遺産分割協議書は自分で作れるか──行政書士が見てきた「あとで困る書き方」
母から相続した実家の手続きで、最初に向き合った書類が「遺産分割協議書」でした。誰が・何を・どう相続するかを相続人全員の合意として書面にするこの1枚は、書式が自由だからこそ、書き方次第で銀行や法務局で止まり、兄弟の関係まで揺らすことがあります。不動産の表示の書き方、「その他の財産」の一文、代償分割の記載など、実務で見てきた「あとで困る書き方」と、2024年4月に義務化された相続登記の期限、行政書士・司法書士・税理士・弁護士の役割分担まで、文京区の行政書士が整理しました。
母から実家を相続したとき、私が最初に向き合った書類が「遺産分割協議書」でした。34年間、記者として他人の話を聞き、書いてきた人間でも、いざ自分の相続となると手が止まる。誰が、何を、どのように相続するのか──それを1枚の書面にまとめる作業は、単なる事務ではなく、家族の合意をかたちにする仕事だと、そのとき実感しました。
行政書士として相続のご相談を受けるようになったいま、あらためて思います。遺産分割協議書は「書くこと」自体より、「あとで困らない書き方」のほうがずっと難しい、と。
遺産分割協議書とは何か──30秒で答えます
遺産分割協議書とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を「誰が・何を・どれだけ」相続するかについて、相続人全員が合意した内容を記した書面です。共同相続人はいつでも協議で遺産の分割をすることができると定められており(民法第907条第1項)、その合意を証明する書類が遺産分割協議書です。
法律で決まった書式はありません。手書きでもパソコンでも作れます。ただし、相続人全員が署名し、実印を押し、印鑑登録証明書を添えるのが実務上の標準です。1人でも欠けた協議書は、原則としてその後の手続きに使えません。
協議書が「要る場合」「要らない場合」
すべての相続で必要になるわけではありません。一般的な整理は次のとおりです。
要らないことが多いケース
- 有効な遺言書があり、その内容どおりに分ける場合
- 相続人が1人しかいない場合
- 法定相続分どおりの割合で分ける場合(ただし後述のとおり、不動産では慎重な検討が必要です)
要ることが多いケース
- 遺言書がなく、相続人が2人以上いて、話し合いで分け方を決める場合
- 不動産の名義変更(相続登記)、預貯金の解約・払い戻し、自動車の名義変更などで、分け方の証明を求められる場合
注意したいのは「法定相続分どおりなら協議書は不要」という知識だけが独り歩きするケースです。実家を兄弟で2分の1ずつの共有名義にする──手続きとしては最も簡単に見えるこの選択が、あとで最も重い問題になることを、私は自分の目で見てきました。詳しくは四葉不動産のコラム「実家を兄弟で相続したら──『とりあえず共有名義』が一番危ない理由」に書きましたので、あわせてお読みください。
実務で見てきた「あとで困る書き方」3つ
1. 不動産を「住所」で書いてしまう
いちばん多いつまずきです。日常使っている住所(住居表示)と、登記上の「所在・地番・家屋番号」は別物です。協議書の不動産の表示が登記記録と一致していないと、法務局での相続登記が進まず、書き直し──つまり相続人全員の実印を集め直すことになりかねません。不動産は必ず登記事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せ、記載のとおりに書き写すのが実務の基本です。
2. 「その他の財産」の一文がない
協議書に書いた財産しか、その協議書では動かせません。あとから被相続人名義の預金口座や株式が見つかるのは、珍しいことではありません。そのたびに協議をやり直すのを避けるため、実務では「本協議書に記載のない遺産および後日判明した遺産は、相続人○○が取得する」といった条項を置くのが一般的です。この一文があるかないかで、その後の手間が大きく変わります。
3. 代償分割・換価分割の書き方があいまい
「実家は長男が相続し、長男は二男に代償金として○○円を支払う」(代償分割)、「実家を売却し、売却代金から諸費用を差し引いた残額を2分の1ずつ分ける」(換価分割)──不動産の相続では、こうした分け方がよく登場します。このとき金額・支払期限・方法まで具体的に書いていない協議書は、のちの「言った・言わない」の火種になります。分け方の合意だけでなく、実行の条件まで書き切ることが大切です。
