なぜ、親なき後に取り組むのか
2020年の連載「#やまゆり園事件は終わったか〜福祉を問う」の担当デスクでした。新聞社を離れて文京区で不動産業と行政書士事務所を営むいまも、あの連載が問うた事件の続きを歩いていると感じます。
2020年夏、北京から帰国した私は、毎日新聞のデジタル報道部門でデスクをしていました。記者が書いてきた原稿を編集し、どういう記事をいつ書くか、どう取材するかを相談する仕事です。
その年の9月から、「#やまゆり園事件は終わったか〜福祉を問う」 という連載が始まりました。私はその連載の担当デスクでした。
現場で取材をしたのは後輩の記者たちです。私がしたのは、その原稿を読み、問いを立て直し、世に出すことでした。取材現場で当事者から話を聞いてきたのは記者たちであって、私は原稿を編集する役割でした。
連載が問うたのは、犯人の動機ではありませんでした。なぜ福祉の現場で事件が起きてしまったのか。事件は本当に終わったのか。
記者たちは、元職員の証言から、施設の中で不適切な支援や長時間の居室施錠が行われていたことを明らかにしました。障害のある我が子を施設に預ける家族の思いを聞き、施設を出て地域で暮らし始めた男性の日常を伝えました。そして、大規模な施設という形そのものが虐待の温床になりうることを掘り下げました。
この連載は、反貧困ネットワークの「貧困ジャーナリズム大賞2020」で貧困ジャーナリズム賞に選ばれました。受賞したのは、取材にあたった記者たちです。
紙面の枠がないウェブ記事だからこそ、腰を据えて取材し、深く書けたという事情もありました。しかし、それを支えてくれたのは読者たち、特に当事者やその家族たちでした。
新聞社を離れ、いま私は文京区で不動産業と行政書士事務所をしています。相続の相談を受け、事業用の物件を扱い、障害福祉サービスの許認可の書類をつくっています。
一見すると、報道とは無関係です。
ただ、障害のあるお子さんを持つ親御さんを含む、さまざまな事情を持つ顧客から住宅や許認可の相談を受けるたびに、私はあの連載が問うた事件の続きを歩いている、と感じます。
親なき後の問題は、制度の問題であると同時に、住まいの問題、お金の問題です。どこで暮らすのか。実家をどうするのか。誰が財産を管理するのか。これらは福祉の窓口だけでも、法律事務所だけでも、不動産会社だけでも完結しません。
親なき後、わが子が住み慣れた地域で、おだやかに、健やかに暮らしていけるといい。
書類をつくること。福祉の活用を含めた選択肢を調べること。実家がいまいくらで貸せて、いくらで売れるのかという、現実的な数字をお示しすること。そして、私にできないことは正直に申し上げて、できる人につなぐこと。
それらのことを弊社のビジネスとして、誠実に続けていきたいと考えています。
浦松 丈二(行政書士/宅地建物取引士)
四葉行政書士事務所 代表行政書士・四葉不動産株式会社 代表取締役
元毎日新聞記者。記者歴34年。中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。
連載開始時に書いたノート → note「初投稿です。あすから連載を始めさせてください。」
親なき後の備えについては、こちらに整理しました。
