冷蔵・冷凍倉庫(低温物流)の労務——低温作業の安全衛生と休憩・シフト

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
冷蔵・冷凍倉庫の庫内作業は、労働安全衛生規則で「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」(第13条第1項第3号ロ)に当たり、配置替えの際と6か月以内ごとの特定業務従事者の健康診断(第45条)や、著しく寒冷な作業場では作業場外に設ける休憩設備(第614条)が求められます。さらに低温作業は「健康上特に有害な業務」として、36協定を結んでも時間外労働は1日2時間までに制限されます(労働基準法第36条第6項第1号・同法施行規則第18条)。常温のEC倉庫と同じ感覚で繁忙期の残業や変形労働時間制を組むと、ここで上限に突き当たります。低温による健康障害を防止する措置義務(労働安全衛生法第22条第2号)のもと、防寒具の支給・雇入れ時や作業内容変更時の安全衛生教育(第59条)・一般健康診断(第66条)を重ね、休憩は労働基準法第34条の基準で庫外の暖かい休憩設備を使わせます。深夜(午後10時〜午前5時)の割増は第37条第4項で別途かかります。就業規則・賃金規程・労使協定・36協定の作成と届出、安全衛生体制の整備は社会保険労務士、倉庫業の登録や高圧ガス保安法・フロン排出抑制法の届出・登録は行政書士、冷凍設備の施工・保安は有資格の設備・電気工事業者、割増賃金の未払いや安全配慮義務をめぐる争いは弁護士へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく前提で分けます。
結論(先に要点):冷蔵・冷凍倉庫の庫内作業は、労働安全衛生規則で「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」(第13条第1項第3号ロ)に当たり、配置替えの際と6か月以内ごとの特定業務従事者の健康診断(第45条)や、著しく寒冷な作業場では作業場外に設ける休憩設備(第614条)が求められます。さらに低温作業は「健康上特に有害な業務」として、36協定を結んでも時間外労働は1日2時間までに制限されます(労働基準法第36条第6項第1号・同法施行規則第18条)。常温のEC倉庫と同じ感覚で繁忙期の残業や変形労働時間制を組むと、ここで上限に突き当たります。設計の正本は就業規則・労使協定・安全衛生体制に置きます。
冷蔵・冷凍倉庫の低温作業で、労務上まず押さえるべき健康リスクは何か?
冷蔵(おおむね10℃以下)・冷凍(氷点下)の庫内作業は、寒冷そのものが健康障害の原因になります。労働安全衛生法第22条第2号は、事業者に対し「放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害」を防止する措置を義務づけており、低温がこの「健康障害」に明記されています。急な温度差による血圧の変動、手指のかじかみによる作業ミスや転倒、長時間の暴露による凍傷や低体温症が、現場で現実に起きるリスクです。
労務の出発点は、その作業が法令上「特定業務」に当たると認識することです。冷蔵・冷凍倉庫の庫内作業は、労働安全衛生規則第13条第1項第3号ロの「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」に該当します。この区分に入ると、後述する特定業務従事者の健康診断(6か月以内ごと)や、時間外労働の上限(1日2時間)など、常温の倉庫にはない規制が重なってかかります。常温のEC物流センターの変形労働時間制と短時間パートの設計は物流倉庫・EC物流センターの労務に整理していますが、低温の現場ではそこに安全衛生の上乗せが必要になります。
なお、倉庫の庫内温度について、労働安全衛生関係法令は一律の数値基準(何℃以下は禁止など)を置いていません。事務所の気温の努力目安(18℃以上28℃以下)を定める事務所衛生基準規則は、冷蔵・冷凍倉庫の庫内作業場には適用されません。だからこそ、温度を上げる発想ではなく、暴露時間の管理・防寒具・休憩・健康管理で守る、という設計になります。
寒冷環境での休憩と体の温め直しは、どう設計すればいいのか?
