中小企業の退職金はどう整備する?中退共・iDeCo+・企業型DCの選び方と手続き

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
中小企業の退職金は、代表的な三つの外部制度から選んで整備します。中退共(中小企業退職金共済)は掛金が全額事業主負担で、退職金を勤労者退職金共済機構が従業員へ直接支払います(中小企業退職金共済法)。iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は従業員の個人型確定拠出年金(iDeCo)に事業主が上乗せする制度で、企業年金のない従業員300人以下の事業主が対象です(確定拠出年金法第68条の2)。企業型DCは事業主が規約を作り厚生労働大臣の承認を受けて拠出します(同法第3条)。退職手当を定めるときは就業規則への記載が必要です(労働基準法第89条第3号の2)。制度設計・規程・各届出は社会保険労務士、税務は税理士、運用商品の選定は金融機関・運営管理機関が担い、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。
結論(先に要点):中小企業の退職金は、代表的な三つの外部制度から選んで整備します。中退共(中小企業退職金共済)は掛金が全額事業主負担で、退職金を独立行政法人勤労者退職金共済機構が従業員へ直接支払う仕組みです(中小企業退職金共済法〔昭和34年法律第160号〕)。iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、従業員が加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金に事業主が上乗せする制度で、企業年金を実施していない従業員300人以下の事業主が対象です(確定拠出年金法〔平成13年法律第88号〕第68条の2・第55条第2項)。企業型DC(企業型確定拠出年金)は、事業主が規約を作って厚生労働大臣の承認を受け、掛金を拠出して従業員が運用する制度です(同法第3条)。いずれも退職手当を定めるときは就業規則・退職金規程への記載が必要です(労働基準法〔昭和22年法律第49号〕第89条第3号の2)。制度設計・規程の整備・各制度の届出は社会保険労務士、掛金の損金算入など税務は税理士、運用商品の選定や金融商品の説明は金融機関・運営管理機関が担い、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。この記事は制度の内容を説明するもので、個別の運用助言は行いません。
「採用のときに退職金があるか聞かれて困った」「退職金を作りたいが、何を選べばよいか分からない」——退職金制度をこれから作る、または見直したい中小企業の経営者・総務のご担当からいただく相談です。このページは、代表的な三つの制度(中退共・iDeCo+・企業型DC)の仕組みと、就業規則・退職金規程への反映、加入手続きの振り先を、条文と公的資料に沿って整理します。どの制度が自社に合うかの具体的な選定や、運用商品の良し悪しの判断はこの記事の範囲外です。
中退共・iDeCo+・企業型DCはそれぞれどんな制度なのか?
三つはいずれも、会社の外に退職金・年金の原資を積み立てる外部積立型の制度ですが、原資の性格と運用のしかたが違います。
| 制度 | 根拠法 | 原資の拠出 | 運用と受取 |
|---|---|---|---|
| 中退共 | 中小企業退職金共済法第10条ほか | 掛金は全額事業主が負担 | 機構が運用し、退職金を退職者へ直接支払う |
| iDeCo+ | 確定拠出年金法第68条の2 | 従業員の掛金に事業主が上乗せ | 従業員本人が運用。原則60歳以降に受取 |
| 企業型DC | 確定拠出年金法第3条 | 事業主が拠出(本人の上乗せも可) | 従業員本人が運用。原則60歳以降に受取 |
中退共は、昭和34年に国の中小企業対策として作られた中小企業退職金共済法に基づく制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営します。加入できるのは中小企業者に限られ、業種ごとに常用従業員数または資本金・出資金のいずれかの基準を満たす必要があります(一般の業種は従業員300人以下または資本金3億円以下、卸売業は100人以下または1億円以下、サービス業は100人以下または5,000万円以下、小売業は50人以下または5,000万円以下)。
iDeCo+は、従業員自身が入っている個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金に、事業主が掛金を上乗せして納める制度です。企業型DCや確定給付企業年金などの企業年金を実施していない、第1号厚生年金被保険者が300人以下の事業主が対象です。2020年(令和2年)10月から、対象となる従業員規模が100人以下から300人以下に拡大されました。
企業型DCは、事業主が企業型年金規約を作成し、過半数労働組合(ないときは過半数代表者)の同意を得て厚生労働大臣の承認を受けたうえで実施します(確定拠出年金法第3条)。退職金の相談を社会保険労務士と行政書士のどちらに持ち込むかで迷ったときの考え方は就業規則の作成義務(10人以上)もあわせてご覧ください。
掛金や事業主の負担、途中退職時の扱いはどう違うのか?
