従業員の定期健康診断は、どこまで実施義務があり費用と時間は誰持ち?

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
定期健康診断は、常時使用する労働者に1年以内ごとに1回実施する事業者の義務です(労働安全衛生規則第44条)。雇入時(同規則第43条)、深夜業など特定業務従事者は6か月以内ごとに1回=年2回(同規則第45条)、有害業務は特殊健康診断(労働安全衛生法第66条第2項・第3項)が重なります。パート・短時間労働者も、契約期間と週所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上などの要件を満たせば対象です。費用は事業者負担が原則(行政通達)で、受診時間の賃金は一般健診は労使協議、特殊健診は労働時間として支払います。常時50人以上の事業場は定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長へ提出します(同規則第52条)。健診の実施や特殊健診は産業医・医療機関、費用の税務処理は税理士の領域で、実施体制・報告の労務は社会保険労務士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。
結論(先に要点):定期健康診断は、常時使用する労働者に1年以内ごとに1回実施する事業者の義務です(労働安全衛生規則第44条)。費用は事業者負担が原則で、受診時間の賃金は一般健診は労使協議、特殊健診は労働時間として支払います。
従業員を雇ったら健康診断をしなければならない、とは聞くものの、「誰まで対象か」「パートはどうか」「費用と受診時間の賃金は誰持ちか」で迷う経営者は多いはずです。実施義務の範囲と、費用・時間の扱いを順に整理します。
定期健康診断は、誰に・いつ実施する義務がある?
事業者は、常時使用する労働者に対し、医師による健康診断を行わなければなりません(労働安全衛生法第66条第1項)。具体的には、雇入れの際(労働安全衛生規則第43条)と、その後1年以内ごとに1回(同規則第44条)の定期健康診断です。これは労働者の人数にかかわらず課される事業者の義務で、健診を受けさせていないと法令違反になります。
| 区分 | 根拠 | 時期 |
|---|---|---|
| 雇入時の健康診断 | 労働安全衛生規則第43条 | 常時使用する労働者を雇い入れるとき |
| 定期健康診断 | 労働安全衛生規則第44条 | 1年以内ごとに1回 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 労働安全衛生規則第45条 | 配置替えの際及び6月以内ごとに1回(年2回) |
| 特殊健康診断 | 労働安全衛生法第66条第2項・第3項と各特別規則 | 有害業務に従事する労働者に対し定期に |
パート・短時間労働者は、どこから対象になる?
「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく一定のパート・短時間労働者も含まれます。行政通達の目安では、次の両方を満たす短時間労働者が対象です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 契約期間 | 期間の定めがない、または契約更新で1年以上使用される見込み(特定業務従事者は6か月)/すでに1年以上(同6か月)使用されている |
| 労働時間 | 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上 |
4分の3未満でも、おおむね2分の1以上であれば実施することが望ましいとされています。アルバイトだから一律に対象外、ではない点に注意します。社会保険の加入判定とは基準が別なので、混同しないようにします。短時間労働者の社会保険は106万円の壁の撤廃で事業者がすることで整理しています。
深夜業など特定業務従事者の年2回健診とは?
深夜業を含む業務や、暑熱・寒冷・坑内・有害放射線などの特定業務に常時従事する労働者には、配置替えの際と6か月以内ごとに1回(=年2回)の健康診断が必要です(労働安全衛生規則第45条)。通常の定期健康診断が年1回なのに対し、回数が倍になります。
深夜業は、小売・外食・運送・警備・ガソリンスタンドなど幅広い業種で生じます。胸部エックス線検査など一部の項目は1年以内ごとに1回で足りますが、血圧・血液・心電図などは年2回行います。深夜業の労務との関係はガソリンスタンドの労務と危険物の人員配置でも触れています。50人未満の事業場でのストレスチェックの動きはストレスチェックの50人未満への拡大を参照してください。
有機溶剤・石綿などの特殊健康診断は、どんな場合に必要?
有害業務に従事する労働者には、一般健康診断とは別に、業務ごとの特別規則にもとづく特殊健康診断が必要です(労働安全衛生法第66条第2項・第3項)。
| 業務 | 根拠規則 |
|---|---|
| 有機溶剤を扱う業務 | 有機溶剤中毒予防規則 |
| 鉛を扱う業務 | 鉛中毒予防規則 |
| 特定化学物質を扱う業務 | 特定化学物質障害予防規則 |
| 石綿を扱う業務 | 石綿障害予防規則 |
| 電離放射線にさらされる業務 | 電離放射線障害防止規則 |
| 高圧室内・潜水の業務 | 高気圧作業安全衛生規則 |
特殊健康診断は、対象業務に従事する限り続く義務で、配置替えの際と定期に行います。業務をやめた後も一定の健康管理が求められる物質もあります。
健診の費用と、受診している時間の賃金は誰が負担する?
