医療・介護の『宿日直許可』は、どんな勤務なら取れる?
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
医療機関や介護施設の夜間・休日勤務を『宿日直』として労働時間の規制から外すには、所轄労働基準監督署長の許可が要ります(労働基準法第41条第3号、同法施行規則第23条・様式第10号)。許可の対象は、定時的巡視・緊急の電話や文書の収受・非常時待機など、常態としてほとんど労働する必要のない断続的業務に限られます(昭和22年9月13日発基第17号)。名称が『宿直』でも実態が通常の診療や介護なら許可は受けられず、その時間は労働時間として深夜割増などの対象です。医師には別の細目基準(令和元年7月1日基発0701第8号)があり、令和6年4月1日の時間外上限規制ともつながります。許可の可否は労働基準監督署、紛争は弁護士という切り分けも整理します。
結論(先に要点):医療機関や介護施設の夜間・休日の勤務を「宿日直」として労働時間の規制から外すには、所轄労働基準監督署長の許可が要ります(労働基準法第41条第3号、同法施行規則第23条)。許可の対象は、定時的巡視・緊急の電話や文書の収受・非常事態に備えた待機など、常態としてほとんど労働する必要のない断続的な業務に限られます(昭和22年9月13日発基第17号)。名称を「宿直」にしていても、実態が通常の診療や介護なら許可は受けられず、その時間は労働時間として扱われます。医師については別に細目の許可基準があります(令和元年7月1日基発0701第8号)。この記事では、宿日直許可の基準と申請、許可後の勤務設計、割増賃金への影響を、実務目線で整理します。
「当直を宿直にすれば残業代は要らないと聞いた」「介護施設の夜勤は宿直でよいのか」——クリニック・病院・介護施設の開設者や管理者から、よく受ける質問です。このページは、夜間や休日に職員を置く医療・介護の事業者に向けて、宿日直許可の基準・申請の勘所・許可後の勤務設計を整理します。許可の可否そのものは所轄労働基準監督署が判断し、夜間の診療体制や配置人数の医療上の判断は事業者が行うため、この記事はその手前の労務の考え方に絞ります。
宿直・日直と通常勤務は、労働時間の扱いがどう違う?
まず、同じ「夜間・休日に施設にいる」でも、通常勤務と許可を受けた宿日直では、労働基準法上の扱いがまったく違います。
| 観点 | 通常勤務(夜勤・日勤) | 宿日直(許可を受けた場合) |
|---|---|---|
| 業務の実態 | 通常の診療・看護・介護・見守り | 定時的巡視・緊急の電話や文書の収受・非常時待機など断続的業務 |
| 労働時間 | 労働時間に該当する | 労働時間・休憩・休日の規制が適用除外 |
| 深夜割増(22時〜5時) | 25%以上が必要 | 原則不要(労働時間でないため) |
| 時間外・休日割増 | 必要(36協定も要る) | 原則不要(労働時間でないため) |
| 許可・届出 | 不要(労働時間として管理) | 所轄労働基準監督署長の許可が必要 |
| 賃金 | 通常賃金+割増 | 宿直手当・日直手当(後述の最低額あり) |
宿日直が労働時間規制の適用除外になる根拠は、労働基準法第41条第3号です。監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものには、労働時間・休憩・休日の規定を適用しないと定めています。宿直・日直については、同法施行規則第23条が、断続的な業務について様式第10号によって所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に、法第32条(法定労働時間)の規定にかかわらず従事させられると定めています。夜勤・宿直の切り分けは、障害福祉のグループホームでも同じ論点になります。詳しくはグループホームの夜勤と宿直は労務でまったく違うをご覧ください。
労基署が宿日直を許可する基準は、どこにある?
一般的な宿日直の許可基準は、昭和22年9月13日発基第17号(宿日直勤務の許可基準)に示されています。おおむね次の4点が前提です。
| 項目 | 一般の許可基準(発基第17号) |
|---|---|
| 業務内容 | 常態としてほとんど労働する必要のない勤務。本来の業務は行わず、定時的巡視・緊急の文書や電話の収受・非常事態に備えた待機などに限る |
| 手当 | 宿日直勤務1回あたりの手当の最低額は、同種の労働者に支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと |
| 回数 | 原則として、宿直は週1回、日直は月1回が限度 |
| 睡眠 | 宿直については、相当の睡眠設備を設けること |
許可は、申請書の記載だけで機械的に出るものではありません。業務の実態を踏まえて、所轄労働基準監督署が個別に判断します。介護施設で夜間に頻繁に介助・見守りを行う勤務や、来院者への通常の診療を続ける当直は、この要件を満たしにくく、許可の対象にならないのが通常です。手当の考え方や割増との関係は、給与計算を社会保険労務士に頼むと、いくらかかるのかもあわせてご覧ください。
医師の宿日直許可は、働き方改革でどう変わった?
医師については、一般の基準に加えて細目の許可基準が示されています(令和元年7月1日基発0701第8号「医師、看護師等の宿日直許可基準について」)。ポイントは次のとおりです。
- 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること
- 一般の宿日直業務のほかに、特殊の措置を必要としない軽度又は短時間の業務(問診等による診察・看護師等への指示・軽度の処置など)に限って従事するもので、夜間に十分な睡眠がとり得ること
- 上記が満たされない、通常の診療の延長といえる時間は、労働時間として扱う
この基準は、令和3年3月31日基監発0331第1号(参考資料)や令和6年1月15日基監発0115第2号(一部改正)でも補足されています。あわせて、令和6年4月1日から医師の時間外労働の上限規制が施行されました。宿日直許可を受けた時間は、この上限規制の時間数の算定に含まれない扱いになりますが、許可を受けていても、実際に通常の診療などを行った時間は労働時間として賃金の対象になります。「許可があるから労働時間の管理は不要」という理解は誤りです。クリニック開設時の宿日直・看護師の社会保険はクリニックを開くときの労務と宿日直に、訪問看護のオンコール手当は訪問看護のオンコール手当と月給への換算に整理しています。
許可なしで宿直させると、どんな未払いリスクがある?