休憩時間そのものは、低温作業でも通常どおり労働基準法第34条が基準です。労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えます(第34条第1項)。休憩は原則として一斉に与え(第2項)、自由に利用させなければなりません(第3項)。低温作業で問題になるのは、この休憩を「どこで」取らせるかです。
休憩設備には、強さの違う二つの条文があります。
| 条文 | 内容 | 性質 |
|---|---|---|
| 労働安全衛生規則第613条 | 労働者が有効に利用できる休憩の設備を設けるように努める | 努力義務 |
| 労働安全衛生規則第614条 | 著しく暑熱・寒冷・多湿の作業場等では、作業場外に休憩の設備を設ける(坑内等やむを得ない事由がある場合を除く) | 義務 |
冷凍倉庫の庫内は「著しく寒冷な作業場」に当たるため、休憩設備を庫内に置くだけでは足りず、庫外の暖かい場所に別途設けることが第614条の義務です。手指のかじかみや動作の鈍りを感じたら庫外の休憩設備で体を温め直す、という運用を就業規則や作業手順に落とし込みます。温め直しの頻度や1回あたりの時間について法令の一律基準はないため、庫内温度・作業内容・個人差をふまえ、産業医や衛生管理者の助言を得て定めるのが実務です。あわせて、暑熱・寒冷・多湿の屋内作業場で有害のおそれがあるものには、冷房・暖房・通風等の温湿度調節の措置(労働安全衛生規則第606条)と、半月以内ごとの気温・湿度の測定(第607条)が求められます。冷凍のため庫内を暖めることは想定しにくいので、現実には前室・荷さばき場の温湿度調節と、暴露時間の区切りで対応することになります。
交替勤務・深夜割増と、低温作業の時間外労働の上限はどこに注意するのか?
コールドチェーンは24時間動く現場が多く、交替勤務と深夜労働が避けられません。深夜(午後10時から午前5時)の労働には、通常の賃金の2割5分以上の深夜割増が別途かかります(労働基準法第37条第4項)。これは時間外割増とは別に発生するため、賃金規程で深夜の割増率と計算方法を明記します。交替制勤務そのものの設計(勤務間インターバル・連続勤務日数・シフトの組み方)は製造業の交替勤務・変形労働時間制と深夜労働に整理しています。
低温作業で最も見落とされやすいのが、時間外労働の上限です。労働基準法第36条第6項第1号は、「坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務」について、36協定で延長できる時間を1日2時間までに制限しています。この「健康上特に有害な業務」を定める労働基準法施行規則第18条には、「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」が含まれます。
| 項目 | 常温の倉庫作業 | 低温(冷蔵・冷凍)の庫内作業 |
|---|---|---|
| 1日の時間外労働の上限 | 36協定の範囲内(原則の上限規制) | 1日2時間まで(第36条第6項第1号・施行規則第18条) |
| 根拠 | 労働基準法第36条 | 同第36条第6項第1号・施行規則第18条 |
つまり、繁忙期だからといって、低温の庫内作業に1日2時間を超える残業をさせることはできません。これは変形労働時間制を採っていても、あらかじめ定めた所定労働時間を超える「時間外労働」の部分に等しくかかります。常温のEC倉庫なら36協定の一般的な上限規制の範囲で組めた長時間シフトが、低温作業では1日2時間の枠に突き当たるのが、この記事の核心です。36協定でどこまで時間外労働をさせられるかの基本は36協定で残業はどこまでさせられるかをご覧ください。なお、暑熱側(熱中症)には別途、報告体制の整備等が罰則付きで義務化されています(熱中症対策の義務化)。
防寒具・健康診断・安全衛生教育で、事業者がやるべきことは何か?