健康診断の費用は、法令で事業者に実施義務が課されている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています(行政通達)。一方、受診している時間の賃金は、健診の種類で考え方が分かれます。
| 対象 | 費用 | 受診時間の賃金 |
|---|---|---|
| 一般健康診断(雇入時・定期・特定業務) | 事業者負担 | 労使の協議で定めるべきもの(当然には賃金支払い義務はないが、支払うのが望ましいとされる) |
| 特殊健康診断 | 事業者負担 | 労働時間として扱い、賃金を支払う |
ご自身のケースについて相談したい方へ
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一般健康診断の受診時間を有給とするかは、就業規則や労使協定で明確にしておくとトラブルを防げます。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断を行ったときに定期健康診断結果報告書(様式第6号)を所轄労働基準監督署長へ提出します(労働安全衛生規則第52条)。
実施・報告・費用処理は、誰が担う?
健康診断そのものの実施や特殊健康診断は、産業医・医療機関の領域です。健診費用の税務処理は税理士の領域です。実施体制の設計、就業規則・労使協定での受診時間の扱いの整理、定期健康診断結果報告書の作成・提出といった労務は社会保険労務士が担います。それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただき、当事務所は紹介料を受け取りません。
ご相談は無料です。費用は報酬額表に、サービス内容とご相談の流れもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 週3日のパートにも健康診断は必要ですか?
A. 契約が1年以上見込まれ、かつ1週間の所定労働時間が同種業務の通常の労働者の4分の3以上であれば、定期健康診断の対象になります(行政通達の目安)。4分の3未満でもおおむね2分の1以上なら実施が望ましいとされています。社会保険の加入基準とは別の基準なので、分けて判断します。
Q. 健康診断の費用は従業員に負担させてよいですか?
A. いいえ。健康診断は法令で事業者に実施義務があるため、費用は事業者が負担すべきものとされています(行政通達)。従業員に自己負担させるのは適切ではありません。受診している時間の賃金については、一般健診は労使協議で定めるべきもの、特殊健診は労働時間として賃金の支払いが必要です。
Q. 従業員が健康診断を受けたがりません。拒否できますか?
A. 労働者には受診義務がありますが、事業者が指定した医師以外の医師の健康診断を受けて結果を証明する書面を提出することもできます(労働安全衛生法第66条第5項)。事業者は実施義務を果たす必要があるため、就業規則で受診を求める定めを置き、実態に合わせて運用します。個別の対応は事案ごとに分かれます。
Q. 50人未満の会社でも報告書の提出は要りますか?
A. 定期健康診断結果報告書の提出義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に課されます(労働安全衛生規則第52条)。50人未満の事業場は提出義務はありませんが、健康診断の実施義務そのものは人数にかかわらずあります。実施と記録は50人未満でも必要です。
この記事の根拠
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条第1項(事業者は労働者に対し医師による健康診断を行わなければならない)・第66条第2項・第3項(有害業務に係る特殊健康診断)・第66条第5項(労働者は事業者が指定した医師以外の医師の健康診断を受け、結果を証明する書面を提出できる)
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条(雇入時の健康診断)・第44条(定期健康診断・1年以内ごとに1回)・第45条(特定業務従事者の健康診断・配置替えの際及び6月以内ごとに1回。胸部エックス線等一部項目は1年以内ごとに1回で足りる)・第52条(常時50人以上の労働者を使用する事業者は定期健康診断結果報告書〈様式第6号〉を所轄労働基準監督署長に提出)
- 特殊健康診断の各特別規則(有機溶剤中毒予防規則・鉛中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則・石綿障害予防規則・電離放射線障害防止規則・高気圧作業安全衛生規則 等)
- 短時間労働者の健康診断の対象(契約期間と所定労働時間4分の3以上の目安、2分の1以上は実施が望ましい)に関する行政通達(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行通達)
- 健康診断の費用は事業者負担とする行政解釈(昭和47年9月18日基発第602号)、受診時間の賃金の考え方(一般健診は労使協議、特殊健診は労働時間)── 厚生労働省の解説(2026年10月1日参照)
- 個別の労働者が「常時使用する労働者」に当たるか、受診時間を有給とするかの就業規則・労使協定の定め方は、事案ごとに分かれます。本記事では個別の結論を出していません(未検証)
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ有資格者が行います。四葉社会保険労務士事務所では、健康診断の実施体制の設計、受診時間の賃金の就業規則・労使協定への落とし込み、特定業務従事者・特殊健康診断の対象整理、定期健康診断結果報告書の作成・提出についてご相談いただけます。健診の実施や特殊健診は産業医・医療機関、費用の税務処理は税理士が担います。それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただき、当事務所は紹介料を受け取りません。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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