廃業するとき従業員にどう対応するか|解雇予告・会社都合離職・未払賃金立替払

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
廃業・解散で従業員を手放すときの労務を、解雇予告(30日前・労働基準法第20条)、会社都合の離職票(特定受給資格者)、未払賃金立替払(賃確法第7条)の3つで順序立てて整理します。解雇予告手当の計算、立替払の上限額、社会保険・労働保険の喪失手続もまとめました。
結論(先に要点):廃業で従業員を手放すときの労務は、「少なくとも30日前の解雇予告(または30日分以上の解雇予告手当)」「会社都合(特定受給資格者)としての離職票」「賃金・退職金が払えないときの未払賃金立替払」の3つを、順序どおり正しく進めることが軸になります。解雇予告は労働基準法第20条で、30日前に予告しないなら不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払います。経営難を理由とする廃業は、原則として予告を不要にできる「やむを得ない事由」には直ちに当たらないため、予告か予告手当は必要です。離職票の離職理由は、事業所の廃止による離職なら特定受給資格者(いわゆる会社都合)に当たり、基本手当の給付制限がかからず、所定給付日数も手厚くなり得ます。賃金や退職金が払えないまま倒産に至った場合は、賃金の支払の確保等に関する法律第7条に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立替払します。この記事では、解雇予告、解雇予告手当の計算、会社都合離職、未払賃金立替払、社会保険・労働保険の喪失手続の順序を、社会保険労務士の業務範囲で整理します。
「後継者がおらず廃業を決めたが、従業員にどう伝え、何から手続すればよいのか」「資金繰りが厳しく、退職金どころか最後の給料も払えるか不安だ」——廃業・解散を決めた中小企業の経営者からよく受ける相談です。このページは、廃業時の従業員側の手続(解雇予告・会社都合離職・未払賃金立替払・社会保険の喪失)を、労務の設計として整理します。破産・特別清算そのものの申立てや、解散・清算の登記は、この記事の範囲外(弁護士・司法書士の領分)として触れるにとどめます。
廃業するとき、従業員はどう扱えばよいのですか?(解雇予告・30日前)
廃業に伴い従業員との雇用契約を終わらせる場合、原則として「解雇」になります。労働基準法第20条は、使用者が労働者を解雇しようとするときは、少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを定めています。
| 進め方 | 内容 |
|---|---|
| 30日前に予告 | 解雇日の30日以上前に、解雇する旨を予告する(書面で残すのが安全) |
| 予告が30日に満たない | 不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う(例:20日前の予告なら10日分) |
| 即時解雇 | 30日分以上の平均賃金を支払えば、予告期間を置かずに解雇できる |
注意したいのは、経営難を理由とする廃業は、予告を不要にできる「やむを得ない事由」には原則として当たらないという点です。労働基準法第20条第1項ただし書は、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合や、労働者の責に帰すべき事由による解雇について、所轄労働基準監督署長の認定を受ければ予告・予告手当を不要とできると定めますが、資金繰りの悪化や後継者不在による廃業は通常この認定の対象になりません。したがって、廃業でも予告か予告手当は必要です。なお、解雇をめぐる個別の紛争(解雇の有効性の争い)は弁護士の業務で、社会保険労務士は手続と労務の設計を担います。解雇を誰に相談するかは解雇は社会保険労務士と弁護士のどちらに相談しますかをご覧ください。
解雇予告手当はいくら、どう計算するのですか?
解雇予告手当は「平均賃金」を基礎に計算します。平均賃金は、労働基準法第12条により、原則として直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った額です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 平均賃金 | 直前3か月の賃金総額 ÷ その期間の総日数(労働基準法第12条) |
| 算定の起算 | 解雇予告をした日(賃金締切日があるときは直前の締切日から起算) |
| 予告手当の額 | (30日−予告日数)× 平均賃金。即時解雇なら30日分以上 |
| 時効 | 賃金請求権の消滅時効は当分の間3年(労働基準法第115条・附則) |
たとえば、解雇日の10日前に予告した場合は、30日から10日を引いた20日分の平均賃金を予告手当として支払います。平均賃金の計算は、賃金締切日・通勤手当・歩合給・欠勤控除の扱いで誤りやすいので、賃金台帳をそろえて計算します。平均賃金・賃金計算の考え方は給与計算を社会保険労務士に頼むと、いくらかかりますかに整理しています。
離職票は会社都合になりますか?失業給付はどう変わりますか?