低温作業の安全衛生は、個別の措置を積み上げて組み立てます。法令上の根拠とともに整理します。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 防寒具等の支給 | 低温による健康障害を防止する必要な措置(防寒着・手袋・防寒靴等)。濡れた手袋は速やかに交換 | 労働安全衛生法第22条第2号 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 配置替えの際、及び6か月以内ごとに1回の健康診断 | 労働安全衛生規則第45条(第13条第1項第3号ロの業務) |
| 一般健康診断 | 雇入れ時・定期(1年以内ごと)の健康診断 | 労働安全衛生法第66条 |
| 安全衛生教育 | 雇入れ時・作業内容変更時に、低温の危険や防寒・緊急時の対応を教育 | 労働安全衛生法第59条 |
| 休憩設備 | 庫外に暖かい休憩設備を設ける | 労働安全衛生規則第614条 |
特に重いのが特定業務従事者の健康診断です。低温作業は労働安全衛生規則第13条第1項第3号ロに当たるため、一般の定期健康診断(年1回)に加えて、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の健康診断が必要になります(第45条)。パート・アルバイトでも、常時使用し、かつこの特定業務に従事させる場合は対象になります。短時間労働者の健康診断や社会保険加入の判定は作業実態ごとに変わるため、定期健康診断の実施義務もあわせてご確認ください。安全衛生教育では、閉じ込め(庫内で扉が閉まり出られなくなる)への備えとして、非常用の解錠装置や内部からの脱出方法の周知も欠かせません。これは過去に死亡災害が起きている論点です。
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繁忙期の長時間労働と36協定・変形労働時間制はどう整え、誰が担当するのか?
低温作業の繁閑に変形労働時間制を使うこと自体は可能ですが、設計の順序が常温の倉庫と違います。
| 文書 | 書くこと |
|---|---|
| 就業規則 | 低温作業の区分、各勤務区分の始業・終業と休憩(庫外休憩を含む)、交替制・深夜勤務、防寒具の支給、健康診断の区分 |
| 労使協定(変形労働時間制) | 対象労働者・対象期間・労働日ごとの労働時間。1年単位は所轄労働基準監督署長へ届出 |
| 36協定 | 時間外・休日労働の上限。低温作業は1日2時間までの特別な上限を協定に反映(施行規則第18条) |
| 賃金規程 | 時間外・休日・深夜の割増率と計算方法 |
要点は、36協定を結ぶ際に、低温作業の1日2時間という上限を織り込むことです。ここを常温の様式のまま流用すると、協定自体は有効でも、現場で1日2時間を超える残業をさせた時点で違法になります。変形労働時間制の選び方は変形労働時間制とフレックスタイムの選び方、就業規則の作成義務は就業規則は何人から義務かに整理しています。
役割分担は、根拠となる法律で分かれます。就業規則・賃金規程・労使協定・36協定の作成と届出、安全衛生体制(特定業務の健康診断・教育の設計)、変形労働時間制の設計は社会保険労務士が担当します。倉庫業法に基づく倉庫業の登録、高圧ガス保安法に基づく冷凍設備の届出、フロン排出抑制法に基づく第一種フロン類充塡回収業者の登録など官公署への許認可は行政書士が担当します。冷凍設備そのものの施工・保安は、高圧ガス製造保安責任者や電気工事士などの有資格の設備・電気工事業者が担当します。倉庫物件の用途地域・床荷重・電力などの適合は宅地建物取引業者が調査・媒介します。これらはそれぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく前提で、紹介料はありません。個別の割増賃金の未払いや安全配慮義務をめぐる争いの交渉・訴訟は社会保険労務士では扱わず、弁護士への相談をご案内します。
よくある質問
Q. 冷凍倉庫の庫内作業は、繁忙期に1日3時間の残業をさせてもよいですか?
A. できません。冷凍倉庫の庫内作業は「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」として、健康上特に有害な業務に当たります(労働基準法施行規則第18条)。この業務については、36協定を結んでも、1日に延長できる時間外労働は2時間までに制限されています(労働基準法第36条第6項第1号)。変形労働時間制であらかじめ定めた所定労働時間を超える部分も、この2時間の枠がかかります。常温の荷さばきなど別の業務に切り替えた時間を含めてどう計算するかは、作業実態により判断が分かれるため、個別の確認が必要です。
Q. 庫内に暖房とストーブを置けば、休憩設備の義務は満たせますか?
A. 著しく寒冷な作業場では、作業場の「外」に休憩の設備を設けることが労働安全衛生規則第614条の義務です。庫内に暖房を置くだけでは、この「作業場外」の要件を満たしません。冷凍のため庫内温度を保つ必要がある以上、庫外の前室や別室に暖かい休憩設備を設け、そこで体を温め直す運用にします。休憩時間自体は労働基準法第34条のとおり、6時間超で45分、8時間超で1時間を途中に与えます。
