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2026.09.15手続と期限

事業承継で社長が代わるとき、役員の社会保険と労働保険はどう手続きするか

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

事業承継で代表者が代わっても、会社(適用事業所)は存続するため、役員の社会保険は人ごとに見ます。新たに役員になって報酬を受ける人は資格取得、会社を離れる人は資格喪失、報酬が変わる人は随時改定(月額変更届)です。労働保険は代表者の氏名変更として名称、所在地等変更届を出します。登記は司法書士、役員報酬の税務は税理士、株式の承継・同族間の対立は弁護士の領域で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。

結論(先に要点):事業承継で社長(代表者)が代わっても、会社そのもの=適用事業所は存続するため、役員の社会保険は「人ごと」に見ます。判断は3つです。新たに役員になって報酬を受ける人は資格取得、会社を離れる人は資格喪失、報酬が変わる人は随時改定(月額変更届)。労働保険は代表者の氏名変更として「名称、所在地等変更届」を出します。登記は司法書士、役員報酬の税務は税理士、株式の承継・同族間の対立は弁護士の領域です。

親族内承継やM&Aで代表者・役員が交代するとき、総務の手が最初に止まりやすいのが社会保険と労働保険です。会社の看板は変わらないのに、被保険者の資格や標準報酬月額は人によって動きます。この記事は、代表交代に伴う役員の社会保険(資格の得喪・報酬変更に伴う月額変更届)と労働保険の事業主変更の届出を、社会保険労務士の観点から整理します。株式の承継や税務そのものには踏み込みません。

代表者が交代すると役員の社会保険はどう変わるのか?

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格は、会社単位ではなくその人が適用事業所に常時使用され、労務の対償として報酬を受けているかで決まります。法人の役員(代表取締役を含む)も、法人から報酬を受けて常時使用される関係にあれば、日本人・外国人を問わず被保険者です。代表が代わっても会社は同じ適用事業所のまま続くので、動くのは「人」の側です。

場面社会保険の扱い届出
新たに役員に就任し、報酬を受け始める資格取得被保険者資格取得届(事実発生から5日以内)
もともと役員・従業員で被保険者。代表に就き報酬が変わる資格は継続。報酬変動は随時改定で判定該当すれば月額変更届(下の項参照)
役員を退き、会社を離れる資格喪失被保険者資格喪失届(5日以内)
役員として残るが報酬が著しく下がる・無報酬になる使用関係の実態で被保険者かを判断事案により喪失届・月額変更届

ポイントは、すでに被保険者だった後継者がそのまま代表に就くだけなら、新規の資格取得は生じないことです。この場合に問題になるのは、就任に伴う報酬の変更=随時改定のほうです。会社設立から間もない承継で適用の全体像を確認したいときは、会社をつくったら、いつまでに何を出すのかもあわせてご覧ください。

役員報酬を変えると月額変更届はいつ出すのか?

役員報酬の改定は、社会保険では「固定的賃金の変動」に当たります。随時改定(健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条)は、次の3つをすべて満たしたときに行います。

  • 固定的賃金の変動があること(役員報酬の増額・減額はこれに当たります)
  • 変動があった月から継続した3か月の報酬の平均から求めた標準報酬月額が、それまでの等級と2等級以上離れること
  • その3か月とも支払基礎日数が17日以上あること

3要件を満たすと、変動があった月から起算して4か月目に標準報酬月額を改定します。事業主は該当が固まりしだい、速やかに「被保険者報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出します。毎年7月の定時決定(健康保険法第41条・厚生年金保険法第21条)とは別のルールで、両者の違いは算定基礎届と月額変更届は何が違うのかに整理しています。

なお、役員報酬は税務上「定期同額給与」として改定できる時期に制約があります(原則として期首から3か月以内など)。これは損金算入をめぐる税務の話で、社会保険の随時改定とは別のタイミング・別のルールです。税務上の改定の可否は税理士にご確認ください。

労働保険の事業主変更で必要な届出は何か?

代表者が代わっても、会社の労働保険(労災保険・雇用保険)の適用関係そのものは変わりません。ただし、届出事項である代表者の氏名が変わるため、変更の届出が必要です。

届出提出先期限
労働保険 名称、所在地等変更届労働基準監督署変更のあった日の翌日から起算して10日以内
雇用保険 事業主事業所各種変更届ハローワーク変更のあった日の翌日から起算して10日以内

役員は労働者ではないため、原則として労災保険・雇用保険の被保険者にはなりません(代表交代で従業員の雇用保険が動くわけではありません)。ただし、部長などの地位を兼ねて労働者性のある使用人兼務役員は、雇用保険の被保険者になり得ます。誰が労働者に当たるかの線引きは家族を社員にするとき、つまずく3つのところでも触れています。労働保険料の年度更新の扱いは、原則として代表交代では変わりません。

旧代表が役員を退くときの資格喪失はどう扱うのか?

旧代表が会社を完全に離れるのか、会長・顧問として残るのかで、社会保険の扱いが分かれます。

  • 完全に退任して会社を離れる:被保険者資格喪失届を提出し(5日以内)、健康保険の資格確認(マイナ保険証・資格確認書)に関する回収・案内を行います。マイナンバーと保険証の関係はマイナ保険証と資格確認書を参照。
  • 会長・相談役として残り、引き続き報酬を受ける:使用関係が続くため被保険者資格は継続します。報酬が下がれば随時改定の対象になり得ます。
  • 役職名は残るが無報酬になる:労務の対償としての報酬がなくなると、常時使用される関係とはいえず、被保険者資格を喪失する場合があります。名目ではなく実態としての報酬・使用関係で判断します。

ご自身のケースについて相談したい方へ

社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。

社長の死亡による承継は資格喪失の起点が異なります。存命での交代と分けて考える必要があり、死亡時の流れは社長が亡くなったときの給与と社会保険に、個人事業の承継は個人事業主が亡くなったときの事業承継と労務にまとめています。退職金や株式の買取は社会保険とは別の論点です。

登記・税務・株式承継は誰にどう分けて頼むのか?

