労働者協同組合の組合員は労働契約も結ぶ?社会保険と移行時の労務

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
労働者協同組合の組合員は、原則として組合と労働契約も結びます。労働者協同組合法(令和2年法律第78号・2022年10月1日施行)第20条第1項が、事業に従事する組合員(理事長など業務執行を行う組合員・監事である組合員を除く)との労働契約の締結を組合に義務づけているからです。つまり組合員は出資者であると同時に労働者でもあり、労働基準法・最低賃金法などが基本的に適用されます。組合は法人なので社会保険(健康保険・厚生年金保険)は強制適用で(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)、労働契約を結ぶ組合員は被保険者になり、労災保険・雇用保険の対象にもなります。設立は登記で成立し(準則主義。認可・認証は不要)、成立後に行政庁への届出が必要です。なお、企業組合・NPO法人からの組織変更の特例(附則第4条)は施行から3年=令和7年(2025年)9月30日で終了しています。組合員との労働契約・就業規則・社会保険の整備を社会保険労務士の視点で整理し、設立の登記は司法書士、定款の作成や行政庁への届出は行政書士へ、独立した事業体として別々にご契約いただく形で振り分けます。
結論(先に要点):労働者協同組合の組合員は、原則として組合と労働契約も結びます。労働者協同組合法(令和2年法律第78号・2022年〈令和4年〉10月1日施行)第20条第1項が、組合に対し、事業に従事する組合員(理事長など業務執行を行う組合員・監事である組合員を除く)との労働契約の締結を義務づけているからです。つまり組合員は「出資者」であると同時に「労働者」でもあり、労働基準法・最低賃金法などの労働関係法令が基本的に適用されます。組合は法人なので社会保険(健康保険・厚生年金保険)は強制適用で(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)、労働契約を結ぶ組合員は被保険者になり、労働保険(労災保険・雇用保険)の対象にもなります。設立は登記で成立し(準則主義。株式会社やNPO法人と違い行政庁の認可・認証は不要)、成立後に行政庁への届出が必要です。なお、企業組合・NPO法人からの組織変更の特例(附則第4条)は施行から3年=令和7年〈2025年〉9月30日で終了しています。この記事では、組合員との労働契約・就業規則・社会保険の整備を社会保険労務士の視点で整理し、設立の登記は司法書士、定款の作成や行政庁への届出は行政書士へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で振り分けます。
労働者協同組合は、出資・意見の反映・従事を基本原理とする法人です(同法第3条)。株式会社やNPO法人とは成り立ちが違い、「働く人自身が出資し、運営に関わり、事業に従事する」ことを前提にしています。この独自の構造から、「出資しているのに労働者なのか」「社会保険はどうなるのか」という労務の論点が生まれます。このページは、労働者協同組合の設立や、企業組合・NPO法人からの移行を検討する団体の方に向けて、労務を中心に整理します。
労働者協同組合は株式会社やNPOと労務面でどう違いますか?
一番の違いは、組合員が出資者でありながら労働者でもあるという二重の地位を持つ点です。株式会社の株主は出資者で、働くかどうかは別です。NPO法人の社員(正会員)も出資義務はなく、必ずしも労働者ではありません。労働者協同組合では、事業に従事する組合員は原則として組合と労働契約を結び、労働者として保護されます。
設立の手続も違います。労働者協同組合は、定款を作成し、出資の払込みを経て、登記することで成立します(準則主義)。株式会社と同じく行政庁の認可・認証は要りません。これに対し、NPO法人は所轄庁の認証、企業組合(中小企業等協同組合法に基づく)は行政庁の認可が必要です。
| 労働者協同組合 | 株式会社 | NPO法人 | |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 労働者協同組合法 | 会社法 | 特定非営利活動促進法 |
| 設立 | 登記で成立(準則主義。認可・認証不要) | 登記で成立 | 所轄庁の認証+登記 |
| 出資 | 組合員が出資する | 株主が出資する | 出資の概念なし |
| 事業に従事する人と組合・会社の関係 | 原則として労働契約(法第20条) | 雇用(労働契約) | 雇用または無償の活動 |
| 剰余金 | 出資配当は不可。従事分量に応じた配当 | 出資に応じた配当 | 配当不可 |
組合員も「労働契約」を結ぶ必要があるのはなぜですか?