Q. 低温作業のパート・アルバイトにも、6か月ごとの健康診断が必要ですか?
A. 常時使用し、かつ冷蔵・冷凍倉庫の庫内作業(第13条第1項第3号ロの特定業務)に従事させる場合は、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の特定業務従事者の健康診断が必要です(労働安全衛生規則第45条)。これは雇用形態ではなく、従事する業務で決まります。一般の定期健康診断(年1回)の対象となる労働者の範囲とあわせて、短時間労働者については実際の労働時間や使用の継続性で個別に判断します。
Q. 冷凍倉庫の労務と、冷凍設備や倉庫業の許認可は、同じ事務所に頼めますか?
A. 担当する専門家が分かれます。就業規則・36協定・賃金規程・労使協定の作成と届出、低温作業の安全衛生体制や変形労働時間制の設計は社会保険労務士の業務です。倉庫業法の倉庫業登録、高圧ガス保安法やフロン排出抑制法に基づく届出・登録は行政書士の業務で、社会保険労務士はこれらの官公署提出書類を作成できません。冷凍設備の施工・保安は有資格の設備・電気工事業者、倉庫物件の調査・媒介は宅地建物取引業者が担当します。それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただき、紹介料はありません。
この記事の根拠
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第22条第2号 ── 事業者は、放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない
- 労働安全衛生規則第13条第1項第3号ロ ── 特定業務の一つとして「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」を掲げる
- 労働安全衛生規則第45条 ── 第13条第1項第3号の業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際、及び6か月以内ごとに1回、定期に健康診断を行う(特定業務従事者の健康診断)
- 労働安全衛生法第66条 ── 事業者は労働者に対し医師による健康診断を行う(雇入れ時・定期の一般健康診断)。第59条 ── 労働者を雇い入れたとき及び作業内容を変更したときの安全衛生教育
- 労働安全衛生規則第613条 ── 休憩の設備を設けるよう努める(努力義務)。第614条 ── 著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場その他有害な作業場においては、作業場外に休憩の設備を設けなければならない(坑内等やむを得ない事由がある場合を除く)
- 労働安全衛生規則第606条 ── 暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じる。第607条 ── 第587条に規定する当該屋内作業場について半月以内ごとに1回、気温・湿度(及び暑熱系はふく射熱)を測定する
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第34条 ── 労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を途中に、一斉に、自由利用で与える
- 労働基準法第36条第6項第1号 ── 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日の時間外労働は2時間を超えないこと。労働基準法施行規則第18条 ── 当該「健康上特に有害な業務」に「多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」を含む
- 労働基準法第37条第4項 ── 午後10時から午前5時までの深夜労働には通常の賃金の2割5分以上の割増賃金
- 倉庫業法(昭和31年法律第121号)第3条 ── 倉庫業を営むには国土交通大臣の登録。高圧ガス保安法・フロン排出抑制法に基づく届出・登録は別途(詳細は行政書士の分野)
- 法令の条文は e-Gov法令検索で2026年11月3日に確認。低温作業の休憩頻度・温め直しの時間・庫内温度ごとの具体的な作業管理、特定業務該当性の個別判定、短時間労働者の健康診断対象は、現場の実態ごとに産業医・衛生管理者・資格者の確認が必要(一律の数値基準が法令にない部分は未検証として確定値を示していません)
この記事は、個別の該当性を判断するものではありません。四葉社会保険労務士事務所では、冷蔵・冷凍倉庫(低温物流センター)の低温作業に合わせた就業規則・賃金規程・労使協定・36協定の作成と届出、特定業務従事者の健康診断や安全衛生教育を含む安全衛生体制の整備、交替勤務・深夜労働と変形労働時間制の設計についてご相談いただけます。倉庫業法に基づく倉庫業の登録や高圧ガス保安法・フロン排出抑制法に基づく届出・登録は行政書士、冷凍設備の施工・保安は有資格の設備・電気工事業者、倉庫物件の調査・媒介は宅地建物取引業者、割増賃金の未払いや安全配慮義務をめぐる争いは弁護士への相談をご案内します。別の専門家が必要な場合は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただき、紹介料はありません。ご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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