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業種別の労務管理

ビルメンテナンス・清掃業の労務|複数現場の労働時間通算と社会保険の適用拡大

壁の掛け時計と升目だけのシフト表を描いた水彩イラスト
浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

ビルメンテナンス・清掃業は、掛け持ち・短時間・高齢パートが多く、労働時間と社会保険の扱いを間違えやすい業態です。同じ人が複数の事業場で働くと労働時間は通算し(労働基準法第38条第1項)、通算して法定労働時間を超えた部分が時間外労働になります。短時間パートは、週の所定労働時間20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でないことに加え、厚生年金の被保険者が常時51人以上の特定適用事業所に勤めると社会保険の対象です(2024年10月適用拡大)。70歳までの就業確保は努力義務です(高年齢者雇用安定法第10条の2)。労働時間の通算、社会保険の適用拡大、高年齢者雇用、深夜・早朝の割増と健康確保、そして誰に何を頼むかを整理します。

結論(先に要点):ビルメンテナンス・清掃業は、掛け持ち・短時間・高齢パートが多く、労働時間と社会保険の扱いを間違えやすい業態です。同じ人が複数の事業場で働くと、労働時間は通算します(労働基準法第38条第1項)。短時間パートは、週の所定労働時間20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でないなどの要件を満たし、厚生年金の被保険者が常時51人以上の特定適用事業所に勤めると社会保険の対象になります(2024年10月適用拡大)。さらに70歳までの就業確保は努力義務です(高年齢者雇用安定法第10条の2)。この記事では、労働時間の通算、社会保険の適用拡大、高年齢者雇用、深夜・早朝の割増と健康確保、そして誰に何を頼むかを、社会保険労務士の労務管理の視点で整理します。

ビル清掃・設備管理は、1人が複数の現場に入る、短時間勤務が多い、高齢のパートが戦力になっている、という3つの特徴があります。このページは、複数現場・短時間勤務・高齢パートを多く抱えるビルメンテナンス/清掃会社の労務担当の方に向けて、労働時間の通算、社会保険の適用拡大、70歳就業確保、深夜・早朝の割増と健康確保、そして請負契約の民事・税務との線引きを整理します。

同じ人が複数現場に入ると、労働時間はどう通算するの?

労働時間は、事業場を異にする場合でも通算します(労働基準法第38条第1項)。これは、同じ会社の複数の現場をかけ持ちする場合だけでなく、行政解釈では事業主が異なる副業・兼業の場合も含みます。通算して法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えた部分が、時間外労働になります。

副業・兼業で事業主が異なる場合の割増賃金の負担は、副業・兼業ガイドラインと通達(令和2年9月1日基発0901第3号)で整理されています。原則は、通算して法定労働時間を超える所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が割増賃金を負担し、所定労働時間を超えて実際に労働させた部分は、その労働をさせた使用者が負担します。他社での労働時間は、労働者からの申告等により把握します。

場面通算の考え方割増賃金の負担(原則)
同じ会社の複数現場をかけ持ち全現場を合算して管理その会社が負担
事業主が異なる副業・兼業自社と他社を通算(他社分は本人の申告等で把握)後から契約を締結した使用者が原則負担

掛け持ちの実態を把握しないまま各現場で別々に時間管理をすると、通算で法定超となった割増賃金の未払いが生じやすいところです。副業・兼業で事業主が異なる場合に労災(複数事業労働者の給付)がどうなるかは複数事業労働者の労災給付で扱っています。

短時間パートは、いつ社会保険の適用対象になるの(週20時間・51人以上)?

まず、週の所定労働時間および月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば、短時間かどうかにかかわらず社会保険の被保険者になります。この4分の3基準を満たさない短時間労働者でも、次の要件をすべて満たすと被保険者になります(2024年10月からの適用拡大)。

要件内容
労働時間週の所定労働時間が20時間以上(残業・臨時の時間は含まない)
賃金所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代・賞与・通勤手当等は除く)
学生学生でないこと(一部の例外を除く)
企業規模特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者が常時51人超=51人以上)に勤めること

このほか、雇用の見込みが2か月を超えることが一般の加入要件です。2022年10月に対象が101人以上へ、2024年10月に51人以上へと段階的に広げられてきました。被保険者数の判定は、直近12か月のうち6か月で基準を満たすかどうかで見ます。社会保険の適用拡大の今後の見通しは社会保険の適用拡大(2027年)もあわせてご覧ください。

「51人以上」かどうかは法人単位(同一の法人番号)で数えるため、現場の人数ではなく会社全体の厚生年金被保険者数で判定する点に注意が必要です。

高齢パートが多い職場で、70歳就業確保はどう対応するの?

高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保を義務(第9条)とし、70歳までの就業確保を努力義務(第10条の2・令和3年4月1日施行)としています。70歳までの就業確保措置には、次の5つがあります。

区分措置
雇用による措置①定年を70歳まで引き上げる ②定年制を廃止する ③70歳までの継続雇用制度を導入する
雇用によらない措置④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する ⑤70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度を導入する

④⑤は、過半数労働組合等の同意を得たうえで導入する必要があります。高齢の継続雇用で賃金が下がる場合の給付の縮小・見直しは高年齢雇用継続給付の縮小(2025年)、定年後再雇用の設計は70歳までの就業確保で扱っています。高齢者が多い職場では、短時間・隔日などの勤務で就業規則・賃金規程・社会保険の加入可否を同時に設計することになります。

深夜・早朝のビル清掃で、割増や健康確保はどう扱うの?