負担のしかたと、短期間で辞めたときの扱いが制度ごとに異なります。ここが選択の分かれ目です。
| 項目 | 中退共 | iDeCo+ | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 掛金の範囲 | 月額5,000円〜30,000円の16種類(短時間労働者は2,000円・3,000円・4,000円の特例あり) | 加入者掛金と事業主掛金の合計で月額5,000円〜23,000円 | 規約で定める範囲(他制度の有無で拠出限度が変わる) |
| 事業主の負担 | 全額事業主 | 上乗せ分のみ事業主 | 事業主が拠出(本人上乗せも可) |
| 国の助成 | 新規加入助成・月額変更助成あり | なし | なし |
| 短期退職時 | 納付月数12月未満は支給なし、23月以下は掛金総額を下回る | 本人の資産として持ち運び(移換) | 本人の資産として持ち運び(移換) |
中退共の退職金は、掛金の納付月数で段階的に変わります。納付月数が12月未満のときは退職金が支給されず、12月以上23月以下のときは掛金の総額を下回る額、24月以上42月以下で掛金相当額、43月以上で掛金相当額を上回る額(付加退職金が加算)になります(中小企業退職金共済法第10条)。短期間で辞める人が多い職場では、この点を踏まえて導入を考えます。
中退共には国の掛金助成があります。新規加入する事業主には、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)が助成されます。掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額する事業主には、増額分の3分の1が増額月から1年間助成されます(いずれも2026年10月8日時点のこども家庭庁・厚生労働省の公表内容。対象外となる事業主もあるため適用の可否は要確認)。
iDeCo+と企業型DCは確定拠出年金なので、原則60歳になるまで引き出せず、転職・退職時は本人の年金資産として持ち運べます。掛金が所得控除や損金になるかといった税務上の扱いは税理士(独立した事業体・別々にご契約)の領域で、この記事では扱いません。
退職金制度を作ると就業規則・退職金規程はどこを直すのか?
退職手当(退職金)の定めを置くときは、就業規則への記載が必要です。労働基準法第89条第3号の2は、退職手当の定めをする場合においては、「適用される労働者の範囲」「退職手当の決定、計算及び支払の方法」「退職手当の支払の時期」に関する事項を就業規則に記載しなければならないと定めています。これは、制度を置く場合にだけ記載が必要になる相対的必要記載事項です。
- 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、この退職手当の事項を定めた就業規則(または退職金規程)を作成し、所轄の労働基準監督署へ届け出ます
- 中退共・iDeCo+・企業型DCといった外部制度を使う場合でも、適用範囲・計算方法・支払時期などの本来記載すべき事項は就業規則(退職金規程)に書くのが原則です
- 退職金規程は、支給対象者の要件(勤続年数・雇用形態など)や、懲戒解雇時の不支給・減額の扱いまで含めて設計します
就業規則そのものの作成義務と届出の基本は就業規則の作成義務(10人以上)で整理しています。退職金規程と制度(中退共・DC)の内容がずれていると、将来の支給トラブルの原因になります。規程と制度を突き合わせる作業は社会保険労務士の業務です。
ご自身のケースについて相談したい方へ
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加入の手続きはどこへ・誰に頼むのが確実か?
制度ごとに届出先と手続きが分かれます。社内の意思決定(労使の合意を含む)と規程整備を先に済ませてから、各制度の申込みに進みます。
| 制度 | 主な申込み・届出先 | 社内で必要なこと |
|---|---|---|
| 中退共 | 金融機関・委託事業主団体経由で勤労者退職金共済機構へ | 退職金規程の整備、対象者と掛金月額の決定 |
| iDeCo+ | 国民年金基金連合会へ届出 | 労働組合等の同意、本人の同意、対象者の範囲の決定 |
| 企業型DC | 企業型年金規約を作り厚生労働大臣の承認 | 過半数労働組合(ないときは過半数代表者)の同意、運営管理機関の選定 |
iDeCo+と企業型DCは、掛金の拠出や規約の作成にあたって労働者側の同意が法律上求められます(確定拠出年金法第68条の2、第3条)。この同意の取り方や規程・規約への反映を誤ると、手続きが前に進みません。制度設計・規程の整備・各制度への届出の支援は社会保険労務士、掛金の損金算入など税務は税理士、運用商品の選定や金融商品の説明は金融機関・運営管理機関が担い、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。費用の目安は社会保険労務士の顧問料で整理しています。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、退職金制度(中退共・iDeCo+・企業型DC)の仕組みの比較と整理、退職金規程・就業規則の作成と労働基準監督署への届出、iDeCo+・企業型DCで必要な労使の同意手続きの設計、対象者の範囲や掛金の決め方の整理をお受けします。掛金の損金算入など税務の判断は税理士、運用商品の選定や金融商品の説明は金融機関・運営管理機関が担い、いずれも当事務所とは独立した事業体として、別々にご契約いただきます。当事務所は制度設計と労務・規程の面を担当し、個別の運用助言は行いません。ご相談は無料です。 費用は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
