配偶者居住権を設定するとき、遺産分割協議書と登記はどう進める?──成立要件・存続期間・評価の分担
配偶者居住権は、被相続人の配偶者が相続開始時に住んでいた被相続人所有の建物に、終身または一定期間、無償で住み続けられる権利です(民法第1028条、令和2年4月1日施行)。遺産分割・遺贈・審判による設定(第1029条)、存続期間(第1030条)、遺産分割協議書への記載、建物の設定登記と対抗要件(第1031条・不動産登記法第81条の2)、配偶者短期居住権(第1037条)との違いを整理し、設定登記は司法書士、評価・相続税は税理士、争いは弁護士へ分離受任で振る分担を示しました。
結論(先に要点):配偶者居住権は、被相続人の配偶者が相続開始の時に住んでいた被相続人所有の建物に、終身または一定の期間、無償で住み続けられる権利です(民法第1028条、令和2年4月1日施行)。取得の原因は、遺産分割か遺贈で、家庭裁判所の審判による取得もあります(民法第1029条)。存続期間は原則として配偶者の終身で、協議・遺言・審判で別段の定めができます(民法第1030条)。遺産分割協議書に配偶者居住権を取得する旨と居住建物・存続期間を記載し、建物について設定登記(民法第1031条、不動産登記法第81条の2)を備えると、後から建物を取得した第三者にも対抗できます。設定登記の申請は司法書士、配偶者居住権と敷地利用権の評価・相続税は税理士、争いは弁護士に振り、行政書士は遺産分割協議書等の作成を担当します。本記事は、成立要件・存続期間・協議書の記載・登記と評価の分担・配偶者短期居住権との違いを行政書士の視点で整理する一般的な情報提供です。個別の設定の可否や評価額は、資格者の判断によります。
配偶者居住権は誰が、どんなときに取得できますか?
配偶者居住権は、民法第1028条第1項が定める権利で、次の要件を満たす配偶者が取得できます。第一に、被相続人の配偶者であること。ここでいう配偶者は法律上の婚姻をした配偶者で、内縁の配偶者は含まれません。第二に、その配偶者が相続開始の時に、被相続人が所有していた建物に居住していたこと。建物が被相続人と配偶者の共有であった場合は取得できますが、被相続人以外の第三者と共有していた建物は対象外です。
取得の原因は、同項が定める遺産分割による取得(第一号)と、遺贈による取得(第二号)です。加えて、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所が、一定の場合に審判で配偶者居住権を取得させることもできます(民法第1029条)。配偶者居住権は建物の一部にだけ住んでいた場合でも、建物全部に及びます。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 民法第1028条(配偶者居住権)・第1029条(審判による取得) |
| 施行 | 令和2年4月1日以後に開始した相続に適用 |
| 取得できる人 | 相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた法律上の配偶者(内縁は対象外) |
| 取得の原因 | 遺産分割・遺贈・家庭裁判所の審判 |
| 及ぶ範囲 | 居住建物の全部(一部居住でも建物全体) |
配偶者居住権は、自宅の所有権を別の相続人が取得しても、配偶者が住む権利を確保できる仕組みです。自宅の評価が高く、配偶者が所有権を取ると預貯金など他の財産を受け取れなくなる、といった場面で使われます。
遺産分割と遺贈のどちらで設定でき、存続期間はどう決めますか?
配偶者居住権は、遺産分割の協議・調停・審判で設定するほか、遺言による遺贈でも設定できます。遺贈で定めておくと、遺産分割の話し合いを待たずに配偶者が確実に取得できます。なお、被相続人が「配偶者に配偶者居住権を相続させる」と書く例もありますが、確実に設定するには遺贈による方法が案内されています。
存続期間は、民法第1030条により原則として配偶者の終身の間です。ただし、遺産分割の協議・遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産分割の審判で別段の定めをしたときは、その期間になります。10年・20年といった有期の設定も可能です。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 設定の方法 | 遺産分割(協議・調停・審判)/遺贈 |
| 存続期間 | 原則は配偶者の終身(民法第1030条)。協議・遺言・審判で有期にできる |
| 譲渡の可否 | 配偶者居住権は譲渡できない(民法第1032条第2項)。売って現金化はできない |
| 費用の負担 | 居住建物の通常の必要費は配偶者が負担(民法第1034条) |
配偶者居住権は配偶者本人のための権利であり、他人に譲渡できません(民法第1032条第2項)。第三者に居住建物を使用・収益させるには、建物所有者の承諾が必要です。配偶者は善良な管理者の注意をもって建物を使用し、固定資産税などの通常の必要費を負担します。
遺産分割協議書には配偶者居住権をどう書けばよいですか?
