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2026.07.25相続・遺言

遺言書を書くなら知っておきたい「法務局保管」──3,900円で検認が要らなくなる制度

浦松 丈二

浦松 丈二

四葉行政書士事務所 代表行政書士(登録番号 第25087022号)/宅地建物取引士/元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)

プロフィール(士業ドットコム)↗

母は、遺言を残しませんでした。だから私は相続人として遺産分割協議を経験し、「一枚の遺言があれば」という思いを知っています。自筆証書遺言は紙とペンがあれば今日書けますが、書き方のルール(民法968条)を外すと無効になり、自宅保管なら紛失・発見されないリスクも残ります。2020年7月に始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を使えば、1件3,900円で原本が保管され、家庭裁判所の検認も不要になります。制度でできること・できないこと、遺産分割協議書との関係まで、文京区の行政書士が整理しました。

母は、遺言を残しませんでした。

あとのことは子供たちに託したい。それは自然な感情だと思います。ただ、相続人として遺産分割協議を経験したいま、はっきり言えることがあります。一枚の遺言があれば、遺された家族の手続きと迷いは、驚くほど軽くなる──ということです。記者として34年、人の人生の締めくくりをいくつも取材してきましたが、「言葉を残すこと」の価値を、いちばん実感したのは自分の相続でした。

そして行政書士になったいま、遺言を考える方に最初にお伝えしているのが、**法務局の「自筆証書遺言書保管制度」**です。

結論(先に要点):自筆証書遺言は紙とペンがあれば今日書けます。ただし方式(民法第968条)を1つ外すと無効になり、自宅保管では紛失・未発見・改ざんの疑いというリスクが残ります。2020年(令和2年)7月10日に始まった法務局の保管制度を使うと、1件3,900円で原本が法務局に保管され、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」)。一方で、法務局は「内容が有効か・もめないか」まではチェックしません。形式は制度で守り、内容は専門家と詰める──これが実務的な使い分けです。

遺言書には3つの方式がある

民法が定める普通方式の遺言は3つです。実務でよく使われるのは上の2つです。

  • 自筆証書遺言:自分で全文を書く。費用がほぼかからず手軽。方式違反・保管・発見のリスクが弱点
  • 公正証書遺言:公証人が作成し原本を公証役場が保管。確実性が高い分、公証人手数料がかかり、証人2人が必要
  • 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま存在だけ証明する方式。利用は多くありません

「まず書いてみたい」という方にとって、自筆証書遺言+保管制度は、費用と確実性のバランスが取れた現実的な入り口です。

自筆証書遺言のルール──ここを外すと無効です

民法第968条が求める方式は明快です。

  1. 全文を自書する(パソコン印字は不可)
  2. 日付を自書する(「令和8年7月吉日」は日付の特定ができず不可とされています)
  3. 氏名を自書する
  4. 押印する(認印でも可とされていますが、実印が実務上安心です)

なお、2019年(平成31年)1月13日施行の民法改正で方式が緩和され、財産目録に限ってはパソコン作成や通帳のコピー・登記事項証明書の添付が可能になりました(各ページに署名押印が必要)。全文自書の負担が大きかった高齢の方には、大きな改善です。

法務局保管制度でできること

保管制度(正式には「遺言書保管制度」)の要点は5つです。

  1. 原本を法務局(遺言書保管所)が保管──紛失・廃棄・改ざん・隠匿の心配がなくなります
  2. 手数料は1件3,900円(保管申請時。年会費のようなものはありません)
  3. 外形的なチェック──保管官が民法の方式(自書・日付・氏名・押印など)を外形面から確認するため、形式不備で無効になるリスクを下げられます
  4. 家庭裁判所の検認が不要──自宅保管の自筆証書遺言に必要な検認手続き(相続人を呼び出して行う開封・確認)を省略でき、遺された家族の負担が減ります
  5. 通知の仕組み──相続開始後、あらかじめ指定した方などに遺言書が保管されている旨が通知される仕組みが用意されています

申請は、住所地・本籍地または所有不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に、本人が出頭して行います(代理申請はできません)。予約制です。

保管制度でも守れないもの──「内容」です

ここが本コラムでいちばんお伝えしたいことです。法務局は形式を確認しますが、内容の有効性や、争いを生まない書き方かどうかは審査しません。実務で見かける「もったいない遺言」には、共通点があります。

  • 財産の特定があいまい(不動産が登記記録どおりに書かれていない──遺産分割協議書の回と同じつまずきです)
  • 遺留分(一定の相続人に法律上保障された取り分)への配慮がなく、かえって争いの火種になる
  • 予備の定めがない(遺言者より先に受遺者が亡くなった場合など)
  • 遺言執行者が指定されておらず、結局手続きが重くなる

形式は制度で、内容は人で守る。遺言の文案づくり・財産目録の整理は行政書士がお手伝いできます(争いが現に生じている場合や遺留分をめぐる交渉は、弁護士をご案内します)。

遺言と遺産分割協議書の関係

前回のコラム「遺産分割協議書は自分で作れるか」で書いたとおり、遺言がない相続では、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)が必要になります。逆に言えば、有効な遺言があれば、原則としてその内容どおりに手続きが進み、協議は不要です。2024年4月から相続登記も義務化されました(3年以内・法務省)。遺言は「家族への最後の手紙」であると同時に、期限のある手続きを軽くする実務の道具でもあるのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 法務局保管の費用はいくらですか?

A. 保管申請は遺言書1件につき3,900円です。別途、相続開始後に相続人が交付を受ける証明書等には所定の手数料があります。最新の金額は法務省の案内でご確認ください。

Q. 夫婦で1通の遺言を書けますか?

A. できません。2人以上が同一の証書で遺言することは禁じられています(共同遺言の禁止・民法第975条)。夫婦それぞれが1通ずつ作成します。

Q. 一度書いた遺言は変えられますか?

A. いつでも書き直せます。遺言はいつでも撤回でき(民法第1022条)、日付の新しい遺言が優先します。法務局に保管した遺言も、撤回・再保管が可能です。

Q. 認知症が心配です。いつ書くべきですか?

A. 遺言には遺言能力(内容を理解し判断する力)が必要で、判断能力が下がってからでは作れなくなる場合があります。「元気なうちに書いて、必要なら書き直す」が実務の鉄則です。個別のご事情に応じた進め方はご相談ください。

まとめ──3,900円で買えるのは「家族の安心」

遺言を書くことは、死の準備ではなく、家族への段取りです。母の相続を経験した者として、これから遺言を考えるすべての方に、保管制度という選択肢を知っておいてほしいと思います。

四葉行政書士事務所(文京区・茗荷谷駅徒歩5分)では、遺言の文案作成・財産目録の整理から、保管申請の準備のサポートまでお手伝いしています(相続・遺言・信託報酬額表)。相続した不動産をどうするかは、四葉不動産の相続不動産 完全ガイドをどうぞ(不動産取引は四葉不動産株式会社が独立してお受けします)。

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この記事の出典(一次情報)

※本コラムは一般的な情報提供であり、個別の事案についての法的判断を示すものではありません。制度・手数料は2026年7月執筆時点の情報です。個別のご相談は資格者による確認のうえ対応いたします。

この記事の執筆者

浦松丈二(うらまつ・じょうじ)。行政書士(登録番号 第25087022号)・宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)。四葉行政書士事務所 代表/四葉不動産株式会社 代表取締役。元毎日新聞記者・中国総局長(記者歴34年)。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。