受け入れる前に、就業規則をどう直すのか
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
外国人を受け入れること自体で就業規則の作成義務は変わりません。変わるのは規程と実態の距離です。周知は効力の前提で、理解できない言語のみの掲示は十分かが問われます。転籍が前提の育成就労では、貸与物・住居・費用負担の規程が新しい争点になります。直す箇所を整理します。
結論(先に要点):外国人を受け入れること自体で就業規則の作成義務が変わるわけではありません。変わるのは規程と実態の距離です。就業規則は周知されて初めて機能し(労働基準法第106条)、本人が理解できない言語でのみ掲示されている状態は、周知として十分かが問われます。転籍が前提の育成就労では、貸与物・住居・費用負担の規程が新しい争点になります。
このページは、育成就労(技能実習を含む)で外国人を受け入れる前に、就業規則をどう整えるかを考えている会社の経営者・総務担当の方に向けたものです。何人から作成義務があるかは就業規則は何人から義務かで書きました。本記事は受け入れで何を直すかです。
外国人を受け入れると、就業規則は直す必要があるのか?
義務の発生条件(常時10人以上・労働基準法第89条)は国籍で変わりません。直す必要が生まれるのは、規程が想定していなかった実態が入ってくるからです。
- 住居——会社が社宅・寮を用意する場面が増える。住居費の徴収と現物給与を規程と労使協定に落とす必要が出る
- 貸与物——作業着・工具・自転車・Wi-Fiルーター。返還のルールがないまま貸与が積み上がる
- 生活のルールと懲戒——寮の生活ルールを就業規則の外で運用していると、懲戒の根拠が宙に浮く
- 申請書類との整合——育成就労計画認定の申請では雇用契約書・雇用条件書(参考様式第1-2号)や待遇の説明書面を出します。規程と申請書面がずれていると、どちらかが嘘になります
母語に訳さないと、周知したことにならないのか?
翻訳の義務そのものは、法令にはありません。 一方で、就業規則は常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け、書面の交付その他厚生労働省令で定める方法で労働者に周知しなければなりません(労働基準法第106条第1項)。
周知は「置いてあること」ではなく「知り得る状態にあること」のための制度です。内容を理解できない言語の規則だけが掲示されている状態が、この趣旨に照らして十分といえるか——ここが問われる点であり、争いになったときに「周知していた」と言い切れるかに跳ね返ります。実務としては、少なくとも労働条件・賃金控除・懲戒・退寮など本人の利害に直結する部分は、母語または理解できる言語で要旨を示すことをお勧めします。どこまで訳すかは費用との相談で、多言語対応の考え方は当事務所の外国人雇用の労務でも扱っています。
転籍を前提にすると、どの規程を見直すのか?
転籍は労務では「離職+雇入れ」です。人が動く前提で規程を読み直すと、見直す場所が見えてきます。
| 規程 | 見直しの観点 |
|---|---|
| 社宅・寮規程 | 退職・転籍時の明渡し期限、原状回復の負担、住居費の精算。申請様式第1-39号は移動・転居費用等の説明を求めます |
| 貸与物 | 返還の対象・期限・弁償のルール |
| 賃金・控除 | 住居費・光熱費などの控除の根拠(労使協定)と精算方法 |
| 教育・資格取得の費用 | 会社負担で受けさせた講習・資格の扱い。退職時の返還を安易に定めると、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)との関係が問題になり得ます——ここは設計を誤りやすく、個別にご相談ください |
| 懲戒・服務 | 寮の生活ルールを服務規律として位置づけるか |
いつまでに直せばいいのか?
申請の前です。育成就労計画認定の申請では雇用契約書式・待遇の説明書面を提出するため(いま動くべきことのカレンダー)、規程がそれと整合していない状態で申請すると、あとから直すものが増えます。就業規則の変更には過半数代表者等の意見聴取と意見書の添付、変更後の周知(労働基準法第90条・第106条)という手続が要ることも、逆算に入れてください。手続の全体はAIがつくった就業規則は、届け出られるかで書いた流れと同じです。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、受け入れ前の就業規則・社宅規程・賃金控除協定の見直しと作成、母語での要旨の整備の設計、意見聴取から届出・周知までの手続をお受けします。料金は報酬額表の「就業規則 新規作成/変更」です。ご相談は無料です。 いまの規則をお持ちいただければ、受け入れ前に直す箇所の棚卸しからご一緒します。
誰に相談するか
育成就労計画認定・監理支援機関許可の申請書類、在留資格は四葉行政書士事務所(当事務所とは別の事業体で、別々にご契約いただきます)。社宅の物件・法人契約は四葉不動産株式会社(同)。給与課税は税理士、すでに紛争になっている事案は弁護士の業務です。いずれも紹介料の授受はありません。
よくある質問
Q. 就業規則を全部翻訳しなければいけませんか?
A. 翻訳の義務そのものは法令にありません。ただし周知(労働基準法第106条)の趣旨から、本人の利害に直結する部分——労働条件・控除・懲戒・退寮——は母語または理解できる言語で要旨を示すことをお勧めします。全文訳と要旨訳のどちらにするかは、費用と実態で設計します。
Q. 10人未満なので就業規則がありません。それでも作るべきですか?
A. 作成義務は常時10人以上の事業場にかかります(労働基準法第89条)。義務がなくても、住居・貸与物・控除のルールを書面にしておかないと、転籍・退職のたびに個別交渉になります。義務の線は別記事をご覧ください。
Q. 寮の門限や生活ルールを就業規則に入れられますか?
A. 服務規律・懲戒との関係で設計は可能ですが、私生活への制約は合理的な範囲かが問われます。生活ルールは寮規程として切り出し、懲戒に結びつける部分を限定するのが実務的です。個別の書きぶりはご相談ください。
Q. 日本語講習の費用を会社が出します。辞めたら返してもらう規定は書けますか?
A. 安易な返還規定は、賠償予定の禁止(労働基準法第16条)との関係で問題になり得る領域です。書けるかどうかを一律には言えません。設計の選択肢と論点を整理したうえで、必要に応じて弁護士の確認を挟む形をご案内します。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条(作成・届出義務)、第90条(意見聴取・意見書)、第106条第1項(周知義務)、第16条(賠償予定の禁止)、第24条(賃金控除の労使協定) ―― 2026年8月14日にe-Gov法令検索で現行条文を確認
- 外国人技能実習機構「育成就労計画認定施行日前申請」(令和8年8月5日更新・2026年8月14日確認)――雇用契約書及び雇用条件書(参考様式第1-2号)・待遇の説明書面・移動及び転居費用等の説明書(第1-39号)
- 翻訳義務の有無と周知の十分性は、個別の事情によって評価が分かれる領域です。本記事は一般的な考え方の整理にとどめています
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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