出します(健康保険法施行規則第1条の3・第2条)。標準報酬月額は各事業所の報酬月額を合算して決まり、保険料はその標準報酬に基づく額を各事業所の報酬月額の比率で按分します。複数の会社で役員を兼ね、各社で報酬を受けて使用関係があるときも同じ扱いです。この記事では、届出が必要になる場面、保険者の選び方と期限、合算と按分、役員兼務での注意点を社会保険労務士の視点で整理し、役員報酬の決め方と損金算入の税務は税理士、会社設立・役員変更の登記は司法書士へ、独立した事業体として別々にご契約いただく形で振り分けます。
副業・兼業や役員の兼務が広がり、1人が複数の事業所で社会保険の加入要件を満たす場面が増えています。このページは、2社以上で役員を兼務する経営者や、複数の事業所で短時間勤務して各所で加入要件を満たす従業員を抱える会社の労務担当の方に向けて、二以上事業所勤務届の提出、保険者の選択、標準報酬の合算と保険料の按分を順序立てて示します。
二以上事業所勤務届は、どんなときに必要になりますか?
社会保険の被保険者になるかどうかは、各事業所の使用関係ごとに判定します。ある人が同時に2つ以上の適用事業所に使用され、それぞれの事業所で被保険者の要件を満たすと、その人はどちらの事業所でも被保険者になります。各事業所での要件は、1週間の所定労働時間・1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であること、または短時間労働者の要件(週20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でない・勤め先の規模)を満たすことです。片方の事業所でしか要件を満たさなければ、二以上事業所勤務の扱いにはなりません。
この状態になったときに、保険者を1つに選んでまとめて管理するために出すのが二以上事業所勤務届です。なお、労働保険(労災保険・雇用保険)は社会保険とは別の制度で、複数の会社で働く人の給付の扱いは異なります。労災の複数事業所の扱いは複数の事業所で働く人の労災給付で別に整理しています。
| 事業所 | 被保険者の要件を満たすか | 結果 |
|---|---|---|
| A社・B社の両方で満たす | はい | 両方で被保険者 → 二以上事業所勤務届が必要 |
| A社のみ満たす | A社だけ | A社でのみ被保険者(届出不要) |
どちらの事業所でも要件を満たすかどうかの判定は、所定労働時間や規模など実態に照らして行います。最終的な該当の判断は資格者が行います。
保険者(選択事業所)は、どう選び、いつまでに届け出ますか?
同時に2以上の事業所に使用され、保険者が2以上あるときは、被保険者が自分の保険を管掌する保険者を選択しなければなりません(健康保険法施行規則第1条の3)。協会けんぽを選ぶ場合は担当する年金事務所も、健康保険組合に加入する事業所を選ぶ場合はその組合も、選択の対象になります。この選択の届出が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」で、同時に2以上の事業所に使用されるに至った日(事実発生)から10日以内に行います(同規則第2条)。
重要なのは、この届出の提出義務は会社ではなく被保険者本人にある点です。提出先は、選択した事業所の所在地を管轄する事務センター(年金事務所)で、電子申請・郵送・窓口持参のいずれでも出せます。決定された標準報酬月額と保険料額は、選択した事業所を管轄する事務センターから各事業所へ通知されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出名 | 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届 |
| 提出義務者 | 被保険者本人 |
| 期限 | 事実発生(2以上の事業所に同時に使用されるに至った日)から10日以内 |
| 提出先 | 選択した事業所を管轄する事務センター(年金事務所) |
どの事業所を選択事業所にするかで手続の窓口が決まるため、健康保険組合の有無なども踏まえて選びます。
標準報酬はどう合算され、保険料はどう按分されますか?
二以上事業所勤務の被保険者の標準報酬月額は、各事業所で受ける報酬月額を合算した額で決定されます。1か所だけでは届かない標準報酬の等級に上がることがあるのはこのためです。保険料は、合算して決まった標準報酬月額に基づく保険料額を、各事業所の報酬月額の比率で按分し、それぞれの事業所がその分を納めます。
たとえばA社の報酬が月30万円、B社が月10万円であれば、合算40万円相当の標準報酬で保険料を算定し、その保険料を3対1の比率でA社・B社に割り振る、という考え方です(実際の等級・保険料率は制度に従います)。各事業所は自社の負担分を給与から控除・納付し、被保険者本人の控除も按分後の額で行います。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 標準報酬月額 | 各事業所の報酬月額を合算して決定 |
| 保険料 | 合算後の標準報酬に基づく保険料を、各事業所の報酬月額の比率で按分 |
| 通知 | 選択事業所の事務センターから各事業所へ標準報酬・保険料額を通知 |
合算と按分の結果は各社の給与計算に跳ね返るため、通知を受けたら各事業所の控除額を合わせておく必要があります。具体的な等級や保険料額の確定は、通知と制度に照らして資格者が行います。
役員を兼ねる場合に、特に気をつける点は何ですか?