深夜(22時から翌5時まで)に労働させた場合は、25%以上の深夜割増賃金が必要です(労働基準法第37条第4項)。時間外労働が重なれば時間外25%以上(月60時間超は50%以上)と深夜25%以上を合算し、休日労働は35%以上です。管理監督者に当たるかどうかは実態で判断され、名目上の役職だけでは深夜割増を免れません(名ばかり管理職の論点は名ばかり管理職と深夜割増で扱っています)。

ご自身のケースについて相談したい方へ

社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。

健康確保では、深夜業を含む業務に常時従事する労働者は、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の健康診断の対象になります(労働安全衛生規則第45条の特定業務従事者の健康診断)。高齢者が多い職場では、転倒・腰痛などの防止を含めた安全配慮も重要です。仮眠・待機の時間が労働時間に当たるかは実態で判断されます(警備業の仮眠・断続労働の考え方は警備業の仮眠・断続労働と労働時間が参考になります)。

労務(社労士)と、請負契約の民事・税務はどこで線を引くの?

ビルメンテナンス・清掃業の労務対応は、労務だけで完結しません。業務ごとに担い手が分かれます。

すること誰の業務か
就業規則・賃金規程・36協定の作成、労働時間の通算管理、社会保険・雇用保険の資格取得・喪失の手続、割増賃金の計算社会保険労務士(当事務所)
現場の請負契約そのものの民事紛争(契約の解釈・損害賠償・未収金)弁護士
給与計算のうち年末調整の税額確定、源泉所得税の判断税理士

当事務所は労務管理の情報提供・手続に限ります。社会保険労務士業務と、弁護士・税理士の業務は、それぞれ独立した事業体が担い、別々にご契約いただく前提です。一括受任はしません。

四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?

文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、ビルメンテナンス・清掃業の就業規則・賃金規程の整備、複数現場の労働時間の通算管理、社会保険の適用拡大への対応(週20時間・51人以上の判定と資格取得)、70歳就業確保措置の設計、深夜・時間外の割増賃金の計算をお受けします。ご相談は無料です。 内容と人数に応じてお見積りし、料金の考え方は報酬額表をご覧ください。よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

すでに請負契約の民事紛争になっている場合は、弁護士へ直接ご依頼いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。

よくある質問

Q. 同じ人が当社の2つの現場に入っている場合、労働時間はどう数えますか?
A. 同じ会社の複数現場であれば、全現場を合算して管理します。通算して1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えた部分が時間外労働となり、割増賃金が必要です。現場ごとに別々の時間管理にしていると、通算で法定超となった割増賃金の未払いが生じやすいので注意が必要です。事業主が異なる副業・兼業でも、労働時間は通算します(労働基準法第38条第1項)。

Q. 週20時間・月8.8万円のパートは、必ず社会保険に入りますか?
A. 週の所定労働時間20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でないことに加え、勤め先が特定適用事業所(厚生年金の被保険者が常時51人以上の会社)であり、雇用の見込みが2か月を超えることが要件です。4分の3基準(通常の労働者の労働時間・日数の4分の3以上)を満たす場合は、短時間かどうかにかかわらず被保険者になります。

Q. 70歳までの就業確保は、義務ですか、努力義務ですか?
A. 65歳までの雇用確保は義務(高年齢者雇用安定法第9条)、70歳までの就業確保は努力義務(同法第10条の2)です。措置は、定年引上げ・定年廃止・継続雇用制度のほか、業務委託契約や社会貢献事業への従事があり、後の2つは過半数労働組合等の同意を得て導入します。

Q. 深夜のビル清掃で、割増や健康診断はどう扱いますか?
A. 22時から翌5時までの労働には25%以上の深夜割増が必要です(労働基準法第37条第4項)。時間外・休日と重なれば割増を合算します。また、深夜業を含む業務に常時従事する労働者は、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の健康診断の対象になります(労働安全衛生規則第45条)。

この記事の根拠

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条(法定労働時間)、第38条第1項(事業場を異にする場合の労働時間の通算)、第37条第4項(深夜割増=22時から翌5時まで25%以上。時間外25%以上・月60時間超50%以上・休日35%以上)、第89条(就業規則の作成・届出)
  • 副業・兼業の場合の労働時間の通算と割増賃金の取扱い=厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」および令和2年9月1日基発0901第3号。割増賃金は、通算して法定労働時間を超える所定労働時間を定めた契約を後から締結した使用者が原則負担、所定を超えて実際に労働させた部分はその使用者が負担(2026年10月参照)
  • 短時間労働者への社会保険の適用拡大=健康保険法(大正11年法律第70号)・厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)。要件は週の所定労働時間20時間以上・所定内賃金月額8.8万円以上・学生でないこと、特定適用事業所(厚生年金の被保険者が常時51人以上)。2024年10月に対象が101人以上から51人以上へ拡大(厚生労働省・日本年金機構の資料により2026年10月参照)
  • 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第9条(65歳までの高年齢者雇用確保措置=義務)、第10条の2(70歳までの高年齢者就業確保措置=努力義務。令和3年4月1日施行)
  • 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第45条(深夜業を含む特定業務従事者の健康診断=配置替えの際と6か月以内ごとに1回)

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。就業規則・賃金規程・36協定の作成、労働時間の通算管理、社会保険・雇用保険の手続、割増賃金の計算は社会保険労務士の業務です。請負契約の民事紛争は弁護士の業務、年末調整の税額確定・源泉所得税の判断は税理士の業務です。社会保険労務士業務と、弁護士・税理士の業務は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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