労働者協同組合法第20条第1項は、組合は、その行う事業に従事する組合員との間で労働契約を締結しなければならない、と定めています。ただし、組合の業務を執行し又は理事の職務のみを行う組合員(理事長・業務執行理事など)と、監事である組合員は、この労働契約の対象から除かれます。出資者であっても、現場で事業に従事する組合員は労働者として扱い、労働基準法・最低賃金法などで保護する、というのがこの規定の趣旨です。
したがって、労働条件の明示(労働基準法第15条)、労働時間・休憩・休日の管理、割増賃金(同第37条)、年次有給休暇、最低賃金の確保は、株式会社と同じように必要です。就業規則も、常時10人以上の労働者(労働契約を結ぶ組合員を含む)がいれば作成・届出の義務があります(同第89条)。就業規則の作成の要否や記載事項は就業規則は何人から・何を書くかで扱っています。
なお、同法第20条第2項は、組合員の脱退(第14条・第15条第1項)が直ちに労働契約を終了させるものと解してはならない、としています。組合員としての地位(出資)と、労働者としての地位(労働契約)は別の制度であり、組合をやめること=即解雇ではありません。逆に、労働契約の終了(退職・解雇)と組合員資格の得喪も分けて考える必要があります。
組合員の社会保険・労働保険の加入はどうなりますか?
労働者協同組合は法人です。法人の事業所は、常時従業員を使用すれば社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制適用事業所になります(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)。労働契約を結んで事業に従事する組合員は、通常の労働者と同じ基準で健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。短時間の組合員の適用は、通常の労働者の4分の3以上働くか、週20時間以上などの短時間労働者の要件を満たすかで判断します。
労働保険も同様です。労災保険は労働者を1人でも使用すれば適用され、労働契約を結ぶ組合員も対象です。雇用保険は、週所定労働時間や雇用見込みの要件を満たす組合員が被保険者になります。設立直後は、健康保険・厚生年金保険の新規適用届、労働保険の保険関係成立届、雇用保険の適用事業所設置届を、それぞれの期限内に提出します。会社設立時の社会保険・労働保険の届出の流れは会社設立のとき社会保険・労働保険はいつまでにに整理しています。
| 保険 | 労働契約を結ぶ組合員 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 原則加入(通常の労働者と同じ基準) | 法人は強制適用(健保法第3条第3項・厚年法第6条) |
| 労災保険 | 全員が対象 | 労働者を1人でも使用すれば適用 |
| 雇用保険 | 要件を満たせば加入 | 週所定労働時間・雇用見込みの要件 |
理事長・業務執行理事・監事は労働契約の対象から除かれますが(法第20条第1項)、法人から労務の対償として報酬を受け、使用関係が認められる役員は、健康保険・厚生年金保険の被保険者になり得ます。この該当は実態で変わるため、資格者が確認します。
企業組合やNPOから移行するとき労務で何に注意しますか?
まず前提として、既存の企業組合・特定非営利活動法人(NPO法人)が組織をそのまま労働者協同組合に変える「組織変更の特例」(労働者協同組合法附則第4条。NPO法人は附則第16条以下の承認手続)は、施行日(2022年10月1日)から3年以内に限られており、令和7年(2025年)9月30日で受付を終了しています。現時点では、この特例による直接の組織変更はできません。移行を考える場合は、労働者協同組合を新たに設立し、旧法人の事業を引き継ぐ(旧法人は解散・清算する)といった形を、個別に検討することになります。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
労務面で注意が必要なのは、働いている人の身分の切替えです。旧法人で雇用されていた人や従事していた人を、新しい労働者協同組合で組合員(=労働契約を結ぶ)として迎えるとき、労働契約を新たに結び直すのか、労働条件(賃金・労働時間・退職金など)を引き継ぐのかを整理します。社会保険・労働保険は、旧法人での資格喪失と新法人での資格取得の付替えになり、時期を誤ると資格の空白が生じます。就業規則・賃金規程も、組合員が労働者でもあるという前提で作り直します。会社の分割・事業譲渡に伴う労働契約の引継ぎの考え方は、事業譲渡・会社分割と労働契約の引継ぎも参考になります。
設立の登記・行政庁への届出・労務は誰に頼みますか?