母の実家のときに痛感しましたが、協議書づくりの本当の仕事は、文章を整えることではなく、**その前段の「財産の全体像の調査」と「家族の合意形成」**です。ここが固まっていれば、書面は自然にまとまります。
「3年以内」──相続登記の義務化と協議書
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の適用対象となります。施行日より前に開始した相続も対象で、この場合は2027年(令和9年)3月31日までが期限とされています。また、遺産分割協議がまとまった場合には、成立日から3年以内にその内容を踏まえた登記の申請が必要です(出典:法務省「相続登記の申請義務化について」、2024年4月1日施行)。
つまり、遺産分割協議書は「いつか作ればいい書類」ではなくなりました。協議書の作成と相続登記は、期限のあるひとつながりの手続きとして考える必要があります。
なお、戸籍謄本の束に代えて相続関係を1枚で証明できる法定相続情報証明制度(法務局・2017年5月29日開始)を使うと、銀行・法務局など複数の窓口での手続きが楽になります。当事務所でも協議書とあわせてご案内しています。
誰に頼めるか──士業の役割分担を正直に
相続の手続きは、実はひとつの資格で完結しません。誠実にお伝えします。
- 行政書士:遺産分割協議書など権利義務に関する書類の作成、財産目録・相続関係説明図の作成、戸籍収集のサポート(争いのない相続の場合)
- 司法書士:相続登記(不動産の名義変更)の申請代理
- 税理士:相続税の申告・税務相談
- 弁護士:相続人間に争いがある場合の交渉・調停・訴訟
四葉行政書士事務所では、書類作成と手続きの交通整理を担い、登記は提携司法書士、税務は提携税理士、紛争性のある案件は弁護士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形でおつなぎします(各専門家との契約・報酬は各専門家と直接となります)。「どこに何を頼めばいいか分からない」段階のご相談こそ、お気軽にどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. 遺産分割協議書は自分で作れますか?
A. 作れます。書式は自由で、ご自身で作成することに法律上の制限はありません。一方で、不動産の表示・後日判明財産・代償金の条件など、つまずきやすい箇所があるのも事実です。不動産や複数の金融機関が関わる場合は、専門家のチェックを受ける価値があります。
Q. 相続人の1人が海外に住んでいます。実印と印鑑証明書がありません。
A. 海外在住で日本の印鑑登録がない方は、署名証明(サイン証明)など現地の日本大使館・領事館で取得する書類で代える取り扱いが一般的です。当事務所は英語・中国語での連絡サポートも行っています(相続・遺言・信託サービス)。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
A. 財産の種類や相続人の数によって変わります。当事務所の基準は報酬額表で公開しています。お見積りは無料です。
Q. 協議がまとまりそうにありません。
A. 相続人間に争いがある場合、行政書士は間に入って交渉することができません。その場合は弁護士への相談をご案内します。「争いになる前の、合意の整理」が行政書士の仕事です。
まとめ──書面の前に、合意を
遺産分割協議書は、家族の合意を将来に残すための書類です。母の実家の手続きを終えたいま思うのは、きちんと作られた協議書は「手続きの道具」であると同時に、家族が納得して決めた証にもなる、ということです。
文京区・茗荷谷の四葉行政書士事務所では、戸籍の収集から財産目録・遺産分割協議書の作成、提携専門家へのおつなぎまでお手伝いしています。相続した不動産の管理・活用・売却については、四葉不動産の相続不動産 完全ガイドもご覧ください(不動産取引は四葉不動産株式会社、書類作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立してお受けします)。
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※本コラムは一般的な情報提供であり、個別の事案についての法的判断を示すものではありません。制度・法令は2026年7月執筆時点の情報です。個別のご相談は資格者による確認のうえ対応いたします。