宿日直の許可を受けずに、あるいは実態が通常勤務なのに「宿直」と呼んで割増を払わないでいると、その時間は労働時間と判断され、未払い賃金の請求対象になります。想定される内容は次のとおりです。
- 深夜割増(25%以上):22時から5時までの深夜に労働させた分(労働基準法第37条第3項)
- 時間外・休日割増:法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える時間外や法定休日の労働に対する割増(同条第1項。36協定の締結・届出も前提)
- 手待時間の扱い:呼び出しに備えて待機している時間や、応答義務のある仮眠時間は、実作業がなくても労働時間(手待時間)とされ得る
未払い賃金の請求権の消滅時効は、当分の間5年ではなく3年とされています(労働基準法第115条・附則)。3年分の割増賃金がまとめて請求される可能性があるため、勤務表の数字と実態を一致させ、始業・終業時刻を客観的に記録することが前提になります。個別の未払い請求への対応は弁護士の業務で、この記事の範囲外です。
許可申請と勤務設計、紛争対応は、それぞれ誰の領分?
宿日直をめぐる場面は、判断する主体が分かれます。
| すること | 誰の領分か |
|---|---|
| 宿日直許可を受けられるかどうかの判断・許可 | 所轄労働基準監督署(申請は事業者) |
| 夜間の診療体制・配置人数など医療上の判断 | 事業者(医療機関・介護施設) |
| 就業規則・宿日直規程・36協定・勤怠の整備、割増賃金の計算 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 未払い賃金の請求、紛争、労働審判・訴訟 | 弁護士 |
宿日直の労務整理は社会保険労務士の業務です。当事務所は、実態に合った勤務設計、宿日直規程・就業規則・36協定の整備、勤怠記録の仕組みづくり、許可申請書(様式第10号)の作成支援までを担います。許可を出すかどうかは労働基準監督署が判断し、未払い賃金をめぐる紛争は弁護士が担うため、それぞれ別の立場として切り分けます。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、宿日直の実態整理、宿日直規程・就業規則・36協定・変形労働時間制の整備、勤怠管理の設計、割増賃金の計算、許可申請書の作成支援をお受けします。介護・障害福祉の労務管理は介護・障害福祉の労務管理に、変形労働時間制の選び方は変形労働時間制とフレックスの選び方にまとめています。ご相談は無料です。 費用は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
よくある質問
Q. 当直を「宿直」と呼べば、深夜割増や残業代は要らなくなりますか?
A. なりません。呼び名ではなく実態で判断されます。宿日直許可を受けられるのは、常態としてほとんど労働する必要のない断続的業務で、宿直なら十分な睡眠が確保できる場合に限られます(発基第17号)。実態が通常の診療や介護なら、その時間は労働時間として割増賃金の対象です。
Q. 宿日直の許可を受けていれば、実際に働いた時間も無給でよいのですか?
A. いけません。許可は「常態として労働の必要がない」時間についての適用除外です。許可を受けていても、実際に通常の診療・処置・介護などを行った時間は労働時間として、深夜や時間外に当たる分は割増賃金を支払う必要があります。
Q. 医師の宿日直は、令和6年の働き方改革で扱いが変わりましたか?
A. 令和6年4月1日から医師の時間外労働の上限規制が施行されました。宿日直許可を受けた時間はその上限の時間数に算入されない扱いですが、通常の診療の延長といえる時間は労働時間です。医師の許可基準は基発0701第8号(令和元年7月1日)に細目が示されています。
Q. 宿直手当は、いくら払えばよいですか?
A. 一般の許可基準では、宿日直勤務1回あたりの手当の最低額は、同種の労働者に支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこととされています(発基第17号)。具体額は事業場の賃金水準によって変わるため、賃金台帳をもとに算定します。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条(割増賃金・深夜25%以上)、第41条第3号(監視又は断続的労働に従事する者の適用除外)、第115条・附則(賃金請求権の消滅時効・当分の間3年)
- 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第23条(宿直又は日直の勤務で断続的な業務についての許可・様式第10号)
- 一般の宿日直許可基準=昭和22年9月13日発基第17号(常態としてほとんど労働の必要がないこと/手当は1人1日平均賃金額の3分の1以上/宿直は週1回・日直は月1回が限度/宿直は相当の睡眠設備)
- 医師、看護師等の宿日直許可基準について=令和元年7月1日基発0701第8号(通常勤務からの完全な解放・軽度又は短時間の業務・十分な睡眠)。補足=令和3年3月31日基監発0331第1号(参考資料)、令和6年1月15日基監発0115第2号(一部改正)
- 医師の時間外労働の上限規制は令和6年4月1日施行。宿日直許可を受けた時間の算定上の扱いは厚生労働省の公表資料により確認しています(2026年9月時点)
- 手待時間・仮眠時間の労働時間該当性は「使用者の指揮命令下にあるか」による行政解釈・裁判例の一般論です
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。宿日直規程・就業規則・36協定の整備、勤怠管理の設計、割増賃金の計算、許可申請書の作成支援は社会保険労務士の業務です。許可の可否は所轄労働基準監督署が判断し、夜間の診療体制などの医療上の判断は事業者が行います。未払い賃金の請求や紛争は弁護士の業務です。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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