設立の登記は司法書士の業務です。定款の作成や、成立後に必要な行政庁(都道府県知事等)への届出は行政書士が扱います。これらは社会保険労務士業務とは独立した事業体として別々にご契約いただきます。
一方、組合員との労働契約の整備、就業規則・賃金規程の作成、社会保険(健康保険・厚生年金保険)・労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続、労働条件の明示は社会保険労務士が担います。組合員が出資者でありながら労働者でもあるという労働者協同組合の特性は、労働契約と就業規則の設計に直接影響するため、設立の段階から労務を組み込んでおくと、あとで労働条件や社会保険の整理に戻らずに済みます。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、労働者協同組合の労務について、組合員との労働契約の整備、就業規則・賃金規程の作成、社会保険・労働保険の加入手続、労働条件の明示、企業組合・NPO法人から移行する場合の労働条件の引継ぎと社会保険の付替えの設計をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
設立の登記は司法書士、定款の作成や行政庁への届出は行政書士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 組合員は出資しているのに、なぜ労働者として扱われるのですか?
A. 労働者協同組合法第20条第1項が、組合に、事業に従事する組合員(理事長など業務執行を行う組合員・監事である組合員を除く)との労働契約の締結を義務づけているからです。組合員を労働者として保護する趣旨で、出資しているかどうかとは別に、労働基準法・最低賃金法などが基本的に適用されます。
Q. 組合員の社会保険はどうなりますか?
A. 労働者協同組合は法人なので、健康保険・厚生年金保険は強制適用です(健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条)。労働契約を結んで事業に従事する組合員は、通常の労働者と同じ基準で被保険者になります。短時間の組合員は、通常の労働者の4分の3以上働くか、週20時間以上などの短時間労働者の要件を満たすかで判断します。労災保険は全員が対象、雇用保険は要件を満たせば加入します。
Q. 企業組合やNPO法人から組織変更できますか?
A. 組織をそのまま変える「組織変更の特例」(労働者協同組合法附則第4条、NPO法人は附則第16条以下)は、施行日の2022年10月1日から3年以内に限られ、令和7年(2025年)9月30日で受付を終了しています。現時点ではこの特例による直接の組織変更はできず、労働者協同組合を新たに設立して事業を引き継ぐ形などを個別に検討することになります。最新の取扱いは所管の窓口で確認してください。
Q. 組合をやめると、仕事(労働契約)も自動的に終わりますか?
A. 終わりません。労働者協同組合法第20条第2項は、組合員の脱退が直ちに労働契約を終了させるものと解してはならない、としています。組合員としての地位(出資)と労働者としての地位(労働契約)は別の制度です。退職や解雇といった労働契約の終了と、組合員資格の得喪は、それぞれの手続で分けて考えます。
この記事の根拠
- 労働者協同組合法(令和2年法律第78号)第3条(基本原理=出資・意見の反映・従事)・第20条第1項(組合は、その行う事業に従事する組合員〈組合の業務を執行し又は理事の職務のみを行う組合員、監事である組合員を除く〉との間で労働契約を締結しなければならない)・第20条第2項(組合員の脱退は労働契約を終了させるものと解してはならない)(e-Gov法令検索で2026年10月30日に条文確認)
- 労働者協同組合法 附則第1条(施行期日)・附則第4条(企業組合・特定非営利活動法人の組織変更は施行日から起算して3年以内)・附則第16条以下(特定非営利活動法人の組織変更の承認手続)。施行日は2022年(令和4年)10月1日で、組織変更の受付は令和7年(2025年)9月30日に終了(厚生労働省・内閣府の案内。2026年10月30日参照)
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項(法人の事業所の適用)・厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条(適用事業所)(e-Gov法令検索で2026年10月30日に条文確認)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条(労働条件の明示)・第37条(割増賃金)・第89条(就業規則の作成・届出、常時10人以上)(e-Gov法令検索で2026年10月30日に条文確認)
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)・雇用保険法(昭和49年法律第116号)=労働者の労働保険の適用(2026年10月30日参照)。組合員の社会保険・労働保険の被保険者資格は、組合員も厚生年金保険・健康保険の被保険者となる旨の厚生労働省の案内で確認(2026年10月30日参照)
組織変更の特例が終了したあとの移行の具体的な進め方や、短時間組合員・役員の社会保険の該当は、個別の事情で変わります。この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。組合員との労働契約・就業規則・賃金規程、社会保険・労働保険の加入は社会保険労務士の業務です。設立の登記は司法書士、定款の作成や行政庁への届出は行政書士の業務で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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