遺産分割で設定する場合、遺産分割協議書に、どの相続人が居住建物の所有権を取得し、配偶者が配偶者居住権を取得するかを明記します。居住建物は登記事項(所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積)で特定し、存続期間を書きます。終身とする場合はその旨、有期とする場合は期間を記載します。
設定登記のためには、不動産登記法第81条の2が定める登記事項を協議書の内容に反映しておくと手続がスムーズです。具体的には、存続期間と、第三者に居住建物の使用・収益をさせることを許す旨の定めがあるときはその定めが登記事項になります。居住建物の所有者は、配偶者に対して配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負う(民法第1031条第1項)ため、協議書には所有者が登記手続に協力する旨を書いておくと、後の登記申請が進めやすくなります。
| 記載する事項 | 内容 |
|---|---|
| 権利者・義務者 | 配偶者居住権を取得する配偶者と、居住建物の所有権を取得する相続人 |
| 居住建物の特定 | 所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積で特定 |
| 存続期間 | 終身または期間(民法第1030条) |
| 登記への協力 | 所有者が設定登記を備えさせる義務(民法第1031条第1項)に基づく協力 |
遺産分割協議書の作成は、行政書士が業務の範囲で支援できます。四葉行政書士事務所では、合意済みの内容にもとづく遺産分割協議書等の作成を支援します。個別の条項の有効性の判断や、争いのある事案の代理は、弁護士の領域です。
配偶者居住権の登記と評価(相続税)は誰の担当になりますか?
配偶者居住権の設定登記は、居住建物についてのみ行い、敷地(土地)には登記しません。登記は、配偶者を権利者、建物所有者を義務者とする共同申請で行います。他人から依頼を受けて行う登記申請の代理や登記申請書の作成は、司法書士又は弁護士の業務です。当事務所は登記申請の代理や登記申請書の作成を行いません。
登記の意味は対抗要件にあります。民法第1031条第2項が賃貸借の規定(民法第605条)を準用しており、設定登記を備えていないと、後から居住建物を取得した第三者に配偶者居住権を対抗できません。登記をしておくことが、住み続ける権利を確実にします。
| 事項 | 担当・根拠 |
|---|---|
| 設定登記の申請 | 司法書士(建物についてのみ・共同申請)。根拠は不動産登記法第81条の2 |
| 対抗要件 | 登記を備えると第三者に対抗できる(民法第1031条第2項が民法第605条を準用) |
| 相続税の評価 | 税理士。配偶者居住権・居住建物・配偶者居住権に基づく敷地利用権・居住建物の敷地の評価(相続税法第23条の2) |
相続税では、配偶者居住権と、その土地を利用する権利である敷地利用権を配偶者側の財産として評価し、他の相続人は負担付きの所有権を取得したものとして評価します(相続税法第23条の2)。配偶者の死亡で配偶者居住権が消滅した場合の課税関係など、評価と税務の判断は税理士の領域です。当事務所は税務相談を行いません。
配偶者短期居住権とは何が違い、争いになったら誰に相談しますか?