廃業(事業所の廃止)による離職は、雇用保険の離職理由としては**特定受給資格者(いわゆる会社都合)**に当たるのが通常です。離職票の離職理由を正しく記載することが、従業員の基本手当(失業給付)を左右します。
| 観点 | 自己都合離職 | 会社都合離職(特定受給資格者) |
|---|---|---|
| きっかけ | 労働者の都合(転職など) | 事業所の廃止・倒産・解雇など |
| 給付制限 | 原則として給付制限期間がある | 給付制限がかからない |
| 所定給付日数 | 相対的に短い | 年齢・被保険者期間に応じて手厚くなり得る |
| 手続 | 離職票の離職理由区分の正確な記載が前提 | 同左 |
廃業で離職票を作成するときは、離職理由を事業所の廃止として正しく区分します。離職理由を誤って自己都合として処理すると、従業員が本来受けられる給付を受けられなくなる恐れがあります。給付制限の仕組みは雇用保険の自己都合離職の給付制限は2025年にどう変わりますかに整理しています。離職票の作成・提出はハローワーク(公共職業安定所)への手続で、社会保険労務士が代行できます。
賃金や退職金が払えないとき、立替払制度は使えますか?
廃業時に賃金・退職金を払えないまま倒産に至った場合、未払賃金立替払制度が使えることがあります。賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)第7条に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立替払する制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 独立行政法人労働者健康安全機構 |
| 対象となる倒産 | 法律上の倒産(破産手続開始の決定など)/事実上の倒産(中小企業について所轄労働基準監督署長の認定) |
| 対象となる労働者 | 倒産の申立日(事実上の倒産は認定申請日)の6か月前の日から2年の間に退職した者 |
| 対象となる賃金 | 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が来た、未払の定期賃金と退職手当。総額2万円以上。賞与(ボーナス)は対象外 |
| 立替払の額 | 未払賃金総額の8割(退職日の年齢による上限あり) |
立替払の上限額は、退職日における年齢で決まります。
| 退職日の年齢 | 未払賃金の上限額 | 立替払の上限(8割相当) |
|---|---|---|
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
事実上の倒産の認定は、所轄労働基準監督署長に申請して受けます(中小企業が対象)。立替払の請求は機構に対して行います。なお、立替払は賃金の一部を国の制度が肩代わりするもので、未払賃金が全額補填されるわけではありません。破産・特別清算の申立てそのものは弁護士、解散・清算の登記は司法書士の業務で、社会保険労務士は未払賃金の確定・立替払請求の支援と労働保険・社会保険の手続を担います。従業員が亡くなった場合の未払賃金・遺族への支払は従業員が亡くなったときの未払賃金と遺族への給付はどうなりますかをご覧ください。
社会保険・労働保険の喪失手続と順序は?
従業員の退職に伴い、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)の喪失手続が必要です。廃業では、個々の従業員の資格喪失に加え、事業所自体を廃止する手続(全喪)まで進みます。
| 手続 | 提出先 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 | 年金事務所(または健康保険組合) | 退職の事実から5日以内 |
| 雇用保険 被保険者資格喪失届・離職証明書 | ハローワーク | 退職の翌日から10日以内 |
| 健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届 | 年金事務所 | 事業所廃止後すみやかに |
| 労働保険 確定保険料の申告・精算 | 労働基準監督署・労働局 | 事業廃止から50日以内 |
順序としては、まず個々の従業員の資格喪失(健保・厚年・雇用保険)を行い、離職票を交付し、最後に事業所の全喪と労働保険の確定精算に進みます。社会保険の全喪手続の全体像は会社をたたむときの社会保険の全喪手続はどう進めますかに整理しています。手続の時期は制度で定められており、遅れると従業員の国民健康保険・国民年金への切り替えや失業給付の受給に支障が出るため、計画的に進めます。
誰に何を分けて頼めばいいのですか?