代表交代の手続は、担当する資格が分かれます。それぞれ別の契約になります。

やること主な担当
役員の社会保険の資格取得・喪失、報酬変更に伴う月額変更届、労働保険の変更届、給与計算社会保険労務士(当事務所)
取締役・代表取締役の変更登記司法書士
役員報酬の定期同額給与・損金算入など税務税理士
株式の承継、種類株式・遺留分、同族間の対立の法的判断弁護士
建設業・運送業などの許認可の承継・変更届行政書士

M&Aで承継する場合の労務デューデリジェンス(未払い残業・社会保険の未加入の洗い出し)は、事業承継・M&Aのときの労務と社会保険に整理しています。許認可の承継・変更が絡む場合は四葉行政書士事務所へおつなぎすることもできますが、四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、社会保険労務士業務と行政書士業務は別々にご契約いただきます(一括受任はしません)。当事務所は紹介料を受け取りません。

四葉社会保険労務士事務所では、役員の社会保険の得喪・月額変更届、労働保険の事業主変更届、給与計算、就業規則の整備についてご相談いただけます。ご相談は無料で、費用は報酬額表にまとめています。

よくある質問

Q. 後継者がもともと従業員として社会保険に入っていました。代表就任で資格取得の手続はいりますか?
A. すでに同じ会社の適用事業所で被保険者だった人が代表に就くだけなら、新たな資格取得届は不要です。問題になるのは報酬の変更のほうで、就任に伴って役員報酬が上がり、3か月の平均で標準報酬月額に2等級以上の差が出れば、随時改定として月額変更届を提出します。

Q. 役員報酬を上げたら、いつから社会保険料が変わりますか?
A. 固定的賃金の変動があった月から継続した3か月の報酬平均で2等級以上の差が生じ、各月の支払基礎日数が17日以上あれば、変動月から起算して4か月目に標準報酬月額が改定されます。税務上の定期同額給与の改定時期とは別のルールなので、社会保険と税務でタイミングがずれることがあります。

Q. 代表者が代わったら、雇用保険や労災保険で何か届け出ますか?
A. 会社の労働保険の適用関係は変わりませんが、代表者の氏名が変わるため、労働基準監督署へ「労働保険 名称、所在地等変更届」、ハローワークへ「雇用保険 事業主事業所各種変更届」を、いずれも変更の日の翌日から10日以内に提出します。従業員の雇用保険の資格は代表交代では動きません。

Q. 旧社長が会長として無報酬で残ります。社会保険はどうなりますか?
A. 労務の対償としての報酬がなくなると、常時使用される関係とはいえず、被保険者資格を喪失する場合があります。役職名が残るかどうかではなく、実態としての報酬と使用関係で判断します。報酬を減額して残る場合は、随時改定の対象になり得ます。

この記事の根拠

  • 社会保険の被保険者資格:適用事業所に常時使用される者は国籍を問わず被保険者。法人の役員も労務の対償として報酬を受け常時使用される関係にあれば被保険者(健康保険法・厚生年金保険法、日本年金機構)
  • 資格取得届・資格喪失届:事実の発生から5日以内に日本年金機構へ提出(健康保険法・厚生年金保険法および各施行規則)
  • 標準報酬月額の随時改定:固定的賃金の変動があった月から継続した3か月の報酬平均で従前の標準報酬月額と2等級以上の差が生じ、3か月とも支払基礎日数が17日以上あるとき、変動月から起算して4か月目に改定(健康保険法第43条・厚生年金保険法第23条/日本年金機構「随時改定(月額変更届)」2026年9月15日参照)
  • 定時決定:毎年7月に標準報酬月額を決定(健康保険法第41条・厚生年金保険法第21条)
  • 労働保険 名称、所在地等変更届:事業の名称・所在地・代表者等に変更があった日の翌日から起算して10日以内に労働基準監督署へ。雇用保険は事業主事業所各種変更届をハローワークへ(労働保険の保険料の徴収等に関する法律および同施行規則)
  • 役員報酬の定期同額給与・損金算入は税務の扱いであり、社会保険の随時改定とは別のルール。税務の判断は税理士の業務であって、本記事では扱わない
  • 社会保険労務士の業務:社会保険労務士法第2条

この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。四葉社会保険労務士事務所では、役員の社会保険の資格取得・喪失、報酬変更に伴う月額変更届、労働保険の事業主変更届、給与計算、就業規則の整備についてご相談いただけます。取締役・代表取締役の変更登記は司法書士の業務、役員報酬の税務は税理士の業務、株式の承継や同族間の対立の法的判断は弁護士の業務、許認可の承継・変更は行政書士の業務です。社会保険労務士業務と行政書士業務は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の事案で被保険者資格の得喪や随時改定に当たるかの最終判断は、年金事務所・日本年金機構が行います。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。役員の社会保険の得喪や随時改定の当てはめなど個別の判断は、最新の一次情報(日本年金機構・厚生労働省など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

「働き方」から、整理しませんか。

四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。

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