よくある質問
Q. 退職金制度は、必ず作らなければいけませんか?
A. 退職手当(退職金)の制度を置くこと自体は法律上の義務ではありません。ただし、制度を置く場合には、適用される労働者の範囲・決定と計算と支払の方法・支払の時期を就業規則(退職金規程)に記載する必要があります(労働基準法第89条第3号の2)。常時10人以上を使用する事業場では、その就業規則を労働基準監督署へ届け出ます。作るかどうかを含め、面談のうえ整理します。
Q. 中退共は、1年未満で辞めた従業員にも退職金が出ますか?
A. 掛金の納付月数が12月未満のときは、中退共からの退職金は支給されません(中小企業退職金共済法第10条)。12月以上23月以下では掛金の総額を下回る額、24月以上で掛金相当額となります。短期で辞める人が多い職場では、この点を踏まえて導入を検討します。個別の金額は勤労者退職金共済機構に確認するのが確実です。
Q. iDeCo+と企業型DCは、何が違うのですか?
A. iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、従業員本人が入っている個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金に事業主が上乗せする制度で、企業年金のない従業員300人以下の事業主が対象です(確定拠出年金法第68条の2)。企業型DCは、事業主が規約を作って厚生労働大臣の承認を受け、事業主が掛金を拠出する制度です(同法第3条)。どちらも運用は従業員本人が行い、原則60歳以降の受取です。
Q. 退職金制度の相談は、社会保険労務士でよいですか?
A. 制度設計・退職金規程や就業規則の整備・各制度の届出の支援は社会保険労務士の業務です。掛金の損金算入など税務の判断は税理士、運用商品の選定や金融商品の説明は金融機関・運営管理機関が担い、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。どの制度が自社に合うかの具体的な選定や、運用助言はこの記事の範囲外で、面談のうえ整理します。
この記事の根拠
- 中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)第10条=退職金の額は掛金月額と納付月数に応じて定める。納付月数12月未満は支給しない、23月以下は掛金総額を下回る額、43月以上は掛金相当額を上回る額(付加退職金の加算)。実施主体は独立行政法人勤労者退職金共済機構
- 中退共の掛金月額=5,000円から30,000円の16種類。短時間労働者には2,000円・3,000円・4,000円の特例。掛金は全額事業主負担。加入できる中小企業者の範囲(一般の業種は従業員300人以下または資本金3億円以下ほか、業種別)は厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」の案内による(2026年10月8日参照)
- 中退共の国の掛金助成=新規加入助成(加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1・従業員ごと上限5,000円)、月額変更助成(18,000円以下の掛金を増額する場合、増額分の3分の1を1年間)。厚生労働省「中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成」による(2026年10月8日参照。対象外の事業主あり)
- 確定拠出年金法(平成13年法律第88号)第3条=企業型年金規約の承認(事業主が規約を作成し、過半数労働組合〔ないときは過半数代表者〕の同意を得て厚生労働大臣の承認を受ける)/第55条第2項=個人型年金規約の記載事項(中小事業主掛金に関する定めを含む)/第68条の2=中小事業主掛金(iDeCo+。企業型DC・確定給付企業年金を実施していない第1号厚生年金被保険者300人以下の事業主が、加入者掛金に上乗せして拠出。労働組合等の同意と拠出前の届出が必要)。e-Gov法令検索により確認(2026年10月8日参照)
- iDeCo+の対象従業員規模=2020年(令和2年)10月から100人以下を300人以下に拡大。加入者掛金と事業主掛金の合計は月額5,000円〜23,000円。厚生労働省「iDeCoプラス(中小事業主掛金納付制度)」の案内による(2026年10月8日参照)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条第3号の2=退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法、支払の時期に関する事項を就業規則に記載する(相対的必要記載事項)。常時10人以上を使用する使用者は就業規則を作成し行政官庁へ届け出る(同条柱書)
この記事は、どの退職金制度が自社に適するかの具体的な選定や、運用商品の良し悪しまでは断定していません。退職金制度の設計、退職金規程・就業規則の整備と届出、労使の同意手続きの設計は社会保険労務士の業務です。掛金の損金算入など税務は税理士、運用商品の選定や金融商品の説明は金融機関・運営管理機関(いずれも当事務所とは独立した事業体・別々にご契約)の業務です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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