廃業では、判断する主体が分かれます。役割を切り分けて、それぞれの専門家に頼むのが安全です。
| すること | 誰の領分か |
|---|---|
| 解雇予告・解雇予告手当の計算、会社都合の離職票、社会保険・労働保険の喪失・全喪、未払賃金立替払の請求支援 | 社会保険労務士(四葉社会保険労務士事務所) |
| 破産・特別清算の申立て、解雇や未払賃金をめぐる紛争 | 弁護士 |
| 解散・清算の登記 | 司法書士 |
| 清算確定申告・税務 | 税理士 |
四葉社会保険労務士事務所は、独立した事業体として労務を担います。破産や紛争は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士へ、それぞれ別々にご契約いただく分離受任の形になります。紹介料の受け渡しはありません。事業承継・会社分割の労務は会社分割・事業譲渡で労働契約はどう承継されますかに整理しています。ご相談は無料です。 費用は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
よくある質問
Q. 廃業なら、解雇予告はしなくてよいのですか?
A. 原則として必要です。経営難や後継者不在による廃業は、予告を不要にできる「天災事変その他やむを得ない事由による事業の継続不可能」には通常当たりません(労働基準法第20条第1項ただし書)。少なくとも30日前の予告か、不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)が必要です。
Q. 解雇予告手当はどう計算しますか?
A. 平均賃金を基礎に計算します。平均賃金は直前3か月の賃金総額をその期間の総日数で割った額(労働基準法第12条)で、予告手当は(30日−予告日数)分です。30日前に予告すれば予告手当は不要、即時解雇なら30日分以上を支払います。
Q. 給料や退職金が払えないまま倒産したら、従業員は何も受け取れないのですか?
A. 未払賃金立替払制度が使えることがあります。独立行政法人労働者健康安全機構が、退職日の6か月前から請求日前日までに支払期日が来た未払の定期賃金・退職手当(総額2万円以上。賞与は対象外)の8割を、退職日の年齢に応じた上限額の範囲で立替払します(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)。全額が補填されるわけではありません。
Q. 離職票は会社都合にできますか?
A. 事業所の廃止による離職は、特定受給資格者(いわゆる会社都合)に当たるのが通常です。給付制限がかからず、所定給付日数も手厚くなり得ます。離職理由を自己都合として誤って処理すると、従業員が本来受けられる給付を受けられなくなる恐れがあるため、正確に区分します。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第12条(平均賃金の算定)、第20条(解雇の予告=少なくとも30日前の予告または30日分以上の平均賃金。やむを得ない事由・労働者の責に帰すべき事由は労働基準監督署長の認定で例外)、第115条・附則(賃金請求権の消滅時効・当分の間3年)
- 賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)第7条(未払賃金の立替払)および同法施行令。立替払は独立行政法人労働者健康安全機構が実施し、未払賃金総額の8割(退職日の年齢により上限:30歳未満110万円→88万円、30歳以上45歳未満220万円→176万円、45歳以上370万円→296万円)。対象は退職日の6か月前から請求日前日までに支払期日が来た未払の定期賃金・退職手当(総額2万円以上。賞与は対象外)
- 独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度」案内(上限額・立替率・対象者・請求手続。参照日2026年10月12日。上限額は改定され得るため、請求前に機構の公表資料で確認します)
- 雇用保険法(特定受給資格者=倒産・事業所廃止等による離職の範囲)。事実上の倒産の認定は、中小企業について所轄労働基準監督署長が行う(賃金の支払の確保等に関する法律施行令)
- 健康保険法・厚生年金保険法・雇用保険法に基づく資格喪失届・全喪届・離職証明書の提出先と期限は、日本年金機構・ハローワークの案内によります。提出期限の日数は制度で定められていますが、個別の取扱いは所轄の年金事務所・ハローワーク・労働基準監督署で確認します
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。解雇予告・解雇予告手当の計算、会社都合の離職票、社会保険・労働保険の喪失・全喪、未払賃金立替払の請求支援は社会保険労務士の業務です。破産・特別清算の申立てや解雇・未払賃金をめぐる紛争は弁護士、解散・清算の登記は司法書士、清算確定申告・税務は税理士の業務です。四葉社会保険労務士事務所は独立した事業体として、弁護士・司法書士・税理士とは別々にご契約いただきます。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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