複数の会社で役員を兼務する場合も、各社との間に使用関係があり、役員報酬を受けているなら、その会社ごとに被保険者になり得ます。常勤・非常勤、報酬の有無や多寡によって各社での被保険者該当が変わるため、2社以上で報酬を受ける役員は二以上事業所勤務届の対象になりやすい一方、報酬のない非常勤役員の扱いなど個別の判断が必要な場面もあります。外国人の役員の社会保険の適用の有無など、役員の属性による論点は外国人経営者・役員の社会保険でも扱っています。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
役員の場合、報酬の決め方(定期同額給与など)や損金算入は税務の問題、役員就任・変更の登記は登記の問題で、社会保険の手続とは領域が分かれます。社会保険労務士が担うのは、各社での被保険者該当の整理、選択事業所の届出、合算・按分に対応した給与計算の部分です。各社での被保険者該当の最終判断は、使用関係と報酬の実態に照らして資格者が行います。
役員報酬の税務や登記は、誰に相談しますか?
役員報酬の金額の決め方、定期同額給与や事前確定届出給与といった損金算入の要件、法人税の取扱いは税理士の業務です。会社の設立、役員の就任・退任・変更の登記は司法書士の業務です。社会保険労務士はこれらと独立した事業体として、二以上事業所勤務届の提出支援、各社での被保険者該当の整理、標準報酬の合算・保険料按分に対応した給与計算の整備といった労務・社会保険の部分だけを別々にご契約いただく形でお受けします。
労務の立場からは、兼務や副業で複数事業所の加入要件を満たす人が出た時点で、どの事業所を選択事業所にするか、本人が10日以内に届け出る段取り、各社の給与計算を合算・按分に合わせることを早めに整えておくと、無保険期間や保険料の過不足を防げます。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、複数の事業所で働く方・役員を兼務する方の社会保険について、各事業所での被保険者該当の整理、被保険者所属選択・二以上事業所勤務届の提出支援、標準報酬の合算と保険料按分に対応した給与計算の整備、資格取得・喪失の手続をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
役員報酬の決め方や損金算入の税務は税理士、会社設立・役員変更の登記は司法書士の領域で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 2つの会社で働くと、両方で社会保険に入るのですか?
A. それぞれの会社で被保険者の要件(通常の労働者の4分の3以上、または週20時間以上などの短時間労働者の要件)を満たせば、両方の会社で被保険者になります。片方でしか要件を満たさなければ、その会社でのみ被保険者です。両方で満たす場合は、保険者を1つ選んで二以上事業所勤務届を出します。該当の判断は勤務実態に照らして資格者が行います。
Q. 二以上事業所勤務届は、会社が出すのですか、本人が出すのですか?
A. 提出義務は被保険者本人にあります。2以上の事業所に同時に使用されるに至った日から10日以内に、選択した事業所を管轄する事務センター(年金事務所)へ「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します(健康保険法施行規則第2条)。会社は被保険者資格取得届など自社分の手続を行います。
Q. 保険料は2社分それぞれ満額かかるのですか?
A. いいえ。標準報酬月額は各事業所の報酬を合算して1つに決まり、その保険料を各事業所の報酬月額の比率で按分します。2社で二重に満額がかかるのではなく、合算後の保険料を分け合う形です。等級や保険料額の確定は事務センターからの通知と制度に従います。
Q. 複数の会社で役員を兼ねています。社保はどうなりますか?
A. 各社との間に使用関係があり役員報酬を受けていれば、その会社ごとに被保険者になり得て、2社以上で該当すれば二以上事業所勤務届の対象です。報酬のない非常勤役員の扱いなど個別判断が要る場面もあります。役員報酬の税務は税理士、役員変更の登記は司法書士で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。
この記事の根拠
- 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続。事実発生から10日以内に被保険者本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択した事業所を管轄する事務センター(年金事務所)へ提出する。標準報酬月額は各事業所の報酬月額を合算して決定し、保険料は各事業所の報酬月額の比率で按分する(日本年金機構の手続案内。2026年10月28日参照)
- 健康保険法施行規則第1条の3(保険者の選択)。同時に2以上の事業所に使用され保険者が2以上あるときは、被保険者が自分の保険を管掌する保険者を選択しなければならない(e-Gov法令検索で2026年10月28日に条文確認)
- 健康保険法施行規則第2条(選択の届出)。2以上の事業所に同時に使用されるに至った日から10日以内に、協会を選択するときは厚生労働大臣に、健康保険組合を選択するときは当該組合に届け出る(e-Gov法令検索で2026年10月28日に条文確認)
- 被保険者の意義(適用事業所に使用される者が被保険者となること)=健康保険法第3条・厚生年金保険法第9条。厚生年金保険の標準報酬・被保険者に関する規定を含む(e-Gov法令検索で2026年10月28日に条文確認)
- 短時間労働者の加入要件(週20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でない・勤め先の厚生年金被保険者数が一定以上〔2027年9月まで51人以上、同年10月から36人以上〕。賃金月8.8万円要件は2026年10月1日撤廃)(日本年金機構の案内。2026年10月28日参照)
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。各事業所での被保険者該当の整理、二以上事業所勤務届の提出支援、標準報酬の合算・保険料按分に対応した給与計算の整備、資格取得・喪失の手続は社会保険労務士の業務です。役員報酬の決め方と損金算入の税務は税理士、会社設立・役員変更の登記は司法書士の領域で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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