配偶者短期居住権は、民法第1037条が定める別の権利です。配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で住んでいた場合に、相続開始によって当然に発生し、遺産分割で居住建物の帰属が確定した日か、相続開始の時から6か月を経過する日か、いずれか遅い日まで、無償で住み続けられます。設定の合意や登記は不要ですが、登記できないため第三者への対抗力はありません。遺産分割が終わるまでの短期的な保護が目的です。
| 事項 | 配偶者居住権(第1028条) | 配偶者短期居住権(第1037条) |
|---|---|---|
| 発生 | 遺産分割・遺贈・審判で設定 | 相続開始で当然に発生 |
| 存続期間 | 原則終身(有期も可) | 遺産分割確定日か相続開始から6か月経過日の遅い方まで |
| 登記・対抗 | 設定登記で第三者に対抗できる | 登記できない(対抗力なし) |
| 譲渡 | 譲渡できない | 譲渡できない |
配偶者居住権を設定するかどうか、評価をどうするかで相続人の間に対立が生じ、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停・審判になります。相手方との交渉や調停・審判の代理は弁護士の領域です。設定登記は司法書士、評価・相続税は税理士、遺産分割協議書等の作成は行政書士と、担当が分かれます。
四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社は別事業体です。各分野は、それぞれの資格者と独立した事業体として別々にご契約いただく前提で、当事務所は紹介料を受け取りません。受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続の取扱業務は相続業務サービスと別事業体の四葉不動産株式会社の相続・不動産の窓口をご覧ください。遺産分割協議書の書き方は遺産分割協議書は自分で作れる?、相続登記の流れは相続登記はどう進める?、相続人と相続分の基本は法定相続人と相続分の基本もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q. 配偶者居住権は売って現金にできますか?
A. 配偶者居住権は配偶者本人のための権利で、他人に譲渡できません(民法第1032条第2項)。そのため、売却して現金化することはできません。第三者に居住建物を使用・収益させるには建物所有者の承諾が必要です。放棄はできますが、その場合の対価や税務の扱いは個別の事情によるため、評価・税務は税理士に確認してください。
Q. 内縁の妻でも配偶者居住権を取得できますか?
A. 配偶者居住権を取得できるのは、法律上の婚姻をした配偶者です(民法第1028条第1項)。内縁の配偶者は含まれません。住まいの確保を考える場合は、遺言による遺贈や、別の権利(賃借権・使用貸借など)の検討が必要になることがあり、個別の設計は資格者の判断によります。
Q. 登記しないとどうなりますか?
A. 配偶者居住権は、設定登記を備えていないと、後から居住建物を取得した第三者に対抗できません(民法第1031条第2項が民法第605条を準用)。登記をしておくことで、住み続ける権利を第三者にも主張できます。設定登記は建物についてのみ行い、その申請の代理は司法書士又は弁護士の業務です。
Q. 遺産分割協議書の作成は誰に頼めますか?
A. 合意済みの内容にもとづく遺産分割協議書等の作成は、行政書士が業務の範囲で支援できます。配偶者居住権の設定登記は司法書士、評価・相続税は税理士、争いのある事案は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々に対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第1028条・第1029条・第1030条・第1031条・第1032条・第1034条(配偶者居住権)、第1037条(配偶者短期居住権)、第605条(不動産賃貸借の対抗力・準用)(参照日 2026-08-31)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号)第81条の2(配偶者居住権の登記の登記事項)(参照日 2026-08-31)
- e-Gov法令検索「相続税法」(昭和25年法律第73号)第23条の2(配偶者居住権等の評価)(参照日 2026-08-31)
- 法務省「残された配偶者の居住の権利を保護するための方策(配偶者居住権・配偶者短期居住権)」(令和2年4月1日施行)(参照日 2026-08-31)
本記事は一般的な情報提供であり、配偶者居住権の設定の可否、評価額、個別の条項の有効性を判断・保証するものではありません。制度は令和2年4月1日以後に開始した相続に適用されます。配偶者居住権の設定登記の代理・登記申請書の作成は司法書士又は弁護士、配偶者居住権と敷地利用権の評価・相続税は税理士、遺産分割で争いのある事案は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。当事務所は登記申請の代理・登記申請書の作成、税務相談を行いません。相続・不動産の窓口は別事業体の四葉不動産株式会社が扱います。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
まずは、状況を整理するところから。
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